鶴屋さんといえば、ハルヒに匹敵する(恐らく北高唯一の)ハイテンションの持ち主、
なのだが、このときばかりは様子がおかしかった。
思えば、悲しい顔をした鶴屋さんを見るのは、これが最初で最後だったかもしれない。
こんな彼女をほおって置けるとしたら、そいつはVIPPER以下というものだろう。
そんなわけで、断じてVIPPERよりはマシである俺は、とにかく何か声をかけなくてはならないと思った。
しかし、どう声をかけたものだろう・・・結局出てきたのは常套句だった。
「どうしたんですか、鶴屋さん?」


もしかしたら、おれはVIPPER以下のほうがよかったのかもしれない。
あの時が、この取り返しの付かない過ちの始まりだったんだろう・・・


「どうしたんですか、鶴屋さん?」
悲しそうなばかりか、心ここにあらずといった様子の鶴屋さんは
俺の声など聞こえていないようだった。
「鶴屋さん?」
もう一度呼びかけると、ようやくこちらを向いた鶴屋さんの目は、
まるでもくもくとした煙でにごっているような色をしている。
これもまた、ハルヒと甲乙つけがたい、いつものきらきらとした輝きを失っていた。
思わず言葉に詰まる。
「・・・ど、どうしたんです?なにがあったんですか?」
鶴屋さんは口を開くのもままならない様子だったが、か細い声で何かつぶやいた。
「・・・・ス・・ー・・チ・・・・・ってる・・い?」
え?なんです?聞き取れないくらいに力の抜けた声だ。
冗談抜きで、今にも死んでしまいそうな様子だ。
と考えていた瞬間、緑色の長い髪が舞ったかと思うと、彼女は意識を失ってその場に倒れこんだ。
「鶴屋さん!!」

俺はもう何も考えずに、失神した鶴屋さんを保健室に運んだ。
どうやって運んだかも覚えていないくらい俺は気が動転していた。
とにかく、保健室まで連れて行って、ベットに寝かせた。
こんなときに限って保険医がいない。なにをやってやがる!
そういえば保険医って一度も見かけたことが無いぞ。保健室に近寄ったことも無いから当然か。
いや、そんなことはどうでもいい。それよりどうする?救急車を呼ぶべきか?

俺が完全に空回りした思考をめぐらしていると、後ろで爆弾が爆発したかと思うくらい豪勢に
バーンという音と振動を伴って扉が開いた。
こんな風に登場するのはあいつしかいない、そう、ハルヒだ。
「ハルヒ!!鶴屋さんが・・・」
いいながら振り返ると、そこに立っていたのはハルヒではなく、

ナース姿をした朝比奈さんだった。

そこに立っていたのはハルヒではなく、ナース姿をした朝比奈さんだった。
朝比奈さんはひどくあわてた様子で、
「キョ、キョンくん!たた、大変です、涼宮さんが・・・」
俺がハルヒと間違ったことなど気にする余裕も無いようだ。
「涼宮さんが、たたた、たおれてしましましたああ!!」
何だって?ハルヒが?何を言ってるんです朝比奈さん
「部室で、、きゅきゅ急に・・・」

待て、俺の頭待て。OK、つまり鶴屋さんが今倒れて、ハルヒも倒れたということだな。
二人の人間が倒れた、簡単なことさ。
大丈夫、落ち着け俺。ナースもいるし大丈夫さ。
俺の頭は完全に混乱していた。オーバーヒート寸前だ。何がなんだか判らない、どうなってる?
あわてふためく朝比奈さんがグラグラとゆがんだかと思うと、俺は気を失った。


気が付くと、俺は保健室のベッドに寝ていた。
白い天井、シーツ、カーテン、薬品の匂い。なれない空気に触れて一気に覚醒した気分だ。
バシャバシャという音に目をやると、流しでナース服朝比奈さんが一生懸命何かしている。
辺りを見回すと、俺の左側には鶴屋さん、右側にはハルヒが寝ていた。
窓際には、長門がパイプ椅子に座り、本を閉じてこっちをしずかに見ている。
「長門・・・」俺がつぶやくと、朝比奈さんが気づいて
「あっ!キョンくん!よかったぁ~」
優しさ満点の笑顔を向けてくださった。嗚呼ナースエンジェル!
待て、幸せな気分に浸っている場合ではなかった気がする。

