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「なぁ長門」
「……何?」

そう言うと長門は読んでいた本から俺の方へと視線をずらした。
頭部を殴りつけると陥没を起こしちまうんじゃないかって厚さの本だ。
まったく、凶器になり得る本なんて辞書の他にはガン○ンと終わ○のクロニ○ル最終巻だけで十分だぜ。

こんな本を好き好んで読む人間の気が知れないね。三度のメシより何とやらってヤツだな。
おっと、長門に関してはこの発言は撤回……せずとも良いかもな。

なんせ長門は人間じゃないんだから。いかんいかん、こんなことを考えている場合ではなかった。

「長門。折り入って頼みがある。聞いてくれるか?」

長門は少し考え込む素振りを見せ、
「私が出来る範囲内のことならば出来る限りの支援は行う」と頼りになる発言をしてくれた。
長門様々だね。本当ならば長門の負担は軽くしてやりたいのだけど今回ばかりはそうはいかない
。なんせ今度の話はその長門が発端なんだからな。

「鶴屋さんを見てくれ」
そういって俺は、なぜかSOS団の部室の中でマスコットと化している鶴屋さんの方を指差した。
「あれを見てどう思う?」

ああ、今の鶴屋さんにはかつてのうざったらしい……失礼、有り余るほどの快活さは影も形もなくなっていた。
ただの和み系のマスコットキャラになってしまった鶴屋さん。
ときおりにょろーんと聞いたものの心を癒してくれる不思議な声を上げている。

「鶴屋さん……いや、ちゅるやさんについての問題が今回お前に頼みたいことだ」
俺はいささか気まずそうな(俺の思い過ごしかもしれないが)表情を浮かべた長門に質問をする。
「アレはお前のこの前のやつが原因か? いや、違うならいいんだ。それならお前の手を煩わせることもないだろう」
しかし長門は――コクリ、と頷いた。……やれやれ、やっぱりそうか。

まず、今の状況の説明からしようか。
世間は浮かれ、走る先生。一週間後には日本古来の神へお参りしようかというのに異国のおっさんの誕生日を祝う。
そんなこの国ならではの矛盾や不条理を併せ持つイベント、クリスマス。
その直前に巻き込まれたゴタゴタについては今ここでは触れないが、どうしても気になるやつは「涼宮ハルヒの消失」でも読んでくれ。
とにかくその時俺は大変な目にあった。その原因はなんと長門だったんだな
。ここが今回の問題点だ。あの時長門がしたこと――詳しくは俺にもよくわからん。

古泉に聞けばあの憎ったらしい笑顔で説明してくれるだろうな。
ええい、思い出しただけで虫酸が走るぞ、あの顔。ついわき道にそれるのがいかん所だな。
簡単に言うとその時長門は世界を書き換えた。すったもんだでまたこの世界に戻ったんだが……

紆余曲折を経てSOS団の年内活動もほとんど終え。みんなだらだらと過ごしているのが現状だ。
ハルヒと朝比奈さんは新年用の衣装がどうとか鍋がどうとか言って買い物へ。古泉は用事だかで早々と帰ってしまった。
部室に残ったのは俺と長門、それに鶴……ちゅるやさんの三人ってわけだ。
なぜか周りの面々は鶴屋さんに起きた異変について言及しようとしない。
たまりかねた俺がついに長門にヘルプを求めた。今回のあらましはこんなとこだ。

「ねぇねぇキョン君っ。スモークチーズはあるかなっ?」

……まただ。溜息をついてちゅるやさんの要求を飲む。
「すいません、もうないんですよ。今ハルヒたちに買ってくるよう電話しますからちょっと待っててくださいね」
「にょろーん」

今のは了解したという意味なのか? まぁそれはいい。
今のちゅるやさんは、こう口で説明しきれない不思議な空気を纏っている。
そう、急なスモークチーズの要求にもついつい応えてしまうような。俺は携帯を取り出しハルヒへと電話をする。

「なに? こっちは忙しいんだからね! 面白くないことだったら覚悟しなさいよ?」
開口一番こんなことをのたまうハルヒ。だが文面ほどには機嫌は悪くないようだ。朝比奈さんとの買い物を楽しんでいるのだろう。
もし朝比奈さんとの買い物を楽しめないようなヤツがこの世にいるとするならばそれは人間失格ものだな。
そんな幸運をふいにするヤツがいるのならばまず俺がぶん殴るだろう。いやマジで。

