あなたはもう一人の自分を信じますか?

いえ、もし、世界がもうひとつあったとしたら、
そこに自分を取り巻いていたはずの世界とは似て非なる世界があったなら。

あなたはどう思うでしょうか?
そしてどういった行動を取るでしょうか?

質問しているわけではないのです。

ただ、あなたがこの物語を読んで、彼の立場に置かれたら。
どう思うか。つまりそういうことです。

もうひとつの世界―。

―列島を器にして季節はずれのかき氷を誰かが食ってるんじゃないかってくらいの寒さだった。
だが俺が体験した事件で感じだそら寒さといったら、その比じゃなかったんだ。

話はハルヒが帰ってきたほんの数日後から始まる。
何かあちこちがほころんで、わやになっている、そんな気配。
俺は坂道をいつものように登っていたし、谷口が例によって横を歩いていた。
だがこいつはらしくないことに風邪のひき始めで、会話の合間合間に鼻をすすっていた。

「あー、だるいったらないぜ。学校をちょこっと休んで一発復帰したほうが
いいような気がするんだがな…」
「休めない理由でもあるのか?確か微熱があるんだろ」
「親父が休ませてくれねぇんだよ。40度超えたら許可するとかぬかしやがって。」

ずずっ。と谷口はまた鼻をすすった。
「今年の風邪は鼻から喉に来るらしいぞ、気をつけろよ」
朝のニュースの受け売りを俺は言ってやった。

「気をつけろっつってもなぁ。もう風邪な上に休めないんじゃ、
水も持たずに砂漠の真ん中に降りたっちまったようなもんだぜ」
俺も気をつけよう、と、珍しく気を引き締めて教室に入った。

風邪ひきばっかりね。もう休み始めてる人もいるし…」
後ろの席、風邪とは地球最後の日まで無縁であろう涼宮ハルヒは、
だらしないわねと言わんばかりにクラス一帯を眺めてから、

「阪中、あんたも風邪なの?」
横を通りがかったショートカットにぶっきらぼうに言った。

「そうなの。注意してたんだけどね…コホッコホッ」
苦笑しつつマスクのしたからくぐもった声を出した。
どうやら坂中の風邪は喉に移行したらしい。
「お大事にね。さっさと治しちゃった方がいいわよ」

そりゃそうだが、そんな自由自在に風邪が治せたら、ノーベル賞を
何回か受賞できそうだし、この世から医者の悩みのひとつが根絶するぜ。
「気合さえあれば風邪なんか引かないの。あたしは生まれてこの方
風邪を引いたことなんかないわよ!」

坂中の後ろ姿を見ながら俺に怒鳴るという無駄な器用さを見せ、
「SOS団から風邪ひきがでなけりゃいいけど…」
と、団員を気遣う一面を見せた。なら俺も気遣ってくれよ。

「アンタは健康そのものでしょ!気遣って何になるのよ」
そう言われればそうだな。俺はハルヒにお大事にとか言われても何も嬉しくないし。
「バカ」

やり取りに詰まるとハルヒはたいていそう言って会話を終了する。
この日も俺らは普通のやり取りをしていた。あぁ、そのはずだ。

さて、部室に場所を移す、時間は放課後のこと。
「クリスマスねぇ…」
ハルヒは団長机でブツブツつぶやいていた。
何だ?これ以上メジャーなのはないイベントじゃねぇか、
いつものように消火不可能な炎になるんだとばかり思ってたが…。
「どうもメジャーすぎると思わない?
あたしはあんまり大勢が好む行事は素直に喜べないのよ」
校庭に落書きしたり校舎にペンキぶちまけたり呪詛の書かれた札貼ったりするくらい
アブノーマルな趣味だもんなお前は。

「ずいぶんと余計よ。たまには団員らしく減らず口は閉じなさい!」
意見を出せと言ったり黙れと言ったり、どっちかにできんのか。
「今は黙ってて!」

ハルヒはその後も何やら怨念めいたお経まがいの声を出していたが、
それはもう気にしないことにして、俺は机に突っ伏す。
古泉はハルヒの願いもむなしく早退したそうだ。

体育の授業中にクラリと来たらしいが、想像するだに俺の方が
体内に数十のウィルスを宿しそうだったので即座に取りやめる。
長門は風邪をひくわけもない。一見して何も変哲はない。
たまには観察に時間をかけてみようかと思い、次の瞬間に気がついたことがあった。

