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目を覚ます――視界に入るのは見慣れた自分の部屋。
ベッドから起き上がり、階段を降りる。
身体中がダルいし、眩暈がする。
思考が少しずつクリアになってくるにつれ、つい先程の出来事を思い出す。
そうだ・・・俺はキャスターを倒したんだ・・・。
居間には胡坐をかいて、お茶を啜っているハルヒがいた。
「やっと気がついたみたいね」
そう言い、呆れたように俺を見るハルヒの話によると、俺はあの後すぐにぶっ倒れてしまったらしい。
そこでセイバーが何とか俺を担いで、こうして家まで帰ってきたとか。
俺は何気なしに居間の壁掛け時計を見上げる。どうやら4時間くらい寝ていたらしい。

更にハルヒが説明するには、アサシンはアーチャーが倒したらしい。
それでもアーチャーは深い傷を負ってしまい、そのダメージは甚大だったようだ。
「アーチャーは今、霊体化させて休ませてるわ。しばらく戦闘はムリね。
セイバーもあのキャスターに操られかけたおかげで消耗が激しくて、今も休んでいるわ」
「そういや・・・セイバーはキャスターのルールブレイカーとやらのせいで、俺との契約は断ち切られたハズじゃ・・・」
「それならアンタが寝てる間にセイバーが勝手に再契約してたわよ。
こう、腕にガブッ、て噛み付いてね。あれで契約できるなんて・・・よくワケがわからないんだけどね」
なるほど・・・とにかく2体のサーヴァントを倒し、こちらは全員生存。
とりあえずは一件落着といったところだろう。
しかし、ハルヒはなぜかブスッと不機嫌そうな顔をしている。どうしたものか・・・と思っていると、
「アンタ、『アレ』は何なの?」
「『アレ』とは?」
指示語だけじゃ伝わらないぞ。主語をはっきりさせなさい。
「キャスターを倒したあの奇怪な魔術のことよ!?あんなのあたしでも見たことないわ!」

「アレは・・・『投影』だ・・・術者のイメージで真作を再現する魔術なんだが・・・」
「そんなの知ってるわ。アンタ投影なんか使えたの?」
「いや・・・何て言うのかな・・・気付いたら使えるようになってたって言うか・・・」
俺はウソを言っているワケではない。本当に無意識の内に、あの時は投影魔術を使っていたのだ。
「普通の投影っていうのはオリジナル通りの性能も強度も再現することは出来ない、
それはそれは効率の悪い魔術なのよ?それをアンタはあんな宝具クラスの武具まで再現するなんて」
そうだったのか。俺は自分のしたことの異常性を、どうやら全く自覚していなかったらしい。
「アンタ・・・もしかして宇宙人?それとも異世界人?今度1回本気で身体を調べさせてもらうわよ?」
ハルヒはわりかし本気のようだ・・・。オイオイ・・・。

そして、肝心の今後の方針である。
現在残っているサーヴァントは、倒したキャスターとアサシン、我が陣営のセイバーとアーチャーを除けば3体。
あの小学生みたいな少女がマスターのバーサーカー、マスター不明の古泉似の蒼い男ランサー。
そしてマスターもサーヴァント自体の詳細も不明なライダーである。
セイバーとアーチャーが万全でない現状では、あのバケモノ――バーサーカーに挑むのは無謀。
そもそもどこにいるのかもわからない。同じくマスターも所在も不明なランサーにも手出しは出来ない。
アレ・・・俺達やることなくない?と、ツッコミを入れそうになった俺に、
「差し当たっては・・・学校に潜んでいるマスターね」
と、ハルヒが宣言する。
「は?学校?」
「・・・アンタ知らないの?」
何でも学校には、他のマスターによって仕掛けられた結界があるとか・・・。
「結界って・・・キャスターが仕掛けてたみたいな?」
「そんな甘っちょろいモンじゃないわ。あれは発動したら最後、学校中の生徒が死ぬわよ」
何と・・・!そんな切迫した危機が我が北高に迫っていたというのか!?

