ハルヒ「ねえキョン、今って自殺が流行ってるわよね?」
キョン「……流行ってるって言い方はどうかと思うが、確かに多いな、近頃」
ハルヒ「……まあ、自殺なんて心が弱い人間のすることよね! 私には関係ないわ!」
キョン「……本当にそうか……?」
ハルヒ「……えっ……?」
キョン「お前は心が強いから、自殺とかおかしなことはしない、そういうことでいいんだな?」
ハルヒ「えっ……ちょ……な、なに? なに急に真面目になって……」
キョン「だそうだ、長門、古泉、朝比奈さん……行こうぜ」
長門「わかった」
古泉・みくる「わかりました」
ハルヒ「ちょ、ちょっと……!? みんな、な、な、なに……!? どういう……」
長門「涼宮ハルヒ、あなたの立ち振る舞いには些か怒りを禁じ得ないものがあった」
みくる「正直、私もです……毎日嫌なことばっかりやらされて……もう疲れました……!」
古泉「気の済むようにしなければしないで、機嫌を害して空気を悪くするなんてのは……いやはや、さすがに堪えるんですよ」
キョン「……そういうわけだ、お前がおかしくなるんじゃないかと思って俺達もお前の気の済むようにしてたんだが
自殺しない強い心を持ってるんなら大丈夫だよな? 俺達はお前から解放させてもらうぞ……じゃあな」
――ガチャ パタン……

ハルヒ「……え……? あ、あれ……な…………え……?」
ハルヒ「ちょっと……なんで……なんで……よ……? 私……わ、わたし……」

『……もう……疲れました……』
『……俺達もお前の気の済むようにしてた……』

ハルヒ「あ……? ああああ……あっ……うわあああああああああああああ!!!!」

自殺……本当にあなたは、しませんか?

ハルヒが校舎の屋上から飛び下りてから、約一ヶ月がたった。
機関の一部の方々が唱えていた『涼宮ハルヒが死ぬ=世界消滅』の説はどうやら間違っていたようだ。
少なくともハルヒが何らかの改変を起こすだろうと思っていたが、全くの無音状態だったのには驚いた。
長く学校を休んでいたかと思ったら、急に登校してきて、教室で一言も喋らないで一人で部室に向かうハルヒ。
その背中を見て、心が苦しくなったようだったのは、多分気のせいじゃない。
 元々スレンダーな身体がまた随分と痩せてしまっていて、光の無い目でいつも虚ろに一点を見ていた。

ハルヒとはもう関わらないで済むから、好きな事ができるって浮いてた心がまるで嘘みたいだ。
何をしていてもハルヒのいたSOS団を思い出してしまう。それ以外にやることなんてなかった人間だからだ。
俺達、「元」SOS団は、誰が言うでもなく、いつの間にかお馴染みの部室に舞い戻っていた。

みくる「あ……キョン君……」
古泉「……やっぱり来たんですね」
キョン「ああ……それより……なんで、みんな……?」
長門「恐らく、偶然……私はなんとなく……来た……」
キョン「……そう……か……」
三人「……」
キョン「……ハルヒ、し、死んじまったんだよな……」
古泉「……」
キョン「……俺……俺……もしかしたら……後悔してる……」
みくる「……」
キョン「ま……まさか、あんなことで……死ぬなんて思ってなかった……それに……」
長門「……」
キョン「……それに……今は……あの頃が、そんなに悪くなかったような気がして」
みくる「ダメッッッ!!」
キョン「!!」
みくる「キョン君……ダメだよぉ……! 涼宮さん死んじゃったんだからぁ……!!
だから……ダメ……私達はあの部活が嫌で嫌で……だからあんなこと言ったんです……!!
し……仕方なかったんですよぉ……!? 自殺するなんて思ってなかった……! そうじゃなかったら……私……!」
キョン「あ……朝比奈……さん……?」
古泉「そう……ですね……僕達は涼宮さんの横暴な行動が嫌で嫌で仕方なかった……
だから結果的に涼宮さんを自殺に追い込んでしまったのも……仕方なかった……確かにそうです……」
キョン「お……おい……古泉まで……俺達はハルヒを殺してしまったんだぞ……! それを……」
長門「結果的には、自業自得……友達のいない涼宮ハルヒが私達を縛りつけた……
私達はその涼宮ハルヒから離れただけ……殺したんじゃない……離れただけ……」
キョン「……長…………みんな……お、おかしいぞ……? く、狂ってる……絶対狂ってるっ……!!
俺は……俺は……違うっ!!!!」

――ガチャ バタンッ!!

