K×H

 大学一年生のクリスマスの日、あたしはキョンから一つのペンダントをもらった。
 それはキラキラと輝く宝石のついた、シンプルだけと可愛いペンダントだった。
「……ねえ、これってダイヤ?」
「天然じゃないけどな」
「そんなの分かっているわよ」
 本物のダイヤモンドなんて、大学生が買えるはず無いじゃない。
 けどダイヤかあ、嬉しいわね。
 キョンが選んだにしてはセンス悪くないし……、あ、でも、これは後から聞いた話なんだけど、デザインをどうするか迷った挙句、古泉くんと鶴屋さんに相談して決めることになったんだって。
 こういうことくらい一人で決められるようになりなさいよって言いたい気もするけど、何かまあ、キョンらしい気がしたから勘弁してあげたわ。
 そんな風に誰かに相談しているキョンってのも、何だか可愛い気がするもの。
 そう言えば、同じ日に鶴屋さんも古泉くんからダイヤモンドの指輪を貰っていたのよね。年が明けてから鶴屋さんに見せてもらったんだけど、その指輪は彼女に似合っていたし、あっという間に惚気話に突入した鶴屋さんはとっても幸せそうだった。
 うん、この二人も上手く行っているみたいね。

 次の年のクリスマスの日、あたしは今度はエメラルドのイヤリングを貰った。
 天使が宝石を抱えているってデザインだったわね。普段使いには向いてない気もするけど、可愛いから良しってことにしてあげたわ。
 そうそう、それでね、どういうわけか鶴屋さんも古泉くんからエメラルドのペンダントを貰っていたのよね。だからどうってわけじゃないんだけど、鶴屋さんと二人、見せ合いっこしながら、ああ、きっとキョンと古泉くんが一緒に買い物に行ったんじゃないかなあ、何て言って笑いあっていたのよね。
 でも、それにしても何で同じ宝石? って気はしたんだけどね。
 あたしと鶴屋さんじゃ、結構似合う物とか違うし……、まあ、貰ったもの自体は違うんだけど、何だか不思議な感じよね。
 何か意味があるのかしら。

 三年目、あたしはキョンからアメジストのブローチを貰った。で、もう語る必要も無いと思うんだけど、鶴屋さんもやっぱり古泉くんからアメジストの髪飾りなんてのを貰っていたのよね。
 偶然なわけないわよね、これって。
「んー。……ああ、そっか、そういうことかっ」
 年明け頃に一昨年や去年と同じように見せ合いっこをしていたら、鶴屋さんが何かに気づいたのか、ぽんっと軽く手を叩いた。
「どうしたの?」
「いやいや、一樹くんもキョンくんも粋なことするねえ」
「……どういうこと?」
「おや、ハルにゃんはまだ気づいてないのかいっ。うーん、そうだねえ、あたしからはまだ言えないな。ハルにゃんも自力で考えてみなよ。……ま、一樹くんにもキョンくんにも悪気は無いってことだけは確かだから」
 どうやら鶴屋さんはプレゼントの意味が分かったみたい。
 でも、あたしには教えてくれないのね。ううん、知りたいけど……、でも、自力で、かあ。そうねえ、キョンが考えてくれたことみたいだし、自分で考えて答えを探してみるってのもいいかもしれないわね。
 まあ、粋なこと、なんて鶴屋さんが言うくらいだから、発案者は古泉くんの方じゃないかって気もするんだけど。
「……分かったわ、自分で考えてみることにするわ」
「うんうん、頑張れハルにゃん、ま、来年くらいになればきっと分かるさ」
 鶴屋さんはそう言って、ぽんっとあたしの肩を叩いた。
 来年かあ……、ということは、この宝石のプレゼントはまだ続くってことよね? それも、鶴屋さんの言い方からすると、来年で終わるってわけでもなさそうだし。
 ううん、どういう仕組みなのかしら……。分からないなあ。
 まあ、とりあえず、次のクリスマスまでにキョンを問い詰めるってことだけはしないでおくわ。

