信じられない出来事が目の前で起こっている――。
俺はどっかのSF映画か怪獣映画でも見ているのか?
こんなトンデモな戦争に巻き込まれている俺ですらそう思わざるを得ない。
そんな光景が目の前で展開している。
バーサーカー――あのマスターの少女に『シャミセン』と呼ばれた、恐竜のように巨大かつ凶暴で、
悪魔のように絶望的なまでに強い、あのバケモノのようなサーヴァントが目の前で咆哮している。
「グガーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
その咆哮は雄々しく敵に向かっていく、あの地を割るように響く咆哮ではなく、
まるで断末魔の叫びのような・・・苦しげな咆哮だった。

目の前では――あのバーサーカーが、たった1人の男――に蹂躙されていた。
その男がバーサーカーを蹂躙した方法――それは無数の武器。
男の背後に現れた数百、いや数千の武器が一気にバーサーカーの鋼の身体を貫く――。
「グオーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!」
苦悶の雄たけびを上げるバーサーカー。
その後ろで、マスターのあの小さな少女はビクビクと身体を震わせている。
「そんな・・・わたしのシャミセンが・・・」
少女は、今にも泣きそうだ。

そして・・・あの屈強なバーサーカーはついに前のめりに倒れてしまった。
『9回』残っていたはずの命が尽きてしまったというのか・・・?
あのセイバーの宝具をもってしても『3回』しか殺せなかったバーサーカーを、
あの男は、いとも簡単に殺してしまった。信じられない・・・。

「・・・興ざめだな。あのバーサーカーもこの程度とは・・・」
倒れる狂獣を見下して――金色の鎧に身を包んだ男が言い放つ。

遡ること数時間――俺は自宅の居間でハルヒと朝比奈さんと、定例の作戦会議を行っていた。
「残るサーヴァントはランサーとバーサーカー、ランサーはマスターすら不明、
 バーサーカーはマスターがわかっているものの居場所が不明。どうしたもんかしらね」
ブスッとした顔でお茶を啜るハルヒ。
そう、せっかく朝比奈さんが仲間になり、ライダーが戦力に加わったにもかかわらず、
次の敵の居場所が全くわからない。これは参ったな・・・と思っていると・・・、
「バーサーカーのマスターの居場所なら知ってるにょろよ~」
いつの間に現れたのか、朝比奈さんの隣に居座り、ライダーが微妙な陽気さで言い放つ。
「え?ほんとに?ライダー・・・」
思わず急須を持つ手を止め、朝比奈さんが聞き返す。
ライダーはご自慢の長い髪をバサッとかきあげ、
「前のマスターと一緒だった頃、一回襲われたことがあるにょろよ。
 もちろんあんなバケモノ相手にしたくないからスタコラサッサと逃げたけどねっ。
 その時にあのちびっこマスターが自分でバラしてたのさっ!」
と、言ってのけた。

バーサーカーのマスター、あの少女の居城は・・・ホントにお城だった。
俺達の街からタクシーで20分ほど、郊外の奥深い森の中にその城はあった。
まるで中世のお城をそのまま現代にタイムスリップさせたような感じだ。
あの少女はこんな所で1人で住んでいるのか・・・。

意気揚々と俺達は、サーヴァント3体を引きつれ、城に突入したわけだ。
そして――冒頭に至る。

バルコニーには動かなくなったバーサーカーが横たわっている。
「さあ、余興もここまでだ。小娘も殺してしまうか」
金色の男が右手を上げると、背後にまた無数の武器が浮かび上がる。
「ひっ・・・!」
マスターの少女は怯えあがり、小さなその肩を震わせる。

あんな小さい少女を・・・クソッ!!
俺は我慢ならず、思わず叫ぶ。
「セイバーッ!!」
瞬時に金色の男の前に躍り出るセイバー。
「アーチャー!!行きなさい!」
ハルヒの呼びかけの呼応するかのように現れるアーチャー。
「ライダー!お願い!」
「あいよっ!」
朝比奈さんの声に軽快な反応を見せ、素早く少女を守るように立ちふさがるライダー。

「よう。大丈夫か?」
俺は縮み上がる少女に声をかける。
「キョンくん・・・?」
「少し下がっているんだ。バーサーカーの仇は・・・俺達が取る」
正直、俺はこの少女のことを他人とは思えなかった。小さな小さな、小学校低学年にしか見えない少女。
俺は・・・無意識の内にこの少女を守ることを選んだ。

「フン。また雑種が現れたか。目障りな」
そう自身ありげに言い放つ金色の男――その顔は・・・古泉そっくりだった。
って、え?古泉?なんで?