「ハルヒ、帰りにでもいいからスモークチーズを買ってきてくれないか? 鶴屋さんが食べたいらしい」
「んーいいわよ。た・だ・し、あんたの奢りで団員みんなの分買ってくるからね♪ せいぜい財布の用意でもしてなさい。んじゃね」

そういうとハルヒは一方的に電話を切った。
何故俺がみんなの分の代金を出さねばならんのかという考えも一瞬脳裏に浮かんだこともない。
が、その程度で朝比奈さんをはじめとするSOS団の面々にささやかな幸福がもたらされるのならば安いものだ、と思い
(あの爽やかイケメン野郎がここにいたならば素直にこう思えなかったかもしれないが)、
皆で美味しくスモークチーズをいただくためにも今はこのちゅるやさん問題をどうにかせねばいけないと、そう考え、いつの間にやらまた読書を始めている長門に尋ねた。

「長門、単刀直入に問おう。ちゅるやさんを鶴屋さんに戻せるか?」
「その質問に正確に答えることは難しい。彼女は私の目には普段と変わらず映っている。
さっきあなたの視神経から直接情報を得ることにより異常を確認した。けれどそれでも私の感覚器官では異常を捉えることが出来ない」
長門の言葉を一つ一つ反芻し、結論に至る。
「つまり……お前でも分からないってことか?」

「肯定。あなたが異変を感じ始めた時点で理由として考えられるのは私が起こしたことだけ。しかし明確な理由が分からない以上問題の解決は容易ではないだろう」
これは困った。いざという時の頼みの綱、長門でさえダメだとは……

「ふむ、話は聞かせてもらいました。長門さんの手に余ることならば僕に出来ることはないようですね」
「……古泉、お前いつからいたんだ?」

俺の眼前でニヒルに笑う男こそこのSOS団の一員、古泉一樹。団唯一の超能力者にして説明役だ。
「ええ、思っていたよりも用事が早く済みましてね。はは、この時期に独り身というのもなかなか悲しいものです。
あなたたちに会いたくなってしまいましたよ。ちょうどあなたが涼宮さんに電話をしていたころに来ましてね。
長門さんと二人きりで話し始めるものだから遠慮して外で待っていたというわけですよ」

古泉はそういうが実際どんなだか怪しいもんだ。
だいたい遠慮してなんて言っておきながら自分はこっそり聞き耳立ててたってわけか。こいつにはプライバシーと言う理念がないのかまったく。
「いえいえ、聞き耳立ててただなんて……僕はただあなたがまた突拍子もないことをしないかと心配していたんですよ。たとえば……なんかね」

そんな心配なぞしなくていい。だいたい何も出来ない分からないというなら今回お前の役割は無いはずだ。
いちいち出て来て話をややこしくするんじゃない。
「しかし困りましたね。あなたのいう鶴屋さんの異常というのは僕にも感じられないのですが。一体どのようになっているんです?」
「ちゅるやさんはちゅるやさんだよ。今はそれ以上でもそれ以下でもない」
「おや、大尉ですか。僕は少佐の頃が一番気に入ってましてね。今度じっくり話してみたいものです」
「また今度な」

「みんな何話してるんだい? あたしにも教えてよっ」
ちゅるやさん。やはりおかしい。鶴屋さんならば教えてよっのあとに!が入るはずだ。
このテンション、やはり鶴屋さんとは別物。しかしみな気づいてないようだ。
「ええ、ちょうどあなたの話をしていたところですよ」
「それはめがっさ気になりっ」
「いえ、こちらのキョン君がですね、あなたが最近変だとおっしゃるのでね」
「にょろー?」
ちゅるやさん、そんな真ん丸い目で俺を見つめるのはやめてください。
それに変だなんて俺は思ってませんよ、むしろいつもより良いと思ってるくらいです。
しかしそんな俺の思いなど知る由もなくちゅるやさんはそのつぶらな瞳をこちらへ向けていた。

