最近、鶴屋さんの様子がおかしい。
「もうハルにゃん!めがっさ可愛いっさ~」後ろから腕をハルヒの首に回しながら鶴屋さんが耳を甘噛みする。
「ち、ちょっと鶴屋さん!?」
「どうにょろ~?」次は首筋に舌を這わせながら言う。
「あああの、えと、その……」ハルヒの顔が真っ赤に染まる。
さっきからずっとこの調子だ。
突然部室に訪れて、ずっとハルヒに絡んでいる。
昨日も突然現れてハルヒにべったりだったが、これほどではなかった。
今部室には俺とハルヒ、そして置物と化した長門がいる。
古泉と朝比奈さんはまだ来ていない。
「なんか変だぞ?またハルヒのとんでもパワーか?」
長門の方に椅子を向け小声で聞く。
「違う」小声で、たがハッキリした口調で
「『伝説の支援人』の仕業」と言った。
「またの名を『押忍!闘え!応援人』」と長門が付け足した。
「なんだそりゃ?」
俺は首をかしげた。何と闘うんだよ。
「伝説の支援人に『応援』されると一時的にその個人の属性情報が変更される」
「ええと、つまり、鶴屋さんは……?」
「支援された」長門は厳かに言う。「百合っ子モード」
「キョン~」ハルヒが半泣き状態で言った。「たすけて~」
「朝比奈さんが来るまでの辛抱だ。我慢してくれ」
泣き顔のハルヒも可愛いものだ。

「こら~有希っ子!」
唐突に鶴屋さんはその標的を変えた。
「何をコソコソしてるっさ!」長門に抱きつき、頬ずりを開始する。
「長門、放っておいてもいいのか?」
今のところ特に危険を感じるような事はないが。
「『支援』の効果は一時的なもの」長門は耳たぶを舐められながら涼しい顔で言う。
「問題ない」
翌日鶴屋さんは元に戻っていた。

また放課後の部室である。まだ俺と長門の二人しかいない。
「結局その、支援人だか応援人だかは、何者なんだ?」
元に戻ったから良かったものの、鶴屋さんがあのままで固定されていたらハルヒや朝比奈さんの貞操が危ない。長門は……まぁ大丈夫だろう。
ハルヒのあの泣き顔を眺めることが出来ないのは残念ではあるが。
「不明」
ぽつりと長門が言った。

何かを言おうとした矢先、ドアがノックされた。
「はーい」
と俺。俺しか返事をするような人間がいないのでしょうがない。
「おや珍しいですね」
と古泉が入ってきた。
「何をお話ししていたのですか?」
何がうれしいのか古泉はにやにやとしている。
……まあ別に隠すほどでもない。古泉に最近の鶴屋さんの異変やら、『伝説の支援人』についてを話しててやった。
「なるほど」と天井を仰ぎながら「鶴屋さんの最近のアレはそういうことだったんですか」と言った。
「お前のとこも知らないのか?」
古泉と同じく怪しさ満点の機関だ。なにか知ってるんじゃないのか?
「いえ、初耳ですね」
そうかい。ま長門も分からないんだ、期待はしていない。
結局その後はいつも通り。
ハルヒはネットサーフィン、長門は分厚い本、朝比奈さんも珍しく文庫本を読んでいた。
ん?そういえば昨日……いや随分前から朝比奈さんも読書少女になっていたな。

「朝比奈さん。最近よく本を読んでますけど、なにを読んでるんですか?」
朝比奈さんはなぜかテレながら、
「少女向けの恋愛ライトノベルです」と言った。
実に朝比奈さんらしいね。テレてるところがまた可愛い。
たまには長門もそういうのを読んでみるといい。少しは年頃の少女にみたいになれるかも知れないぜ。
「いいですね、それ」と朝比奈さんが文庫を閉じ手を叩いた。
「長門さん。良かったらあたしの本、貸しますよ。鶴屋さんにも貸してあげてるんですよ」
長門がこちらにちらりと視線を向けてきた。
「いいんじゃないか?その本でも読んで少しは普通の女の子らしくなってみたらどうだ?」
「あたしも『応援』しますよ、長門さん」朝比奈さんが妙に元気よくこたえた。
やっぱり同じ趣味を持つ仲間が出来るのが嬉しいのだろうか。
「そう」と長門が呟くように返事をした。
その後、俺は古泉と配管工になって土管をつなげるゲームをして過ごした。

そして何事もなく数日が過ぎた。
と思っていたのは俺だけで、事態は静かに進行していた。

最近、長門の様子がおかしい。
俺と古泉がゲームをしているのをチラ見しながら顔を赤くしたりしている。
あの長門がこうも表情を表に出すようになるとは……。
さすが朝比奈印の少女小説だな。効果抜群じゃないか。
ただ俺を見ているというよりも、俺と古泉を見ているような気がするんだよな。
長門が朝比奈印の文庫本をバン!と閉じる。
えらく元気だな。もうすこし静かに閉じろよ。ハードカバーの本じゃないんだぞ。
「用事がある」と長門が呟いてきた。顔が赤い。「部室で待っていて」と言った。
朝比奈さんが着替え終わり、ハルヒと帰るのを見送った後、俺は部室へと戻った。
長門のあの赤い顔を思い出す。
まさか夕暮れの部室で告白!とか少女漫画にあちがちなベタな展開じゃないだろうな?
俺は内心ドキドキしていた。朝比奈さんありがとうございます!

部室をノックすると「入って」と消え入りそうな声が聞こえた。
間違いない、長門の声だ。
部室に入ると長門は窓際に立っていた。
入ってくる夕日のせいで逆光になり表情はわからない。手には一冊の文庫本。
机にはまだ朝比奈印の文庫本が置いてある。そのうちの一冊だろうか?
「どうした長門。何かあったのか?」
「ごめんなさい」長門は静かに言った。
俺が言葉の真意を図りかねていると、突然ドアが勢いよく閉められた!
誰か入ってきた!と思った瞬間、俺は押し倒されていた。
ふーふーと鼻息が荒い!誰だ!お前は!?
「キョンタン僕が分からないんですか?」
こ、古泉!?な、なぜお前がここに!
「長門さんの計らいですよ」古泉はニンマリと笑った。
「長門?どういうことなんだ!?」俺はゾッとした。
「うかつ。わたしもいつの間にか『支援人』に『応援』されていた」長門が頬を染めて言った。
「な、なんだって!」俺は古泉を押し返しながら必死に長門の方を見た。
長門はゆっくりと手に持っている本の表紙を俺に見せた。
表紙には、なんていうか、その、上半身裸の男同士が抱き合っている絵が描かれていた。つまり……
……ボーイズラブ、の本だった。
「さあキョンタン。僕と愛の世界へ!!」
「な、長門ぉぉぉぉぉォォーーッ!!」俺は心の底から叫んだ。

「大丈夫。明日にはたぶん元通り」
「そういう問題じゃねぇぇぇーーー」

「アッーーーーー!」
●<マッガレー

終了

|