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 もううんざりだ。
 何がうんざりかって? このケツの穴がひりひりする毎日のことだ。
原因は狂気に染まった目で俺を狙い隙あらばアナルめがけて襲いかかってくるあのホモ古泉。
大体超能力者じゃなかったのかあいつは。いつのまにあんな暴走変態野郎に成り下がったんだ。
ハルヒもかすむほどの行動力で、もはや主役交代といってもいい。
 そもそも今のこの世界は明らかに狂っている。朝比奈さんは何か黒いし、鶴屋さんはあれだし、
長門も明らかにおかしい。ハルヒだってそうだ。今までズルズルとつきあわされちまったが、もう我慢ならねえ。
 だから俺はここに宣言する。今こそ抵抗活動――レジスタンスとして俺は立ち上がるんだ。
この狂った世界を元の平和な世界に作り直すための抵抗運動なのだ。まず最初の標的は古泉。
おかしくなった奴の中でもっとも苛烈な変化を遂げている。奴をどうにかしなければ、正常化なんて絶対無理無理カタツムリだ。
 ――決して「無駄な」抵抗なんていう頭によけな文字をつけないこと。
 
 朝、俺が北高にやってくると……
「いぁぁぁぁぁぁやあああああほほほほほほほほー!」
 イカレタ叫び声で襲いかかってきたのは、あの超能力野郎・古泉だ。
これだけでも引くってのに、なぜか上半身ブレザー・下半身裸という変態スタイルで、
あろうことかケツを俺に向けて飛んでくる。しかも、物理法則を完全に無視した水平飛行でだ!
「おはようのキスを差し上げましょう! さあ、僕のアナルに!」
 俺に背を向けて飛んできているから表情まではわからんが、かなりいっちゃった恍惚とした顔なんだろうな。
今までの俺だったら、このまま何もせずにやられ放題か、ひたすら逃げ出すという選択肢しかなかったが、
抵抗を決意した俺は今までとは違うぞ!
「とうっ!」
「――はうお!」
 古泉の驚愕と衝撃が入り交じった声。俺は間髪入れずに奴のケツに太さ5センチの鉄棒をねじ込んでやったのさ。
いつも俺が受けている屈辱と痛みを思い知るがいい!
「はうううううう! 朝から過激なプレイをしますね……!」
 なっ……こいつこっち側もOKだったてのか!? 快楽を貪るような表情を見る限り、
堪えるどころか喜んでじゃねえか!
「っうく……あなたの気持ちはよくわかりました。しかし、公衆の面前でこのような振る舞いは感心できませんね」
 朝の登校時間に半ケツで飛びかかってきたお前が言うな!
 しかし、古泉はもはや問答無用と言わんばかりにケツに刺さった鉄棒を抜きにかかり、
「せっかくです……! 僕のアナルを貫いたこの棒であなたを指せばまさに穴兄弟――」
 俺は古泉のしようとしていることがわかったので、一目散に逃げ出した。
 やはり抵抗は一日では成就せずか。やはり、ここは仲間を作るべきだな。
 
