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「正直になろうじゃねーか。ハルヒ、好きだ。付き合ってくれ」
……うん。あたしも好き。……ありがと、キョン。
こうして、あたしはキョンと付き合うことになった。
クリスマスの二週間前、周りから見れば焦って彼氏を作ったって見られるかも。
それでもいいわ、だってあたしは本当にキョンが好きだから……さ。

それからだった、異変が起こったのは。
あたしがキョンに話しかけても、会話が途切れ途切れになる。……というより、キョンが話を切ってくる。
『悪い、今忙しいんだ』とか、『呼び出されててさ』とか、わかりやすい《嘘》であたしとの会話を断ち切る。
これじゃ付き合う前より楽しくない。一緒に登校するより、一緒に帰るより、あたしは話していたいのに。
それともう一つ。
あたし以外の女子、……特にみくるちゃんや阪中さんと話す時間があたしより多い。
確かにキョンが誰と話そうと勝手だし、束縛する気もない。
だけど、なんだかあたしがないがしろにされてる気がする。
「そ、そんなことないって!ハルヒ、俺を信じろよ!」
あ……うん。あたしが悪かったわ、ごめん。

「……じゃあ帰ろうぜ」
あたしの手が優しく握られる。あたしはこの温もりを信じていようと思った。
キョンのあったかくて、あたしより大きな手を……。

「悪い、今日は一人で帰ってくれないか?」
付き合って五日目、あたしは初めてキョンに一緒に帰ることを断られた。
団長机でパソコンを弄りながら聞いたその言葉は、あたしに疑念を抱かせた。
《実は他に好きな人がいる?あたし、遊ばれてる?》
そんな訳ない。だって告白をした時のキョンは本気の目をしてた。
だけど……付き合ってからこんなに冷たくされると疑いが出ちゃう。
キョン、ちょっと来なさい。
あたしはそう言って部室の外へと出た。
「なんだよ」
最近……さ、なんだかあんたと気持ちが離れてる気がする。
「おいおい……、別れ話は勘弁だぞ」
違うわよ。ただ……ちょっと前みたいに何でも話せる関係じゃないみたい。
「心配しすぎだ。俺はお前のことを考えなかったことなんて一時もない」
真面目な表情。この顔をしてる時のキョンは嘘はつかないのよね……。
わかったわ。ごめん、なんかあたし束縛してるみたいよね!忘れて!あ~寒い……。
掌を擦り合わせ、あたしは部室の中へと戻ろうとした時だった。
頬を持ち上げられ、キスをされた。
最初は驚きに目を開いていたけど、気持ちよくなってあたしは目を閉じた。
しばらく、その状態になった後、ゆっくりと唇を離された。
「ごめんな、ハルヒ。お前を不安にさせる様な態度を取っちまってさ」
顔が熱い。さっきまで感じていた不安は全て吹き飛んで、幸福感だけがあたしに残った。
「さっき言った通り今日は一人で……な?俺は用事があるからもう帰るよ。悪い」
頭を二度、ポンポンと叩かれてキョンは鞄を取って帰って行った。

もうなんだって信じる。あたしはそう誓った。だって、あたしはこんなにキョンに愛されてるんだから……。
部室に戻ると、財布を開けた。お金が残ってるうちにクリスマスプレゼントを買おうと思ったから。
一人で街に出て、一人でキョンの為にプレゼントを買おう。
去年までの、《恋愛なんて精神病》なんて感情はもうない。
普通の《彼女》って立場が、そんな生活が今はなによりも幸せだから。
有希が本を閉じる音を立てた瞬間、部室を飛び出した。
とびっきりのプレゼントを選ぶために。


コートを着込んだまま、街中を何往復もした。同じ店にも何度も入った。
キョンの喜ぶ顔だけが見たくて、あたしは何個も何個も商品を手に取った。
「……これ、いいかも」
あたしが気に入ったのは、ちょっと高価な腕時計。これならキョンも喜んでくれるかな……。
すぐにレジに持って行き、包装はしてもらわなかった。自分でやった方が心がこもる気がしたから。
あたしは幸せの絶頂にいたのがわかった。だって世界が全て明るく見えていたから。
そんな時に、あたしは見たくないものを見てしまった。
「キョン?何でここに……それに、朝倉?」
街中の道の端の方で、キョンと朝倉が話しているのが見えた。
それだけじゃなかった。朝倉がキョンにキスをした。放課後、キョンがあたしにしたのと同じ手順だった。
何で……?確かめなきゃ……。
「キョン!!」
あたしはありったけの声で叫び、大股で二人の元に向かった。
「は、ハルヒ!?何でここに……」
何よ、今のキスは。
そこで朝倉は口を挟んできた。
「お久しぶりね、涼宮さん。ちょっとだけカナダから帰って来たの。だから向こうでやってる方法でキョンくんに挨拶しちゃった」

