「有野中出身、古泉一樹。」
ここまでは普通だった。真後ろの席を体をよじって見るのもおっくうなので俺は前を向いたまま、そのニヒルなこえを聞いた。
「ただの人間には興味ありません。このなかにいい男、いい尻、ガチホモがいたら僕のところに来なさい!以上!!」
さすがに振り向いたね。長く真っ直ぐな茶色い髪にワックスつけてクラス全員の視線をにこやかに受け止める顔は、この上なく整った目鼻立ち、
意志を押し隠す細くて黒い目を以上に長いまつげが縁取り、薄桃色の唇を軽く引き上げた男。
えらいいい男がそこにいた。

「なあ」と俺はさりげない笑みを満面に浮かべて言った。
「しょっぱなの自己紹介のアレ、どのへんまで本気だったんだ?」
「自己紹介のアレって何」
「いやだからガチホモがどうとか?」
大真面目な顔で訊きやがる。
「…違うけどさ」
「違うけど、何?」
「……いや何もない」
「でももっと話しかけて。いい男だから。」

まだ四月だ。古泉一樹が暴走を開始するにはまだ一ヶ月弱ほどある。
しかしながら、古泉の奇矯な振る舞いはこの頃からジョジョに片鱗を見せていたというべきだろう。
というわけで片鱗その一
髪型が毎日変わる。
月曜日の一樹はストレートのヘアを整えて登場する。次の日、どこからどう見ても非の打ち所のない髷でやってきて、またそれがいやになる位似合っていたのだが
その次の日、今度は頭の両脇をのこしたまちゃまちゃで登校し、さらに次の日になると海平になり、そして金曜日の髪型は頭の四箇所を適当に剃って野球帽をかぶるというすこぶる奇妙なものになる。
月曜=○火曜=一水曜=二……
ようするに曜日が進むごとに髪に手を加える箇所が増えているのである。

しかしこいつの髪はどうなっているのだろうね?

片鱗その二
体育の授業は五組と六組の合同で行われる。着替えは女が奇数クラス、男が偶数クラスに移動してすることになっている。
そんな中、古泉一樹はまだ移動してもないのに、やおらブレザーを脱ぎだしたのだった。
あっけにとられていた朝倉涼子を含めた女たちは、この時点で俺たちによって教室からたたき出された。
そのご朝倉涼子たちは一樹に説教をしたのだがまあ何の効果もなかったね。一樹は相変わらず女たちの目を気にせずに着替えをやり始めるし、おかげで
女連中は体育前の休み時間になるとチャイムと同時にダッシュで教室から撤退し、廊下で着替えることを―主に谷口に―義務付けられてしまった。
それにしてもやけにマッチョだったな…いや、それはさておき

片鱗その三
呆れることに一樹はこの学校に存在するあらゆるクラブに仮入部していたのだった。
昨日アメフト部でタッチダウンを決めたかと思えば、今日はコンピ研でホモサイトをちらちら観て、明日は剣道部で竹刀を振り回しているといった次第。
運動部からは例外なく熱心に入部を薦められ、そのすべてを断って結局どこにも入部することはなかった。

「よっキョン」
後ろから肩をたたかれた。谷口だった。ブレザーをだらしなく肩に掛け、ネクタイをよれよれに結んだニヤケ面で、
「ゴールデンウィークはどっかいッたか?」
「小学生の妹を連れて田舎のバーさんちに」
「しけてやんなあ」
「お前はどうなんだよ」
「俺はずっと2ch」
「似たようなものじゃないか」
「キョン、高校生にもなって妹のお守りでジジババの小遣い期待して行ってどうすんだ?高校生ならバイトしろ」
「GWには従兄弟連中で集まるのが家の年中行事なんだよ」
俺は投げやりに答えて坂道を登り続ける。谷口はどうでもいいことをしゃべっているが
この世でどうでもいい情報の一つだろう。
「谷口」
ふと気づいたことを言ってみる
「チャック開いてるぞ」

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