「朝っぱらから災難だったなキョン」
「ああ、最近あいつの変態ぶりも磨きがかかりすぎてたまらん」
 時刻は昼休み。俺は弁当をとっとと食い終えて谷口と雑談を交わしていた。
「だがよ、いくら抵抗を決意したからといってあれはまずいんじゃねえか?」
「……どういうことだ?」
「あのなキョン。すっかりあのホモ男に毒されちまっているようだが、
朝の登校時間に男のケツに鉄の棒をつっこんでいる図を見てみろ。誰だって変態に見えるだろ」
「なっ……あれはあいつが襲ってきたから!」
 俺がつばを飛ばして抗議しようとするが、谷口ははいはいと軽く受け流して、
「いいか? 常人なら襲われたら普通は逃げる。迎え撃つ奴の方が少ないと思わないか?
あまつさえ、その反撃で襲ってきた奴が喜んでいると来ているんだ。誰が見ても変態さ、お前も含めて」
 ……しまった。まさか俺の燃えたぎる抵抗心が逆に作用してしまうとは……!
「ちまたの噂じゃ、おまえはツンモホって呼ばれているらしいぜ」
「なんだそれは!?」
「ああ、ツンホモってのはな、嫌だ嫌だと言いつつ何だかんだで……」
「説明しなくていい!」
 俺はチャック全開野郎と黙らせると、思考モードに移行し始める。このままではまずい。
俺がいくら抵抗しようとしても周りからそう見られてしまえば、全く意味はない。いい感じに既成事実化となっちまう。
「しかし、この学校はどうなっているんだ? いくら何でも自由奔放すぎるだろ。
ホモ男が昼夜闊歩して男を追いかけ回しているんだぞ。更生させようとか、せめて止めたりするのが普通じゃないのか?」
 だが、谷口は肩をすくめて首を振り、
「残念だが、もはやあいつに注意しようとか更生させようなんて考えている奴はいねえよ。
聞いた話じゃ、この学校の7割の男子生徒は奴の捕食済みだ。当然、教員もな。岡部の奴も普段は熱血ぶっているが、
あいつの前じゃすっかりダメダメ」
 なんてこった。古泉の魔の手はもはやそこまで届いていたとは。あいつは学校を乗っ取るつもりなのか?
「意外とそうかもしれねえぞ。今や、奴に逆らう人間はお前ぐらいだしな」
「……いや待て谷口。となれば、まだ女子生徒や女性教員がいる。古泉の毒牙も向けられていないはずだ。
何せ女性だからな。そっちを味方につければまだ勝機は……」
「キョン」
 そこで谷口が俺の肩に手を置き
「お前は大切なことを見失っているぞ。あの古泉という男をよく見て思い出してみろ。そう奴は――」
 谷口は俺に向けてびしっと指を向け、
「奴は――美形だっ!」
 なっ……しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! そういや、古泉のアナル性癖ばかりに気を取られていたおかげで、
あいつの基本スペックのことをすっかり失念していたぞ。あの魅惑の美形フェイスなら大抵の女性ならイチコロだろう。
 俺は頭を抱えて、
「なんてこった。男ばかりか女もすでに攻略済みってことかよ。もはや、あいつに逆らえる奴はいないってのか……。
お前も実は捕食済みって事はないよな?」
「んなわけねえ。あいにく俺は男にはさっぱり興味がないからな。おまけに女を独り占めする古泉って野郎もいけすかねぇ。
なんてうらやまし――いや、嫌らしい奴なんだ。俺にも少し分けて――こんな事はやめさせるべきだな、うん」
 俺は疑惑の視線をはねとばすように谷口がぐっと拳をあげる。何だか発言の所々に怪しげな部分があったような気がするが、
まあ、こいつの顔を見ていればまだ古泉の魔の手は及んでいないらしい。ならば、ここは仲間にするべきだな。
「ここだけの話だが」
 周りに聞こえないように俺は谷口にぐっと顔を寄せ、
「この状況はイカンと思うんだ。下手をすれば学校が乗っ取られかねないし、そもそも毎日毎日ケツを狙われるのは
もううんざりだしな。ここで一発反抗してやりたいと考えている。どうだ? お前も乗らないか?」
「ふ……そう言うと思ったぜ。俺も以前からあいつはいけすかねえ奴だと思っていたところだ。
男に狙われるのはゴメンだし、このままじゃ周辺の女子もみんな持って行かれそうだしな。お前の抵抗活動とやらに協力するぞ」
 そう言って俺たちは熱い同志の拳を握りあったのであった。
 
 さて、そうは言ったもののこれからどうするかだ。生徒や教員が全て古泉の手中下にある以上、
仲間を増やすことも難しいだろう。
 と谷口が携帯電話を取り出したかと思えば、
「俺にいい案がある。これを見ろ」
 そう言って突き出してきたのは、携帯電話内のメモ帳らしきものだ。そこには見覚えのあるものから無いものまで、
女子生徒の名前がずらっと書かれている。
「これはこの一年間俺が必死に集めた校内女子生徒データ集だ。これを見れば女子生徒の関係からなにやらまで
一目瞭然。すげえだろ?」
 ストーカーみたいな奴だな。
「……そんなつっこみはいらん。とにかく、この女子生徒データを使ってあのスマイル男を攻撃する」
「どうやって?」
 疑問符を浮かべる俺に、谷口はニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべ、
「これの情報を元に、女子生徒たちに亀裂をもたらすんだ。あの古泉って野郎がそこら中の男女を構わず食いまくっていることを
知らせてな。当然、嫉妬に狂った女子生徒たちは……」
 何だかすさまじく陰険な上に、卑怯な手段のように聞こえて仕方がないんだが……
「バカ野郎。この鉄壁の状態を崩すには内側からやるのが一番効果的なんだよ。まあ、見てろって。
今日のところは俺一人でやるから、明日の結果を楽しみにしてな」
 イマイチ納得がいかないが、まあ谷口がやる気になっているのを否定する理由もない。とりあえず、任せてみるか。
 