「・・・古泉君?それともランサー・・・?」
ハルヒがおずおずと金色の男に尋ねる。
我がSOS団の副団長の古泉一樹、そしてあの蒼い男ランサー・・・そのどちらにも見えるが・・・。
しかし・・・古泉はあんな尊大な言葉遣いはしないな・・・。
そして古泉ともランサーとも違う――金髪を逆立てた髪型をしている。
「古泉か。貴様等の言っている男は、こいつのことだろう?」
グイッと後方を指差す金色の男。
すると――バルコニーの奥から・・・2人の男が現れる。

1人は――あの蒼い男、ランサー。
そしてもう1人は――カソックに身を包んで如才ない笑みをその顔にたたえた――古泉一樹だった。

「古泉!?なぜお前が・・・!?」
戸惑うことこの上ない俺の問に、古泉は笑みを崩さず答える。
「なぜ?ヘンなことを聞くのですね。ランサーもこの『アーチャー』も、僕のサーヴァントですから」
は・・・?ナニヲイッテイルノダコイツハ・・・?
「古泉君・・・!アンタまさか・・・」
「ご推察の通りです涼宮さん。僕もマスターとして、この聖杯戦争に参加させていただいてるんですよ」
そんな・・・古泉がマスターだと・・・!?

「監督役は戦争に介入できないはずではなかったのか?」
聖杯戦争最初の夜、教会で古泉自身が言っていた言葉を、俺は思い出す。
「まあ、これも反則ってヤツですね。大目に見てください」
「それに・・・マスターは最大でも1体のサーヴァントしか従えられないはずじゃ・・・」
「ああ・・・それも監督役の特権ですよ。どんな完璧そうに見えるルールにも抜け穴はあるものです」

一瞬、古泉のさわやかな笑みが邪悪に歪んだように見えた。
いくら監督役とはいえ、一度に2体のサーヴァントを従えるなんて・・・。
「それに・・・いまこの金ぴかのこと・・・『アーチャー』って・・・」
ハルヒが疑問の声をあげる。そうだ。アーチャーは既にハルヒのサーヴァントとして存在している。
同じクラスのサーヴァントが同時に2体も召還されるなんてこと・・・あるわけが。
「それはソコの男が偽者だということだ。我が本物のアーチャーだ」
金色の男――アーチャーが答える。
何だって・・・?ハルヒのアーチャー(赤)が偽者とは・・・どういうことだ?
「つまりですね。涼宮さんのアーチャーは本来召還されるべきでない存在、ということでしょう。
 ご本人には心当たりがあるのでは?」
アーチャー(赤)は無表情のまま、そう言う古泉をじっと見据えている。

目の前に現れた3人の古泉(内2人は顔が似てるだけ)に、困惑する俺達。
今この場で戦うしかないのか・・・そう思った時、
「此度の聖杯戦争、いまだサーヴァントが5体も残っているというという稀有な事態です。
 もっとも1体、偽者らしき方もいますが・・・」
古泉がここぞとばかりにお得意の1人語りを始める。
「元来、聖杯を起動させるためには、相当数のサーヴァントの魂が必要なのです。
 だからサーヴァント同士は殺しあうわけなんですが・・・ともかく今回はまだ3体分と、
 聖杯が起動するには魂の量が足りません」
俺が知らなかったカラクリをいとも簡単に暴露してみせる古泉。

「北高の裏庭に・・・地下の洞窟へと続く巨大な穴が出現しているはずです。
 そしてその洞窟の最深部に聖杯は存在します――」
古泉はそこでひとつ息をつくと、一気に言い放った。
「明日の夜12時。その洞窟で決着を着けましょう」