気が付いたら、思わず部室から飛び出していた。俺は一心不乱に走って、家に帰る道を駆け抜けた。
……恐ろしかった。人間の責任を回避しようとする様が醜くて、そして、ただただ恐ろしかった。
生きた人間の目じゃない。悪魔の目だった。あの朝比奈さんでさえ、そうだった。
確かに俺達がただ部活を辞めただけだと言えば、俺達がハルヒを殺したんじゃないとはいえる。
確かに言える……けど……それってどうなんだよ……? 人としてやっていいことだったか……!?
ハルヒは、死んじまったんだ……いや、否だ……俺達が殺したんだ……!
悪意は無くとも……過失が無くとも……理由が無くとも……! この、気が狂いそうな罪悪感……!
俺は走って走って走って……家の玄関を開けるや否や、階段を駆け抜けて自分の部屋にはいり鍵をかけた。
涙が溢れて、喉が渇いて、心臓が唸って……俺は何かわからない恐ろしさに耐えきれなくなって布団に潜って声を出して泣いた。

何日たっただろうか……まだ俺は、温かいはずの布団の中で震えていた。
ハルヒが死んだことを知っている母親は、俺には何も言わずにただ学校に休みの連絡を入れるのと、飯を持ってきてくれる。
俺は毎晩、ハルヒの夢を見た。ガラスか何かのような、この世とあの世を別ける透明な壁越しに……
ハルヒは何も言わずに虚ろな目をして、唇を僅かに開いたまま、俺を見る……
……許して……許して……ください……俺はそう思う。それでもハルヒは俺を見る。
助けて……俺は……そんな……ハルヒ……ごめんなさい……ごめんなさい……!!!!!!

俺は もう 限界だった

鶴屋「……ハルにゃんの次は、キョン君……絶対……絶対に……何かおかしいよ……みくる……!?」

ハルにゃんが死んでしまってから約一ヶ月後、キョン君が自分の部屋で首を吊っていたのが見つかった……
私は涙が流れるより先に、何かある種の不気味な感覚を覚えた……
とっくに解散したSOS団の部室にも、もう誰も訪れない……みくるも、ユッキーも、古泉君も……
絶対に何かおかしい……これがおかしくないのなら何がおかしいのかわからないくらいに、何か変だ……!
そう思った私は、昼休みにみくるを捕まえた。

みくる「わかりません……私……私……ふ、二人とも……死んじゃったけど……わかりません……!」
鶴屋「そんなの嘘だよっ!! 絶対、絶対みくるも皆も何かおかしいよ!! どうしちゃったのさぁ!?」
みくる「知らない……!! わ、私……何もしてない……!! 知らないよぉぉ!!」

――タッタッ

鶴屋「あっ!! みくるっ!! 待って……!!」


みくる「もう……イヤッ……!! 私誰も殺してない……私何もしてない……わ、私、関係ない……!!」
味方だった人から疑われるのは一番危険……だって普通の人なら踏み込んで来ない領域まで踏み込んで来るから……
みんな私が二人を殺したと思ってる、絶対そうにきまってる、だってあんな鶴屋さん見たことないから……!!
私は何も……してない……してないよ……二人とも勝手に死んだだけ……私、私、私、私…………もう……私……は……

……嫌になっちゃった、だから、部室に行きます……みんなと話さないと……皆に、なすりつけないと……もう……

みくる「……もう……限界です……」
古泉「……」
長門「……」
みくる「……なんで……みんな平気な顔してるんですか……?」
古泉「……確かに僕達は、殺していないとは言いました……しかし今は違います……
涼宮さんと一番関係のあった彼が死んだとなると、周囲の人の『涼宮さんの自殺=キョンが原因』という認識も、さすがになりたたなくなってきます……」
みくる「な、なら……なおさら……」
古泉「しかしですね……僕はまだ安全なんですよ……わかりますか……その意味が何か……?
朝比奈さん、自分が今日どこでだれになにを言われたのか考えてみてください……」
みくる「なっ……えっ……?」
古泉「……あなたが鶴屋さんに問い詰められる姿をみんな見てしまったんですよ……みんなにね……
あの温厚そうな二人があれほどまでに言い合うなんて、もしかしたら……なんて考え、浮かびませんか……?」
みくる「そ……そんな……そんなの……」
長門「つまりそういうこと、私達は結果的に二人を殺した……しかし疑われているのはあなた一人……」
みくる「あ……え……? うそ……うそ……だよ……そんな……私……」
長門「そして……」