「長門…?お前眼鏡またかけてるのか?」

あの文芸部室での邂逅から数日ばかりの記憶が蘇る。
あの時の長門はこのように眼鏡っ娘だった。
違いと言えばどことなく丸くなったというか…いや体形じゃないぞ。
金属的な無機質なイメージがほんのり温度を帯びたような、そんな気がしていた。

黙って長門はうなずきを返した。
何故今頃になって眼鏡をかける気になったのか分からんが、
こいつにも気の移り変わりがあるのだろうと思って俺は視線を移動。
春夏秋冬を通じて無償の癒しを下さるアイポーション、朝比奈さんは
風邪にかかることもなく今日も健気にお茶を汲んでいた。
そういえばお茶の色がまた元の緑に戻ってくれて、俺としては嬉しい限りだ。

果たしてハルヒはクリパを実行するのか謎のまま、
長門が本を閉じる音と終業チャイムを同時に聴いて、この日の部活は終了。
俺は帰途に着く。下駄箱で偶然鶴屋さんにあった。

「やぁキョンくん!元気かな。風邪なんか引いてないにょろ?」
えぇ大丈夫ですよと俺は答え、こっちが同じ質問をする必要はないかと思っていると、
「ところでキョンくん、最近何かヘンな感じがしないっかい?」
…と、言いますと?
「何て言えばいいのかなー。何かこう、色んなものがちょろ~んと
震えちゃってる感じっていうのっかなー?」
風邪をみんながひいていることの鶴屋さん的比喩表現だろうかと思っていると、
「まぁうまくは言えないんだけどねっ!キョンくんも気をつけたほうがいいよっ。
ほんじゃぁねー!」
ハルヒは大型台風が来る確率くらいにメランコリーになることがあったが、
鶴屋さんは元気じゃなかったことなど、俺の知るかぎりにおいてない。
世のなか彼女のような人ばかりならば、もうちょっと地球は
スムーズに自転できるんじゃないかと思うね。いや関係ないか。

俺は家に着いた。
俺の部屋ではシャミセンと妹がベッドでじゃれあっていた。
だから俺の部屋を使うのはやめてくれよ…。
「キョンくーん、おかえり!」
妹はつい最近変えた兄の呼び名を言うとともに、
同じく最近我が家の住人となった猫を抱き上げた。

ふたつのことの成り行きはこうである。
文化祭の準備のあの日、SOS団は俺の部屋に集まって会議なんぞをしていた。
まぁ、あれで出来上がった産物は思い出したくもないし、
会議初日に決まった事などないに等しかったが、
まさにその夜部屋に来た妹によって、俺が学校で何と呼ばれているのか
聞かれてしまった…ということである。
妹はたいそう面白がり、その日一日中「キョンくん」「キョンくん」と
わめき騒いで何を言っても静まらなかった。
孤島での一件と同じように、妹は言い出すとそれを変えない面がある。
間違ってもハルヒみたいな女にはなるなよ。頼むから。

もうひとつはシャミセン。この猫は三毛猫でオスなのだ。
ひょっとしたらこの珍しさに驚かない人も多いかもしれないが、まぁ気にしない。
ある日コンピ研部長が部員とともに訪ねてきて、猫をもらってくれる人はいないか
というようなことを困り顔で言っていた。何でもその部員君が両親の都合で
海外に行ってしまうんだとか何とか。で、ハルヒは世話が面倒だからと拒否、
古泉はやんわりと猫が好きじゃない的なハッタリを言ってかわし、
長門のマンションはペット禁止、朝比奈さんは恐らく現代に同居する
存在を置くことに困っていたが、それを見かねて俺が申し出た、という次第である

説明が長くなったな。まぁそんなわけで、
俺が望んだわけでもないのに成り行きの力は恐るべし、と言わんばかりに
妹は「お兄ちゃん」と言わなくなり猫は俺のベッドを定位置に指定したのだった。