「幸いなことにまだその結界が発動する様子はないけど・・・向こうの裁量1つですぐにでも発動する可能性があるわ」
「つまりは・・・」
「明日から、学校に潜むマスター探し、ね」
さて、翌日。俺とハルヒは普通に学校に登校している。
そしてこれまたいつものように校門をくぐった瞬間、途端にその表情を険しいものにするハルヒ。
「まずいわね・・・結界の規模が更に大きくなってる。これは一刻を争うわ」
確かにハルヒの言う通り――禍々しい魔力の流れが充満しているのが俺にもわかるぐらいだ。
「とにかく、今日は手分けして結界の場所と仕掛けたマスターを探しましょう。
最初は屋上に仕掛けてあったんだけど・・・この前確認したらもう移動してたわ。
きっと向こうもコッチの動きに感づいているハズよ」

昼休み。俺は校内――特に部室棟を隈なく歩き回っていた。
ちなみに今日、俺はセイバーを連れて来ていないし、ハルヒもアーチャーを連れて来ていない。
2人共、前回のキャスター&アサシンとの戦いでかなりの深手を負ったことにより、
現在はオーバーホール中、俺の家で休息している。
そんな事情もあり、俺もハルヒも、学校に潜むマスターに対して、過度に深入りをすることは危険である。
ただ、2人共、白昼堂々戦闘を仕掛けてくるマスターなどいないだろうとタカをくくっていた。
そして――そんな考えがいかに甘いものだったかということを、俺は思い知らされることになる。

部室棟の3階――俺達SOS団の部室がある階だ。
そう言えば・・・朝比奈さんも古泉も今日は学校に来ていない。
監督役の古泉はともかく、戦いに巻き込まないためとはいえ、あんな形で俺の家を追い出してしまった
朝比奈さんの欠席は非常に心配なところだ。
と・・・それよりこの3階――特に魔力の濃度が濃いような気がするぞ・・・。
しかも不思議なことに、昼休みにもかかわらず、どの部室にも生徒が溜まっているような気配がない。
そして、俺はついにその禍々しい魔力の源泉となる場所へ辿り着く。

「SOS団の部室・・・ここか・・・」
その場所とはまさしく俺達SOS団の部室。もしかするとここに結界の大元が?
「だとしても・・・1人で踏み込むのは危険だ。とりあえずハルヒに知らせるか・・・」
と――踵を返そうとしたその時、

「こんなとこで何やってるんだキョン?もうすぐ予鈴がなるぜ?」
ドキリと心臓が鼓動を刻む。思わず振り向いたその先には――
「何だ・・・谷口かよ。驚かすなよな」
そこにいたのは俺のクラスメート、谷口であった。
「いや珍しくキョンが昼休みにどっか行っちまうモンだからな。
いつもは俺や国木田とかと一緒に教室で昼飯食うのによ」
「ああ・・・ちょっと色々あってな」
関係のない人間を巻き込むワケにはいかない。俺はさも何もない風を装う。

すると谷口はいつものオチャラケた顔のまま、ポツリと呟いた。
「何か探し物でもしてるのか?
例えば――学校に仕掛けられた『結界』とか?」
「・・・え?」
今コイツは何と言った?確かに『結界』という単語が聞こえたが・・・。もしや・・・!?
「お前の思っている通りさ。結界を仕掛けた学校のマスターは・・・俺だ」
谷口はだらしなく顔の筋肉を緩ませたまま、そう言い放った。
「お前が!?」
信じられないという思いと共に、思わず身構えてしまう俺。

すると谷口は両手を上げ、俺を宥めすかすように言う。
「おいおい、そんな怖い顔するなよ、キョン。別にお前を今すぐどうこうしようなんて気はない。
同じマスター同士、仲良くやろうぜ」
「ああさいですか、と信用できるほど俺は人間が出来ちゃいない」
「まあ、聞けよ。お前に1つ提案があるんだ」
「提案だと?」
いつになく自身ありげに振舞う谷口。
「俺と組まないか?」
「は?」
「実はな、俺は正規のマスターじゃないし、そもそも魔術師ですらない。
ちょっとした裏技で、今こうしてマスターをしているんだ」
魔術師でないとは・・・。どうりで同じクラスにいながらハルヒにも気付かれないワケだ。
「だからサーヴァントを得たものの、戦い抜く自信が無い。そこでお前のようなパートナーが必要ってワケだ。
やっぱり持つべきものは頼れる友人って言うしな」
谷口から持ち掛けられたのは同盟の申し出だった。しかし、
「俺は既にハルヒと組んでいるのだが」
「知っているさ。でも涼宮みたいな勝手で我侭で頭のイカレた女、正直お前に相応しいとは思えない」
何じゃそりゃ。今までは散々俺とハルヒの仲をからかっていたクセに・・・。
「断る。ハルヒを裏切ることは出来ないし、学校に結界を仕掛けるような非道なマスターとは組みたくない」
「どうしてもか?」
「ああ、どうしてもだ」
俺がそう固辞した瞬間、谷口の表情が変わる。
「そうか。じゃあ仕方ない。考えが変わるよう、少し痛めつけてやるよ」
谷口の背後から――いつの間に現れたのだろう――ゆらりと不気味な影が現れる。
「行け、ライダー。キョンが素直になるよう、少し遊んでやりな」

