■プロローグ

「モテる男は辛い」という言葉を聞いたことがあるだろう。ないとは言わせない。
生まれてこのかたモテたことなどない俺にとってこの言葉はいわゆるモテてる男の自慢にしか聞こえず、モテてるくせに何を贅沢言ってやがる、
せいぜいホワイトデーの資金繰りに苦労するくらいだろうが、モテてるならそのくらいの苦労屁でもないだろう、むしろ代われ――
みたいなことを思っていたのは事実である。
まあ今となってはチョコをもらうアテが親と妹以外からあるためにバレンタインはそれほど憂鬱ではなくなったわけだが――いやまあ、
今度はホワイトデーに苦労することになったわけだけどな――、実は今回の話にはバレンタインはそれほど関係ない。まあ関係ないとも
言い切れなくはないんだが直接的には関係ないわけであって、これから関係することになってこないこともないだろうが今回の話をするにあたって
さほど重要なファクターでもないのでこれについては言及する必要もないだろう――と飽きるくらいに否定語を連ねたところで
いったん心の中での独白を打ち切り意識を現実に引き戻すことにする。
今は4時間目が終わった後の昼休みであり、俺は弁当を食ってる最中だ。

まあここまでは普通なのだが、いつもどおりでないのは俺と机を並べてるのが谷口と国木田でなく、
俺の今日の弁当が母親謹製のものではないってことであり、
「ほらキョン、口開けなさい!」
何故か俺の隣でハルヒが俺に「あーん」を強要し、
「あ、涼宮さんずるい。ね、あたしもしていい?」
何故かその隣で朝倉がハルヒに羨望の眼差しを送り、
「うーん、やっぱりもっと大きい水筒にしたほうがよかったかなぁ」
何故かその隣で朝比奈さんが水筒の大きさについて真剣に悩み、
「うはーっ、これめちゃウマっ!やっぱ長門っちは何でも凄いんだねぇ」
何故かその隣で鶴屋さんが長門の料理をベタ褒めし、
「そう」
何故かその隣で長門が鶴屋さんにばしばしと肩を叩かれながら満更でもなさそうな声を出し、
「…………」
何故かその隣で長門に瓜二つの眼鏡少女がちまちまと卵焼きをかじり、
「おいしいですね、このお茶」
何故かその隣で喜緑さんが朝比奈さん謹製のお茶を笑顔ですすり、
「ねえ、これ食べてもいい?」
何故かその隣――ぐるりと回ってとうとうハルヒとは逆側の俺の隣だ――で金髪ツインテールの碧眼娘が箸で行儀悪く
長門謹製のコロッケを突っつきながら俺にそんなことを聞いてくるという――。
そんな非常識極まりない光景だった。
やれやれ。
俺はハルヒの差し出してきた唐揚げを大人しく頬張りながら心の中で封印していた言葉を呟く。
賑やかなのはいいことだが、これはちと賑やかすぎだぜ。周りの連中はにやにやしながらこっちを見てやがるし……。
さて、何故こんなことになっているかというと話は少しばかり長くなってしまう。
というわけで回想モードスタート。
………
……




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