 翌日の朝。俺はさっそく谷口陰険攻撃の成果を目撃することになる。
 教室に向かうべく廊下を歩いていた俺だが、激しい言い争いの声を聞きつけてそちらへ向かったのだが、
どうやら女子生徒二人が何やら言い争っているらしい。今にもとっくみあいを始めそうな剣幕で怒鳴りあっている。
所々聞こえてくる声の中に古泉っていう単語が混じっているところを見ると、谷口の作戦の効果なのか?
しかし、こんな白昼堂々女の言い争いを始めるとは度胸のある女子もいたもんだ。ハルヒなみかもしれん。
 そのまましばらく言い争いが続く。二人とも涙目になってきているのを見ると、正直罪悪感に押しつぶされそうになる。
いくらなんでもこれはやりすぎなのかもしれない。しかし、元はといえばあまりに不節操な古泉が原因だろう。
俺は悪くないはずだ。
 そんな感じに必死に自己正当化を試みていたところ、争いの大元である古泉が登場だ。
何やらなだめるように言い争っていた女子生徒たちの間に割って入る。だが、そのくらいで収まるはずもなく、
今度は古泉に向けて二人の怒りが爆発し始める。
 ――そのときだった。古泉が二人の女子生徒の肩に手を載せたかと思えば、突然奴の身体が金色に発光し始めた。
そして、古泉の腕を伝って二人の女子生徒も発光を始める。
 次の瞬間、今までの言い争いが嘘だったように女子生徒たちはうっとりとした表情に変わった。
古泉に抱きついて何やら話している。なんだ、今のはなんだ?
「ちっ……うまくいくと思ったんだが、やっぱり手強いな」
 いつの間にやら俺の背後に谷口が立っていた。指をくわえて悔しがるそぶりを見せている。
「……あれがお前の言う作戦か? 見事に失敗してしまったようだが。正直あまり賛同はできないが……」
「いや、だが実際に女子たちが動いたんだ。今回は失敗だが、これを続ければやがて取り返しのつかない事態になるだろうよ。
まだまだ先は長いんだ。気長に行こうぜ」
「ああ……」
 そう言って谷口は教室に歩いていった。俺もそれに続こうとして――
 ふと、古泉がこっちを見ていることに気がつく。奴はわざとらしくウインクすると、
女子生徒たちを引き連れて立ち去っていった。
 
 放課後――というかもう夜になってからだ。俺と谷口はせっせとビラを掲示板に貼り付けていた。
当然、古泉を誹謗中傷する内容だ。いや、内容は全くの事実なんだけどな。
「ほらキョン。ぼさっとするなよ。とっととすまさないとみつかっちまうぞ」
「……ああ」
 意気揚々とビラを貼りまくる谷口とは対照的に、俺はどうしても乗り切れない。何というか抵抗するにしても、
やたらとこそくな手段に訴えているように思えてならないのだ。
状況が状況だからきれい事なんて抜かしている場合でもないのはわかる。しかし――
「そこで何をしているのかね?」
「うわっ!」
 突然後ろからかけられた声にびびる谷口。あわててビラを懐にしまおうとするものの手を滑らせて、
辺り一面にまき散らしてしまった。
 振り返ってみれば、そこにはあの生徒会長と書記である喜緑さんがいる。やばい、みつかっちまったか。
 生徒会長はちらばったビラを一枚拾い上げ、冷徹なその表情は変えることもなくなめるようにその内容を読み始めた。
「ふむ」
 ビラを読み終えた生徒会長は俺たちを見回し、
「今日の朝、不適切な行為をしている輩がいると申告があったので見回りをしていたのだが、
あっさりと犯人が見つかったようだな、喜緑くん」
「はい生徒会長。情報によれば、この二人に間違いないかと」
 何がそんなにおもしろいのか知らないが、にこやかな笑顔で答える喜緑さん。まずいぞ。このまま職員室でも連行されれば、
お説教は確実だろう。下手をすれば停学もあり得る。どうする!?
 生徒会長はキザな手つきでめがねの位置を直すと、
「本来であれば、これはもはや生徒会の手に負えるような事態ではない。
早急に教職員に君たちの処遇を判断してもらうことになるが、申告してきた被害者が寛大で良かったな。
示談で終わらせても構わないといっている。そうだったな、古泉」
「その通りです、生徒会長」
 生徒会長の背後からすっと現れたのは、あの変態大王古泉だ。やはりこいつの差し金か!
 古泉はいつものニヤケスマイルで俺たちに近づき、
「どうやら彼らは僕に誤解を持っているようです。単純に停学などで対処しても彼らの怒りを増幅するだけ。
ならば、ここは僕に対する誤解を解く方が賢明だと判断できますね」
「私も異論はない」
 そう生徒会長の同意を取り付けた古泉は機敏な動きで谷口の元に駆け寄り、
「あなたとはあまり接触がありませんでしたね? いい機会です。僕への誤解を解くために桃色ワールドへご招待しましょう」
「ひっ……やめろ! 俺はそっちの気はないんだ! おいキョン助けてくれ!」
 悲痛な叫び声を上げる谷口を救うべく俺は古泉を引き離そうとするが、生徒会長に割り込まれて阻止されてしまった。
「どけっ!」
「忘れてほしくないな。君たちは本来相応の処分が適当なのだ。この程度で片づくのであれば、安いものだろう?」
「助けてくれ~! キョン、お願いだ! は、早く~!」
 生徒会長に遮られ、俺は谷口の悲鳴を聞くことしかできなかった。この野郎……!
「確かに俺たちの行為はまずかった。それは認めてやる。だが、あの古泉の事を完全に放置なのは納得できねえ!
俺たちを取り締まるなら、あいつの暴走行為もとがめるべきだろ! 不公平だ!」
 俺の必死の抗議に対して生徒会長は少し顔を下に向けて、
「……彼はいいんだ(ポッ」
 ぽっ……じゃねえ! なに頬を赤らめてやがる! こいつも古泉に掘られちまっているのかよ!
 
