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我輩は猫である。
名前はシャミセンという。
とある家に住む、人間のいう所の『飼い猫』にあたる。
性別は……、ふむ、人間の分類学上で言うと両性具有に近い物となるらしい。
まあ我輩の説明は良いとしよう。
我輩は今、朝比奈みくるという人物の持った猫運搬用のバスケットなる物の中にいる。
「わーいわーい、みくるちゃんとおっでかけえっ」
バスケットを持った朝比奈みくるの隣、頭一つ分ほど背の低い少女が楽しそうにはしゃい
でいる。この少女は我輩の本来の同居人の一人である。
「妹ちゃん、気をつけてね」
少女の兄と朝比奈みくるが同じ学内団体に所属しているという関係にあるため、朝比奈み
くるは少女のことを妹ちゃん、という呼び方で呼んでいる。
別に名前を知らないわけではないと思うが、妹ちゃんという呼び方は如何な物か。
それは個人を個として見るのではなく誰かの付属物的存在と見ていることを表すようなも
のであって、結果として呼んでいる相手を軽視しているということにならないだろうか?
「はあい」
しかし、この少女はそんなことを気にする素振りを見せない。
朝比奈みくるに妹ちゃんと呼ばれることで「お姉ちゃんが出来たみたい!」と回答するよ
うな娘である。
ちなみにこの少女は同様のことを涼宮ハルヒと古泉一樹にも言い、何時だったか古泉一樹
に対面したときに「古泉くんみたいなお兄ちゃんが居たら良いなあ」などと言い出した挙句
実兄を大いに落胆させたというエピソードがあるのだが、それはまた別の話である。

さて、現在ここにいるのは朝比奈みくると、少女と、我輩だけである。
周囲を見渡せば無関係の人物も目に入るのだが、そういう人物はこの二人にとって物の数
には入らず、また我輩も付属物的扱いであるので、
「みくるちゃんと二人っきり~♪」
という少女の発言もあながち間違っては居ないということになる。
ちなみに何故今日の面子がこういう風になっているかと言えば、それは少女の兄を始めと
した朝比奈みくると同じ団体に所属する他の者達が学内の用事で遠方に泊りがけで出かけて
いるという状況にあるからだ。
朝比奈みくるがそれに参加していないのは学年が違うからという単純な理由であって、そ
れ以上でも以下でも無い。
「ここのお店ですね」
朝比奈みくるが、予約をしていた店に少女と共に入る。
わざわざ予約をしたのは我輩を連れて入るためだというから、頭の下がる話である。
「わーい、綺麗なお店~」
「妹ちゃん、あんまりさわいじゃ駄目ですよ」
はしゃぎ回る少女を朝比奈みくるが優しくたしなめる。
まるで姉のようだと思うのは、この二人が他人の割に似ているからということだけが理由
では有るまい。
出会った頃には分からなかった、この朝比奈みくるという少女は他者に対して姉のように
振舞う所がある。
もっともそれは、我輩が朝比奈みくるが年少者と接している場面をよく見ているからとい
う理由に過ぎない気もするのだが。

朝比奈みくると少女が食事を取る光景を、我輩はバスケットの中から眺めている。
こういう光景も悪くない。
外食だというのに何故か家庭的な雰囲気を感じてしまうのは、店のメニューとか内装によ
る所も多いだろうが、この朝比奈みくるの雰囲気による所も多いのだろう。
そうそう、我輩の同居人である少女は、年齢の割に幼く、ここにおいてもその幼さをいか
んなく発揮しているという状態にあるようだ。
「妹ちゃん、零れていますよ」
「ああ、それじゃ行儀悪いですよ」
「ほら、ちゃんと野菜も食べないと駄目ですよ」
我輩の位置からでは詳細全てが分かるわけではないのだが、これら朝比奈みくるの指摘を
聞けば、状況など容易に掴める。
同居人の我輩からすれば、少女にはもう少し年齢相応になって欲しいと思わなくも無いの
だが、この微笑ましい様子が描かれている要因が少女の幼さにも有るということを考えると、
これもまた悪くない、などというふうに思わなくも無い。
もっとも、我輩がどういう風に思おうとも我輩は所詮猫なので、少女と朝比奈みくるの関
係に口を挟むことは出来ないのだが。

比較的長い昼食の時間が終わり、朝比奈みくると少女、そして朝比奈みくるに抱えられた
ままの我輩は帰路についた。
バスケットに入ったままの我輩を連れてきた意味がどこにあるのかという疑問は有ったが、
時折我輩のことを話題に出したり我輩に話し掛けたりしているというこの二人の行為は、我
輩にとっても心地よい物だった。
バスケットの中は狭いが、家の中で一匹で残されるよりは良かった、ということにしてお
こう。

「じゃあ、またね、妹さん」
「うん、またねみくるちゃん」
少女の家の前で、二人が別れの挨拶をする。
予定ではこれから数時間後に少女の両親が帰ってくることになっている。
少女は朝比奈みくるから我輩の入ったバスケットを受け取り、家の玄関口で開いた。
「シャミもお疲れ様、狭かったでしょう」
「にゃあ」
「じゃあ、シャミのご飯も今用意してあげるね」
少女はそう言って、パタパタと台所に向っていく。
台所には我輩用のキャットフードなる物の買い置きが有るのである。
できればキャットフードよりも我輩専用に何か作って欲しいと思うところであるが、少女
の料理の腕には人間的な意味でも我輩達猫側からみた意味でも全く持って期待できないので、
その要望はまだ保留にしておくことにしよう。
我輩は身体を伸ばし、リビングのソファに飛び乗った。
やはり窮屈なバスケットの中より、このような場所の方が良い。
「はいシャミ、ご飯だよ」
「んにゃあっ」
少女が床に我輩の食事を用意してくれたので、我輩はソファから降り食事にありつくこと
にした。
新しい銘柄らしいキャットフードの味は、まあまあだった。
バスケットの中は疲れたが、こういう一日も悪くはあるまい。


終わり
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