谷口の背後からゆらりと現れた人影――ボディコンのような露出の多い服に身を包んだ女性だ。
その緑色の髪は床に届かんばかりに長く、顔には眼の部分を覆い隠すようなグロテスクなマスクをしている。
そしてその手に持つのは――巨大な鎖つきの釘剣。
「しまった・・・!サーヴァントか!」
そう嘆いた時にはもう遅い。長い髪のその女性は、地面を舐めるような低い姿勢で俺に向かってくる。
そして強烈な回し蹴り一閃――俺は数メートル吹っ飛ばされる。女性なのに凄いパワーだ・・・!
アバラ骨が軋む痛みに怯んでいる暇はない。さっさと起き上がり反撃を・・・。
俺はキャスターと対峙した時の短剣を再び投影する。頭がキーンと痛むのはおそらくその反動だろう。 
投影は身体にかかる負担が大きい――いつかハルヒにそう言われたが気にしている場合じゃない!
長い髪の女性――ライダーはまるで俺が起き上がるのを待っていたかのように余裕で立っている。
「クソッ!舐めんなよッ!!」
突進する俺――しかし所詮は生身の人間、サーヴァントにタイマンを挑むのはやはり無謀だった。

がむしゃらに繰り出した一撃はあっさりかわされ、逆にカウンターのパンチを腹にもらう。
内臓という内臓が全てひっくり返りそうな衝撃だ・・・!
「グハッ!!!」
俺はたまらず、血反吐を吐きながら床をのた打ち回る。
「情けねえな、キョン。ライダーはわざわざ素手で相手してやってんだぜ?」
嘲り笑う谷口。するとライダーはおもむろに倒れる俺のノドを掴むと、右手1本で高々と吊り上げた。
「・・・ガッ!!・・・八ッ!!」
キリキリとノドが締め上げられる。呼吸が出来ない・・・。
すると、ライダーと呼ばれた女性が始めて口を開く。
「マスターの提案、呑んだ方がいいと思うんだけどな~。
そうしないとキョン君、死んじゃうにょろよ?」
その口調は――不気味な風貌に似合わず、少々、いや、かなりヘンだった・・・。

そして、締め上げられ、もうダメだと思った瞬間、ライダーは片手で、そのまま俺をブン投げた。
コンクリの廊下に、無慈悲に叩きつけられる俺。
「ガハッ・・・!!」
そんなもがき苦しむ俺を谷口が問い詰める。
「もう1回聞いてやるよ。キョン、お前は俺と組むよな?」
その問にYESと言える舌を、俺は持ち合わせちゃいない。ハルヒを裏切ることは出来ない・・・!

「ハァッ・・・ハァッ・・・お断りだ・・・」
そんな返答を聞いた谷口は、冷たく言い放つ。
「フン。キョン、お前バカだよ。ライダー、もういい、殺しちまえ」
途端、再度俺に襲い掛かってくるライダー。
その手に握られる釘剣が、俺を本気で殺すつもりだと、無言の内に語っている。
「命令とはいえ、キョン君を殺すのは忍びないにょろ。お姉さんもめがっさ残念だよ」
そんなライダーの惜別の言葉が耳に響く。
あと数秒で――あの釘剣は確実に俺の身体を貫くだろう。

ダメだ・・・まだ死ぬワケには・・・いかない!!
俺は渾身の力を込め、己の左手を掲げた。
手の甲に刻まれた、俺の令呪が光を放つ。
「令呪のもとに命令する・・・!セイバー・・・来いッ!!」

サーヴァントに対する3度の絶対命令権の『令呪』。
これをもってすれば、例え今は離れた場所にいるセイバーでも、俺の下に現れてくれるハズ・・・!
次の瞬間――どこからともなく俺の目の前に、ここ数日で見慣れた小柄な少女の背中が現れる。
予想通り・・・セイバーの登場だ。