 結局、俺はそのまま学校から放り出されてしまい、谷口を置いて帰路につくしか無くなってしまった。
しかし、途中見かけた初老の用務員のおじいさんまで俺の姿を見て見ぬふりしているのは驚いた。
古泉はどれだけストライクゾーンが広いんだ?
 
 翌日。俺はもしものために通販で購入しておいたスタンガンを懐にしまい、学校へ向かった。
谷口……無事でいてくれよ。
 
 俺が教室に入ると意外にも平然とした顔の谷口がいた。ほっと一安心しつつ、
「何だ、谷口。無事だったのか」
「ん? ああ、キョンか。あの後は大変だったぜ。危うくトイレの中に引きずり込まれそうになったが、
すんでの所ですねを蹴り上げて逃げ出したんだ。あの後、どんな地獄が待ったいたのかと思うとぞっとするな」
 谷口は大げさに身震いした。この調子なら大丈夫そうだな。
 と、そこで急に俺に顔を近づけてきて、
「だがな、やられたままの俺じゃねえぞ。重大な情報を入手してきた」
「なんだと?」
「今日の昼休み、屋上で何か重要なことがあるらしい。あの口ぶりじゃ、あいつの目的にもからんでいるのかもしれねえ。
そこをキャッチするなり、叩くなりすれば効果は絶大だな」
 そう得意げに話す谷口。でかしたぞ、普段のへたれっぷりからは想像できない活躍だな。
意外と早くこいつ――懐のスタンガンの出番かもしれん。
 