うふふ、というわざとらしい笑い声を無視して、あたしはさらにキョンに言葉をかけた。
「何で避けなかったのよ!来るってわかったんでしょ!?」
「そ、そんなのわかるかよ!朝倉がいることに驚いてるスキにやられたんだ!」
わかってる、わかってるけど言わなきゃ済まない自分が惨めになる。
じゃ、じゃあ……あたしもキスする!
キョンの頬を持ち上げて、キスしようと唇を近付けた瞬間だった。
キョンの暖かい掌があたしの口を押さえていた。
そう、あたしのキスは拒否されたのだ。
何で……何で避けるの?あたし達……付き合ってるんじゃないの?
「それとこれとは話が別だろ!」
朝倉のは避けなかったじゃない……。
「そ、それは……」
絶望感に襲われた。それは、キョンと朝倉がキスしたことじゃない。
あたしがキョンに拒絶されたことに対してだった。
「どうして……?あたしはこんなにあんたを想ってるのに、あんたは応えてくれない。去年あんたが言った、《普通の恋愛》だってしてるじゃない!」
辛い。何であたしだけ辛いのよ。

「ひどい……ずっと、キョンだけはあたしをわかってくれてると信じてたのに。あたしだけを好きでいてくれるって信じてたのに!」
ポケットからさっきの腕時計の箱を取り出した。
「信じてたのに、信じてたのに、信じてたのに!バカバカバカッ!」
キョンの足下にそれを叩き付けて、あたしは走り出した。もう終わりだ。絶対に終わりだ。キョンはあたしを好きじゃなかったんだ。
そんな喪失感と絶望感から、走りたくなくなり、あたしは近くの公園に入ってブランコに腰を下ろした。
こんな時……漫画とかならキョンが来て『ごめん』って必死に謝ってくれるのよね。……ううん、キョンなら来てくれる。
三秒以内に来たら、許してあげるんだから。
1……2……さ
あたしの肩に何かが置かれた。ほら、やっぱり来てくれた。さっきのこと、ゆっくりと聞き出そう。
「キョン、あたしに言いたいことは?」
そう言って振り向いた。……そこには、あたしの求める景色はなかった。
「涼宮?キョンと約束してたのか?」
谷口……だけ?キョンは?
あたしは必死に辺りを見回した。何回も首を振って見回しても、この辺りにいるのは二人だけだった。
終わっちゃった。本当に終わっちゃったんだ……。
「谷口ぃ……ほんとに終わっちゃったよぉ……うあぁぁぁん!」
あたしは泣き続けた。谷口にしがみついて。
かっこわるいけど涙が止まらない。声をあげてしまう。
「おい……宮……した……よ!」
谷口があたしに何か声をかけてるけど聞き取れない。
あたしはずっと、ずっと自分の気持ちのままに暗闇の公園で谷口にしがみついて泣き続けた。


あたしが少し落ち着いた時には、鶴屋さんが一緒にいた。谷口が呼んだのかな……。
「大丈夫かい?ハルにゃん……全部吐き出しちゃいな。あたし達が全部聞いて、受け止めてあげるから」
鶴屋さんの声。あたしを軽く抱き留める谷口の体。
その二つに安心感を覚えて、あたしはまた泣き出した。泣き出しながら自分の気持ちを言葉にした。
「あたしが何したっていうのよ!キョンのことをずっと想って!一人でドキドキして!それで返って来たのは拒絶だけ!うぅっ……あたしが、何したっていうのよぉ……」
あたしは悪いことなんてしてないのに。むしろキョンの為に努力してるのに。
「プレゼントだって買った!喋りたいのも我慢した!キョンともっと触れ合いたかったのも我慢してたのに!なんであたしはぁ……こんなのひどすぎるよぉ……」
号泣っていうのはこんな感じなんだろう。あたしの涙はずっと止まらなかった。
谷口の胸を叩き、腕に爪を食い込ませながらあたしはさらに泣き続けた。
「もうやだ……せっかく普通の生活だって面白くなってきたのに……」
二人に自分の思いを全てぶつけた。
今までがどんな気持ちだったのかも。

今でもキョンが好きなのにってことも。
全てを打ち明けて、あたしは落ち着きを取り戻した。
「もういいかい?落ち着いたらあたしの家に来なよ、ゆっくり話そう」
……うん。ありがとう、鶴屋さん。
「谷口くんも、ね?あたしが治療したげるさっ!」
治療?あたしは疑問を感じて、谷口の体を見回すと、爪が食い込んで血が流れ出していた。
「あはは……じゃあお言葉に甘えさせていただきます……いてて」
鶴屋さんに背中を押され、あたしは歩きだした。
妙にスッキリした頭と、涙で濡れた頬が風に吹かれて気持ちよかった。