セイバーの姿を認めるや否や、足を止めるライダー。
「チクショウ!セイバーを呼びやがったか!!」
谷口が焦る。
「・・・だいじょうぶ?」
小さく背中で尋ねるセイバー。
「ああ・・・何とか」
そんな俺の答えを聞くや否や、セイバーはライダーに目掛けて一気に突進する。
ガキン!!
振り下ろす剣戟をライダーが釘剣で受け止める。
しかし、セイバーはそれに構わず、目にも留まらぬ速さで剣を繰り出し、ライダーを押し込んでいく。
分が悪いと感じたのか、ライダーはオリンピック選手もビックリのバク宙で、谷口の所まで下がる。

「流石に長門っちが相手だと少し分がわるいにょろね~」
そう言えば・・・ライダーもなぜか俺の名前もセイバーの真名も知っている。
キャスターやアサシンと同じだ・・・どうなってるんだろう。
「・・・!何言ってるライダー!さっさとセイバーを倒せ!!」
谷口がライダーを急かすものの、ライダーは応じる気配がない。
「それは無理ってもんさ!ココはぴょろ~んと逃げた方が得策だよっ!」
ライダーはケラケラと陽気に言い放つ。
今更なんだが・・・ライダーはサーヴァントにしては少しどこかヘンだ・・・。
「それじゃあ、また機会があればっ!」
そう言うとライダーはジャラっと己の釘剣の鎖を振る。
させじとダッシュするセイバー。しかしライダーは次の瞬間――
グシャッ!!
――何と己の首を真横から釘剣で突き刺した。

たちまち飛び散る血飛沫――まさか・・・自害!?
いや・・・みるみる内に滴り落ちる血が、ライダーと谷口を囲むように魔方陣を描いていく。
次の瞬間・・・その魔法陣から紅い光が放たれる。突進を止めるセイバー、目を瞑る俺。
そして目を開けた時、ライダーと谷口の姿はもうなかった。
「スマンな、セイバー・・・また助けられた、な」
ゆっくり立ち上がりながらセイバーに声をかける。
いつかセイバーが仕込んでくれた治療用ナノマシンとかなんとかのおかげか、
ライダーに痛めつけられた身体の痛みも少しずつ癒えてきている。
「あなたを守るのがわたしの役目だから」
セイバーが最後にそう、ポツリと呟いた。

「まさかあのアホの谷口がマスターだったとはね。しかも魔術師じゃないですって?わからなかったワケね」
少し時間は経って、自宅――もはや定例となった今での作戦会議。
俺が今日の出来事を語ると、ハルヒは開口一番そんなことを洩らした。
「魔術師でもないクセにどうやってサーヴァントを手に入れたのかは謎だけど・・・。
まあ、あのアホの谷口だって言うなら楽勝ね。明日にでもライダーごとボコボコにしてやりましょ」
確かに・・・俺1人で挑むのはいくらなんでも無謀だということは今日イヤというほどわかったが、
セイバーとハルヒの力を借りれるならば、そこまで苦戦することもないだろう。
しかし翌日、早朝にかかってきた1本の電話が俺のそんな余裕を打ち崩した。
『キョンか?』
電話の主は紛れもなく谷口だった。
「お前・・・!!何の用だ!?」
『今日、学校の屋上に12時に来い。セイバーや涼宮は連れてくるな』
「そんな無謀なこと・・・俺がYESとでも言うと思ってるのか?」
『従わなければ、お前の大事な大事な憧れの先輩に傷がつくことになるぜ』

「何・・・!?谷口、お前もしかして・・・!!」
次の瞬間、聞こえてきたのは、よく聞き慣れた、しかしどこか怯えをたたえた、甘い甘いエンジェルボイスだった。
『キョンくん・・・』
それは紛れもなく朝比奈さんの声。そういうことか・・・!!
「谷口・・・!!テメエッ・・・!!」
思わずいつになく乱暴な口調になる俺。あの朝比奈さんを人質にとられて冷静でいられるわけはない。
『俺もライダーは連れてこない。対等な立場でゆっくり話し合おうや』
そんな谷口の言葉を残し、電話は切れてしまった。

