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 繰り返されるこの二週間が3桁の後半を数えたあたりから、長門さんは時折私の部屋にや
って来るようになりました。
この二週間のうち長門さんが完全に自由になれる日はそう多く有りませんし、
 私が外出している日も有りますから、毎回そういう日があるというわけではないのですけ
ど、それでももうかなりの回数にのぼっています。
 例え五十回に一回の割合であっても、五千回も繰り返せば累計で百回、ということですね。
そういう日は、お菓子やご飯を用意して、長門さんには丸一日ただのお客様として過ごし
てもらっています。
毎日毎日涼宮さん達に振り回されている長門さんをこれ以上負担をかけたくありませんか
らね。私といることが長門さんの息抜きになるかどうかは分かりませんが、私も彼女と同じ
ヒューマノイド・インターフェースですから、一応その苦労の片鱗らしきものは分かってい
るつもりなんです。
そうそう、そんな時の長門さんは、何をするわけでもなくぼんやりとしていることが多い
です。
彼女も疲れているんでしょうね。
私達ヒューマノイド・インターフェイスはその構造上肉体的な疲労とはあまり縁が無いん
ですけど、精神面に関しては、そういうわけにはいかないんです。
 私が言うのもなんですけど、私達を作った情報統合思念体も、たった二週間という限られ
た時間を数千回も繰り返すなんていう異常事態を想定して私達を作っているわけではないで
しょうからね。……正直私も、この繰り返す二週間には飽き飽きしているんですよ。
 長門さんは、きっと私以上なんでしょうね。
 長門さんは、涼宮さんが考えた夏休みを忠実に過ごしているんですから。
 何度も何度も何度も……。
これで何も無いという方がおかしいと思うのは、私だけでしょうか?
今のところ情報統合思念体は静観を決め込んでいるみたいなんですけど。
……というより、情報統合思念体にも打つ手が無いと言った方が正しいのかも知れません。
今ここで長門さんに対して何らかの懸念が有ったとしても、それを理由に長門さんに違う
アクションを起こさせるリスクに比べたら……、という事情もありますから。
長門さんは、観察者であると同時に、涼宮さんに影響を与えることが出来る友人の一人で
もありますからね。

繰り返される夏休みがそろそろ五桁に達しようかという頃、十数回ぶりに私の家にやって
きた長門さんは、私が用意したお菓子にも手をつけることもなく、ただぼんやりとしていま
した。
長門さんがただぼんやりしていること自体は不思議でもなんでもないのですが、お菓子に
さえ手をつけないままというのは少し珍しい光景かも知れません。
「……長門さん?」
以前にも何度か出したものですから、食べ飽きてしまったのでしょうか。
「……」
長門さんは私の呼びかけに気づいて少しだけ私の方を見ましたが、すぐに私から視線を外
し、また元のぼんやりとした状態に戻ってしまいました。
長門さんは一体何を考えているんでしょうかv……。
彼女の視線の先はただ窓の外に向けられているだけです。
外に、
「あっ……」
ぼんやりと、いえ、どこか寂しげな様子すら漂わせながら外を見る長門さんを見て私は気
づきました。
長門さんが『今』を見ているわけではないということに。
彼女が見ているのは、今の季節にはあり得ないもの。
けれど本来の時間の流れの中で同じだけの時間を過ごすことが出来たなら、きっと飽きる
くらい見ることが出来たはずの景色。
「長門さん……」
求めるものが有りながらも、何も出来ない長門さん。
終わらない夏……、辿り着けない冬。
部外者である私には、この夏休みを終わらせる方法は知ることは出来ません。
でも、例え終わらせることは出来なくても、それでも、出来ることは有るんですよ。
 長い長い時間を繰り返した私には、今の長門さんに何が必要なのかがすぐに分かりました。
 情報統合思念体の許可は……、うん、大丈夫ですね。
 では、上手く時間の都合がついたら実行することにしましょう。

その数回後の八月三十日、午前十一時。
過去のパターンと今回の経過から考えて、何か異常事態が起きない限り、今日から31日が
終わるまでの間、長門さんは自由になれるはずです。
まあ、もし何か有ったとしても、一日くらいなら何とでもなるでしょう。
「おかえりなさい、長門さん」
「……」
涼宮さん達と別れ自宅の前まで帰ってきた長門さんが、自宅の前にいる私を見て、僅かば
かりですが、どうして? とでもいいたげに首を僅かに動かしました。
「これから二人で、雪を見に行きましょう」
手に持った二人分のパスポートと航空券、それと足元に置いた小さめの旅行鞄が二つ。
旅の準備を完璧に済ませた私を見ていた長門さんの表情に、少しずつ理解の色が広がって
いきます。
 そうです。ここに冬が来ないなら、自分から会いに行けばいいんです。
「雪……」
「そう、雪です。日本は真夏ですけど、南半球は冬ですからね。じゃあ、早く着替えて出発
しましょう!」
それから私は長門さんを私服に着替えさせて、雪の降る場所へと二人で旅立ちました。
一日半という時間は決して長いものでは有りませんが、片道だけならこれでも何とかなる
んです。
ねえ、長門さん。
 雪を見て、少しだけでも良いから、元気になってくださいね。
この夏休みはまだまだ続きそうな気がしますけど、上手く時間が作れたら、また、連れて
行ってあげますから。

 本当は、早くこの街でちゃんと冬が来るようになってくれたら良いんですけど。


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