「そういえばそろそろクリスマスね」
カレンダーを見ながら涼宮さんが言う。
「最近、親父が妹の為におもちゃ屋を巡ってるぞ。」
「へぇー妹ちゃんサンタ信じてるのね。」
「もう小五なのにな。」
「いいじゃない。夢があって」
クリスマスか…。サンタさんか…。信じてた頃が懐かしいな。
私はキョンくんと涼宮さんの会話を聞きながら思った。
「私は小四まで信じてたわ。アンタは?」
「小三くらいまで信じてたな」
私もそれぐらいまでサンタさんは居ると思ってたっけ。
「有希は?いつまで信じてた?」
「貴方と同じくらいまで」
本から目を離さないまま長門さんが答えた。…それって嘘ですよね?
ふーん、と言いながら涼宮さんは私のほうを見て私に言った。
「みくるちゃんは?」
「私は小四の時まで信じてました」
その言葉にキョンくんは『未来にもそういう風習はあるのか』みたいな顔をした。
「そんなもんよねー。古泉君は?」
「僕は中一の時のクリスマスイヴまでは信じていませんでした」
私は疑問を持った。
今の言葉はちょっと、いやかなり変なんじゃ…
と、私が思ったのとほぼ同時に涼宮さんが声をあげた。
「興味をそそる回答ね。古泉君、どういうこと?」
「そのままの意味ですよ」
古泉くんは平然と答える。
「もっと具体的に説明してちょうだいよ。例えば…実際にサンタを見たとか」
「涼宮さんは凄いですね。実はその通りなんですよ。」
「お前頭平気か?青い巨人にチョップでもされたか?」
キョンくんの言葉に古泉くんは苦笑する。
「それよりサンタってどんな感じだった?白い髭生やしたオヤジ?」
「どんな感じだったか分かるのは見た本人の特権ですので、
 お答えすることは出来ません。」
涼宮さんはもっと何か言いたそうだったけれど長門さんの
本を閉じる音によってそれ以上の質問は口にしなかった。
キョンくんも何か言いたそうな顔で古泉くんの顔を見ていたけど、
古泉くんはキョンくんの視線に気付いていない様だった。
私も少し気になっていたけれど古泉くんは何を聞いても
答えるつもりはない態度だったから黙々と帰り支度をした。
ふとカレンダーに目をやる。
クリスマスまであと二週間。
きっと世界中の子達はワクワクしているに違いない。

次の日。
私は登校中の電車の中で昨日の部室での出来事を色々と考えていた。
古泉くんの言葉はなんだったんだろう…とか
キョンくんの妹ちゃんは可愛いなぁ…とか
クリスマスが近いってことは冬休みが近いんだな…とか
こんなことを考えながらボーっと電車に揺られていたけれど
私は違和感を感じた。
…数分前から太股辺りを撫でられてる気がする……
もしかして痴漢かな…気のせいだったらいいんだけど。
しかし気のせいではなかった。
……!!
太股を撫でているその手は少しずつ確実にゆっくりと上へ上へとあがってくる。
私はその手を払おうとしたけれど体がすくんで言う事を聞いてくれない。
手はぎりぎりまで上へいくと太股の付け根あたりを前後に動いた。
叫ぼうとしたけれど声がでない。
恐怖で体が震えていることが自分でも分かった。
嫌。……本当に嫌!
場所を移動しようと思っても回りに人が多すぎて身動きがとれない。
私は俯いて耐えることしかできない。
怖いし何より自分が情けない。
そんな感情が渦巻いて私は涙を流した。
その時だった。
触られている感触がなくなった。
何が起こったのか確かめようと恐る恐る後ろをチラ見すると
私の太股を撫でていた手が誰かによってねじり上げられていた。
「こんなことをして恥ずかしくないんですか?」
聞き覚えのある口調と声に私は顔をあげた。
そこには痴漢を鋭い目つきで睨みつけている古泉くんが立っていた。
車内がざわつき始める。多くの人達の視線を確かめた後、古泉くんが大きい声で言った。
「痴漢なんて最低ですね。」
古泉くんが掴んでいた手を離すと車両の人達の視線が痴漢に集中した。
すると電車が丁度、目的地の駅に停まった。
ドアが開くと古泉くんは私の手を取って
「降りましょうか」
と言って、放心状態の私をつれて下車した。