これは序章、つまりプロローグ的第一章、いや前半で、それを兼ねているわけである。
翌日に俺はとんでもない事態という言葉では全然片づかないくらいの
仰天な状況に陥るわけである。
さて、今度ばかりは笑えないぜ。
ふぅ。



朝起きて洗面、食事、歯磨き、着替え、などもろもろのルーティンワークを終え、
俺は妹と一緒に玄関を出て学校に向かった。
例のハイキングコースはすっかり慣れっこだったが、
坂の中盤で肩をどつかれた人物を見てもすぐにはそれを受け入れられなかった。

「よっ!キョン」
谷口である。まったくもって元気そのもの、
数日前までと相違ない無駄な元気のよさでスマイルする。
「いよいよ近付いて来るなぁ?例の日がよ!」
「何のことだ?」
「とぼけんじゃねぇぜ。昨日言ったばっかじゃねぇか。
いくらショックだったからって、忘れたとは言わせねぇーよっ!」
谷口は俺の額を爪でぱしっと弾き、ご機嫌に歩を進める。
「何の話かさっぱり分からん」
事実をそのまま言った。こいつは一体どうしたんだ?そもそも風邪は治ったのか?
「風邪?それこそ何のことだ?…まぁいい。楽しみだなー、ク・リ・ス・マ・スがよっ!」
何故そんなにクリスマスを心待ちにするんだ?
お前はいまだにサンタ伝説を信仰する稀有な人間なのか?
「そんなんじゃねーよ。マジで忘れちまったのか?」
忘れたも何も、もともと知らなかったんだからそれは忘れたという言葉に属さないぜ。
「かぁ~、そんなに衝撃だったんだな。まぁムリもないぜ」
「早く言えよ」
少し腹が立ちそうになってそう言った。
「クリスマスにデートすんだよ。光陽園の一年女子とな」

俺は立ち止まって口を開けた。谷口に彼女?
それで一気に風邪が治ったんだろうか?というかお前…
「そんな話、今まで一度もしなかったじゃないかよ」
「何言ってんだ。だから昨日したばっかじゃねーか」
…?こいつは何を言ってるんだ。
「お前は寂しく涼宮たちと鍋パーティだもんなー。かわいそうに」
鍋パーティ?ハルヒたちと?
俺はここ数日部室に顔を出さない日はなかったが、それは何の話だ。
「お前が昨日言ったんだぜ。あのSOS団だかいうくだらん連中と、
クリスマスに鍋をつつき合うってな」
くだらんは余計だと一瞬思って、すぐにそんなことは重要じゃないと考えを切り替える。
何かおかしいぞ。谷口の風邪回復に彼女出現、そしてSOS団のパーティ…。

谷口とろくに意思疎通できぬまま俺は教室に入った。
驚くべきは谷口だけでなく全員の風邪が回復していたことだった。
このクラスの人間は夜のうちに急に免疫力が10倍にでもなったのか?

ぼんやりと席に着くと、後ろの席にもう来ていたハルヒはこう言った。
「ねぇ、みくるちゃんのコスプレだけじゃ不十分よね!何かいいアイディアない?」
目はキラキラと打ち上げ花火を条例に引っかかるくらい打ち上げすぎたように
輝いていて、それがどうも昨日までのこいつとは結びつかなった。
「何の話だよ。コスプレって何だ?新しい衣装を用意したのか?」
ハルヒは一瞬いぶかるような顔になり、すぐに元に戻って、
「寝ぼけてんのね、バカキョン、早く目を覚ましなさい!」
と俺の耳元で叫んだ。うるさいことこの上ない。

確かに多少眠い事は認めるが、それくらいで俺の現状認識能力が使えなくなるとは思えない。
何が変なのか洗いなおそうとして、次の瞬間また俺はマヌケな表情をした…だろう。
担任岡部が入ってきた。いや、それ自体はまったくどこをどう表現しても普通だが、
肝心なのはそのてっぺん、頭頂部。いや頭部。
何一つ不自由ないかのように髪の毛が頭皮を覆っている…。
待ってくれよ。ヅラか?とうとうスキンヘッドに嫌気がさしたか?
というか何故誰も驚かないんだ、それまでツルリンだった男に
突如として密林よろしく髪が生えているんだぞ?
俺はショックに言葉が出ず、HRの間中ずっと岡部の頭ばかりを見つめていた。

