今日は土曜日。もちろん恒例の探索がある日なのだが……失態を冒してしまった。
昨夜、新作のゲームを買ってきた妹に、
「キョ~ンくんっ!!これやるの、付き合ってよ!明日は休みだからいいじゃん!」
と言われ、付き合ってるうちに綺麗な朝焼けを見たというわけだ。
ちなみに、妹は横でぐっすりと眠っている。顔に落書きでもしてやるか?……いや、やめとこう。
ちなみに、集合は9時、現在時刻は7時15分。
間違いなく寝たら遅れるな。
しょうがない、たまには一番に行くのもいいか。
俺は着替えを済まし、顔を洗って、自転車を使わずに集合場所に向かった。
ちょうど8時。
まだ誰もいないだろうな……って居た。
文庫サイズの小説に目を落としている少女、長門有希だ。
「おう、長門。早いな。今日こそは一番だと思ったんだがな。」
「………そう。」
何が『そう』なんだと聞きたい所だがスルーしておく。
「お前、いつもこのくらいの時間に来てるのか?」
肯定の動作。
「そっか。じゃあ、もうちょいみんなを待つか。」
そのまま、俺達は3人を待つ。次に来たのは朝比奈さん。

「あれっ?キョンくん、珍しく……早いですねぇ。」
「いつもおごらされるのは不本意ですからね。」
これで、奢りの可能性は残り2人になった。
……その2人だが、古泉が来て、信号待ちをしている時にハルヒが合流。
こっちの様子を伺うや否や、走りだし、遅れを取った古泉が晴れて奢ることになった。
「はぁ…はぁ。キョン、あんた珍しく早いじゃない。」
息を切らしているハルヒを見るのは珍しいな。
「たまにはそんなこともあるさ。さぁ、古泉の奢りでコーヒーでも飲みに行こうぜ。」
そして俺達は一息ついた後、班分けをした。
俺と朝比奈さん2人と残り3人という分かれ方。俺はとてもついてるぞ。
「いい?キョン!デートじゃないんだからしっかり探索しなさいよ!!」
いつもの言葉がハルヒから飛んでくる。
「りょ~かいだ、団長様。」
俺は返事をすると、朝比奈さんと歩きだした。
「さて、何処に行きましょうか?」
少し考えた後、決意を決めたような顔をして朝比奈さんが答えた。
「わ、わたしっ!!か、か、買いたい物があるからついてきてくれませんかぁっ!?」

ええ、そんなに力まなくてもあなたと一緒なら何処までも行きますとも。
「わかりました、行きましょう。」
「ほ、ほんとですかぁ?じゃ、じゃあデパートに行きましょう!」
少し、眠気が襲って来たが、朝比奈さんと2人で歩けるなら我慢するさ。
「デパート?お茶ですか?」
俺が聞くと、朝比奈さんは微笑んで、「内緒ですっ!」と答えた。
この笑顔があるなら別に何を買おうが構いやしません。


軽く眠い目をこすり、疲れを感じながらもデパートに着いた。まだ、ハルヒ達と別れて20分くらいだ。……先は長いな。
「まず、お茶の所に行きましょう?」
小首を傾げて朝比奈さんが俺に尋ねてくる。……かわいいっす。
「一階でしたよね?行きましょう。」
俺達はお茶売り場に行った。朝比奈さんは既に買うお茶の種類を決めていたようで、その買い物はすぐに終わった。
「さて、次は何の買い物ですか?……ふわぁ…。」
俺は、あくびをしながら答える。……ってか何故にこんなに眠くなって来るんだよ、せっかく朝比奈さんと2人なのに。
「つ、次は……ですね、け、化粧品売り場……です。」
化粧品……?何故だ?

化粧する必要など無いほど完璧な容姿だと思うが…。
「け、化粧品…ですか?朝比奈さん、そのままでも充分かわいいですよ?」
こんなに口が調子良いのは何故だろう。俺の思考回路が既に麻痺して来ているからか?
朝比奈さんは顔を赤らめて答えた。
「か、かわいい……ですかぁ…。で、でもっ!わ、わたしも…年上だから少しは……ね?」
なるほど。少しは大人っぽくなってみたいというわけか。
「そうですねぇ……、じゃあとりあえず行ってみましょうか。」
「え!?いいんですかぁ!?う、うれしいですっ!」
朝比奈さんが俺に抱き付いてきた。眠気が少し吹っ飛んだな。
しかし、朝比奈さんはすぐにハッとして俺から離れ、俺の後ろに回り背中を押した。
「ほ、ほらっ!は、は、早く…い、行きましょう!」
……やれやれだ。