古泉くんはホームのベンチに私を座らせてから言った。
「大丈夫ですか?怖かったでしょう?」
古泉くんが優しく声をかけてくれたせいか電車から降りて安心したせいなのか
分からないけれど、私は勢いよく涙を流した。
「…ふぇっ……うっ…ひっく……」
古泉くんは私の隣に座って背中をさすってくれた。
「すみません。もっと早く止められたら良かったんですが…
 人が多すぎて中々進めなくって、本当にすみません。」
古泉くんは謝る必要なんかないです。
と言おうとしたけれど涙のせいで喋れなかった。
私はしばらく泣きつづけ、古泉くんは私が落ち着くまでずっと傍にいてくれた。
私が落ち着いてから駅から一緒に登校した。
昇降口についた時私はやっと古泉くんにお礼を行った。
「本当にありがとうございます」
「いえいえ。僕は当然のことをしたまでです。
 ではまた放課後に。」
そう言って優しく微笑むと古泉くんは自分の教室に向かっていった。

教室に着いて仲の良いクラスメイト達と挨拶を交わしてから席についた。
「おっはよーみくる。ごめんよー今日一緒に行けなくて。痴漢に会わなかったかい?」
「おはよう鶴屋さん。今日はその…大丈夫でしたよ」
「ならいいさっ!じゃぁHR始まるから席に戻るさ。」
休み時間にねーと言いながら鶴屋さんは自分の席に戻って行った。
先生の話を聞きながら私は電車の中での出来事を思い返した。
あの時古泉くんが居てくれなかったら…と思うと本当にゾッとする。
そういえばあんな顔してた古泉くん始めて見たなー…。
ちょっと格好良かったかも…じゃなくて感謝しても仕切れないな。
…もっと私が勇気を持てたらいいんだけど……。
そう思った時にふと思った。
私って周りに助けてもらってばかりじゃない…?
キョンくんや涼宮さんや長門さんや鶴屋さん、それに古泉くん。
私は誰かを助けた事があった?
全くない。その逆ばかりだ。
私はかなり憂鬱な気分でその日を過ごした。

憂鬱な気分のまま私は部室に向かった。
扉を開けるとキョンくん以外の全員がそろっていた。
古泉くんと涼宮さんがなにやら真剣に話をしている。
私はその会話に耳を傾けながらパイプ椅子に座った。
「でもなんて口実で誘えばいいか…」
「いつものように強引でいいんじゃないでしょうか。彼もまんざらじゃなそうですし。」
「そうかしら…でも皆とも遊びたいし…」
「SOS団で過ごすのは10時くらいから3時くらいまでにして
 その後二人で過ごせばいいと思いますよ?
 そのあとでしたら涼宮さんも彼を誘いやすいでしょう?」
「いい考えね!!…でもいいのかしら私の都合でスケジュールを決めて」
「大丈夫ですよ。涼宮さんは団長なんですから。」
「…でも……」
「権力は使うためにあるんですよ?こういう時に利用しなくてどうするんですか?」
「そうよね!!」
なるほど。涼宮さんはキョンくんと一緒にクリスマスを過ごしたいんだ。
それでどうやって二人になればいいか古泉くんに相談してるみたい。
それにしてもキョンくんがいない時の涼宮さんは凄い素直で可愛いなぁ。
キョンくんの前でも素直になればいいのに。
涼宮さんと古泉くんの会話が終わったくらいにキョンくんが部室の扉を開けた。
向かいあっている涼宮さんと古泉くんをじとっとした目で見て
お前等また悪巧みでもしてるか?と溜息交じりに質問をした。
キョンくんもキョンくんで素直じゃないなーと思いながら私はその光景を見ていた。
「何よ。その言いかた。それじゃまるで…」
「おい古泉、昨日の話の続きを聞かせろ」
キョンくんは涼宮さんの言葉を遮るように古泉くんに言った。
「ちょっと私の話無視する気!?」
「お前だって気になってんだろ?古泉のサンタ話」
「まぁ…そうだけど…」
キョンくん上手くかわすようになったなぁ…
「で、古泉どうなんだ?」
「ですから何も言えませんと言ってるじゃないですか」
「じゃあ質問を変えよう。お前はサンタの振りした親に
 プレゼント貰ったことはあるのか?」
「無いですね」
オセロの用意をしながら古泉くんが答える。
「不憫なやつだな」
「厳しい家庭だったものですから」
涼宮さんと私は静に二人の会話に聞き入った。
「で中一の時にサンタを見た、というわけか」
会話をしながらオセロがスタートする。
「えぇ」
「お前の妄想じゃねぇの?」
古泉くんはそうかもしれませんねと言って苦笑した。