そして12時。屋上へと続く扉の前に俺は立っている。勿論、単身だ。
扉を開けると――屋上の真ん中に谷口が立っていた。
そしてその傍らには、谷口に顔にナイフを突きつけられ、青い顔をしている朝比奈さんがいる。
「言いつけ通り来たぞ。朝比奈さんを解放しやがれ」
俺は怒気を孕んだ声で谷口に言い放つ。
もし朝比奈さんが人質に取られていなければ今すぐにでも谷口をブン殴っているだろう。それぐらい俺はキレている。
「オイオイ・・・キョン、お前そんな偉そうなことを言える立場かよ」
谷口はいやらしい笑いを浮かべ、俺の怒りに満ちた表情を窺っている。
「要求がある」
谷口は言い放つ。
「何だ。またお前と組めって話か?」
「そんなのはもういい――セイバーに命令して・・・涼宮を殺せ。さもないとこの場でコイツを殺す」
谷口は朝比奈さんの頬にペシペシとナイフを押し付ける。朝比奈さんは顔面蒼白だ。
「な・・・!ハルヒを殺せだと・・・!?」
「そうだ。その後お前にはセイバーとの契約を切って、令呪を放棄し、聖杯戦争からリタイアしてもらう。
なーにそうすればお前の命は取らない。セイバーも俺のサーヴァントとして精々有意義に使わせてもらうさ」
そんなこと出来るワケ・・・しかし断れば朝比奈さんの命が・・・。

「そうだキョン、面白い話聞かせてやるよ」
悩む俺に、谷口がニンマリと不気味な笑みを浮かべ、声をかけてきた。
「魔術師でもない俺が・・・どうやってライダーを手に入れたのか教えてやろうか?」
そのセリフを聞いた途端、朝比奈さんがビクッと肩を震わすのを俺は見逃さなかった。
答えない俺に構わず、谷口は勝手に1人で語りだした。
「俺の家はな・・・代々魔術師の家系だった。
でも俺の何代か前から、魔力を持つ子供がパッタリと生まれてこなくなったらしい」
何と・・・谷口の家系はハルヒと同じく魔術師一家だったらしい。驚きだ。
「だから勿論俺も魔力はない。ただ知識として聖杯戦争の存在は勿論知っていた。
俺は・・・どうしても参加したかった。でもサーヴァントを召還することは出来ない。
仕方なく、渋々と1度は諦めかけたんだ――」
遠い目をして、更に続ける谷口。
「でもな、ちょうどそんな時に俺にサーヴァントを譲ってくれるっていう優しい人が現れたんだな」
そんなお人よしの魔術師がいるのだろうか・・・。
「何でもその人は・・・自分の大切な人が同様に聖杯戦争にマスターとして参加しているのを知ったらしくてな。
どうしてもその人を傷つけたくなかったらしい。泣ける話だよな~」
クックック、と下品な笑いを浮かべる谷口。
「まあ、そうしてライダーを得たものの戦争にしたくなかったそのマスターと、サーヴァントがいないにもかかわらず、
戦争に参加したかった俺の利害が見事に一致したってワケだ」
つまり谷口は――参加を放棄したとあるマスターからライダーを譲ってもらったということか。
「で、だ。俺にライダーを譲ってくれた優しい優しい魔術師さんが誰だか、知りたいか?」
そんな谷口のセリフに一番反応したのは朝比奈さんだった。
「谷口くん・・・!それだけは言わないで・・・!」
まさか・・・!?

「そうだ、キョン。俺にライダーを譲ってくれたのは――コイツ、朝比奈みくるだよ」

衝撃だった。まさかあのSOS団の女神にして、俺の憧れの先輩、朝比奈さんが魔術師だったなんて・・・。
「そんな・・・それは言わないって約束だったのに・・・」
とうとう泣き出してしまった朝比奈さんは、力なく俯いてしまった。
「それで、どうしても戦いたくなかった『大切な人』ってのはお前のことだよ、キョン。
幸せモンだな、お前。そもそも、ライダーを譲ってもらう条件だって、
『キョンくんには手を出さないで』ってことだったしな。いや~モテる男は辛いね~」
高らかに笑う谷口を尻目に、朝比奈さんは、
「ごめんなさい・・・黙っててごめんなさい・・・」
と、涙声で呟いている。
「ケッケッケ、それでモテるキョンくんよ?どうする?
こんな可愛い可愛い朝比奈先輩を、見殺しにすることなんて出来るか?」
「・・・キョンくん・・・わたしのことは・・・」
搾り出すように声を出す朝比奈さん。気にしないでくれとでも言うつもりだろうか・・・。
もっとも・・・恐怖に打ち震え、目に涙を溜めた彼女の姿を見たら・・・そんなことも出来るハズがない。
悩む俺を谷口はニヤリとした表情で見つめる。
「さあ、どうするよキョン」
どうするもこうするもない。
ハルヒを殺すことも・・・朝比奈さんを殺すことも・・・セイバーを見捨てることも俺には出来ない。
「答えは――NOだ」
俺の答えにビクッと肩を震わす朝比奈さん。
「じゃあコイツは殺していいってワケか」
谷口がナイフを持つ手に力を入れる。
「それも許さん」
「は?意味がわからねえぞ」
谷口は一気に不機嫌そうに顔をゆがめる。