場面は変わり・・・俺の家の居間は重苦しい雰囲気に包まれている。
ハルヒは珍しく朝比奈さんの入れたお茶に少しも手をつけない。
朝比奈さんも正座して、俯いたまま一言も発さない。
アーチャーとライダーは並んで、壁にもたれかかり、同じく沈黙。
セイバーは俺の隣でちょこんと行儀よく正座している。勿論無言で。

ちなみにバーサーカーを失ったあのマスターの少女はいったん俺の家で保護することになった。
最初は自分のサーヴァントを失った悲しみからか、延々と泣き続けていたが、
俺が頭を撫でてやり、家で引き取る旨を伝えると・・・、
「ありがとう・・・キョンくん」
と、抱きついてきて、更に目いっぱい泣いた。
今は俺の部屋で眠っているだろう。
俺としては・・・妹でも出来た気分だ。

この場にいる全員の思いは1つだろう。この聖杯戦争の黒幕にしてラスボスがあの古泉だった。
そのことについての驚きと戸惑い、そして来るべき決戦へ向けての緊張に包まれている。
「アイツ等には・・・勝てないかもしれない」
緊張の糸を断ち切るようにポツリと嘆いたのはハルヒだった。
「どうした?いつも強気なお前が・・・らしくもない」
「だってキョン・・・あの金ぴかの能力・・・見たでしょ?」
バーサーカーを一瞬に屠り去ったあの攻撃。
無数の武器がヤツの背後から飛び出し、爆撃のように相手を襲う――。
「アイツの宝具はまさにあの武器全てよ。全ての武器が宝具クラスの攻撃力を秘めている。
 アイツ自身は『ゲート・オブ・バビロン(王の財宝)』とか言ってたけど・・・。
 あの宝具はちょっとやそっとじゃ防げない・・・。セイバーのエクスカリバーでも対抗できるかどうか・・・」
確かに・・・ハルヒの言う通りかもしれない。

もし、相手がランサー1体だったなら、こちらの3体のサーヴァントをもってすればどうにでもなっただろう。
しかしあのアーチャー(金)の宝具は・・・相手の人数など関係ない。
放ったが最後、敵を屠るまで宝具クラスの武器が雨のように降り注ぎ続ける・・・。
「何とか・・・勝ち目はないんですか?」
おずおずと尋ねる朝比奈さん。ライダーも心配そうに見つめている。

「それが・・・ないことはないんだけど・・・」
「あるのか・・・!?」
俺は思わずハルヒの発言に食いついてしまう。しかし、ハルヒはどうも歯切れが悪い。
「アイツに勝てる方法があるんなら・・・試してみる価値はあるだろう?」
「アンタが死ぬとしても?」
ハルヒはキッと俺を睨み、言い放つ。
「死ぬって・・・」
思わず勢いが削がれてしまった俺に、ハルヒは説明を始めた。

「アンタの魔術・・・『投影』があるでしょ?」
そうか・・・!気付かなかった!俺の『投影』は目で見た武器なら全て再現可能だ。
それをもってアーチャー(金)の放つ宝具を相殺すれば・・・。
「アンタの魔力の容量で・・・アイツの攻撃を相殺しきれる?」
ハルヒの指摘に、一瞬で興奮から冷める俺。
そうだった・・・いかに『投影』が使えるとはいえ、俺は魔術師として未熟。
使える魔力の量になんて限りがある・・・!
「言ったでしょ?投影は身体への反動が大きいって。あの金ぴかにそれで対抗しようモンなら、
 間違いなくキョンは死ぬわよ」
『死ぬ』――その言葉を聞いた瞬間に背筋が凍る。朝比奈さんも心配そうに俺を見つめている。

しかし――ヤツに・・・古泉に勝つためには・・・やるしかない。
「それでも・・・やるしかないだろう?」
俺はハッキリと言い放つ。
「そんな・・・キョンくんが死ぬなんて・・・」
思わず目を伏せてしまう朝比奈さん。
確かに俺だって死にたくはない。しかしそれが・・・皆を守るためであるならば・・・。
と、俺が無謀な戦いの決意を固めかけた時、

