「今度の夏合宿は○○県横泉郷(おうせんごう)にいくわよ!」

ハルヒのこの一言により俺達の夏合宿はめでたくミステリーツアーに
決定された。
ここから電車とバスに揺られること数時間、山奥の閑静な村だそうだ。
避暑にはもってこいかもしれないが最近失踪事件が続いており
それ系の業界ではミステリースポットとして有名らしい。
なんでわざわざこういう所を選ぶんだろうね、ホント。

「さあ今回の合宿はみんなで真夏の怪談を体験するわよ!」

そう言って目を輝かせるハルヒと対照的に他のメンバーが
浮かない顔をしているのが少しだけ気になった。


その後も準備やら何やらで色々あったが、あっという間に
時間は過ぎ去り今日はいよいよ合宿当日だ。
因みに旅の手配をした古泉が5人分しか部屋を確保できなかった為
今回の合宿はSOS団の面々のみで行う事になっている。
電車を乗り継ぎ、延々と山道を通ってきたバスを降りると
そこは正しく夏と呼ぶに相応しい世界だった。
山奥という事で快適な避暑生活を期待したのが
むしろこっちの方が暑いかもしれない。
だがそれさえ我慢すれば本当に閑静な所で雄大な自然の中
都会の喧騒を忘れるのには丁度良さそうだった。
途中ですれ違った村の人やこれから泊まるバンガローの
オーナーもおおらかでここの土地柄が良く表れていた。

そんな状況なのだから誰しもせわしない日常を忘れゆったりと
過ごそうとするものだが、ここにそうは思わない心の貧しい奴がいた。
もちろんハルヒである。

「何言ってんのよ。早速噂のミステリースポットに行くわよ!」

やれやれ。そのミステリースポットとやらは俺達の泊まるバンガローから
歩いて1時間くらいの所にあるらしい。途中、村の人にも聞いてみたから
間違いないだろう。

炎天下の中、1時間も歩くのは想像以上にきつかったが
俺達はやがて開けた丘に辿り着いた。
丘の上には樹齢千年を超えていそうな大木がそびえ立ち
その周りを等身大の石柱が取り囲んでいる。
大木と石柱は注連縄で結ばれており下向きに尖った三角に×印を
重ねたような模様が随所に描かれていた。

「噂じゃこの御神木にいたずらすると祟りに遭って失踪しちゃうらしいわ。
やっぱりここは定番通り落書きかしらね。」

おいおい、どこの小学生だよ俺達は。

「そうですね、ここはもう少し観察されてみてはいかがでしょうか。」

「いたずらは止めた方が良いと思います。祟りは怖いです。」

投げやりに突っ込んだ俺に古泉と朝比奈さんが同調した。
いつもはハルヒの太鼓持ちなのに珍しいな、古泉。

「もうみんな何言ってるのよ。多少のリスクは覚悟しないとこの世の
不思議になんていつまで経っても遭えないわよ!」

そう言ってハルヒは大木をバシっと叩いた。さして力を入れた様にも
見えなかったし、いくらハルヒが馬鹿力だからってそのリアクションは
いかがなものかと思うのだが…
次の瞬間いきなり大地が激しくのたうち俺達は地面に打ち付けられていた。

痛てて…
どれくらい動けないでいたのか分からないが俺は痛む体を起こして周りを見る。
みんな転んではいるが無事なようだ。
とりあえず一安心したが、俺はすぐ絶句する事になる。
なんとハルヒが叩いた所から大木が縦に裂け…真っ二つに…割れていたのだ!!
どうなってんだ、これ。

「えっ!嘘っ、あたしはちょっとはたいただけで…」

珍しく狼狽するハルヒに古泉がフォローを入れた。

「きっと今の地震のせいでしょう。僕達が来ても来なくても
こうなっていたと思いますよ。」

そして古泉は額に手を当てて熟考するような素振りを見せてから付け加えた。

「むしろ僕達はここに来なかった。ここに来る前に地震に遭い宿が心配になって
引き返した。そういう事にした方がいいでしょう。」

おいおい、そこまでしなくてもいいんじゃないか?