長門「今、その原因を作った彼女がドアの前で聞き耳をたてている」

やっぱり……やっぱり皆がハルにゃんにキョン君を……信じられない……信じられないけど……こんな……
私はみくるを問い詰めた後、帰り掛けのみくるの後をつけてみた。
案の定、みくるは部室に向かった。注意深く聞き耳をたててみると、どうやら後の二人もいるみたい。
そこで私は……大変な一言を聞いてしまった……
『……結果的には私達が二人を殺した……』
やっぱり……やっぱりそうだったんだ……ほんの少しでもそうじゃないっていう希望が欲しかったけど……やっぱり……
だっておかしいもん……ハルにゃんが死んぢゃった時もキョン君が死んぢゃった時も……みくるは私に何も言わなかった……
それっていくらなんでも不自然すぎだよ。あのみくるが、おかしいっておもってたけど信じたくなかった……!
……明日、この事を先生に言おう……それがみんなのため……このままじゃみんな……おかしくなる……私も……おかしくなるよ……
憂鬱を通り越して絶望な気持ちが心を打つ中、立ち去ろうとしたその時……
『……ドアの外で聞き耳をたてている……』
……!!
なんで……!? とにかく……逃げ……

――バァン!!

――ガッ!!

古泉「鶴屋さん、大人しくしてもらいますよ……」

鶴屋「や……やめてっ!! は、は、離してっ!! 助けてぇ!!」
間一髪、すんでの所でした。あんなお節介を焼かなければこんな目に遭わずに済んだのに……
僕は暴れる鶴屋さんを力で床に押さえつけると、静かになるまで口を手で塞いだ。
みくる「つ、鶴屋さん……どうして……? ま、ま、まさか……聞いて……」
古泉「……その、ようですね……!」
中々しぶとく抵抗していた鶴屋さんも、さすがに床に頭を押さえつけられては、静かにならざるを得なくなりました。
鶴屋「ヒッ……おね……がい……こ、殺さないで……ううっ……ぐすっ……」
少し考え方が突飛している鶴屋さんに、朝比奈さんがおずおずと声をかけました。
みくる「あ、あの……もしかして今の会話……全部……」
鶴屋「ごめん……なさい……盗み聞きして……でもまさか……あ、あんな話だなんて……思わなくて……」
みくる「いいんですっ!! そんなこといいから……お願いっ……!! この事……誰にも言わないで……!!」
会話ムードに入って、さすがに鶴屋さんが逃げ出す雰囲気を消したのを見計らって、僕は拘束を解いて部室のドアの鍵をかけた。
鶴屋「さっ、さっきのこと……本当……なの……?」
みくる「お願い……誰にも言わないで……お願い……!」
鶴屋「あっ……えっ……と……」

鶴屋「……ごめん……みくる……言わないわけには、いかないよ……」
みくる「!?」
鶴屋「だって……このままじゃみんなおかしくなっていくだけだよ……!? ここでスッパリきっちゃったほうが絶対に……グッ……!!」
変な閉塞音にふと振り向くと……朝比奈さんが、鶴屋さんの首を絞めているのが見えました……。

ちょ、ちょっと……みくる……? な、な、なにしてるのかな……? くっ、苦しい……よっ……!
私は、普段のみくるからは想像もつかない力で押し倒されていた。その私のお腹の上にみくるがいて……何故か私の首をつかんでいる……
鶴屋「み……くる……!? な……あっ……ヒッ……!?」
みくる「だめなんですよぉ……そんなことしたら……私……生きていけなくなっちゃうから……」
鶴屋「み……くっ……!?」
怖い、恐い、恐ろしい……! みくるの目……人の目じゃない……! こんな……こんな……の……
みくる「だめダメ駄目ぇ……えへへへっ……そんなの許さないんだからぁ……」
……狂ってる……狂ってる……!! 絶対狂って……る……!!!!
息ができない!! 苦しい!! 頭が熱い!! 目の前が、白くなる!!
恐い!! 助けて!! なんで、ただ見てるのっ!? ユッキー!? 古泉君っ!?

