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午前7時半。
わたしはいつもの喫茶店に向けて歩いている。しばらく前の探索の日は危うく《キョン》に後れを取ろうとしたため、これまでより15分早く出ることにした。
いつもとは少し違う風景、出会う人も少し違う。新しい発見、時間をずらして移動するのも興味を持った。
グラウンド、大人の人間が集まって何かしている。
あの時の……《野球》だ。
遊撃手の人だけ、一際若いようだ。わたしの目は、その若い遊撃手の動きを追っていた。
朝日に照らされながら、軽快にボールを捌く彼は、とても引きつけられる。興味深い。
しばらく立ち止まって見ていると、試合も終わり、一人だけ着替えを済ませた遊撃手の人がこっちに来た。
「………あ。」
驚いた。さっきまで、わたしが目を奪われていた遊撃手の彼。
彼は副団長、古泉一樹だった。
「おや、長門さん。お早いですね。」
彼が話しかけてくるのに頷いて答える。
「どうせですし、一緒に行きましょうか?」
少し頷いて、わたし達は並んで歩きだした。

しばらく歩いて、わたしは彼のシャツの裾を少し引っ張った。

「おや……どうかされましたか?」
疑問をぶつける。
「なんで……野球、してたの?」
彼は少し驚きながらも微笑みを崩さずに答えた。
「あれはですね、メンバーが足りないから手伝ってくれと言われたのですよ。まさか、3番、ショートなんて重要な役割を任せられるとは思ってませんでしたけどね。」
そう言うと、彼は少し疲れた表情を見せて続けた。
「おかげで、せっかくの探索を疲れを残したまましなければならないなんて残念ですよ。」
彼は、本当にこの《探索》が好きなのだろう。それが窺える言葉だった。
「それにしても……恥ずかしい所をお見せしてしまいましたね。」
彼は苦笑しながら、わたしに視線を落とした。
「……そんなことない。あなたは、あのグラウンドで、一番輝いて見えた。」
彼は驚きの表情を浮かべた。当たり前だった、わたしもこんな言葉が言えるとは思わなかった。
その後、彼は微笑んでわたしの頭を撫でながら答えた。
「ありがとうございます。あなたにそう言われると、光栄ですよ。」
彼がこの様な動作をするときは、とても大人っぽく見える。
気がつくと、わたし達は待ち合わせ場所に着いていた。

そこには、まだ誰も来ていなかった。わたしはポケットに入れていた、文庫本を取り出して読むことにした。
しばらく読んでいると、朝比奈みくる、涼宮ハルヒ、そして《キョン》という順番で来た。
何も変化のない、いつも通りの順番。
わたし達は《キョン》の奢りでお茶を飲むために喫茶店に入った。

班分けの時間。
わたしはこの前のとても眠かった時のようにインチキを使った。
古泉一樹と二人に。

「今日は何かと縁がありますね、長門さん。」
たぶん、気付いているだろうがいつもと変わらない微笑みでこっちを見てくる。
「………そう。」
わたしは一言で答えた。
「さて、今日は何処に行きましょうか?長門さんがお決めになっていいですよ。」
やはり気付いているみたい。
わたしは図書館に行きたい。でも、今回クジを操作したのはそんなことの為ではない。
「………公園。」
彼の顔が驚きに変化した。わたしが、《公園》と言ったことに心底驚いている顔。新しい発見、ユニーク。
「公園……ですか。わかりました、すぐ近くにありますからそこに行きましょう。」

公園に移動する。休日であることからか、家族連れが多い。
少し……羨ましくなる。

「長門さん?どうしたんですか?ボーッとして…。」
彼が声をかけてくる。わたしは、何もなかったかのように返事をした。
「………なんでもない。」
「そうですか。それで、此処で何をしましょうか?」
わたしの目的。別段、重要なことでは無いが、わたしはそれをしたかった。
「……座って。」
二人でベンチに腰掛ける。彼の頭を引き倒し、わたしの足の上に置く。
そう、この前図書館で《キョン》にしてもらったように。
「……長門、さん?どうしました?」
彼が疑問を表情に現しながら尋ねてきた。
「……ひざまくら。」
わたしは一言で答えると、読みかけの文庫本を開いた。
「いえ、そういうことでは無くて……。」
本に目を落としながら答える。
「寝て。あなたは、とても疲れている。これでは、午後まではとても持たない。だから……寝て。」
彼は驚きの表情を微笑みに変えて、返事をくれた。
「それでは、お言葉に甘えて休ませていただきます。……集合の1時間前には起こしてくださいね?」
肯定の動作。
わたしが本を読み5分程たつと、彼は寝息をたて始めた。とても気持ち良さそうに寝ている。
今日の気温は25度。とても心地良い暖かさだ。

あ、……本読みたいのに、目が閉じる。必要なだけの睡眠は取ったのに……何故?


目を覚ます。文庫本が地面に落ちている。いつの間に眠ってしまったのだろうか。
「やっと起きましたね。」
彼がわたしの足の上から見上げながら声をかけてきた。
その時、わたしは気付く。背中に彼の上着がかかっていることを。
「………これ?」
「ああ、それですか。実は一回起きたんですがあまりに長門さんの足が心地良かったので、それを掛けたあと、またお邪魔してしまいました。」
彼が微笑む。わたしの無表情が普通のように、彼には微笑みが普通なのだろうか。
「集合時間まで、あと30分24秒。……もう、戻る?」
彼は微笑みを崩さずに答える。
「あと、15分程このままでいてよろしいでしょうか?ここは、とても居心地が良くて……。」
いつも、《はい》や《その通り》しか言わない彼の珍しい柔らかい否定。
地面に落ちた文庫本を拾い上げ、答える。
「………いい。」
こうして、わたし達は公園でさらにしばしの休息を取った。

終わり
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