「1つだけ・・・解決方法があるわ」
ハルヒが静かに語り始める。
「他の魔術師の魔術回路と・・・キョンの魔術回路を・・・合わせて、つなげるの」
魔術回路――魔術師が身体の中に持つ擬似神経であり、己の生命力を魔力に変換する路である。
「そうすることによって、キョンの魔術回路に他人の回路から他人の魔力を送り込むことが出来る。
 そうすれば、あの金ぴかに対抗できるだけの魔力量を補填できるかもしれないわ」
なるほど・・・要は他人の魔力を自分の中に持ってくるというわけか・・・確かにそれなら・・・。

「なるほどな、ソイツは妙案だ。で、ハルヒ、それはどうやってやるんだ?」
俺が聞き返した瞬間、なぜか黙り込んでしまうハルヒ。同じく朝比奈さんも、だんまりだ。
俺、なんかマズイこと言ったか?すると、やっとのことでハルヒがおずおずと口を開いた。

「魔術師が・・・互いの回路を合わせる手段は・・・」
「手段は・・・?」
「お互いの・・・体液の交換・・・」

「なるほど、体液の交換ね、って、ハァーーーーーーーーーーーーーッッ!?」

体液の交換?つまりそれは・・・『アレ』のことですよね?
・・・ホンキデスカ?ハルヒサン?

「本気も本気よっ!!!それしか方法がないんだから仕方ないじゃない!!!」
茹でダゴみたいに顔を赤くして叫ぶハルヒ。
朝比奈さんも両手で顔を覆い、ソッポを向いて恥ずかしがっている。
セイバーは・・・無反応。アーチャー(赤)は・・・なんか複雑そうな顔をしている。
ライダーは・・・「おお~キョンくん、プレイボーイにょろね」って煽らないでくださいよ・・・。
そして・・・一番肝心なことを聞かねばならないだろう・・・。

「で・・・俺は・・・誰とその・・・ヤればいいんだ?」
『ヤれば』って・・・もうちょっと違う言い方はなかったのかよ、俺!そのままではないか・・・。
しかし・・・魔術回路を合わせるということは・・・当然相手は魔術師でないといけないワケで・・・。
そうすると自ずと相手は絞られるワケで・・・。
「・・・あたししかいないでしょうが・・・バカ」
本格的に茹で上がってしまったハルヒがボソッと呟く。やはり、そうなるのか・・・。
「か、勘違いしないでよねッ!!これは必要だから・・・仕方なく・・・なんだからッ!!」
いきなり逆ギレしだすハルヒ。というかお前が相手で決定なのか・・・?
「わかった・・・そういうことなら」
俺が顔から火が出そうになりながらそう言いかけた時、
「わ、わたしもやりますっ!」
Oh!ジーザス・・・今のは確かに朝比奈さんの声・・・。
「わたしだって・・・魔術師です。きっと1人でやるより・・・2人のほうが効果が上がるはずですっ!
 それに・・・やっぱりキョンくんに死んで欲しくなんかありませんっ!」

俺はどうやら幻覚を見ているようだ。ハルヒと朝比奈さんが2人がかりで俺と×××をするだなんて・・・。
「みくる、やっるね~」とか煽ってるライダーの声は聞こえない聞こえない・・・。
しかし、俺を更に混乱に陥れる第3の刺客が、音もなく忍び寄っていることに俺は気付かなかった。

「わたしも参加する」

それは俺の隣でおとなしくちょこんと正座していた、そうまさしくセイバーの一言だった。
・・・って、マジデスカ?
「わたしは彼のサーヴァント。わたしと彼が行為に及ぶことにより、わたしの彼の間の契約が更に強まる。
 そして、それによる彼への魔力の補填が可能」
国語の教科書を朗読するようにサラリと言いのけるセイバー・・・。
その顔は相変わらずの無表情。少しの動揺も見て取ることは出来ない。
「・・・いいのか?」
思わず聞き返す俺に、セイバーは、
「いい。これもわたしの役目」
と、きっぱりと答えた。

