「これ」
コンビニに辿り着き、冷蔵庫の前でさてデザートを選ぶかと思ったところで、俺が何か言
うよりも先に長門がパフェを手に取った。
コンビニでパフェか……、なんかまたえらく微妙な物だな。しかもコンビニで売っている
デザートにしちゃ高いし。
「へー、こんな物も売っているのね、じゃああたしもこれ」
「あ、わたしも」
「僕もそれでお願いします」
お前等、人の奢りだからって遠慮がなさ過ぎるぞ。
というか古泉まで食うのかよ……、いや、どうせ古泉と朝比奈さんは食べきれなくて、そ
の分をハルヒと長門が奪っていくって結果になるんだろうけどさ。
俺は仕方なくパフェを四つかごに放り込み、レジに向った。
金が惜しいので自分の分はプリンだ。

今日は長門の家で全員でお泊り。
晩御飯は鍋の予定だが、デザートだけはコンビニでってことになった。
最初は集合時間に遅れてきた俺が一人で行く予定だったんだが、俺に任せると安い物を買
ってきそうだとか自分で選びたいだとかいう団長の主張によって、結局全員で行くことにな
った。
コンビニの帰り、途中で雨が降ってきたので俺達は大急ぎで長門のマンションまで走った。
雨か、ついてないな。

「ああん、結構濡れちゃったわ。シャワー浴びましょシャワー」
「……お風呂はもう沸かしてある」
「へ、本当? じゃあ入っちゃいましょ」
というわけで、俺達は全員で順番に風呂に入ることになった。
女子達が先で俺達が後。
俺が入る直前くらいから鍋の準備を始めていたんで、最後に俺が風呂から上がる頃にはち
ょうど食べごろって感じになっていた。
ハルヒ、長門による激烈な具材争奪戦に俺が加わる中、古泉が隙をつく形で自分と朝比奈
さんの分を確保するという、まあ、日常的といえば日常的な光景が繰り広げられる。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
台詞だけ抜き出すとどっちがどっちの台詞かわからんね。
いやまあそんなことはこの際どうでもいいのだが。
というか古泉、そんなことをするなら俺の分も確保してくれ。俺一人じゃハルヒと長門に
対抗しきれないぞ!
「この肉もらいっ」
「……わたしの」
って、そんなことを主張する間も惜しいかも知れないな。うかうかしているとこの二人に
全部食べられかねない。
「待てっ、これは俺のだ!」
俺はのんびりと食べる古泉と朝比奈さんを視界の外に追いやり、具材争奪戦に戻った。

鍋の跡はデザートだ。
デザートは全員分一括投入の鍋と違って一人一つだ。
しかし、
「古泉くん、もう良いの?」
「ええ、僕はこれでお腹一杯です」
「じゃあ残りはちょうだい!」
こういうやり取りが着いて来るのは最早当たり前の光景だな。
古泉や朝比奈さんが少食な割に少な目の物を頼まない、買わないのは、ハルヒや長門みた
いな奴がいるから何だろうか。
「そういやさ」
「何?」
「それって間接キスになるんじゃないか?」
なんとなく思いついたことを口にしてみる。
深い意味は無い、単なる思いつきだ。
「……」
ハルヒがスプーンを口に突っ込んだまま完全に止まってしまった。
何だ何だ、この反応は。
古泉は、と思ったら古泉の方は視線を逸らしている。
何だ何だ、お前の反応も意味不明だぞ。
誰か俺に分かるようにこの状況を解説してくれ!
「……ちょうだい」
そんな時、俺に疑問も場の空気も一茶無視するかのように、長門が俺に向ってそう言った。
長門が見ているのは俺の食べかけのプリンのことだった。
凄いな長門! こんな微妙すぎる空気と会話の途中でこんなことが言えるなんてさ!
いや、凄いとかそういう問題じゃ、
「ちょうだい」
「……分かった、食え」
……上目遣いで訴えかけるような長門には勝て無いよなあ。