その後、キョンくんが色々と聞いていたけれど
古泉くんは生返事ばかりで結局何も話さなかった。
凄い気になるなぁ…。
だってその話題の時の古泉くんの横顔はとても嬉しそうで穏やかな感じで…。
分かりやすく言うと恋をしているような横顔に見えたから。
もしかしたらそのサンタさんのことを好きなのかな?
でもサンタさんっておじいさんのイメージがあるからパッとしないなぁ。
それとも古泉くんってそういう趣味なのかな?
私が悶々と考えをめぐらせているうちにキョンくんの圧勝でオセロは終わっていた。
二回戦を始めようとした時に、長門さんが本を閉じて立ち上がった。
それを合図のようにキョンくんと古泉くんはオセロを片付け始め、
私と涼宮さんは帰りの支度を始めた。


私は家に帰った後、古泉くんの過去について考えた。
過去に行けたらその相手が誰だか分かるのにな…。
古泉くんが好意寄せてるかもしれない人だからきっと凄い綺麗な人に違いない。
それとも本当に本物のサンタさんを見て、その人に憧れてるだけかな?
それにしても最近古泉くんのことばっかり考えてるなぁ。
もしかして好きになっちゃったのかな?
私はベットに横になりながらそんな事を考えていた。
ふとカレンダーに目をやる。…そろそろクリスマスか。
「そうだ!」
私はいい事を思いついて飛び起きた。
古泉くんにクリスマスプレゼントをあげよう。
何にしようかな?手編みマフラーとか?編物だったら自信あるし。
クリスマスまであと数週間しかないから急がなくちゃ!
古泉くんに何色のマフラーが似合うのか考えながら手芸屋さんに向かった。

ここから古泉視点

帰宅した後、僕は色々と考えた。
随分と懐かしい話をしてしまったな。本当は二人の秘密のはずだったのだが。
それにしても本人のことを本人に秘密にするのはおかしな感覚だ。
そう思って僕は中一の時のあの日。つまりはクリスマス・イヴのことを思い出した。


12月24日。
世間はクリスマスイヴ。
恋人達はロマンチックなシチュエーションでラブラブし、
子供たちはサンタからのプレゼントを心待ちにしている日だ。
しかし残念ながら俺はどちらにも該当しない。
俺はもう中一だしサンタを信じているような年齢ではない。
もし恋人が居たとしても俺が学生であるうちは楽しめる日にはならない。
12月24日は終業式でもある。
そう。通知表が返ってくる日でもあるのだ。
自分で言うのもなんだが俺は成績が良い方だ。
普通だったらここまで悩む必要はないと思う。
しかし俺の両親は凄い成績を重視するので少し成績がいいくらいじゃ納得してくれない。
一学期オール5をとった時だってそれぐらい当然だもっと頑張れ、と言われた。
これ以上何を頑張れって言うんだ、とその時は思った。
しかし今回はまずい。国語が4だったのだ。
成績が下がった原因は間違いなく閉鎖空間だ。
そのせいで世間がクリスマスで盛り上がってる時に俺は強制的に勉強反省会だ。
家に帰りたくない。そう思って俺は家の反対方向にある公園へと向かった。
いつもなら子供達で溢れている公園は誰も居なかった。
サンタのプレゼントが楽しみ過ぎて公園で遊ぶ余裕がないのだろうか?
俺はブランコに座った。
…サンタのプレゼントをわくわくしながら待っている子供達が少し羨ましい。
俺は親からつまりはサンタからプレゼントを貰った記憶はない。
大体サンタの存在を知ったのは幼稚園ときでしかも友達の発言でだ。
今更親に俺が目を覚ました時枕元にプレゼントを置いてくれなんて言わない。
世界を護りながらこれだけの成績をとってるんだ、
だから少しくらいは俺のことを認めてほしい。
でも、閉鎖空間だのなんだの母さんも親父も知らないんだよな…。
そう思うと少しだけ孤独を感じる。
俺が溜息をつこうとしたその時
「どうしたの?そんなに落ち込んだ顔して。古泉くんらしくないよ?」
聞き覚えのない声に話し掛けられた。
俺はすぐさま声の主の方を見た。
その人は俺のとなりのブランコに座っていた。