……あっ……

みんな……目……なに……? あく……ま……

――ガクッ


古泉「……やってしまいましたね……これで確定的です……誰もが全ての元凶があなただと思うでしょうね……」
鮮やかな血もない、恐ろしき刃物もない、しかしそこにあるのは死体。朝比奈みくるの造った死体。
みくる「……あ~ぁ……こんなはずじゃなかったのになぁ……」
ゆっくりと朝比奈みくるは立ち上がる。そして朝比奈みくるの体に隠れていた「彼女」の死体が見えた。
みくる「……私ね、私……これからやりたいこといっぱいあるし……なりたいものだってあるし……」
はっきりいって、朝比奈みくるは錯乱気味、もうまともな発言をしていない。

古泉「……とにかく、これで大丈夫ですね。長門さん……? 僕達はもう疑われることはありません」
そう、そしてそれは「僕達」ではない。

長門「既に私は情報統合思念体に私の削除を要請している。観察対象が消えた為、私の存在価値はない、容認まであと数秒。」
古泉「……? ……長門さん……? ……! まさか……!」
長門「お疲れさま、私もこの生き物の死の螺旋から抜けさせてもらう。あとは宜しく……さようなら」
古泉「なっ……! なんだと……!? 待て!! ……待つんだ!!」
古泉一樹の困惑した顔、いい気味。私はこんな世界を望んではいないから。
「彼」が死んだ時点で私にとって価値のない世界。私が居続ける必要すらない世界。
次に送られる世界に……あなたが……いたらいいのに……

――サアアァァ


なんてことだ……!! 長門有希が消えたってことはつまりだ……証人がいなくなるということだっ!!
さっきまでならば、この朝比奈みくるが発狂し殺人を行ったと「二人」で証言すれば信憑性が出てくるため、俺への疑いはほぼなくなる……
しかし今は……違う……! ヒューマノイドインターフェースである長門有希を消すとなると当然、情報統合思念体は不自然な点を世界に残しはしないだろう……
つまり俺達意外の人間の中の「長門有希」が消えているということになるはずだ……! これでは証明ができなくなる……!
マズイ、マズイぞ……これは非常にマズイ……! 考えろ……考えろ……!!
みくる「ねぇ……古泉くん……」
ほうけていた朝比奈みくるがふと、立ち上がる。
うるさい……! おまえなんかに付き合っていられるか!?
みくる「わたし……疲れちゃった……帰ります……未来に……」
…………!? なんだと…………!?
みくる「もうイヤだから……帰るね……バイバイ……」
この……!!
この……!!
この……!!

――ガッ

いつの間にか俺は朝比奈みくるの足をつかんでいた。

クソッ!! クソッ!!! クソッ!!!! どうしていつもこうなんだ!? どうしていつも俺なんだよ!?
涼宮ハルヒから始まって、いつでも厄介事のツケは俺に回ってくるんだ!!

――メキ メキ

超能力に目覚めたあの日から、憎くて憎くてたまらなかったアイツがいなくなったらいいと思って……

そう思って『アイツを屋上から突き落とした』のにっ!!

どうして俺なんだ!? 俺が何をしたっていうんだ!? 俺がここまで酷い仕打ちをうけるのは何故だ!?

――ガッ ガッ

初めは超能力者というただの労働者、その次は副団長という使い走り、挙げ句の果てには殺人鬼っ!!
どうしてこんな人生が俺に訪れるんだっ!! 絶望だっ!! ……俺は……!!

――ゴリッ ゴリッ

どうして こんな世界に 生まれたんだ !!!!


――その後

北高で起きた惨劇は随分とニュースになった。
まあそれも仕方がないだろう。なにせ、自殺者を二人出した部活動の女子部員が、部室でその部員の女友達の首を絞めて殺害したんだから。
さらに違う男子部員がその首を絞めた女子部員をパイプ椅子で殴り殺して死体をナイフでバラバラにしたとなれば。
極めつけには、その男子部員も、同じ部室で首つりをして自殺したんだ、ニュースにならないほうがおかしいさ。

今の時代、自殺なんてものが大きくとりあげられているが、実態なんてこんなもんだ。
本当になにげない一言や仕草から始まるもんなんだ。第二次世界大戦にしかり、始まりは何気ないことからさ。
しかし、何気ないことから始まるからこそ、予測がつかない。明日は我が身なんて心配も杞憂じゃないかもしれないんだ。


自殺 あなたは、本当にしませんか?

終わり

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