 四年目のクリスマス、お互い何とか就職も決まって、そっかあ、もうすぐ社会人かあ、何て思い始めていたわけだけれど、その日も、キョンはプレゼントをくれた。
 ルビーの嵌ったブレスレット……、多分、鶴屋さんも古泉くんからルビーの物を貰っているんだろうな。
「ねえ、キョン」
「何だよ」
「あんた、去年はアメジストをくれたわよね」
「ああ」
「その前はエメラルド」
「ああ」
「で、その前はダイヤ」
「ああ、そうだな」
「……でね、プレゼントをもらえること自体は嬉しいし、あんたにしてはセンスも良いから、結構良いじゃない、何て思っていたりするのよ。……でもね、何で鶴屋さんが古泉くんから貰っているのも、同じ宝石なの?」
「……何だ、気づいてたのか」
「あったり前でしょ。一年とか二年ならともかく、三年連続ってなれば偶然だ何て思うわけないわよ。……今年も一緒なんでしょ?」
「ああ、向こうもルビーのはずだ。……ん、お前が分かっているのは、同じ宝石ってことだけか?」
 キョンがちょっと不思議そうに首を傾げた。
 どうやら、あたしが全部のカラクリに気づいているって思っていたみたいね。
「……そうよ」
 はったりをかましてもよかったんだけど、後でボロを出すのも嫌だったから、あたしは正直に答えたわ。ちょっと悔しかったけど。
「何だ、そうだったのか……」
「鶴屋さんは気づいていたみたいだけど、あたしには教えてくれなかったわ。無理に訊こうとも思わなかったし……」
「知りたいのか?」
「そりゃあね。だって気になるじゃない。自分で考えてみたい気もするけど……」
「だったら自分で考えろよ」
「な、何よそれ……。もう、キョンったら……」
「自分で考えたいんだろ?」
「そりゃそうだけど……。そうだわ、ヒントをちょうだい」
「ヒント?」
「そう、ヒントよヒント。それが有れば分かるかもしれないじゃない」
 そうそう、そのくらいならありよね。
 せっかくのプレゼントなのに、意味があるのに分からないままなんて、何だかちょっと釈然としないじゃない。
「……頭文字」
 キョンは、ぽつりとそう言った。
 聞き逃しちゃいそうなほど小さい声だったけど、これがヒントってことなのよね。
「え?」
「二回は言わないぞ」
「え、あ、ちょ……、頭、文字?」
 えっと、ダイヤに、エメラルドに、アメジストに、ルビー。
 ダ、エ……、違うわ。d、e、a、……ああ、なるほど!
「dear、ね」
 そういう意味だったのね……。
「半分正解だな」
「へ、何で半分?」
「まだ続くからだよ。後三回。……まあ、もうネタ晴らしして良いか。残りはエメラルド、サファイア、トルマリン。全部でdearestだな」
「あっ……」
 そっか、鶴屋さんの言っていた、来年くらいでって言うのは、そういう意味だったのね。
 七年で完成するプレゼント……、何だか気の長い話って気もするけど、そういうのって、ちょっと素敵かもしれないわね。

「実を言うとな、一年の12月の中ごろ辺りに古泉と一緒に暇つぶしで入った本屋で見かけた雑誌に書いてあったことなんだ。ええっと、イギリスのヴィクトリア朝時代の愛の告白の方法だったかな? まあ、それは七年ごしとかじゃないんだが。古泉がさ、二人の関係が続くようにという意味を込めて、毎年送るなんていうのも良いですね、なんて言いだしてさ。……だからまあ、そういうわけだ」
 予約していたレストランでの夕食を終え、帰る道すがら、キョンは事情を明かしてくれた。
「そうなんだ……」
「いや、本当は俺まで乗るつもりは無かったんだが、そうでもしないと気づかれないままだろう、何て古泉が言うから……」
 顔を赤くしながらそんなこと言ったって、説得力なんか無いわよ!
「その……、すまん」
「何で謝るのよ」
「いや、その……、何となくだ」
「別に謝ること無いわよ。あたしは嬉しかったんだし。……それに、あと三年残っているものね」
「ああ……」
 来年も、再来年も、その次も、それからずーっと先も、あたし達は一緒に居られる。
 dearestのプレゼントは、きっと、そのためのおまじないなのよね。
「あと三年、楽しみにしているわよ。ああ、そうそう、来年からは社会人なんだから、もっとグレードを上げてよね!」
「おいおい、そんな金は……」
「つべこべ言わなーい! 愛のためのお金を惜しむなんて男として情けないわよ」
「ぐっ……」
 あはは、キョンったら黙っちゃった。
 やっぱり男のプライドとかってものがあるのかしら?
 まあいいわ。これなら後三年分期待できそうだものね。

 あ、もちろんその先もよ!




