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 あたしは今、朝比奈さんと二人で居る。
 どうしてって、それは不思議探索の籤引きの結果だからなのよね。
 あたしと朝比奈さんが二人ってことは、残り三人は……、ってことになるんだけど、まあ、たまにはこういうのも必要でしょう?
 前へ進むにしても、諦めるにしても、長門さんにはもう少し刺激が必要だと思うもの。
「へえ、先輩ってこういうお店が好きなんですね」
 恋のバトルになるかならないかという長門さん達のことを頭の隅に置きつつ、朝比奈さんに連れられるまま入ったお店は、小洒落た雑貨屋さんだった。
 こういうところって、元々決められたデータを元に再構成されているあたしにはあんまり縁が無いところなのよね。
「うん、そうなんです。……朝倉さんはこういうところにはあんまり来ないんですか?」
「あ、はい」
「何だかちょっと意外ですね」
「そうですか?」
「うん、朝倉さんって、女の子らしい女の子だなあ、って思っていたから」
 朝比奈さんはほんわかした口調を崩さないまま、ちょっと小首を傾げた。
 仕草が一々可愛らしいけど、それが同性から見ても嫌味に見えないのは、彼女がまだ、庇護欲を誘う子供っぽい存在だからかも知れないわね。これがもう何年かしたら、事情が違ってくるのかしら? 
 あたしは一応、数年後の彼女の姿を知っているんだけど。でも、全体的な形はともかく、この世界での彼女があっちの世界での彼女と同じになるって保証はどこにも無いのよね。
 だってここにいる朝比奈さんは、ただの普通の女の子なんだもの。
「そんな事無いですよ。あたし、勉強とかばっかりですから」
「そうなんだ……。でも、偉いんですね。朝倉さん、成績もいいんでしょう?」
「大したものじゃないですよ。SOS団で数えたら多分一番下ですしね」
 長門さんは成績は優秀な方だし、涼宮さんと古泉くんは進学校の生徒の中でも成績上位者の部類だもんね。『優等生』として振舞っているあたしは、確かに成績は良い方なんだけど、でも、それはやっぱり『普通』の範囲のものなの。
「でも、それはほかのみんなの成績が良いからじゃあ……」
「あ、先輩、これ可愛いですね」
 これ以上突っ込まれるとちょっと面倒かなあと思ったあたしは、少し強引に話を変えさせてもらった。あたしが指差したのは、小さなオルゴール。
「あ、本当……。良いなあ、こういうの。あ、子守唄が入っているんですね」
 朝比奈さんがオルゴールを持ち上げ、裏に張ってあるラベルを見て確認する。
 子守唄、か。そういう知識は、多分、あっちの世界の朝比奈さんには無かったものよね。
 これも、長門さんが再構成した『朝比奈みくる』の一部……、そういうことなのかしら。
「懐かしいなあ。子供の頃、よくお母さんに歌ってもらったんです」
 朝比奈さんは穏やかな微笑を浮かべたまま、オルゴールを鳴らした。
 音楽が鳴り始め、それに合わせて朝比奈さんが歌詞を口ずさむ。
 それは、あたしの中に有る知識を探れば存在するもの。けれど、あたしの記憶とは縁の無いもの。

「……朝倉さん? 何だか難しい顔だけど、どうかしたんですか?」
 オルゴールの音が途切れ、歌を口ずさむのをやめた朝比奈さんが、少し不思議そうな顔であたしのことを見上げてきた。
「あ、いえ、何でも無いです……」
「あの、もしかしてこういうお店は苦手だったんじゃ、」
「いえ、そんなことありませんっ」
「それなら良いんだけど……。あの、無理してわたしに合わせなくて良いですからね。もし行きたいところが有ったら、ちゃんと言ってくださいね」
 朝比奈さんは外見がそうであるようにその仕草や態度も結構幼い方なのに、こうして時折、年相応かそれ以上にも見えるような大人っぽいな部分を見せてくる。
 何だか、不思議な人よね。
 やり難いなあって思うわけじゃないんだけど、掴めるようで掴めないとでも言うのかなあ。
「はい……。でも、あたし、特に不満があるわけじゃないんですよ」
「本当?」
「本当ですよ、先輩。あ、雑貨屋さんも良いですけど、他の所も案内してもらえませんか? あたし、前から先輩って服のセンス良いなあって思っていたんで、参考にしたいんです」
「あ、うん、じゃあ、案内してあげるね」
 朝比奈さんはこくりと小さく頷くと、オルゴールを棚に戻して、お店を出て通りを歩き始めた。あたしは、そんな、高校二年生にしてはどこか頼りなさげな彼女の後ろを、追い越さないように着いて行く。
 朝比奈さんが普段着ているような服があたしに似合うとは思えないんだけど、でも、身近な人がどんなところで服を買っているかっていうのを知るのも、悪い事じゃないわよね。
 綺麗な服を着て、それで何かをするというわけでも無いんだけど。

「んっと、朝倉さんにはこういうのが良いと思うんですけど……」
 服屋に入ったら、朝比奈さんは早速あたしに服を選んでくれた。
 へえ、結構似合うかも……。ひらひらした可愛い系の服なんて着たこと無かったけど、意外と悪くないかもね。
「あ、良かったらプレゼントしますよ。ここ、そんなに高くないですし」
「え、でも、」
「あ、それとも、迷惑ですか?」
「いいえ、そんなことないです。すっごく嬉しいです」
 ……うん、嬉しい、と思う。
 おかしいな、あたしは、そんなことを感じたりしないはずなのに、
「良かった、じゃあ、会計を済ませてきますね」
「ありがとうございます、先輩」
 不思議、ありがとう、なんて言葉が自然と出てきちゃった。
 どうしてかしら……、変なの。

 そろそろ集合時間だからということで、あたし達は駅前に向って歩き出した。
 朝比奈さんは何だかとっても嬉しそうだし、あたしも、何となく、その、嬉しい、って気持ちの理由が分かるような気がしていた。ううん、違うな。多分、あたしも『嬉しい』んだ。
 朝比奈さんが、あたしに優しくしてくれたから、かな……。
 ……おかしいなあ、あたしは、ただの装置の筈なのに。
 この世界を守るための、ただの道具の筈なのに。
 それなのに……、どうしてだろう。
 作り物で有ることを自覚しているあたしと、自分が作り物だらけで再構成されたことを知らない朝比奈さん。
 あたしは確かに、元々、彼女に対して何らかの感情を持って居たのかも知れないけど……、でも、どうしてそれが『嬉しい』になるんだろう。

 ……ねえ、どうしてかな?


 終わり

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