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§第九章§

――21――
その後、北高校門前に救急車がやって来て、生徒達が騒然とする中、長門を担架を持った救急隊員が運んでいった。
ハルヒはそれについて行き、しかし俺は同じ事をするわけにいかなかった。

何人かの人物に呼び止められたからである。


「朝倉涼子からインターフェースとしての性質が消滅しています」

その言葉を告げた人物は、現場に駆けつけた教師や生徒連中の中にいた、喜緑江美里さんだった。
彼女からこの手の言葉を聞くのは初めてだったが、そんな些末なことに驚いていられるほど今の俺に余裕はなかった。
「同時に、統合思念体が交渉の糸口を探っていた独立急進派そのものの存在も感知できません。まったく突然に、
『ある』状態から『ない』状態になりました。原因や理由は不明です」
俺は即座にひとつの出来事に思い当たった。……ハルヒが朝倉にビンタをかましたあの瞬間である。他に何があろう。あの時に何かが起きたとしか説明がつかない。あいつは朝倉の宇宙人属性と親玉の存在をまるまる消しちまったってことか……?
喜緑さんはいつの間にか現れて、またいつの間にかその場からいなくなっていた。事実のみを告げて。
朝倉は教師に連れて行かれたらしい。俺も同様に事情を訊かれる立場になるはずだったのだろうが、続けて声をかけられた人物によってそうはならなかった。

「こちらへ」
その声は森さんのもので間違いなかった。どさくさに紛れて堂々と校舎内に入ってきているが、彼女の服装と容姿は教育実習中の大学生にも見えてしまうのだから不思議である。
森さんは俺をかつて古泉が自分の正体を明かした野外テーブルまで連れて行き、偶然にも同じ場所に俺たちは座った。俺はそのまま、古泉の場所に森さん。
「古泉が戻ってまいりました」
「そりゃ本当ですか?」
即座に訊き返してしまった俺である。
森さんは頷いて、
「つい先ほど本人から連絡がありました。古泉は自分が数日に渡り存在していなかったいたことについて、既に知っているようでした。今、彼の自宅に迎えの車を出しているところです」
おそらく、俺とあの閉鎖空間で二回に渡って話をしたからだろう。あれはやはり幻ではなく、古泉にもちゃんと記憶として残っていたのだ。……とすれば、古泉を呼び戻したのもハルヒなのだろうか?
俺の表情が曇っていたのか、森さんは、
「どうやって戻ってきたかについては、本人にも思い当たりがないようです」
と、静かに告げた。
「我々のほうでこれより本人確認を行いますので、わたしもここで失礼させていただきます」
森さんは滑らかな所作で礼をすると、裏門の方へ歩き去った。俺はしばし呆然とその姿を見送っていたが、すぐに気を取り直す。俺も病院へ向かうべきだろう。
……と考えて、そういえば搬送先がどこの病院なのか知らないことに思い至った。この分だと俺や中河が入院した、謎の背後関係のあるあそこで間違いなさそうだが。
俺はとりあえず靴を履き変えることにした。実を言うと今までずっと学校の上履きで行動していたのだ。上履きのまま四年前に行ってそのまんまなんだからしょうがないだろ。靴底は今や泥まみれかもしれないが、あえて見ないことにしよう。
半分ラリッたようになっていた『俺』は四年前に行き、ここにいる俺が現在の人になったのだから、俺がこの靴を履いて問題はないな、と思いつつ下駄箱を開けると――、

見覚えのある封筒が俺の運動靴の上に乗っていた。

俺は靴を履き変えると急いで校門前まで行き、周囲に人がいないのを確認して封を切った。
丸っこい文字で「キョンくんへ」と始まり、以下、文面はこのようになっていた。


 今あなたがいる時間平面に直接干渉することに制限がかかってしまったので、手紙にて失礼します。
はじめに長門さんですが、彼女は無事です。あなたも縁のあるあの病院の、306号室にいるはずです。長門さんの家
にいるわたしと一緒にお見舞いに行ってあげてください。
 今回のことについては、わたしたちの方でもまだ調査すべきことが沢山残っています。なので、今詳しい話をする
ことはできません……ごめんなさい。『分岐点』のどちらが選ばれたのか。それも含めて、いつかお話できる日が来
ると思います。今は、あなたの近くにいる人たちのことを気遣ってあげてください。
それでは、また。

朝比奈みくる


三回ほど読み返し、俺は息を吐いて手紙を封筒に戻した。
……これで終わりなのだろうか?
どうも納得がいかない。結局、一体誰がこんな展開を仕組んだんだ? あの未来人野郎を初めとした、『敵』が全てを意図したのだろうか。もしそうだとして、この結果は満足のいくものだったのか? 朝倉が普通の人間になっちまったらしいことも含めて、「観測結果」なのか? 一体それを見てるのはどこのどいつだ。出てきやがれ。
やり場のない怒りのようなものが俺の中で渦を作っていた。何だろう。俺は何に腹を立てているのだろう。

……今回、俺はあまりに多くの人が傷つき、悲しむ姿を見てしまった。
その原因が何なのか、はっきりしない。俺が釈然としないのは、おそらくそこだ。

いつか、決着をつけてやる。

相手が誰かなんて知らん。
だがな、俺は暗い話なんてまっぴらごめんなんだ。

だからこそ、このままじゃ終われないだろ。

「……そうさ。待ってろよ、この野郎」

俺は手紙を持っていないほうの手を固く握ると、病院を目指すべく、通学路になっている長い坂道を駆け下りだした。


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