 I×T

 一年目はダイヤ、二年目はエメラルド、三年目はアメジスト……ま、これだけだったら気づかないかも知れないけどさ。身近なところで同じ宝石を同じ順番で貰っている人がいれば、何かあるのかって思うのが当然だよね。
「んー、今年はルビーだよね」
 プレゼントの包みを開く前に、あたしは一樹くんにそう言った。
「……気づいていたんですね」
「まーね。あたしだけならともかくさ、ハルにゃんもキョンくんから同じ宝石を貰っていたみたいだし」
「……そう言えばそうでしたね。何時、気づいたんですか?」
「去年のプレゼントをハルにゃんと見せ合ったときだね。三年連続で二人とも同じ宝石だったからさ、こりゃあ何か意味があるのかなあと思ってね」
「なるほど、さすがとしか言いようが無いですね」
「あはは、年上を舐めてもらっちゃ困るよー。ま、同じってのは、ヒントのつもりでもあったんだろ?」
「ええ、一応。……そうでもしないと、全く気づいて貰えないままという可能性もありましたしね」
 一樹くんはそう言って、ちょっと困ったような笑みを浮かべた。
 意味のあることを出来るだけこっそり進めつつ、でも、どこかで気づけるようなヒントを配置して……、っていう方法を、彼なりに考えた結果なんだろうね。
 そういう粋な心遣い、あたしは嬉しいよっ!
「あー、そうかもねえ」
 そりゃあさ、ノーヒントで気づいてこその愛? って気もしないではないけど、あたしは他所様の人間関係とかならともかく、自分が絡んじゃうと、あんまり自信が無いんだよね。何せ初めてまともに人を好きになったのが高校三年のときだからさ。……それが一樹くんなんだけどねっ!
「でしょう? だからこういう方法をとったんです」
「そっかあ……、そういや、ハルにゃんの方は去年の時点では気づいて無かったけど、今年はどうだろうね」
 自分達のことも大事だけど、やっぱりあっちの二人のこともちょっとは気になるよね。ハルにゃんも勘が良いんだか鈍いんだかって意味だと、ちょっと微妙なところがあるからさ。
「どうでしょうね。それはちょっと僕には分かりかねます。……ただ、これで四年目ですからね、そろそろ涼宮さんが切れ掛かって彼に詰め寄っていてもおかしくないような気はしますが」
「あっはっは、ハルにゃんならするかもねー」
 一応、自分で考えるって言っていたけど……、そこはやっぱり、ハルにゃんだしなあ。
 まあ、結果的に上手く行っていればそれで良いんじゃないかって気もするけどねっ。

「そういやさ。これ、まだ続くんだよね?」
 並んで歩きながら、あたしは一樹くんに問いかけた。
 今年までの四つでdearになるけど、まだこれで完成じゃない。
 最上級には、まだ文字が足りないからね。
「ええ、後三回ですね」
「eはもっかいエメラルドかな? sはサファイア、えーっと、tは……」
「トルマリンですよ」
「そっかそっか。うん……、三年後も、一緒に居ようね」
「ええ、一緒に居ましょう」
「あ、もちろんその先もだよ!」
 あたしは一樹くんの前に回りこみ、びしっと指を突きつけた。
「分かっていますよ」
 一樹くんは、極上の笑顔でそれに答えてくれた。
 釣られてあたしも笑いたくなっちゃうね。そうでなくてもあたしは笑っているときの方が多いし、今だって笑っているわけだけどさ。
 ああ、うん、でも……、7年ごしのプレゼントかあ。
 これって、付き合い始めた頃には考えられなかったことだよね。
 あの頃は、あの頃のあたし達は……、未来に対する保証なんて、一つも無かったし、寧ろ、不安だらけだった。
 でも、今はもう大丈夫。
 あたし達は二人で一緒に、同じ場所に立っている。
 7年ごしのプレゼントはまだ続くわけだし、これは、あたし達がこれからも一緒に居られるっていう証でもある。
 これからも、ずーっと、二人で一緒に居ようね。
 大好きだよ。
 あたしのdearestな一樹くんっ!