 昼休み。俺たちは昼食も取らずに一目散に屋上に駆け上がった。そして、出入り口の近くに隠れる。
この位置なら古泉が屋上に上がってきても気がつくまい。
 ――10分経過。まだ古泉は現れない。
「しかし、重要な事って何なんだ? まさか、悪魔召還の儀式とかじゃないよな」
「そこまではしらねえよ。もう少ししたらわかるだろ」
 谷口の言う通りか。ま、もうちょっとの辛抱でわかるだろう。
 ――そしてさらに10分後。ついに古泉が現れた。俺たちには全く気がつかず、屋上の中心あたりまで移動する。
 が、
「そんなところに隠れていないで出てきたらどうです?」
 古泉は俺たちの方に振り返りもせずに言った。ちっ気がつかれていたか。
「やれやれ、ばれちまっていたなら仕方ないな。古泉、お前は今から何をする――うっ!?」
 俺がここで言葉を中断したのは、突然首筋に冷たいものが当てられたからだ。
すっと視線をおろして正体を確認すると、それは小型のナイフ。そして、それを俺に突きつけているのは背後にいた谷口だ。
「……すまねえ、キョン。おとなしくしていれば危害はくわえねえ。古泉の方に行くんだ」
 谷口の声は冷徹な一方、何かに興奮しているようだった。ちっ、昨日うまく逃げおおせたってのは嘘か。
すでにこいつも古泉の毒牙に……!
 俺はこのまま抗っても無駄だと思い、おとなしく谷口に従う。さて、どうする?
 古泉は俺の方に振り返り、あのさわやかスマイルを向ける。
「全くあなたもしつこいですね。これだけ抵抗したのはあなただけですよ。素直に僕との悦楽の道を選べばいいもの」
「……俺の心がそれを許さないんだ。お前の横暴に立ち向えってな叫び続けるんだよ」
「ですが、それも終わりです。この状況ではどうにもならないでしょう。さあ、おとなしく僕へアナルを捧げなさい」
 どうする……!? まさに絶体絶命だ。前には変態男が牙をむき出しにして近づいてきているし、
背後はがっちりと谷口に押さえ込まれている。だが……ここであきらめるわけにはいかねえ。
となると突破口はやはり――
「おい谷口」
「なんだキョン? もうすぐお前も官能の世界へ行けるんだ。おとなしくしていることだな」
「お前はこれで満足なのか?」
「なに?」
 谷口の手に力が入り、数ミリナイフが俺のクビにめり込む。まだ柔らかさのおかげで血は出ていないようだが。
「……当たり前だろ。今までの俺はまさに食わず嫌いだったんだな。あんな快楽が得られるとは思わなかったぜ。
それをあの人は教えてくれたんだ。満足に決まっているだろ?」
「ナンパ成功率ほぼゼロのままでか? あっさり振られただけの状態で終わることもか?」
 谷口の手の力がさらに強まる。だが、俺は構わずに続ける。
「今のお前は逃げているだけだ。現状で女にもてることができず、安易に受け入れてくれた男に逃げたんだ。
その方が楽だからな。失敗することもなく、ただ身をゆだねているだけで良い」
「うるせえ……!」
「もう一度言ってやる! お前はただ逃げているだけだ!」
 谷口はもはや怒り限界のようだ。しかし、こいつが起こると言うことはまだ本質がわずかながら残っている証拠だ。
俺はこいつの本能にかける!
「俺はもうこんな狂った世界にうんざりなんだ! だから、元の戻すって決めた!
なのにお前まで俺を置いて狂気に染まる気か! 俺を――1人にしないでくれ!」
「う……うおおおおおおお!」
 谷口は突然うなり声を上げたかと思うと、俺からナイフと遠ざけ古泉の方に飛びかかった。
 古泉はふっと嘲笑の笑みを浮かべると、右手を大きく横に振った――同時に谷口の身体があり得ないようなスピードで吹っ飛び、
屋上のフェンスに衝突する。
「谷口っ――!」
 俺は即座に谷口の元に駆け寄り抱きかかえる。口の中を切ったのか、ツーと血が流れ出ていた。
「……へへっ。ありがとな、キョン。俺はあやうく大切なものを失うところだったぜ……」
「ああ……今のお前は最高に格好いいぞ!」
 ぜいぜいと激しく呼吸を繰り返す谷口。ああ、今のお前なら世の中の女性もメロメロさ。
「キョン……俺の死を無駄に……するなよ……ぐふっ」
 そう言い残して谷口は息絶え――はせずに気絶した。まあ、ぐふって言ったし大丈夫だろ。
 俺は谷口を安定した姿勢で寝かせると、きっとできる限りのガンをとばしながら古泉の方へ振り返った。
 だが、古泉は全く意に介さず、
「全く……愚かとしか言いようがありませんね。一体何があなたをそこまでさせるのですか?
そこでくたばった男もそうです。理解できませんね。ま、たとえ理解できてもどうしようもない陳腐な理由なんでしょうが」
「……黙れ!」
 いくら我慢強い俺でも、さすがに堪忍袋の緒が切れた。俺は全力で古泉に殴りかかる。
だが、奴は軽い身動きで俺のパンチを交わし、逆に俺の溝撃ちにブローをかましにかかる。
しかし、俺もすんでの所でそれを交わすと目の前にあったのは無防備な古泉の顔。俺は余っていた左拳でこいつの顔を殴りつけ
 ――と思ったら、全身に何かが猛スピードで衝突したような衝撃を受けて、後方に吹っ飛ばされた。
勢いそのままに地面にたたきつけられて、そのままごろごろと転がる。な、何だ今のは!?
「うくっ……ごほっ!」
 俺は咳き込みながら何とか立ち上がると、いつものスマイルを浮かべたままの古泉が目に入る。
ちっ、こっちのパンチは浅かったか。