俺は目を見開いた。
なぜならその人は見た事が無いほどの綺麗な女性だったからだ。
しかもなんで俺の名前を知ってるんだ?
それよりなにより格好が…
「久しぶりね、古泉くん。あ…この古泉くんは私のこと知らないんだっけ」
何言ってんだこの人?
「眉間に皺寄せたら格好良い顔が台無しになっちゃうから止めたほうがいいわよ」
「…お姉さん誰?さっきから俺の事知ってるように喋ってるけど」
すると女性はふふふと笑って古泉くんにお姉さんなんて呼ばれるなんて
思いもしなかったなーと独り言のように言ってから聞いてきた。
「この格好から分からない?」
…凄い分かりやすいけどさ。
俺はそう思いながらその女性の服装を見た。彼女は赤服を着て赤い帽子を被っている。
そうサンタクロースの格好をしていた。
女性だからといってスカートではなくズボンだ。
「まさかサンタとかって言わないよな?」
「半分当たり!でもただのサンタさんじゃないの」
俺がその言葉にはっ?という顔していると女性は
「正解は未来から来たサンタさんです」
と言った。
…頭おかしいんじゃないかこの人……
「あー信じてないでしょ?本当だよ?だから古泉くんの名前とか知ってるの」
話をしても害は無さそうだしこの電波話に付き合ってやってもいいかもしれない。
「ふーん、未来の俺と知り合いなのか?」
「そうよ。高校生の時の貴方と知り合いなの。」
「高校生の俺か…どんな感じ?」
「人あたりが良くていつも笑顔で周りから頼りにされてて…それで凄い格好良いわ」
この話が嘘だとしてもちょっと…いやかなり恥ずかしいな。
恥ずかしいというか、かなり照れる。
だってこんな美人にかっこいいって言われるんだぞ?
どういうリアクションをとっていいか分からず俺は少し俯いた。
「もしかして照れてる?」
そう言って顔を覗きこんでくる。
「あ、顔赤くなってるよ」
そう言って俺の頬をつついた。
…思いっきり子供扱いされてるな……
これ以上からかわれるのは嫌だったから俺は話題をかえた。
「そんなことよりお前サンタなんだろ?さっさとプレゼントでも配りに行けよ」
「そうそう。そうだった。私、今はサンタだったっけ」
思い出したように言う。
「サンタのくせに手ぶらなんだな」
「何か形に残るものは駄目だって上に人達に言われちゃったの。」
「へぇーお姉さん下っ端なんだ」
「これでも割と偉いほうなのよ。
 ここの時代に来る為にたくさんの部下に協力しもらったの」
「…それっていいことではないんじゃない?……」
「でも古泉くん言ってたじゃない?権力は使う為にあるって」
「は?」
…高校生の俺が言ったのか?だとしたら随分嫌な高校生だ。
「そういえば古泉くんの家は厳しいんだよね?」
この人はいきなり何を言い出すんだ。

「高校時代の古泉くんが言ってたんだけどサンタさんから
 プレゼントを貰ったことがないんでしょ?」
「まぁ…」
「だから私がサンタになって古泉くんにプレゼントをあげようと思ったの」
彼女は名案でしょ?と言って優しく微笑んだ。
「今日はイヴで。クリスマスは明日なんだけど…」
「あっ!そうだった…私ったらまた…」
また?このお姉さんは過去に同じ間違いでもしたのだろうか?
「…しかもお姉さん何も持ってないじゃん」
「何か欲しいものある?
 ここの時代のものだったらプレゼントすることは許可されてるの」
「いきなり言われても…」
彼女はニコニコしながら俺を見つめてくる。
俺の欲しい物?特にないな…。
厳しくない親とか?これは無理だろう。
オール5の通知表とか?これも無理だな。
閉鎖空間に左右されない日常?これも無理だ。
何でも愚痴れる友達とか?これも無理だ。
何でも愚痴れる…
俺はお姉さんの顔を見た。
話しをしていて思ったがこの人は悪い人ではなそうだ。
それに俺のことを少しは理解してくれそうだ。
そう思って俺は口を開いた。
「物はいらないからさ…話相手になってよ」
「古泉くんがそれでいいなら、いくらでも話相手になってあげるけど…
 本当にそれでいいの?」
「それでいいよ。お姉さんは俺の秘密知ってる?」
「…秘密?えーと…あ、不思議な力があること?」
知ってるのは意外だったが、知っているなら話が早い。
それから俺は閉鎖空間のこと、学校のこと、成績のこと、親のことを次々に話した。
お姉さんは飽きる様子は全くなく、むしろ興味津々という感じで話に聞き入っていた。
「…俺愚痴ってるだけなのに聞いててお姉さん楽しい?」
素直に疑問を口にした。
「楽しいわ。それに古泉くんってあんまり自分のこと話さないから珍しくて。
 古泉くんのことが色々分かって嬉しい。」
そう言って笑った。
「ならいいけど…」
さっきから思っていたが高校生の俺はこんな美人に好かれているのだろか?
自惚れかもしれないがそれらしい発言をさっきからしている。
というかこの人、高校生にしては大人っぽ過ぎないか?
「お姉さん何歳?」
「秘密。これは教えられないの」
「…じゃあ質問を変えるよ。
 今の歳のお姉さんと高校生の俺は知り合いになるの?」
「違うわ。貴方と知り合いになるのはもうちょっと若い私よ」
「それとお姉さんの名前なに?」
「…禁則事項です。」
「なんか不公平。お姉さんは俺の事知ってるみたいなのに」
「高校生なったら分かるわ。
 あ、そうだ。高校生になって私に出会ってもこのことは言わないで?」
「…何で?」
「お願い。約束して」
そう言って小指を差し出した。