 K&I

 俺と古泉は違う大学なんだが、大学生になっても時折会っていたりする。
 まあ、高校時代に関しては親友って言うより戦友って言った方が正しかったような気さえするわけだが、今は割合まともな友人関係って言えるんだろう。
 それぞれ恋人が居て、その恋人達も含めて全員高校時代から仲の良い人間同士って関係なんだからな。
 さて、12月も中頃の今日、俺達は街中で偶然出会い、何となく話、しかしすることも無く本屋に入るという、なんと言うか、まさしく暇な大学生って感じの時間を過していたりする。
 しかし古泉よ。ミステリとかファンタジー辺りなら分かるんだが、どうしてそんな女性誌があるようなところへ真っ先に向かうんだ?
「プレゼントですよ」
「へ? ああ、クリスマスのか」
「忘れていたんですか?」
「いや、そういうわけじゃないが、」
「まあ、あなたはバレンタインを忘れていたことすらある人ですからね」
「うるさい」
 人が否定しているのに混ぜっ返すな。
 あれは……、今となっては良い思い出の部類では有るが、それでも、2月14日の意味をきれいさっぱり忘れていたって意味では、間抜けとしか言いようがないだろうってことくらい、ちゃんと分かっているけどさ。でも、あんまり人に指摘されたくは無いんだよ。
「どうしたものかな、と思いまして」
「お前でも悩むんだな」
「そりゃあ悩みますよ」
 古泉は俺に答えつつも、ページをめくる手を止めない。
 しかし、クリスマスに女の子が欲しがるものか。
 一体なんだろうな?
 それぞれ相手は違うが、未知数というか吹っ飛び具合って意味ではどっこいどっこいの彼女持ちだしなあ。
「……dearest、ですか」
 古泉が手を止め、ぽつりとつぶやいた。
 思わず俺もページを覗いてしまう。そこにあったのは、ラインストーンのような形で宝石の嵌ったペンダントだった。
 ダイヤ、エメラルド、エメラルド、ルビー……、ああ、そうか、頭文字をとってdearest何だな。いや、単語に合わせて宝石を選んだって方が正解だろうけどさ。
「英国ヴィクトリア朝時代の愛の告白方法、だそうですね」
「へえ、そういうものが有ったのか」
 昔から金持ちのやることは豪華だな。
 まあ、今の時代なら一般庶民でも手が届きそうだけどさ。このペンダントの値段も、二万ちょっとってところだしな。
「これにするのか?」
「いえ、そういうわけでは……、これだけだとちょっと芸がありませんしね」
「芸ってなあ」
 いや、言いたいことは分からないでもないけどさ。
 鶴屋さんもイベントごと大好き人間だからな。
 まあ、彼女だったら何でも喜んでくれるんじゃないかって気もするが……、この間偶然会ったときなんか、暇つぶし程度のつもりで入ったファミレスで延々5時間も惚気られたんだぞ。まあ、それをお前に伝えてやる気は無いけどさ。……別に俺がそんなこと教えてやら無くたって、お前は充分幸せなんだろう?
「そうですね……、一つずつ、という方法はどうでしょう? 七年間、まあ正確には六年ですけど、その間、dearestに該当する宝石を一つずつ渡すんです。二人の愛が続くことを祈って……、何て、浪漫があるじゃないですか」
 なぜ俺に訊く。
 というかなんだその発想は。
 別に悪いとは思わないしそういうのも有りなんじゃないかとは思うが、何でお前はそんな浪漫なんて言葉をあっさりと口に出来るんだよ。
「良いんじゃないか? けど、ただ渡しても気づいてもらえないんじゃないか? かといって、最初から教えたら芸がないってことになりそうだけどさ」
 まあ、馬鹿正直に答える俺も俺だけどさ。
「ああ、そうですね……」
 古泉が思案顔になり、何かを考え始める。
 こいつもまあ、色々企むのが好きだよな。本当、楽しいことが大好きな鶴屋さんとは良い組み合わせだと思うぞ。
「……そう言えば、あなたは涼宮さんに何を渡すんですか?」
「まだ決めてない」
「じゃあ、同じことをして見ませんか?」
「は?」
「dearestを一つずつ、ですよ。……あの二人なら貰ったプレゼントの見せ合いくらいするでしょうからね、きっと途中で意味に気づいてくれるでしょう」
「は? 俺にも同じことをやれと?」
 いやいやちょっと待て、勝手に俺を巻き込むな。
 言いたいことは分からないでもないが。……ダイヤなんてものを買う予算は無いぞ。
「別に天然のものじゃなくてもかまわないでしょう。ダイヤである、そのこと自体に意味があるわけですから」
「そりゃそうだが……」
 まあ、それなら一万かそこらで何とかなりそうだけどさ。
「じゃあ、これで行きましょう!」
 そう言って古泉は、何だかえらく晴れやかな笑顔になった。
 おいおい、いつの間にか俺が巻き込まれることまで決定されているぞ。……そりゃあさ、プレゼントはまだ決めてなかったけどさ。
 ……けど、七年越しのプレゼントか。
 気の長い話だよなあ。
 七年後、いや、六年後か。
 まあ、六年経とうが七年経とうが俺とハルヒは一緒なんじゃないかって気がするし、古泉と鶴屋さんも多分一緒なんだろうな。でもって、俺達も、ああ、この場合はハルヒと鶴屋さんも含めてなんだが、俺達四人、良い仲間で居られるんだろう。
 そうだな、このdearestっていう七年越しのプレゼントは、俺達全員が、七年後も元気に、笑って、仲良くやっていられるようにっていう、おまじないみたいなものでも有るんだよな。
 古泉の思惑にほいほい乗ってやるってのもちょっと癪だが、まあ、こういうことなら良いってことにしておくか。
 ハルヒも、喜んでくれるだろうしな。
 しかしあいつ、何年目で気づくかな?


 終わり
 

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