「僕達が原因ではないのですし、あなたも村人から要らぬ誤解を
受けたくは無いでしょう?」

「そうね、きっとその方がいいわ。せっかくミステリースポットに来たのに
残念だけど、村に引き返しましょう。」

流石に動揺しているのかハルヒはぎこちなくそう言った。
みんな立ち上がって帰ろうとする中、朝比奈さんがまだヘタリ込んでいた。
大丈夫ですか?と呼びかけたが反応が無い。腰でも抜かしてしまったのかと思い
近寄ると朝比奈さんは目を大きく見開いて何かを呟いていた。
声が小さすぎて聞き取れないが一定の動作を繰り返す唇を必死で追う。

「………チ………、
………チ……タ、
……レチ……タ、
……レチ…ッタ、
…ワレチ…ッタ、

え?…

「  ノ  ロ  ワ  レ  チ  ャ  ッ  タ、…」

!!!?

「呪われちゃった、呪われちゃった、呪われちゃった、呪われちゃった、
呪われちゃった、呪われちゃった、呪われちゃった、呪われちゃった、
呪われちゃった、呪われちゃった、呪われちゃった、呪われちゃった、…」

お、落ち着いて朝比奈さん。今のはたまたま地震が起きただけで
俺達とは無関係ですよ。
俺は彼女をなんとか安心させようとするが朝比奈さんはガクガクと震えながら
声にならない声をただただ繰り返していた。目には涙まで浮かべている。

「ちょっとみくるちゃん、しっかりして!」

ハルヒも駆け寄ってきたが朝比奈さんはまるで気がつかない。
10分くらいは待っただろうか、それでも朝比奈さんの様子は変わらなかった。

「仕方ありませんね、とりあえずあなたと僕で朝比奈さんを支えて戻りましょう。」

「そうね、じゃあキョン、古泉君頼んだわよ。」

もう少し待っても良いだろうにとも思ったが、朝比奈さんが落ち着きそうにないのも
確かなので俺は古泉と共に朝比奈さんを両脇から支えて歩き出した。


結局、朝比奈さんはバンガローに着くまで同じ言葉を繰り返していた。

バンガローの前ではオーナーが俺達の帰りを待ってくれていた。
先程の地震で事故に巻き込まれてないか心配して見に来てくれたらしい。
でも最初は分かったその顔も分かれる時には影に染まってもう識別できなかった。
誰そ彼時とは言うがこんなにも分からなくなるものだろうか。
人間じゃないみたいだ…何故だかわからないが不意にそんな考えが浮かんで消えた。


翌日、昼前にまたオーナーが家で取れたからと野菜を一盛り持ってきてくれた。
ありがたく受け取りお礼を述べる。

「ええよ、ええよ。あんた方はシラハさんなんだからゆっくりしていってーな。」

シラハさん?この地方の方言だろうか?

「ああ、大事なお客さんってところだよ。
それと昨日の地震で崖崩れが起きて、麓への道が埋もれてしまったんよ。
あんた方、明日帰るって言ってたけど3、4日は麓まで行けんみたいなんよ。
もし当てがなければずっとここ使ってええよ。料金も前払いしてもらった分だけで
ええから。」

それは有り難い。丁重にお礼を言っておく。
それにしても終始笑みを浮かべて気さくに話してくれているのに
その表情は作り物めいていて薄気味悪さを感じてしまうのは何故だろう。
やはり後ろ暗い事があると萎縮してそんな風に感じてしまうのか…?

昨日は流石に大人しかったハルヒだが夜が明けるとすっかり
いつものペースに戻っていた。
朝比奈さんは平静を装っていたが時たま黙り込んでは考え事をしている。
確かに昨日の様子は普通じゃなかったしね。
全くハルヒの奴も少しは大人しくなれば良いのに。

だがハルヒの横暴は止まらなかった。その夜はなんと怪談をやろうと
言い出したのだ。おいおい、朝比奈さんの事も考えろよ。
もう少し空気読む事を覚えてくれ。だがハルヒ以上に空気を読めない奴がいた。

「ちょっとここ横泉郷(おうせんごう)について調べてみたんですが
昔は別の名前で呼ばれていた様です。」

古泉だった。勿論ハルヒも興味津々で食いついた。

「へぇ、なんて呼ばれてたの?」

「横泉という字を分解すると、木、黄、泉に分けられます。昔ここは
黄泉山(よもつやま)と呼ばれ恐れられていました。文字通り死者の
住む山と考えられていたようですね。」

「なるほど。でもなんで横泉郷に変わっちゃったの?」

「ある時ここに天の神が降り立ちその身を御神木に変えてこの地を
平定したそうです。以来"木"の神によって平定された"黄泉"という事で
横泉と呼ばれるようになった様ですね。」