間接キス云々で固まるハルヒとは対照的に、長門は俺が食べかけだったプリンを気にせず
食っている。
まあ、ハルヒはともかく長門に、男相手だから云々なんて感覚は無いと思うが……、そう
いうことだよな?
「食べないの?」
プリンを平らげ、古泉とハルヒを交互に見つつ目を白黒させていた朝比奈さんから貰った
パフェの残り(と言ってもまだ半分以上有ったが)も平らげた長門が、やっぱりどこまで空
気を読んでいるのかさっぱりな様子でハルヒに話し掛けた。
「……」
「食べないの?」
長門の手がパフェまで伸びそうになったところで、弾かれたように復活したハルヒがブロ
ックした。
おお、鍋の時と同じ攻防だな!
「食べるわ! 食べるわよ!!」
ハルヒは高らかにそう言い返すと、あっという間にパフェを完全に食べきった。
ちなみに古泉はまだ復活していない。
何だお前等そんな中学生みたいな……、と思ったが俺は指摘するのを辞めておいた。
よくよく考えてみれば、別にハルヒや古泉の精神年齢が中学生でも、不思議なことは何一
つ無いんだからな。
三年前、いや、もう五年近く前か。
……まあ、この辺りに着いての詳しい解説はいらないよな。

デザートを食べ終わったら、朝比奈さんが食後のお茶をいれてくれた。
最近じゃ皆でここに来る回数も増えたから、朝比奈印のお茶も常備済みだ。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
鍋の時とは主体と客体が逆のやりとりを見る限り、古泉も一応復活してはいるらしい。
ハルヒとも俺ともちっとも目線を合わせないけどさ。
「……あら、雪ね」
何時ものようにお茶を一口で啜ったハルヒが、外を見て呟いた。
どうやら、雨は何時の間にか雪に変わっていたらしい。
まあ、12月だしな。そういうこともあるだろう。
「……」
長門が無言で雪を見ている。
そういや、こいつの名前はここから来ているんだったか。
「雪見大福が食べたくなるわね」
情緒もへったくれも無いことをハルヒが口にする。
お前、どういう精神構造しているんだよ。
「雪見大福なら、買い置きが、」
有るのかよ!
「何時もならある、でも今日は切らしている」
……そうか。
「何だ、無いのね」
「じゃあ、僕が買ってきますよ」
「あ、だったらあたしも行くわ。まだ食べたり無いし」
と言って、さっきの間接キスコンビは足早に部屋を出て行ってしまった。
「あ、お代は後で払ってよね!」
去り際の一言が余計すぎだぞ、ハルヒ。
ここは素直に古泉に奢られておけ。雪見大福なら間接キスはしなくても良さそうだしな。

自ら皿洗いを買って出た朝比奈さんに悪いとは思いつつも、俺は長門と二人のんびりと雪
を眺め続けていた。
「明日は日曜だな」
「……」
「明日の予定は無いみたいだし、どっか行くか?」
普段なら何かしらSOS団の予定が入る所なんだろうが、明日は何も無いらしい。
受験前の朝比奈さんの最後の模試の日だからな。……まあ、それだけが理由じゃないよう
な気もするんだが、それに着いては何も言わないでおこう。
ハルヒの個人的な予定に着いてごちゃごちゃツッコミを入れる必要は無いさ。
保護者役も、そう遠くないうちに卒業できそうだしな。
「どこへ? ……図書館は休みのはず」
「あー、そうだったな……。まあ、本屋とか……、他にも色々有るだろ」
こういう時に気の利いた事が言えない自分がちょっと恨めしいな。
もうちょっと何とかならんものだろうか。
「なあ、長門、行きたい場所は無いのか?」
「……電気街」
「分かった、じゃあ電気街に行こう」
高校生男女が向う場所としてはどうなんだと思うが、まあ良いか。
デートで人体の不思議展に行ってきたことを楽しげに話すハルヒよりはまだマシだ、多分。

「たっだいまー、買って来たわよ、雪見大福!」

ハルヒが戻ってきたから、俺と長門の会話とも呼べない会話は終了だ。
それから、壮絶な雪見大福争奪戦と共に、夜は更けていった。

――終わり

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