鶴屋さんの家で、あたし達は三人で座っていた。
冷たい体をコーヒーで暖めつつ谷口の治療を見ていた。
……谷口、ごめん。胸とかも叩いたし……痛かった?
「はははっ、涼宮らしくねぇな。まぁあんな一面も見れたからそんなに痛くねぇよ」
あんた……このこと誰かに言ったら殺すからね。
「わかってるよ。それでこそ涼宮だな」
谷口に助けられるなんて初めて。だけど今は本当にいてくれて助かってる。
「それでさ、ハルにゃんはどうするんだい?キョンくんとは別れちゃうのかな?」
そんなの別れたくないに決まってるわ。だけど……。
「また拒絶されるのが怖い……かなっ?」
あたしは沈黙を保ったけど、図星だとわかってるはず。
あの時、唇に触れたキョンの掌の感触が蘇る。また涙が滲んできた。
「涼宮、泣き足りないならまた泣いてもいいぞ」
……うっさいわよ。
「つまりハルにゃんはキョンくんが朝倉って娘とキスしたことより、自分がキスしようとしたのを拒絶されたことがショックだったんだね?」
というより、キスじゃなくてあたし自体が拒絶された気がしたの。

「ふ~ん……なら呼ぶしかないね!谷口くん、よろしくっ!」
「了解しました、姉御!」
ちょ、ちょっと!
あたしの制止を振り切って、キョンはここに来ることになった。合わせる顔がない。
コーヒーを飲んで落ち着こうとすると、手が震えているのに気がついた。
「大丈夫だから落ち着きなって。ほら、お姉さんがついてるにょろよ」
鶴屋さんに抱かれ、あたしがゆっくりと呼吸を落ち着けていると、キョンはやってきた。
「ハルヒ……」
キョンの目が赤い。さっきまで泣いていたのだろうか。
「ごめん、ハルヒ。ごめん……」
鶴屋さんの手の中からキョンの手の中へとあたしは移動させられた。そのあたしを抱いたままキョンは涙を流していた。
何で……あんたが泣いてんのよ。
「お前を拒むつもりはなかったんだ、許してくれ……」
痛いくらいの力でキョンはあたしを抱き締めてきた。よかった……キョンに嫌われなくて。
もういいわよ。許すから……泣かないで。
頬を伝う涙を拭ってやり、頭を撫でてやった。キョンに何があってあたしに冷たかったのかはわからない。だけどもういい。
こうやってお互いの気持ちを伝えあうことが出来るようになったから。
あたしは鶴屋さんと谷口に礼を言って、泣き続けるキョンを連れて出て行った。

「畜生……こんなにお前に愛されてるのに、何で俺は上手く気持ちを伝えられないんだよ……傷つけちまった」
キョンは自分の目を拭いながらずっと自分を責めていた。
お互いにお互いを想いすぎてすれ違っているのかな……。
「……お前を突き離してたのはな、隠れてプレゼントを買うためだったんだ。信じてくれ……」


そう言ってあたしの目の前に小箱を泣きながら突き出してきた。
その突き出した右手には、さっきまで新品だった、あたしが叩き付けた壊れた腕時計が巻かれていた。
キョン……それ……?
「一足早いクリスマスプレゼント、もらったぞ。それはお返しと思ってくれても構わない、開けてくれ」
包みを剥がして箱を開けると、そこには指環が入っていた。
「……18になったら結婚してくれ。お前の気持ちすらわからないバカ野郎だが、本気なんだ」
うれしかったプレゼント、それを上回る驚き。……今なんて言った?
待ちなさい、キョン。あんた……正気?
「正気だ。……またお前を嫌な気持ちにさせるかもしれん。それでもまだ好きでいてくれるんなら……結婚してくれないか?」
あくまでも真面目な顔でキョンは返事をした。あたしも真面目に答えなくちゃいけない。
付き合えただけで幸せだった。それ以上は我慢してたのに、いきなり結婚とか言われてもビックリする。
それでも……うれしかった……。
保留……ね。これから18になるまで、ずっとあたしだけを愛し続けてくれたら結婚してあげる。だから、これは受け取っとくわ。
あたしはそう言うと、左手の薬指に指環をはめた。
「ハルヒ……ありがとう。もう、ずっと離さないからな……」
暗い夜道で、街灯に新品の指環と壊れた腕時計を照らされながらあたし達はキスをした。
あたしの心をもう一度幸福で満たすようなキスを、キョンはくれた。
あと一年近くかぁ……長いわね。でも大丈夫。いまからもう一度キョンとの関係を築きあげて行こうと誓ったから……ね。
一年後、さらに幸せであることを祈りながら、あたしはゆっくりとキョンの頬にキスをした。


おわり
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