「ハルヒと鶴屋さんは、そういえば保険医は?」
俺がまくし立てると、早速お茶を入れてくれている朝比奈さんは、
「お医者さんは、今、小泉さんが探しに行ってます」
少しほっとする。
「そうですか。鶴屋さんの様子がおかしくて、急に倒れて・・・」
朝比奈さんは、鶴屋さんなら多分心配要りません、といって微笑んだ。
「さっき、いつものお薬を飲ませましたから」
いつものお薬?持病でも持っていたのか。あの元気な鶴屋さんが?
意外だな。と考えつつ彼女の枕元に目をやると、茶色いかけらが小皿に乗せられていた。
よく見るとそれは・・・
「・・・チーズ?」

チーズは気になるけど、それよりハルヒは?
朝比奈さんは、急に倒れたとか言ってたけど、一体何があったんだ?
「本当に急に倒れて。でも、ちょっと元気が無かったかもしれません。
私、今日は遅刻して、部室に入ったんです。すでに涼宮さんがいて
遅刻の罰として今日はこれよ。って」
そういって朝比奈さんは自分のナース服姿を指した。なるほど、ナース服の謎は解けた。

「それから私が着替えて、お茶を入れていたら、急に、わたし意外誰もいなくて
あわてて・・・」
なるほど、
「でもどうして俺がここにいるってわかったんです?」 
「誰か呼ばなくちゃとおもって、あわてて部室をとびだして、途中で古泉さんに会って
説明したら、キョンくんは保健室にいると思うから急いで、
自分は鈴宮さんのところに行くからって」
なぜ古泉が知っているんだ?ますます判らない。
俺が悶々と考えていると、朝比奈さんは部室に何かをとりに行くといって保健室を出て行った。

いつの間にか長門が俺のそばに来ていた。いつもの無表情だが
少し緊迫した感じがするのは気のせいか。俺をまっすぐに見つめながら言った。

「あなたたちが一度に倒れたのは、偶然ではない」
「気をつけて」
長門はそれだけ言うと、また窓際の椅子に戻って、本を開いた。
気をつけてといわれても、またあんな殺されそうな目にあうというのか?勘弁してくれ。

「ん、、っんにょろ~、」
鶴屋さんが身もだえして目を開いた。俺が声をかけようと
口を開くか開かないかのタイミングで、入り口から気取ったセリフが聞こえてきた。
「おや、お目覚めのようですね。しかし参りましたよ、保険医がどこにも見当たりません」
「鶴屋さんは薬を飲んだらしいから、大丈夫だそうだ」
もしかしたら、この学校に保険医など初めからいないんじゃないか。

古泉は鶴屋さんの枕元に目をやると、なるほどという顔をして頼んでもいないのに解説を始めた。
「スモークチーズですか。なるほど、彼女はトリプトファン欠乏か、もしくは・・・」
薬というのはチーズのことなのか?気になるが、聞いたところで
どうせ理解不能な単語の羅列を永遠と続けるだけだろう
「それより、ハルヒはどうして倒れたんだ?大丈夫なのか?」
「恐らく心配ありません。しばらくすれば彼女も目覚めるでしょう」
やけに自身ありげだが、どういうわけだ?
「ですが、その前にやっておかなければならないことがあります」
そういうと古泉はいつにもない不敵なハッピースマイルを俺に向けた。


「知っていますか?中東には、今、僕たちが行った行為が
法律で禁止されている国もあるんですよ」
保健室のベッドでぐったりと横たわる俺に古泉の野郎がキザキザと言った。
俺は、もう後戻りできない過ちを犯してしまった。確かに法律で禁止されているわけではない。
でもこれは人間として男として・・・どうしてこんなことになったのだろう。

「まだ物足りないようですね。さあタオルをかんで、そうすれば痛くないですよ」

俺はVIPPER以下どころじゃない。人間として最低だ。
だが、そんなことは、もう、どうでもよくなっていた。
俺は幸せだった。

-Fin-

「あっはははは!キョンくんってばおもっしろいにょろ~!
アナルだけは!アナルだけは!ってあっははははは!!!」

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