「キョンくん・・・わたしのことは・・・」
搾り出すように声を出す朝比奈さん。気にしないでくれとでも言うつもりだろうか・・・。
もっとも・・・恐怖に打ち震え、目に涙を溜めた彼女の姿を見たら・・・そんなことも出来るハズがない。
悩む俺を谷口はニヤリとした表情で見つめる。
「さあ、どうするよキョン」
どうするもこうするもない。
「答えは――NOだ」
俺の答えにビクッと肩を震わす朝比奈さん。
「じゃあコイツは殺していいってワケか」
谷口がナイフを持つ手に力を入れる。
「それも許さん」
「は?意味がわからねえぞ」
谷口は一気に不機嫌そうに顔をゆがめる。

「お前は触れてはならない領域に触れたっッ!!!」
突如、感情を露にし、叫ぶ俺。言っただろう、俺はキレていると。
「歯ぁ食いしばれッ!!足が立たなくなるまでボコボコにしてやるッ!!」
俺は叫んだ――その刹那、谷口の背後から2つの人影が現れる。
セイバーと、セイバーに抱えられたハルヒだ。
そう、俺は実はハルヒとセイバーを連れて来ているのだ。
もっとも谷口に気付かれないよう、2人は屋上の下、校庭で待機させていた。
そして時機を見て、セイバーの跳躍力をもってハルヒ共々一気に屋上に流れ込んでもらうという手筈になっている。
「テメエッ!!!約束破りやがったなッ!!」
「みくるちゃんを人質に取るなんて、やっぱアンタは最低のアホねッ!!」
ハルヒが叫ぶ。

そして、すかさずハルヒがナイフを握る谷口の手を目掛けて、魔力弾を放つ!
「痛ってッ!!!」
叫ぶ谷口。朝比奈さんを傷つけぬよう、上手く威力の調節された魔力弾は確実に谷口の持つナイフのみを弾き飛ばす。
それを見た朝比奈さんはすぐに谷口の腕から離れた。
俺は即座に谷口に駆け寄り、ブン殴ってやろうと拳を固める。
「チクショウ・・・!ライダー!!」
その瞬間、谷口の呼びかけの反応し、どこから現れたのか、俺の前に立ちふさがるライダー。
何だよ・・・やっぱりお前も約束守ってないじゃないか。

ライダーが現れたみるや否や、セイバーが即座に攻撃を仕掛ける。
よし・・・!これでライダーは動けない。この間に・・・。
ボコッ!!!
俺は谷口に駆け寄り、その顔面を思いっきりぶん殴る。
そして襟を掴み、起き上がらせると、
「学校に仕掛けた結界を解除しろ。そしてライダーの令呪も放棄しろ」
と、自分でも驚くくらいの冷たい声で言い放つ。
「誰がそんなこと・・・」
拒否しようとする谷口を俺はもう1発ブン殴った。
「グヘッ!!」
情けない声で吹っ飛ぶ谷口。
「ライダー・・・!何やってる!早く俺を助けろ!!」
必死に助けを求める谷口だが、生憎ライダーはセイバーに動きを封じられている。その時、
「キョン!谷口が持ってる本よ!それがライダーの令呪の代わりなっているのよ!!」
ハルヒの呼びかけが聞こえる。

見ると確かに谷口は左手に大事そうに、辞書のような本を抱えている。
「そ、それは・・・!!」
焦る谷口、俺はそれを無理やり奪い取るとハルヒに投げつけた。
「ハルヒ頼む!」
「任せといて!!」
ハルヒは、その本目掛けて思いっきり魔力弾を放った。砕け散り、燃え上がる本。
するとライダーは攻撃の手を止め、立ちすくんでしまった。
それを見て、セイバーも剣を止める。

「あれは『偽臣の書』ね。マスターが魔術師でない人間に令呪ごとサーヴァントの所有権を委譲する時に、
現れる本よ。まあ、所詮偽物の命令権だから、性能は本物の令呪には及ばないけどね」
とはハルヒの弁。