「えっ…その御神木ってまさか…」

流石のハルヒも顔を引きつらせる。

「はい、どうやら昨日のあの大木みたいですね。死者の地を平定していた神が
倒れた今この地はどうなってしまうのでしょう…とても興味深いところです。」

アホか。昨日の今日でよくこんな話ができるな。少しは空気を読め。
意外というか幸いだったのはこれを聞いても朝比奈さんが特に怖がらなかった事だが
ハルヒといい古泉といいなんとかならんのかね、ホント。

古泉以外にネタを持っている人間が居なかったし、古泉の話で一気に
クールダウンした為、怪談はそのままお開きになった。
バンガローには部屋が2つあるだけだったので、俺と古泉、女子3人で
それぞれ1部屋という部屋分けになっている。

「あの話を敢えてしたのはあなたと涼宮さんに現状を知って欲しかったからですよ。」

部屋に戻ると古泉はそう切り出した。
おいおい、あの電波話が本当だと言うんじゃないだろうな?
だが古泉は何も答えず両手をすくめただけだった。
…何が言いたいんだ、全くわからんぞ。

次の日もハルヒが虫取りをすると言って俺達は山の中を駆け回った。
全くどこからその元気は湧いてくるんだろうね。

夕方、晩飯までのしばしの間、俺はバンガローの窓辺で涼を取っていた。
だが蒸せるような暑さはいかんともし難く、間近に迫った山々から聞こえる
セミ達の大合唱に意識は朦朧としていく。
まどろむ内に、どこからともなく子供達の歌が聞こえてきた。


「いたずらな わるいこは しらはのやがたてられる
うそをつく わるいこは しらはのやがたてられる
あやまらぬ わるいこは しらはのやがたてられる

しらは さん しらは さん

むらじゅう みんなに おいかけられる てんじんさまの そなえもの」


なんだ?何か引っかかる…しらはさん?この呼び名どこかで…
……………………………………
…………………………
………………
……
!!!!!
そうだ、昨日オーナーが来た時確かに俺に向かって"シラハさん"と言っていた。
でもそれはただのお客って意味だって…

なのに村中に追いかけられるってなんだよ!!!
確かにハルヒの奴は大木にいたずらをしようとしてた。
でも実際は何もしないうちに地震で大木は裂けてしまったじゃないか!!
別に俺達が嘘をついたわけじゃない…
謝る必要だって…無い筈だ!!!

…いや単なる偶然だろう。昔の呼び名が変わり変わって使われる事だってあるさ。
そうさ、そうに…決まってる!

………

そう考えて何の気なしに、本当に何の気なしに窓の上を見上げて俺は戦慄した!!!
そこには…刺さっていた…
装飾にしては余りにもおかしな突起物。
真っ白い羽根がバンガローの壁から生えていた…
いや違う!壁に白羽の矢が突き刺さっていたのだ!!しかも2本!!!

慌てて隣のハルヒ達の部屋の壁も見てみる。

そこにもあった…

白羽の矢が…

3本…同じように壁から生えていたのだ!!!

俺は体調が悪いからと晩飯も早々に切り上げて部屋の布団に潜り込んだ。
とにかく今は寝よう。十分休息を取れば考えだってまとまるさ。
だが夢の中でも俺に平穏は訪れなかった…


誰かが呼んでる気がした。この声は………長…門?

「逃げて。」

長門!!??
おかしな話だが夢の中で俺は目覚めた。逃げろってどういう事だ?

「私ではダメだった。あなた達を守りきれなかった。だから…逃げて。」

ダメだったってどういう事だ!?

「もう時間がない…お願い、逃げて。」

おい、どういう事なんだ、長門!!闇に向かって呼びかけるが
長門の存在がどんどん希薄になっていくような錯覚に囚われる。

「また図書館に…」

前にも聞いたこの言葉。そうだ…あの時だって絶望的な状況だった。
だが俺達は無事帰ってきた!!なら…今回だって!!!!

だが長門の言葉はこれだけでは終わらなかった。

「…








…………………………………………いきたかった…」


っ!!!!!!???????!!!!!!!

おい、長門。行きたかったってなんだよ!もう次が無いみたいな言い方は!!
そんなのお前らしくないぞ!!!


俺は跳ね起きた。寝汗で体中ベトベトだったが今はそんな事はどうでもいい!!!
長門!!!!!無事でいてくれ!!!!俺は一目散に隣の部屋に向かっていた…

長門!!居たらここを開けてくれ!!長門!!!
俺は隣部屋の扉を乱暴に叩きつけながら声を張り上げた。
頼む…無事でいてくれ!!