 しかし、奴も無傷ではなかったらしい。大層丁寧に俺が殴った右頬をなでると、
「……まさか、僕の顔に傷を付ける人間が存在していたとは驚きです。
どうやらあなたの覚悟は見せかけだけというわけではなさそうですね」
「最初からそう言っているだろ……!」
 俺はまたファイティングポーズを取る。圧倒的に不利な状態――だが、負けるわけにはいかねえ!
 古泉はしばし何か考えていたようだが、
「そうですね。今まであなたとの鬼ごっこも楽しかったんですが、そろそろこれ以上無駄な時間は使えなくなりました。
終わりにする頃合いでしょう」
 そう言って、突然全身に力を入れるようなポーズを取り始める。そして、
「ふんっ……うおおおおおおおぉぉぉぉぉ――Oh,YES!」
 突然古泉のブレザーがはじけ飛び、パンツ一丁の姿になった。それもビキニでもっこりが強調されているもので、
股間には蝶ネクタイのようなものがつけられていた。さらに金粉を塗ったようにその肉体は金色に輝いている、
この……真性のヘ・ン・タ・イ・め!
「フフッ、この姿をさらしたのはあなたが初めてです。その栄誉を胸に悦楽のアナル世界へご招待して差し上げましょう」
「……一体何者なんだ、お前は」
 俺は古泉と距離を取るように、こいつの周りを歩く。古泉はいつも以上に気色悪い笑顔を浮かべ、
「僕は僕ですよ。機関より派遣された超能力者。とはいっても着たばかりの当時とは違い、
今では超能力が使い放題になっていますがね」
「何だと!? お前は閉鎖空間でしか超能力を使えないはず!?」
「ええ、以前はその通りでした。しかし、ある日そんな制限を超えて使える方法見つけてしまったのですよ。
正直、今までの限定的すぎる能力にはうんざりさせられていましたからね。そのときは思わず万歳をしてしまったほどです」
 古泉の周りをグルグル回りながら、俺は奴の隙を見つけようとする。だが、全くみつからねえ……なんて奴だ。
「能力に制限がかからなくなった以上、僕がこれ以上我慢する必要はありません。これだけの力を持っている以上、
ふさわしい行動というものがあるでしょう?」
「……世界征服でもするつもりか?」
 俺の指摘に古泉は苦笑しながら、
「そのような貧弱な表現は好きではありませんね。僕が望むのは世界平和です。どんな民族・文化も
僕の元で全て一つになる。僕の超能力を持ってすれば造作もないことです。
現にこの学校の大半は僕の支配下に置くことができました。これを拡大していけばいいことです」
「あきれた誇大妄想だな。世界平和を望む前に、まず適切な病院に行った方が良いんじゃないか?」
「……しかし、あなたがどうしても屈しなかったのは計算違いでした。いえ、脅威ではなかったんですが、
ついあなたをどうやって屈服させようかと征服欲に駆られてしまいましてね。おかげでスケジュールが大幅に遅延中ですよ」
 なんて野郎だ。そこまでヘンタイだったとはぞっとするぜ。
 と、古泉はすっと手を挙げて、
「おっと、ちょっとおしゃべりがすぎましたね。ではそろそろ終わりにしましょうか」
 ちっ、結局隙は見つからなかったか、ならば正面突破で行くしかないな!
 俺は意を決して、再度古泉の飛びかかろうとするが、
「うっ――!」
 古泉から発せられる異様な気に怖じ気づく。なんだ――これは!
「さすがのあなたもこれには耐えられないでしょう。さあ、桃源郷へ旅立ちなさい!」
 そう言いながら両手を前に突き出したとたん、どこからともなくゴワ~ン!と鐘が鳴り響く音がした。そして――
「肛門拡張波(アナル・バースト)!」
「――うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 恐るべき波動。俺が見舞われたのは全身の細胞一つ一つに染み渡り、全身にサブイボが発生した。
なんて――なんて攻撃だ! これを食らえばただではすまない……!
 俺はよろよろと力を失い、地面に突っ伏した。ちくしょう――身体が……うごかねえ。
 そんな俺を見下すように古泉が、
「フフフフッ。どうですか、僕の必殺の一撃は。もはや立つ気力もないでしょう。早くその快楽に身を任せてしまった方が
楽になれますよ」
 好き勝手なことをいいやがって――!
「これでこの学校の制圧も完了ですね。次は――なっ!」
 古泉が驚愕の声を上げる。当然だ。奴が渾身を込めた一撃に、俺は耐えぬいたんだからな!
立ち上がれ俺の足! 折れるな! 俺の心よ!
 俺はぎりぎりの状態ながらも立ち上がって古泉をにらみつけた。そんな俺を見つめる古泉の顔と来たら、
完全に驚いて表情が崩れちまっている。ざまあみやがれ!
「バカな……アナル・バーストを受けてまだ立ち上がるとは! 一体、あなたは……どうして!」
「お……俺にも負けられない理由があるんでね……!」
 古泉は明らかに動揺している。やるなら今しかないが、俺もふらふらだ。くそっ、動け俺の足!
「ふっ……ふふふふっ、しかしあなたもそんな状態で立ち上がってどうするというのですか?
もはや勝敗は決したも同然。あきらめてはいかがです。これ以上は無駄な抵抗ですよ?」
「たとえ……たとえ俺の肉体が傷つこうとも俺のコスモ――じゃなかった俺の抵抗心はきえねえ!
俺はこの抗う心でお前を倒す! そして、取り戻すんだ! 俺の望んだ世界を!」
「……仕方ありませんね。暴力的な手段は好みではないのですが!」
