「・・・古泉君?それともランサー・・・?」
ハルヒがおずおずと金色の男に尋ねる。
我がSOS団の副団長の古泉一樹、そしてあの蒼い男ランサー・・・そのどちらにも見えるが・・・。
しかし・・・古泉はあんな尊大な言葉遣いはしないな・・・。
そして古泉ともランサーとも違う――金髪を逆立てた髪型をしている。
「古泉か。貴様等の言っている男は、こいつのことだろう?」
グイッと後方を指差す金色の男。
すると――バルコニーの奥から・・・2人の男が現れる。
1人は――あの蒼い男、ランサー。
そしてもう1人は――カソックに身を包んで如才ない笑みをその顔にたたえた――古泉一樹だった。
「古泉!?なぜお前が・・・!?」
戸惑うことこの上ない俺の問に、古泉は笑みを崩さず答える。
「なぜ?ヘンなことを聞くのですね。ランサーもこの『アーチャー』も、僕のサーヴァントですから」
は・・・?ナニヲイッテイルノダコイツハ・・・?
「古泉君・・・!アンタまさか・・・」
「ご推察の通りです涼宮さん。僕もマスターとして、この聖杯戦争に参加させていただいてるんですよ」
そんな・・・古泉がマスターだと・・・!?
「監督役は戦争に介入できないはずではなかったのか?」
聖杯戦争最初の夜、教会で古泉自身が言っていた言葉を、俺は思い出す。
「まあ、これも反則ってヤツですね。大目に見てください」
「それに・・・マスターは最大でも1体のサーヴァントしか従えられないはずじゃ・・・」
「ああ・・・それも監督役の特権ですよ。どんな完璧そうに見えるルールにも抜け穴はあるものです」
その後のことについては・・・まあ、謹んで割愛させていただきたいと思う。
本気で最終決戦を前にして死ぬかと思った・・・。
3人とも凄いの何のって・・・と、思い出すと今にも顔から火が出そうになるのでやめておこう・・・。
ハルヒの言う通り、魔術回路の接合はどうやら上手くいったらしい。
ハルヒの、朝比奈さんの、セイバーの魔力が少しずつ俺の中に流れてくるのが感覚的にわかる。
そして・・・ついに明日の夜・・・この聖杯戦争も最終局面を迎えるのだ。
古泉が一体何を考えているのかは知らないが・・・ここまできたらやるしかないだろう。
ふと思う・・・こうして俺が生きているこの世界は・・・もしかしたら俺の夢なんじゃないかって。
時々、そう思ってしまうくらいに、自分の目の前の出来事や体験に実感がなくなる。
もしかしたら・・・俺は誰かが作った世界の中で、作られた役を演じているだけの存在に過ぎない、だなんて、
そんな他愛もないことを考えたりする。
まあいい。これが夢だろうと現実だろうと。
俺は・・・俺のやるべきことをやるだけ・・・。
あーんなことがついさっきあったからか・・・ハルヒが、朝比奈さんが、そしてセイバーまでもが、
俺の中で大切な存在となりつつある。そんな大切な人達を・・・俺は守る。
そう決意し、俺は床についた。
あ、ちなみに俺の部屋は使えませんので寝床は居間です・・・。
なぜって・・・3人共・・・俺の部屋で寝てしまったのだからな・・・。
しかしまだ起きてる元気があるなんて・・・俺は結構スタミナがあるのかもしれない。
~interlude1~
ついに、このワケのわからない聖杯戦争も終わりを迎える。
そして、俺が成すべきことを成し遂げる・・・最後にして最良のチャンスが訪れようとしている。
あの男・・・こっちの世界の『俺』――『キョン』は今頃――考えるだけで吐き気がする。
『俺』にハルヒを――朝比奈さんを――長門を――○○する資格なんてない。
『俺』は彼女達を○○にすることしか出来ないんだ・・・。
つまり『俺』は――『生きていてはいけない』存在なのだ・・・。
そんな思いに耽っていると・・・1人の人影が俺の前に姿を現す。またライダーもとい鶴屋さんか?
否、それは朝比奈さんだった。その麗しいお姿は、以前の世界と少しも変わることがない。
「アーチャーさんですよね?」
「お休みになったのではなかったんですか?」
この人の前だと・・・どうしても口調が丁寧になってしまうな・・・。
「それはっ・・・!」
顔を赤らめる朝比奈さん。まあ、目が覚めて慌てて自分の部屋に戻る途中、といったところだろう。
「アーチャーさんって・・・何か初めて会った気がしません」
顔を赤らめたまま呟いた朝比奈さんのその一言に俺は心底ドキリとした・・・。まさか気付かれた?
「いつか遠い昔に・・・あなたに会ったことがあるような気がします」
「どうして・・・そう思うんですか?」
「それは・・・禁則事項です」
・・・!その言葉と仕草に、俺は懐かしさで一瞬崩れ落ちそうになった。
「というのはウソで・・・ホントに何となくなんです。気にしないでください」
そう言うと、朝比奈さんは丁寧な仕草でペコリと頭を下げ、部屋へと戻っていった。
懐かしくない・・・戻りたくないといったらウソだ・・・。
でも俺は・・・もうあなたが淹れたお茶を飲むことももう出来ないんでしょうね・・・。
~interlude4~
「魔術やらサーヴァントやらがのさばる世界は面白くはないのか?」
「ソレはソレ、よ。あたしはせっかくなら、宇宙人や未来人とかに会ってみたいわ」
『ソレはソレ』の基準はよくわからないが・・・。まあハルヒの思考はハルヒにしかわからないということだろう。
「願いが・・・叶うといいな」
「あのね、願いは『叶うといいな~』とか言って座して待つものじゃなくて、
コッチから積極的に叶えてやるモンなのよ?」
「それはそれは・・・何ともアクティブなことで・・・」
「何捻くれたこと言ってんのよ。何ならアンタをSOS団の特別団員にしてやってもいいわよ?
サーヴァントは使い勝手がいいし、宇宙人基地の諜報員としてはもってこいね」
こぼれんばかりの楽しそうな笑みを浮かべるハルヒ。
やっぱりコイツは・・・笑ってる顔が一番良く似合う。
「そうだマスター、いやハルヒ」
俺は・・・唐突でイヤになるほどバカらしい提案を投げかける。
「何よ」
「お前、髪を伸ばしてポニーテールにでもしてみたらどうだ?きっと似合うぞ?」
「バカじゃないの?」
ハルヒは・・・俺の知るSOS団団長のハルヒのままだ。
しかも俺をこんな姿になってまでSOS団に入れてくれるらしい。嬉しいやら悲しいやら・・・。
でもな、俺はもうSOS団には戻れない。
もうお前の傍にもいてやれないんだ・・・。
第7章 完