「うっさいわね、今何時だと思ってんのよ。」

怒鳴り続けているとハルヒが不機嫌そうに答え、扉を開けた。
ハルヒ、長門は無事か!?
俺はすぐさま扉を押しのけハルヒ達の部屋に入る。

「ちょ、勝手に乙女の部屋に入らないでよね!」

緊急事態なんだ。そんなの構ってられるか!!

「ふえぇぇ。」

ズカズカと部屋に入ると朝比奈さんがビックリした表情でタオルケットを
握り締め俺を見上げていた。しかし長門の姿は…何処にも…無い!

「トイレにでも行ってるんでしょ。」

扉には鍵がかかっていたぞ!!

「じゃあ鍵を持っていったんでしょ。誰かさんみたいな変質者が
部屋に入ってくると困るしね。とにかく、寝ぼけるのもいい加減にしてよね。
今度あたしの安眠を妨害したら許さないんだからね!」

そう言うとハルヒは俺を部屋の外に押し出し、有無を言わさず扉を閉めた。

そんな………長門……どこに行っちまったんだ…

扉の前で呆然としているといつの間にか起き出していた古泉が声をかけてきた。

「トイレにも長門さんは居ないみたいですね。随分取り乱されてましたが
何かあったんですか?」

俺は部屋に戻るとさっき見た夢のことを古泉に話した。

「なるほど…単なる夢と片付けてしまうのは簡単ですが出てきた相手が
長門さんだけに気になりますね。たまたま散歩に出かけていた、という
オチなら助かるんですが…」

この時間に散歩なんて不自然だろ!!また俺は声を荒らげていた。

「落ち着いて下さい。もし本当に何か起きているなら単独行動は危険です。
この時間に出歩くのもミイラ取りがミイラになりかねません。
それに本当に杞憂である可能性だって残っています。
…ひとまず今夜は休みましょう。」

反論しようと思ったが出来の悪い俺の口はついに言葉を紡ぐ事はなかった。
…俺は力なく布団に横たわる。

「逃げて。」

悲しげにそう言った長門の声がいつまでも頭から離れなかった…

気がつけばいつの間にか夜は明けていた。
結局俺はほとんど眠ることができなかった。

そして…朝になっても長門は戻っていなかった。
流石にハルヒもやばいと思ったのだろう村の人達にも応援を頼み
みんなで方々を探し回った。
(俺は村人に得体の知れない何かを感じていたので、正直あまり村人と
接触したくはなかったのが、そうも言ってられない。
あと、長門が行方不明だと分かるやまた朝比奈さんが真っ青な顔で
錯乱状態になった為、朝比奈さんには宿で安静にして貰っている。)

日が落ちて捜索できなくなるギリギリまで俺達は村中を必死に
探し回ったが、ついに長門は見つからなかった。
肉体的疲労もピークに達していたし、何より長門が行方不明だという
現実が俺達をより一層疲労させていた。

仕方なく、重い足取りで俺達は宿に戻った。
俺が部屋に入り今後の事を考えようとした矢先、ハルヒの叫び声が聞こえてきた。

「ちょっとみくるちゃん、何やってんの!やめなさい!!」

俺は慌ててハルヒ達の部屋に飛び込む。
部屋の中を見ると朝比奈さんが壁際に座り込んで何かしていた。
…何を…してるんだ…?
朝比奈さんの方に近寄っていくと耳障りな音が聞こえてきた…

カリ、カリ、ガリ、………

カリ、……、カリ、…

カリ、カリ、カリ、………、ガリッ、…


っ!!!!????!!!!

俺は一瞬自分の目を疑った。
朝比奈さんは…壁際に座り込み…模様を描いていた…
円に内接する上向きに尖った三角の模様…!

それを…何個も!何個も!!何個も!!!
それこそ壁がその模様で埋め尽くされるくらいにっ!!!!

しかも自分の…爪を使って!!!!!
爪はボロボロに欠け…あるいは歪み…指先からは血が滲んでいる!!
そしてその血は壁に赤黒く禍々しい陰影を…塗り込めていく!!!!!
しかもまた声にならない声をひたすら繰り返して!!!!

「何ボケっとしてるよ!あんた達も手伝いなさい!!!」

ハルヒにそう言われやっと我に返った俺と古泉は
慌てて朝比奈さんの手を取る。朝比奈さん、落ち着いて!!