俺は朝比奈さんと化粧品売り場に来ている。
朝比奈さんは口紅を買うらしく、先程からいくつも手に取って見ている。
「キョンくんっ!これと、これ……どっちが良いと思います?」
濃い赤と…薄い赤か。
正直、変わらないと思うが。……いや、実はピンクが合うと思うんだ。

「朝比奈さん。俺は大人っぽくなるのも良いけど、やっぱり自分らしさを伸ばした方がいいと思いますよ。」
と、俺は言って薄いピンクのリップクリームの様な物を買い、朝比奈さんに渡した。
「こっちの方が、朝比奈さんらしいと思います。よかったら使って下さい。」
俺はいつに無く饒舌になっている。たぶんアレだ、もの凄い眠気が来る直前のロウソクの最後の灯みたいなやつだろう。
「キョン……くん…。…ありがとう、一生…大切にしますっ!」
朝比奈さんはそう言うと、俺の渡した袋を抱き締めた。
「あ……、時間、余っちゃいますね?キョンくん、どっか行く所ありますか?」
ヤバい、眠気が限界点まで来ている。ここは一つ、正直に頼むか。
「朝比奈さん。集合まででいいから公園に行きませんか?俺……ふわ…眠いです。」
「うふふふ、いいですよ。じゃあ、行きましょう?」
と言われ、またもや背中を押された。


公園に着くと、すぐさま俺は芝生の上に寝転がった。朝比奈さんは俺の横に座っていた。
「あぁ、朝比奈さん。寝るなら腕貸しますから枕にしていいですよ?」
俺は右腕を横に投げ出した。

「あ、う~ん…。そ、それなら…お邪魔……します。」
朝比奈さんが俺の腕に頭を乗っけてきた。…軽いな。
「えへへ~。暖かい、です。」
やべ、眠い……限界だ。
「朝比奈さん、ゆっくりして下さいね?それじゃ……おやすみなさい…。」
俺はそれだけを伝えるとゆっくりと眠気に身を委ねた。


次に目を覚ますと、俺は一人だった。朝比奈さんは……近くにもいないようだ。
携帯で時間を確認する……14時!?
やべぇ、完全に寝過ごした!…ってメール1件?誰だ?
……朝比奈さんだ。
《あまりにも熟睡してるみたいだから先に行っちゃいますね。あ、今日はプレゼントありがとう!ほんとにうれしかった…です。涼宮さんにはわたしが話しとくから、もう帰ってしっかり休んでくださいねっ!》
優しいな……。心休まるメールだ。
よく見ると、下にさらにスクロール出来ることに気付いた。何かあるのか?
《P・S しっかり顔洗ってから帰ってね!》
……そんなにヒドい顔して寝てたのか。
と、多少ショックを受けつつ、顔を洗う為に俺はトイレに行った。
鏡を覗く。
俺の右頬に薄ピンクのキスマーク。

「おいおい……マジか?」
思わず声に出た。
よく分からんが今の俺に推測出来ることは、あのリップクリームを付けて、朝比奈さんが俺の頬にキスをしたんじゃないかということだ。
つーか、それしかない気がする。畜生!眠気さえ無ければ!!
…なんて事を考えていると、携帯が震えた。
《着信・涼宮ハルヒ》
………出とくか、後が怖いし。
「あ、出たわね。キョン、よく寝れたかしら?」
「おう、おかげ様でな。」
「じゃあ解散する前にあんた奢りだから!いつものとこに来なさいっ!!」
…しょうがない、行くか。

俺が喫茶店に着くと、全員揃って各々好きな物を頼んでいた。
「まったく!ほんとは死刑の所を奢りで済むんだからみくるちゃんに感謝しなさいよっ!!」
朝比奈さんがこっちを見て仕切りに《ごめんなさい》とジェスチャーを送ってくる。
まあ、責める気もないけどな。
しばらく話をした後に解散した。俺が一人で会計を済ませていると、朝比奈さんが声をかけてきた。
「あ、あの……ほんと、ごめんなさい…。」
健気でかわいい姿が見える。ハルヒにもわけてやりたいくらいだ。
「いえ、いいんですよ。それより……」
俺は疑問をぶつけることにした。……返事は予測出来るけどな。
「朝比奈さん、もしかして…寝てる間にキス……しました?」
しばらくの沈黙の後、ぎこちないウインクをしながら答えが返ってきた。
「き…禁則事項です♪」

終わり

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