理由は気になったけれど美人との指きりを断ることは出来ず俺は小指を絡ませた。
嬉しそうに彼女は笑って指きりの歌を歌った。
そして最後に「お願いよ?」と言って小指を離した。
「さてと…私そろそろ帰らなくちゃ…」
と言ってブランコから立ち上がって、俺を抱きしめた。
「話を聞くことしかできなくて御免なさい。私色々あなたにお世話になったのに…」
「高校生の俺が?」
「えぇ。たとえば痴漢を撃退してくれたり、とか。他にもいっぱいあるわ」
「そうなんだ…。とにかく話聞いてくれてありがと。
 かなりスッキリした。」
俺が笑ってそう言うとお姉さんはゆっくりと俺を離した。
「…また未来でね」
俺がまた会えるのを楽しみにしてると言おうとした時、お姉さんの手が
俺の顎をクイッと持ち上げた。
そして、俺の唇に唇を重ねた。
一瞬の出来事だったが俺の心臓は爆発しそうなくらいドキドキしている。
抱きしめられたときから、すごいドキドキしていたが今の比ではない。
体中が熱い。耳まで赤くなっているのがわかる。
そんな様子の俺を見てお姉さんはイタズラに笑い
「メリークリスマス」
と言って公園から出て行った。


それから僕は家に帰って親に怒られたがそれは記憶にない。
この不思議な出来事は未来の朝比奈さんのイタズラだったのだろうか?
そういえばあれがファーストキスだったな。
あの時キスされたのかは今も分からない。
もしかして朝比奈さんは僕の事が好きなんだろうか?
真相は本人だけが知っているが聞く勇気はない。
そんなことを考えながらカレンダーに目をやる。
もうすぐクリスマスか…。
クリスマスは良い印象がなかったが朝比奈さんのお陰で随分好きになれたな…
と思い僕は自分の唇に触れた。

再びみくる視点

「やった!出来た!」
私は完成したマフラーを見て思わず笑みをこぼした。
喜んでくれるかな…古泉くん…
そう思いながら私はマフラーを抱きしめた。
時計に目をやると8時。外すっかり暗い。
このマフラーはクリスマスプレゼントだから今日中に渡したいな。
でも私古泉くんの家の場所知らなし…
…今の時間に呼び出すのは非常識だよね……?
とにかく私は古泉くんの携帯に電話をかけることにした。

3回目のコールで古泉くんが電話に出た。
『こんばんは。どうかしましたか?』
私は変に緊張してしまい少し震えた声で用件を言った。
「えーっと…その時間あれば……不思議探索の時に集まる
 集合場所に来て欲しいんですけど…」
『朝比奈さんから呼び出されるなんて光栄ですよ。何時くらいに行けばいいですか?』
「8時半くらいで…」
『分かりました。では8時半にお会いしましょう』
「はい」
そう言って電話を切った。
はー…すっごく緊張しちゃった。じゃない早く準備をしなくちゃ。
私はマフラーを包んで手早くラッピングをした。
私が持ってるなかで一番可愛いと思う服を選んでそれに着替える。
少しお化粧もしていこうかな…そう思って鏡の前に立つ。
簡単に化粧をすませてから髪型や服装を念入りにチェックをする。
大丈夫かな?変なところないよね?
私はブーツを履いてから玄関にある鏡の前で全身を
もう一度チェックしてから集合場所に向かった。