 古泉が右手を掲げたかと思えば、今度はおなじみの火球が折れに向かって飛び出した。マリオみたいな奴だぜ!
 俺は間一髪でそれを交わし、後方にジャンプしながら移動する。その間も容赦なく古泉のファイアーボール攻撃が続くが、
さっきまでのヘロヘロ具合が嘘のように俺の足は軽く、次々とそれをかわしていった。
「バカな! 僕以上の機動力なんて!」
「今までの恨み、ここで晴らしてやる!」
 俺は一定距離を古泉と取ったところで、逆に奴に向かって前進を開始した。
驚きの表情を浮かべる古泉が次々と火球を放つが、俺はことごとくそれをかわす。
「お前さえ倒せば!」
 自分でも信じられない身の軽さだ。見える、古泉の動きが手に取るように見えるんだ!
 ついに俺は古泉を眼前に捕らえる。俺は足ら払いをかけるべく、右足を軸に左足を古泉の足めがけて回転させるが、
これを読んでいたのか、古泉は数メートル上空まで飛び上がるような大ジャンプでかわした。なんて野郎だ!
 今度は古泉が肉弾戦を挑んでくる。落下速度そのままで俺の頭上へ手刀を振り下ろしてくるが、
間一髪でそれをかわす。俺は古泉の落下した瞬間を狙って奴の脇腹に蹴りを加えようとするが、
地面につくほどまでに身を崩して落下の衝撃を緩和したと思えば、その反動で俺から数メートル離れたところへまた大ジャンプだ。
こいつ、本当に人間離れしてやがる。だが、俺も負けられねえ!
 俺は古泉に余裕を与えまいとまた離れた古泉と間合いを詰める。が、それを待っていたかのように古泉は再び火球を
俺めがけて発射した。直撃覚悟で俺は両腕を前に突き出し防御のポーズを取りながらつっこむ。
 ――かなりの痛みを覚悟したんだが、俺の両腕は意外にちょっとした衝撃程度で古泉の火球をはじき飛ばしていた。
つい出た言葉はこれだ。
「そんな攻撃なんか!」
 何だかわからんが、ここまできたら押して押しまくるしかない!
 一気にまた古泉との距離を50センチ以内に縮め、俺は右フックで古泉の身に頬を狙うが、
華麗な回転するような動きでそれをかわし、その回転そのままに俺めがけてローキックを仕掛けてくるが、
俺も小さくジャンプして、それをよける。さらに俺は着地の反動を利用して
今度は右足を軸にして左足をまわして足払いをかけるが、古泉は地面から数十センチの場所で一回転するようなジャンプで
それをかわした。このっ! すばしっこい奴だな!
 このとき、古泉がにやりと笑みを浮かべたのを俺ははっきりと確認した。そして、同時に古泉が開いた右手を
俺の頭をつかむように差し出してきた。さっきの必殺攻撃か! ならあれを使うのは今しかない!
 切り札は俺の懐――スタンガンだ! 懐からそれを取り出すとあらかじめ出力全開にしておいたそれを
突き出された古泉の右手に向かってぶつけた。バチバチッ!と不快な電撃音が走り、古泉の右腕を押し戻す。
だが、それでも奴の笑みは消えない!
「甘いですね! タネは逆の方に隠しておくものです!」
 今度は左腕が俺の方に突き出される! やばい! 俺の右腕のスタンガンは間に合わない!
ええい! どうとでもなれ!
 俺はとっさに左手を古泉の左手を受け止めるように突き出した。古泉は勝利を確信した笑みを拡大させ、
「終わりです! この距離からでは耐えられないでしょう! 肛門拡張波(アナル・バースト)!」
「……とまれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
 俺の願いが通じたのか。古泉の左手から発せられた異常な波動は俺の左手が完全に受け止めていた。
それ以上、俺に向かって降りかかることはない。
「そんな! 受け止めるなんて!」
「見たか! これが俺の――抵抗心だ!」
 俺は左手の不快な波動をあさっての方向に投げ飛ばすと、渾身の力を込めて右手のスタンガンを古泉の腹にぶつけた。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 古泉は強烈な電撃ショックを受けて悲鳴を上げる。だが、それも一瞬だ。
すぐにまた得意の大ジャンプで俺から数メートル離れたところまで飛んだ。ちっ! 致命傷までは行かなかったか!
「うっ……ううう!」
 しかし、古泉もかなりのダメージを負ったらしい。苦悶の声を上げながら俺の方をにらみつける。
完全に余裕が無くなっているな! もう一押しだ!
「なんなんですか、あなたは! この力……あまりに異常ですね!」
「ああ、自分でも驚いているんだよ。ここまでやれるとは思っていなかったからな」
 すっかり立場逆転だな。気分が良いぜ。このまま一気にけりをつけてやる!
「い、一体あなたは一体……!?」
「俺は俺だ! 他の何者でもない! ただひたすらこの世界が正常になることを願う一人の――普通人だ!」
 そうさ。俺は負けられない。
 古泉のあの回りくどくてわかりにくい胡散臭さを取り戻すために。
 朝比奈さんのポンコツぶりを取り戻すために。
 長門の無表情無感情ぶりを取り戻すために。
 そして! 何よりもハルヒの100Wの笑顔を取り戻すために!
「俺は――お前を倒す!」
 俺の決意表明に。古泉はふっと悟ったような表情を浮かべ、
「良いでしょう……! どうやら僕もあなたを甘く見すぎていたようだ。ならば死力を尽くして戦います! 行くぞっ!」
「応っ!」
 俺たちはまた激突する――
 ………
 ……
 …
 