すると、今まで黙っていたライダーが、
「いやあ~これでやっとみくるのところに戻れるねっ!!良かった良かった!」
と、朝比奈さんの傍に寄り添った。
「みっくる~。久し振りにょろね~」
「あ・・・ライダー・・・お帰り」
朝比奈さんもおずおずと自分のサーヴァントに声をかけている。
どうやら・・・これで一件落着みたいだな。

「クソッ!!どうして俺が・・・!!」
ああ忘れていた。谷口がいたんだった。
「これでもうライダーはお前の命令は聞かないぞ。終わりだ」
「チクショウ!チクショウ・・・!!せっかくライダーを手に入れて・・・聖杯を手に入れて・・・
俺をバカにした奴等や俺をフッた女に仕返してやろうと思ったのに・・・」
そんなくだらない理由で聖杯戦争に参加したのか、コイツは。

「とりあえず谷口、アンタ、ウチのみくるちゃんを人質に取るなんて大罪よ。極刑を宣告するわ!!」
プリプリと怒るハルヒ。しかしどうやらもっと怒っている人物がいたようだ。
それは――ライダーだった。つかつかと谷口へと歩み寄ると・・・
「キミさっ!みくるの身の安全を保障するならって条件であたしはキミのサーヴァントになったんだよ?
それをあんなふうにナイフを突きつけるなんて・・・契約違反にょろよ?」
「う、うるさい!ライダー、キサマのせいで・・・ギャーーーーー!!!!!!」
谷口はそれ以上言わなかった、否、言えなかった。
なぜならライダーが思いっきり谷口の股間を蹴り上げたからだ。
あの痛みは・・・男にしかわからないだろう。たまらず谷口は気絶した・・・いや死んだのかな?
どうやら今日に限ってチャックが全開だったのが災いしたようだ。

「おイタはだめだよっ!少年!」
最後に、ライダーは陽気に言ってのけた。

さて・・・心配なのはさっきから俯いたまま涙を流している朝比奈さんだ・・・。
「ごめんなさい・・・今まで黙ってて・・・わたし知ってたんです・・・。
涼宮さんとキョンくんがマスターだってことも・・・でもわたし・・・殺し合いなんてしたくなかったから・・・。
だからといってキョンくんをこんな目に合わせる結果になっちゃって・・・あたしもう・・・。
キョンくんにも涼宮さんにも合わせる顔がありません・・・」

「何言ってるのよ!みくるちゃん!!」
世界の終わりかのように落ち込む朝比奈さんに、最初に声をかけたのはハルヒだった。
「あたしはみくるちゃんが魔術師だってことは知ってたわ。
でもこの聖杯戦争には参加してないということはわかってたから・・・
あんな厳しい言い方しちゃったけど・・・」
『しばらく俺の家に近づくな』っていうアレだな・・・。

「でもみくるちゃんは紛れもないSOS団の団員よ!あたし達の仲間なんだから、
水臭いことを言うのはナシよッ!」
ハルヒが威勢よく言い放つ。そして、
「そうですよ、朝比奈さん。俺のことなら別に気にしないでください」
俺も朝比奈さんを宥めるように声をかける。

「そうよっ!!」
いきなり叫びだすハルヒ。
アイツがああいう声を出す時は決まって何か思いついた時だ。
往々にして俺にとっては頭の痛くなるモノなのだが・・・。
「みくるちゃんッ!!あたし達と組なさい!!ライダーも戦力になるし、100人力よ!!」
やはり・・・そう来たか。ハルヒの提案はほぼ俺の予想通りだった。
朝比奈さんをこの血生臭い戦争に参加させるなんて俺としては気がひけるのだが・・・。

「・・・・・・」
朝比奈さんはしばらく俯いたまま、無言を貫いていたが、キッと顔を上げると、
「わかりました・・・!わたし、キョンくんと涼宮さんと一緒に・・・頑張りますっ!
ライダー共々・・・よろしくなのですっ!!」
と、決意の篭ったはっきりとした口調で言い放った。
「いいんですか!?」
俺は思わず聞き返してしまう。
「いいんです・・・。わたし・・・決めました。いつまでも逃げてばかりじゃいけません」
きっぱり宣言する朝比奈さん。ここまで言われてしまったら、もはや反論の余地がない。
「みくるがいいって言うならあたしは文句はないよっ!」
ライダーも乗り気だ。ってさっきからこのライダーは・・・陽気すぎてサーヴァントっぽくない。
正直、あのグロテスクなマスクとかとミスマッチだし・・・。