集合時間の5分前に私はついた。
まだ来てないよね?と思いあたりを見回す。
「朝比奈さん」
ふいに後ろから声をかけられた。
「すいません。待たせてしまいましたか?」
「いいえ。私も今来たところですから。」
私がそう言うと古泉くんは
「そうですか。良かった」
と言って安心したように笑った。
その笑顔を見て少し胸が高鳴る。
白い息をはいて古泉くんが聞いてくる。
「寒いのでどこかお店に入りましょうか?
 ここからだといつもの喫茶店が近いのでそこでいいですか?」
「はい。行きましょう」
私は古泉くんと並んで歩き出した。

喫茶店の中はクリスマス仕様になっていて可愛い雰囲気だった。
幸い二人席の小さい机が空いていたのでそこに私と古泉くんは座った。
座って向かい合った時古泉くんが私の顔をじっと見詰めてきた。
嬉しいけど恥ずかしい。
「な、なんか私の顔についてますか?」
「そういう訳ではないですよ。
 ただ今日はいつもより可愛く見えたもので。」
「え…あ、ありがとう」
お化粧したかいがあった。この服を着てきて良かった!
私が心の中でガッツポーズをしていると古泉くんがメニューを開いて私に聞いてきた。
「何か頼みますか?」
「あ、はい。何にしようかな…」
結局私は紅茶にして古泉くんはホットコーヒーを頼んだ。
それから私達は雑談を楽しんでいた。
楽しいなー…じゃない。本来の目的を忘れちゃ駄目!
私は鞄の中に入っているマフラーを見た。
よし。渡そう。心の準備をする。
「あの…古泉くん」
「なんですか?」
鼓動が早くなる。心音が古泉くんに聞こえていないか心配だ。
「その…これクリスマスプレゼントなんですけど…」
そう言ってラッピングされた包みを差し出す。
古泉くんは目を丸くした。けれど
「有難う御座います」
と言っていつものように微笑んでそれを受け取ってくれた。
「開けてみてください。」
どういう反応をするのか気になって私は言った。
すると古泉くんがでは、お言葉に甘えてと言うと丁寧に包みをあけて
グレーのロングマフラーを取り出した。
古泉くんはしばらくマフラーを見つめていた。
「手編みですか?」
「…はい。……気に入ってくれましたか?」
「えぇ。本当に有難うございます」
いつも以上の優しい微笑みに私はドキドキした。
よかった…。ちゃんと渡せた…。
「朝比奈さんがくれるものは体が温まるものばかりですね」
「えっ?」
「いえ、こちらの話です」
私、前にも古泉くんに何かあげったっけ?
「そういえば明日のSOS団のクリスマスパーティーのことなんですが…」
「はい…って明日!?じゃあ今日は…」
「クリスマス・イヴですよ」
そんな!!
「わざわざ呼び出しておいて…すいません!
 一日早く渡しちゃうなんて…凄い恥ずかしい」
どうしよう。涙目になってるかも。
「いいじゃなですか。一日早いほうが朝比奈さんらしいですよ」
「それってどういう意味ですか!?」
私が顔を赤くしながら聞くと古泉くんは声を上げて笑った。
古泉くんがあまりにも楽しそうに笑うからつられて私も笑った。
その後、少しおしゃべりしてから私達は喫茶店を出た。

古泉くんが「もう遅いので家まで送らせて下さい」と言ったから
私はその言葉に甘えることにした。
帰り道は何故かとても早く感じだ。
…もう家に着いちゃった……
少し残念だなと思いながら私は古泉くんにお礼を言った。
「今日は来てくれてありがとう。それに送ってくれて…」
「マフラーに比べたらこれくらい大したことではないですよ」
「ふふふ…本当にありがとう」
「…朝比奈さん」
「な、なんですか」
いつもと違う雰囲気で名前を呼ばれて私は少し戸惑った。
戸惑っている私の顎に古泉くんの指が伸びてくる。
その指は私の顎をクイッと上に上げた。
そして、古泉くんは私の唇に唇を重ねた。
古泉くんの唇は一瞬触れてすぐに離れた。
そして
「メリークリスマス」
と言って私に背中を向けて歩いて行った。
そんな古泉くんの背中を私は放心状態で見送った。
今何が起こったの?
え……っと…今もしかして、き、キスされた?
今の出来事を理解して私の心臓はフル活動し始めた。
息はとても白いのに体がとても熱い。
なんで?古泉くんは私にキスを…
私はその場に暫く立ち尽くした。
古泉くんが私にキスをした理由は分からない。
でも私は幸せを噛み締めるように自分の唇に触れた。

終わり


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