何かおかしい…。
俺のあるはずもない第6感、いや第7感くらいが嫌な感じに警戒警報を発していた。
そろそろおうちに帰りましょう、いや、どうでもいいんだそんなこと。

放課後…俺は悄然として部室に向かっていた。
昼休みに谷口や国木田と色々話してみたし、もちろんハルヒにもいくつか
訊いてみたが何一つ俺の事実認識と一致する意見は得られなかった。
「岡部ははじめっからフサフサだったよ」「だから俺はちゃんと昨日言ったろ、デートだデート」
「みくるちゃんには昨日あたしからプレゼントをあげたじゃない」
これは何だ?新手のイタズラか?随分とクオリティの高いドッキリだな。
こんな俺だけが困るようなことをハルヒが望んだりするのか?
…するかもしれない。いや、にしては手口がらしくない。

意識が半分以上どこかに行ったまま、俺は部室のドアを開いた。
ノックを見事に忘れ、俺は目の前に今は待っていませんでしたとばかりに
登場した下着姿の朝比奈さんを見て即行で赤面。
3倍速逆回しの要領で外に出て「失礼しましたぁ!」とわやくちゃな声をあげた。
数分して俺は彼女が手に持っていた衣装を思い出していた。
真っ赤な生地に白い縁取り、垂れた帽子の先には同じ色の球体…
今までの俺以外の奴の意見からして、どうやらサンタ衣装で間違いなさそうだった。
いつの間にそんな計画が進行してたんだ?俺には秘密だったのか?
何だか力が抜けて、気付けば座り込んでしまっていた。
おかげで次の瞬間に背中の感触が消えた時に、俺はまた慌てる羽目になった。
「ふわぁ、ふっ!」
異様に白い太ももが見えたが、それ以上何も分からなかった、
多いかは分からないがどっかの誰かに誓う、他には見えなかったぜ。
「こら!キョン!また覗いてるの!!?」
廊下に現れたのは不都合にもハルヒで、俺は弁解の余地もなく部屋の飾りつけ
強化の刑を言い渡され、そのようにして壁にモールを取り付けていた。
反論しようもないので黙っていたが、俺はまた疑問を抱いた。
「…また?」
俺は朝比奈さんのサンタ衣装を見たの自体今日が初めてだぜ?
なぜ『また』などという副詞がつくんだろうか。

ふと目をやると、長門は虚ろな瞳で虚空を見つめ、
そして俺は考えるより早く訊いた。
「長門、眼鏡もうやめたのか?」
いや、まぁそれはもちろんいいんだけどな、ないほうが。
だが1日で眼鏡をやめる理由に思い当たらなかったがゆえの質問だった。
長門は何も答えず、首も傾けず、瞳の暗黒度が心なしかかつてないほどに
強まっているように感じた。どうしたんだこいつも?
かちゃりとドアが開いて古泉が入ってきた。
「どうも、遅れてすみません」
それ以外は何も問題がないという風な装いだった。
「風邪はもう平気なのか?」
「風邪?何のことですか?」
「何って、お前昨日授業中に倒れたんじゃなかったか?」
「冗談ですか?あなたにしては乱暴な冗談ですね」
と言って古泉は流麗な動作で椅子に座った。健康にしか見えん。

部活はクリスマス一色なムードで、だが俺はちっともクリスマス気分にはなれなかった。
ここは何かおかしい。どれにも誤差がある。
いや誤差の集合はもはやその範疇にない。明らかに異常事態だ。
だが俺が何かを言っても疑問を持たれるだけで、ひいては変人扱い、
もっと行けば精神病の診断を下されるかもしれん。

俺は会議のほとんどを生返事で答え、
気がつけば朝比奈サンタが行く地域奉仕ツアーにおけるトナカイの役、
なるものを押し付けられていた。
「さぁ、買出しに行くわよ!衣装を作らなきゃね!」
ハルヒ先導の元俺は覚束ない足取りで廊下に出た。
団員は列になって歩き、俺はしんがりをよたよた歩いている…。
これはどうなってるんだ?ここに俺がいていいのか?
ひょっとしたら世界は元からこうだったのか?
意識は脳からまろび出て、俺は完全に階段を廊下の続きだと思って一歩を踏み出した。
重心を左足に全て移動し、何もない空中を空振りさせた直後―。