「まあ人数は多い方がいいかも知れないし・・・決まりね」
茹でダコハルヒが小さく、そう宣言する。

どうやら・・・俺は明日を待たずして死んでしまうかもしれない・・・。
そんなこれ以上ない幸福と言っていいのやら災難と言っていいのやらわからない微妙な状況の俺を、
ライダーはケラケラと笑っていた。「これはキョンくん頑張らないといけないにょろね~」とか言いながら・・・。
そして、アーチャー(赤)は、これまたこれ以上ないくらいの複雑そうな表情で・・・俺を睨んでいた。

その後のことについては・・・まあ、謹んで割愛させていただきたいと思う。
本気で最終決戦を前にして死ぬかと思った・・・。
3人とも凄いの何のって・・・と、思い出すと今にも顔から火が出そうになるのでやめておこう・・・。
ハルヒの言う通り、魔術回路の接合はどうやら上手くいったらしい。
ハルヒの、朝比奈さんの、セイバーの魔力が少しずつ俺の中に流れてくるのが感覚的にわかる。

そして・・・ついに明日の夜・・・この聖杯戦争も最終局面を迎えるのだ。
古泉が一体何を考えているのかは知らないが・・・ここまできたらやるしかないだろう。

ふと思う・・・こうして俺が生きているこの世界は・・・もしかしたら俺の夢なんじゃないかって。
時々、そう思ってしまうくらいに、自分の目の前の出来事や体験に実感がなくなる。
もしかしたら・・・俺は誰かが作った世界の中で、作られた役を演じているだけの存在に過ぎない、だなんて、
そんな他愛もないことを考えたりする。

まあいい。これが夢だろうと現実だろうと。
俺は・・・俺のやるべきことをやるだけ・・・。
あーんなことがついさっきあったからか・・・ハルヒが、朝比奈さんが、そしてセイバーまでもが、
俺の中で大切な存在となりつつある。そんな大切な人達を・・・俺は守る。
そう決意し、俺は床についた。

あ、ちなみに俺の部屋は使えませんので寝床は居間です・・・。
なぜって・・・3人共・・・俺の部屋で寝てしまったのだからな・・・。
しかしまだ起きてる元気があるなんて・・・俺は結構スタミナがあるのかもしれない。

~interlude1~
ついに、このワケのわからない聖杯戦争も終わりを迎える。
そして、俺が成すべきことを成し遂げる・・・最後にして最良のチャンスが訪れようとしている。
あの男・・・こっちの世界の『俺』――『キョン』は今頃――考えるだけで吐き気がする。
『俺』にハルヒを――朝比奈さんを――長門を――○○する資格なんてない。
『俺』は彼女達を○○にすることしか出来ないんだ・・・。
つまり『俺』は――『生きていてはいけない』存在なのだ・・・。
そんな思いに耽っていると・・・1人の人影が俺の前に姿を現す。またライダーもとい鶴屋さんか?
否、それは朝比奈さんだった。その麗しいお姿は、以前の世界と少しも変わることがない。
「アーチャーさんですよね?」
「お休みになったのではなかったんですか?」
この人の前だと・・・どうしても口調が丁寧になってしまうな・・・。
「それはっ・・・!」
顔を赤らめる朝比奈さん。まあ、目が覚めて慌てて自分の部屋に戻る途中、といったところだろう。

「アーチャーさんって・・・何か初めて会った気がしません」
顔を赤らめたまま呟いた朝比奈さんのその一言に俺は心底ドキリとした・・・。まさか気付かれた?
「いつか遠い昔に・・・あなたに会ったことがあるような気がします」
「どうして・・・そう思うんですか?」
「それは・・・禁則事項です」
・・・!その言葉と仕草に、俺は懐かしさで一瞬崩れ落ちそうになった。
「というのはウソで・・・ホントに何となくなんです。気にしないでください」
そう言うと、朝比奈さんは丁寧な仕草でペコリと頭を下げ、部屋へと戻っていった。
懐かしくない・・・戻りたくないといったらウソだ・・・。
でも俺は・・・もうあなたが淹れたお茶を飲むことももう出来ないんでしょうね・・・。