 カアカアカアッ……とカラスの鳴く声が響く。
 俺たちが完全に力尽きて、地面に座り込んだのは校舎が夕焼けで真っ赤に染まった頃だった。
 昼休みどころか、午後の授業を完全に無視して俺たちは殴り合いを続けたが、
結局決定的な一撃は生まれず勝敗は決しなかった。
「全く……あなたは……本当にしつこい……ですよ」
「お前の頑固ぶりも……だ」
 俺たちは地面に大の字に転がり、空を眺めていた。決着はつかなかったが、何だろうか、このすがすがしい気分は。
 と、古泉が立ち上がり俺の方に手をさしのべてきた。
「今日のところは引き分けですね。今はこの良い気分の余韻に浸りたい気分ですし」
「ああ……そうだな。おまえと拳を交えて何だかすっきりしたよ」
「それはうれしいですね……」
 俺は古泉に肩を抱きかかえられて立ち上がる。そして、思わず二人でほほえみあった。これが友情って奴か。
初めてこいつとこんな顔で話した気がする。
 そして、俺たちはさらなる友情を深めるためにハッテン場のトイレに向かって歩み出し……
「ってそれじゃなにもかわってねえだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「はーははははは、まちなさ~い!」
 俺は一目散に逃げ出した。ちくしょう! 今日の殴り合いは無駄骨かよ!
だがあきらめねえぞ。これを続けていけばきっと世界は変わるはずだ! 俺の戦いはまだ始まったばかりなんだ!
 
(谷口)「あの~ところで俺は?」
 
 ◇◇◇◇◇
 
 翌日の朝。俺は抵抗活動への自信を深めていた。
 古泉とまともに戦えることがわかった。今の俺は無力じゃない。挫折してあきらめたりしなければきっと――
「オラオラオラオラ~! とっとと金を出せっていってるだろ~!」
「ひいいいいいいいっ!」
 朝っぱらから目撃したのはやくざキックで鶴屋さんを蹴りまくる朝比奈さんだった。
 古泉はどうにかできるかもしれない。だが、あれは? 一体どう対処すれば良いんだ?
 
 俺の抵抗活動は苦難に満ちている――
 
 
~続くわけがない~

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