どう言っても朝比奈さんは手を止めなかったので仕方なく両手両足を縛って
大人しくして貰った。これ以上あの白魚みたいな綺麗な手が
傷だらけになっていくのは耐えられないからな。

「なんで…こんな事になっちゃったの…」

「朝比奈さんは繊細な方ですからね。ショッキングな事件が連続で起きて
動転しておられるんでしょう。」

珍しく弱音を吐いたハルヒに古泉がフォローを入れる。
そうだな、朝比奈さんには刺激が強すぎたんだろう。長門が見つかったら
すぐにここを引き払った方が良いだろうな。

「そうね、とにかく有希を見つけてできるだけ早く
ここを立ち去りましょう。
明日も有希を探さないといけないし、今日はもう寝ましょう…」

そういう訳でその日はみんなすぐ床についた。
昼間の疲れもあって眠りの闇に落ちるのも一瞬だった。
だが、またしても俺に安眠は訪れなかった…


「起きて。」

この声は…………

…………長門!!!!????

俺は跳ね起きた!…勿論夢の中でだが。

「このままでは手遅れになる。早く起きて。」

どういう事だ?

「説明している時間はない。起きて。」

起きろって言われても…と困惑した俺だがどうやらなんとかなったらしい。
不意に俺は意識を取り戻した。

しかし、最初に目に入ったのは天井ではなかった。

……古……泉……

なんと古泉の顔がすぐ間近に迫っていた。何やってるんだ気色悪……!?
古泉の様子がおかしい…親の仇にでもあったかの様な形相で俺を睨み付けている。
しかも、両手を…俺の首に…かけながら!!!!!
は、離せ…!!
声を出そうとするが声にならない…くそっ!どうなってやがる!!!

だが幸運の女神はまだ俺を見放していなかった。

「ぐふっ!」

理由はわからんが古泉が一瞬怯んだ。その隙を見逃さず俺は思い切り
古泉を突き飛ばした!!
ごほっ、ごほっ…
俺は咳き込みながら立ち上がり電気を付ける。

そこでまた俺は信じられないものを目にした…
古泉は上半身裸だった。しかも胸には下向きに尖った三角に×を重ねた
模様の傷がくっきり刻まれており、今も…血が…流れ落ちている!!!!
そこだけじゃない、喉と両手からも血が出ているところを見ると
そこも同じようになっているんじゃないか!?

古泉…それ…自分でやったのか……!!!???

その問いに古泉は何かを答えた。だが喉が潰れているのか声にならない…
それが分かったのか古泉は一音、一音、区切って口を動かす。

……ツ……カ……エ……

ツカエ…"使え"って言ってるのか?
そう聞き返したが古泉は脂汗を浮かべながら懐かしさすら感じる
あのニヤケ面で笑っただけだった。そしていつの間にか握っていたそれを
俺に放り投げて渡す。

これは………壁に刺さっていた…白羽の矢!!!???

俺がそれに気を取られた隙に古泉は窓から飛び出して行った…
どうなってんだ…一体…!?
疑問は尽きなかったが昨日も徹夜同然だったし今の事件も想像以上に
俺の気力を奪ったらしい。気が付くと俺は再び眠りの闇に落ちていた…



翌日、俺は目を覚ましてから後悔しまくった。
古泉が素直に逃げずにハルヒ達を襲うという可能性を完全に失念していた!
ハルヒ、朝比奈さんどうか…無事で居てくれ!!
また俺は隣部屋の扉を叩きつけてハルヒをたたき起こす。
ハルヒは今回も不機嫌だったが2人とも無事でホッと胸を撫で下ろした。
良く考えれば、あの後戻ってこられたら窓は開きっぱなしだったし
俺が一番危なかったんじゃなかろうか…今更ながらゾッとする。

古泉までトチ狂ったとは言いにくかったので
今朝起きると古泉も居なくなっていたとハルヒ達には伝えた。

その日、長門に続き古泉まで失踪したと村人に伝えると村は騒然とした。
俺達は勿論、村の人も昨日以上に人数を集めて2人の捜索に当たる。


…だが結局今日もなんの手掛かりも掴めないまま日が暮れてしまった。
満身創痍で宿に戻った俺とハルヒはそのまま部屋に戻っていた。
連日の疲労で足元がふらついていたんだろう、俺は足をもつれさせて
転んでしまった。

咄嗟にタンスを掴んだのでタンスがずれてしまった。
くそっ!悪態をつきながらタンスを戻そうとして
俺は声にならない声を上げた!!!


タンスで隠れていた壁には…

一面に描かれていた…!!!

朝比奈さんが…

描いていた…円と三角のあの模様が…!!!!

壁一面にびっしりと!!!!
しかも…ところどころ赤黒く染まっている!!!
こっちも爪で血を流しながら描き殴ったに…違いない!!!!!


なんだよ!!これっっ!!!!

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