~interlude2~
続いて、音もなく俺の前に現れたのはセイバー――否、長門であった。
「どうした『セイバー』、マスターの所にいたんじゃないのか?」
「・・・・・・」
少し皮肉の入り混じった俺の呼びかけにも、長門は無反応だ。
以前の世界と同じ、液体ヘリウムのような目で。俺に視線を向ける。
そういえば、アサシン(喜緑さん)もライダー(鶴屋さん)も俺の正体に気付いていた。
だとすると、同じサーヴァントとしてこの世界に存在している長門も・・・きっと俺のことを・・・。

「・・・わたしは彼を守る。それがわたしの役目」
唐突に、長門は小さくそう呟いた。要は・・・俺の野望は何としても阻止するということだろうか。
「でも――」
言葉を続ける長門。珍しく伏し目がちになったその表情を俺は見逃さなかった。
「わたしは・・・『あなた』も守りたい」
そう言い残し、記憶の中と変わらない、無口で小柄な少女は去っていってしまった。

『あなたも守りたい』か・・・。こんな姿になってまで俺は長門に助けてもらえるなんて、な。
そんな長門は――やっぱり俺の記憶の中の少女のままだ。

しかし俺はもう戻れないんだ。
スマンな、長門。お前を図書館に連れて行ってやることも、もう出来なさそうだ・・・。

~interlude3~
そして最後の来客は我がマスター、ハルヒだ。
「アンタ、まだこんなトコで油売ってたの?明日は大事な戦いが控えているんだから、
 さっさと休みなさいよ」
「サーヴァントに基本的に休息は必要ない。それより、『マスター』こそ『アイツ』の部屋にいなくていいのか?」
これまた皮肉の篭った俺の言葉に、ハルヒは顔を上気させ、ムキになる。
「い、いいのよッ!キョンはどこか別のトコに寝に行っちゃったみたいだし・・・、
 そ、それに『アレ』は仕方なくッ・・・!」
「はいはい、わかったよ」
俺のつっけんどんな対応に、ハルヒはブスッと頬を膨らませ、
「とにかく!アンタには明日も活躍してもらわなきゃ困るんだから!」
「わかってるさ」

ハルヒは相変わらずだ。以前の世界でもコッチの世界でも、その威勢のよさは変わらない。
「そういえば・・・」
俺は・・・唐突にひとつの質問を投げかけた。
それは、ハルヒのハルヒらしさを確かめたいという気分になったからなのかもしれない。

「ハルヒは・・・聖杯に何を願うんだ?」
「決まってるでしょ」
ハルヒは得意げに腕を組み、
「この世界を、もっと面白くしてもらうのよ」
と、ハッキリ言い放つ。ああ・・・コイツはやっぱり俺の知ってるハルヒだ。

~interlude4~
「魔術やらサーヴァントやらがのさばる世界は面白くはないのか?」
「ソレはソレ、よ。あたしはせっかくなら、宇宙人や未来人とかに会ってみたいわ」
『ソレはソレ』の基準はよくわからないが・・・。まあハルヒの思考はハルヒにしかわからないということだろう。
「願いが・・・叶うといいな」
「あのね、願いは『叶うといいな~』とか言って座して待つものじゃなくて、
 コッチから積極的に叶えてやるモンなのよ?」
「それはそれは・・・何ともアクティブなことで・・・」
「何捻くれたこと言ってんのよ。何ならアンタをSOS団の特別団員にしてやってもいいわよ?
 サーヴァントは使い勝手がいいし、宇宙人基地の諜報員としてはもってこいね」
こぼれんばかりの楽しそうな笑みを浮かべるハルヒ。
やっぱりコイツは・・・笑ってる顔が一番良く似合う。

「そうだマスター、いやハルヒ」
俺は・・・唐突でイヤになるほどバカらしい提案を投げかける。
「何よ」
「お前、髪を伸ばしてポニーテールにでもしてみたらどうだ?きっと似合うぞ?」
「バカじゃないの?」
ハルヒは・・・俺の知るSOS団団長のハルヒのままだ。
しかも俺をこんな姿になってまでSOS団に入れてくれるらしい。嬉しいやら悲しいやら・・・。
でもな、俺はもうSOS団には戻れない。
もうお前の傍にもいてやれないんだ・・・。

第7章 完



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