俺は全身を強打する感覚を連続で感じた後、後頭部に強い衝撃を受けて
意識がまるごと消失した―。




夢を見ている。夢の中でそう自覚できる事があるとしたら、これは夢なのか。
印象的な場面だった。俺は真っ暗な空間を歩いていた、
大きな窓だけが両壁に続き、広間とも廊下とも言える場所をまっすぐ、
何かに向かい歩いていた。

ふいに現れた人影は、長門有希のもので間違いない。
それだけは視覚的情報によらずはっきりしている。
長門はまっすぐこちらを見ているが、まばたきひとつしない。
そして瞳に光りはない。そんな事は以前にもあったが、そういうのとは違う。
何か、意思というか、前に向かう力というか、そういうものがまるごと消えているような闇色である。

「長門…?」俺は語りかけた。
「…」長門は何も言わない。
「何か言ってくれ」俺は話を続ける。
「…」やはり何も言わない。
「助けてくれよ。俺を元に戻してくれ、お前も何だってこんなところにいるんだ。
元の世界に帰ろう。なぁ、長門。何か言ってくれ」
「…」長門はやはり黙ったままで、しかし視覚上の変化が俺の瞳に映った。

真っ黒なだけの長門の瞳から、真っ白な雪のひとひらが舞い降りた。
それは通常の雪より大きく、宝石のような輝きと結晶のようなはかなさを併せ持って
はらりと長門の足元に降った。途端にそれは消えてみえなくなった。

「長門…?」

俺は一瞬のフラッシュバックを得た。ついさっき。
長門は部室の椅子で虚ろに座っていた。
乱暴に例えてしまえば、電源の入っていない機器、魂のない人形。
急に俺は恐怖と悲しみを感じ、泣けも怒りも、もちろん笑えもしない状態になった。
俺の世界で長門は特別問題はなかった気がする…。
今まで着かず離れずじゃあないが、頼りすぎるなんて事はなかったはずだ。
じゃぁここにいる長門は何なんだ?この宇宙の暗黒をより集めたような、
底なしの表情は何なんだ!?

「長門…!俺だ、大丈夫か?しっかりしろ!」

何も答えない。誰も返事しない。俺は一人きりだ。

「長門!俺はお前を目覚めさせなきゃならないんだ!
SOS団の誰も欠けるわけにはいかないんだ!目を覚ましてくれ…頼む」

俺はひざまずいてうなだれた。どうしてこんなに悲しいんだろう。
そんな感情とは無縁のところに俺はいなかったか?
誰がこんな状況を作り上げたんだ?

「長門…ごめんな」

「…」

「俺一人じゃどうにもできないのかもな。
どうしてこんな…ごめんな。ごめん」

謝るしかできなかった。誰のせいにすればいいかも分からない。

「ハルヒ…」

俺は今までのSOS団での毎日を思い返していた。
入学式、SOS団結成、朝倉vs長門、二度の閉鎖空間、ハルヒとの帰還。
梅雨時の野球大会に七夕の時間旅行。夏場の体育祭。孤島でのデキレース。
十五夜の満月、アナザーハルヒとの一日デート、文化祭、雨のハルヒ消失…。

走馬灯ってのはこのことなんだろうか。
俺は今最後の夢を見ているんだろうか。
なぜだ?…ごめんな。ハルヒ、長門、古泉、朝比奈さん…。


……

もう一度SOS団に会いたい。

俺はまだまだ、やり残したことがたっくさんある。

もう何も拒んだりしない。

だから帰らせてくれ。

一緒に帰ろう。

長門…。

ハルヒ。



視界が真っ白になる。

長門が俺を細い腕で抱き起こそうとしている…。

見上げた長門の顔には…光?雪?表情?

すべてが光り輝いた。




俺は何だか幸福な夢をみた気がした。
ベッドに寝ていて、そこでSOS団の皆に囲まれている…

あれは夢…?




ハルヒ…

みんな…

キィィィィィィィイイン



かくて平行世界は消失する―。





―また、お会いしましょう。
―いつか、どこかで。

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