「決まりねッ!!」
嬉しそうに叫ぶハルヒ。
どうやら、朝比奈さん&ライダーの仲間入りが決定してしまったようだ・・・。

その後、ライダーが朝比奈さんの命令で学校に仕掛けられた結界を解除し、その日は終わった。
まあ、一件落着ってワケだ。
残るサーヴァントはバーサーカーとランサー、いよいよこの聖杯戦争もクライマックスだな・・・。

~interlude~
学校に仕掛けられた結界も潜んでいたマスターの件もいつの間にか解決してしまったらしい。
俺がアサシン――喜緑さんにやられた傷でしばらく動けなかった内に・・・。
何か仲間外れにされたようで少し寂しい・・・。
しかも・・・学校に潜んでいたマスターは何と谷口で・・・しかもヤツのサーヴァントであるライダーの
本当のマスターは何と朝比奈さんで・・・ってワケわからん・・・。
そして朝比奈さんは結局俺達と組んで、これからの聖杯戦争を共に戦うことになったらしい。

更に・・・1番の問題は・・・朝比奈さんのサーヴァント、ライダーのことだ。
深夜――こっちの世界の『俺』の家。既に『俺』やハルヒや朝比奈さんは眠ってしまっている・・・ってまた泊ってったのか。
今日の戦闘に参加したはずのセイバーも既に休んでいるはずだ。
そして、俺は庭で1人佇む、露出の多いボディコン衣装、緑色の長い髪、グロテスクなマスク――のサーヴァント、
ライダーに声をかける。

~interlude2~
「あなた・・・鶴屋さんですよね?」
ライダーは、俺の声に気付き、振り返る。
「・・・やっぱり気付いたにょろね」
そりゃ気付きますって。その長い髪と独特な口調――あの鶴屋さんしか該当者はいない。

「そういうキミは・・・キョンくんにょろね。見た目は大分違うけど」
「お見通しですか。で、どうして鶴屋さんがこんなところに?」
「う~ん、それはわたしにもわからないにょろよ。気付いたらこの姿だったというか・・・」
喜緑さんと同じ回答だ。そういえば俺もそうだったな。

「俺が・・・2人いることについてはツッコミなしですか?」
「まあ、こんな世界だからそれぐらいはアリなのかな~くらいにしか思ってないよっ!」
なんとも鶴屋さんらしいお答えだ。
こっちの世界でも相変わらず、といった感じだね。長門とかもまあ、前の世界の時と殆ど変わらないんだがな。
「この戦争について・・・どう思います?」
「なんか知ってる人がいっぱいいるなって感じだねっ!ハルにゃんや長門っちとか・・・
あとやっぱりみくるがいるのがめがっさ嬉しいねっ!」
異常としか言いようがないこの戦争について、どうやら鶴屋さんもよくわかってないらしい。

~interlude3~
これ以上の詮索は無駄だな・・・俺はそう思い、
「わかりました。とりあえず以前の世界からの縁もありますし、よろしくお願いします、鶴屋さん」
「やっだな~キョンくん!そんな改まられるとお姉さん恥ずかしいにょろ~」
鶴屋さんは以前の世界と同じような開けっ広げな笑いを発した。
まあ、マスクで目が隠れてるから笑顔かどうかはわからないのだけれども・・・。

「あと・・・朝比奈さんのこと・・・守ってあげてくださいね」
これは俺からの切実なお願いだ。それを聞いた鶴屋さんは握りこぶしをつくり、
「それはもちのロンさ!みくるには誰にも手を触れさせないよっ!」
と、元気に約束してくれた。
そして鶴屋さんは最後に・・・
「キョンくんもハルにゃんのこと、しっかり守らないとダメにょろよ?
あと、こっちの世界のキョンくんがハルにゃんや長門っちやみくると仲良くしてくれるの見ても、
怒っちゃだめにょろよ?ガマンガマンっ!」
と、俺をたしなめた。

鶴屋さんもやはり俺のこの世界での目的を知ってるのか・・・?
明るい笑顔(目の表情はマスクに隠れて相変わらず見えないワケだが)を浮かべる彼女の表情からは、真相は読み取れない。
聖杯戦争もいよいよクライマックス――俺は俺の目的を果たすため、ただひたすらその時を待つ。

第6章 完


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