「キョン君キョン君、スモークチーズはあるかい?」
「さっき食べきっちゃったでしょう。もうすぐハルヒたちが買ってきますから待っててください」
「おや? 鶴屋さんはスモークチーズが好きだったのですか? これは初耳ですね」
古泉の言葉にはたと俺は気づく。確かにちゅるやさんはスモークチーズの食べすぎだ……!
「そうか……そうだったのか!」
「どうしたんですか? まさか……真相に気づいたとでも?」
「これを見てくれ」
俺は近くにあったノートを開くと今回のキーワードを書き連ねた。

  • 鶴屋さん
  • 長門の暴走
  • ちゅるやさん
  • スモークチーズ

「これがなにか?」
「今回の事件の背景には長門の暴走が深く関わっている。あの出来事のあとにこの事件が起きたことからもそれは火を見るより明らかだ。そしてスモークチーズ。こいつを見てくれ。こいつをどう思う?」
「すごく……カルシウムです……」
「古泉……まぁいい。長門、カルシウムの効果は?」
「骨を大きくするにはカルシウムをとれという言葉もある。またキレやすい現代っ子にも精神を落ち着かせる効果で嬉しい。牛乳などに含まれているが牛乳とアンパンとの組み合わせは絶品だ」
「十分だ。ここではカルシウムの精神を落ち着かせるという効果に注目して欲しい。そして第二に注目するのは鶴屋さんの性格。あの落ち着きの無さは確かに高校生のものではなかった」
「それがなにか?」

「ここからが本題だ。このキーワードから推測される事実……!」
俺はノートへと驚愕の事実を書き込んでいく。

  • 長門の暴走→前提条件。キレやすい現代っ子の象徴。
  • 鶴屋さん→あの性格。現代っ子のモデル。
  • スモークチーズ→カルシウムたっぷり。固形のため持ち運びに便利。
        スモーク味で飽食の時代を生きる現代っ子も満足。
  • ちゅるやさん→カルシウム摂取後のモデル。癒しのマスコット。

「今回の構図はこうだ。長門の暴走。これが現代っ子の暴走の象徴となった。普段は無口だったあの子が突然――典型的な形だな」
俺は自分の仮説を確かなものと確信していた。
「そこで対策としてカルシウムの摂取が提案された。しかし牛乳離れは進み、この飽食の時代、子供が好き好んで食べるものなんてそうそうない。ここで登場したのがスモークチーズだな。利点は見ての通り」
話すたびにその確信はより確かになる。
「そしてそのテストとして選ばれたのが鶴屋さんだ。あの性格に、実家の知名度。対象としてはうってつけだな」

「……興味深く聞かせて頂きました。しかしまだ確証を持てるほどの証拠はないようですね」

「証拠なら作ればいいさ。そのための長門です。長門、ちゅるやさんの体内カルシウム濃度を調整してくれ」
「了解。それならすぐ終わる」
長門はちゅるやさんへと手をかざした。さすがSOS団のリーサルウェポンだ、頼りになるぜ。

「あれ? あれれ? 長門っち何やってんのさっ?」
そう言うちゅるやさんの雰囲気が変わってきた。
「お? おおお? なんか元気出てきたにょろ!」
ぴょんぴょん飛び跳ねはじめる鶴屋さん。ちゅるやさんに未練がないと言えば嘘になる。ただやっぱり鶴屋さんはこうじゃないとな。

「しかし気になるのは黒幕です。一体誰がこんなことを……」

「それは俺にも分からない。まぁ手がかりがないわけじゃないさ。……ちゅるやさんが食べたスモークチーズの包装だ。ここに書いてある。製造元がな」
「……! そこには一体なんと?」
「日本骨太協会……NHKだ。そう、これは国家を挙げたプロジェクトだったんだよ!」

「な、なんだってー!?」

「……これはまだ序章に過ぎない。……古泉、力を貸してくれるか? 無理強いはしない。だがいつやつらがハルヒの存在に気づくかもわからない。力が必要なんだ」
「……いつか言いませんでしたか? あなたのために、涼宮さんのために、来るべき時には力を貸すとね」
「古泉……! すまんな、いつもいつも」
「いえ、……僕だけじゃないようですね、ご覧ください」
古泉が指差した先――そこにはすっかり元通りになった鶴屋さんといつも通りの長門の姿があった。

「……すいません、ありがとう」

「なになに、キョン君が気にすることじゃないのさっ! ちょいとあたしも怒っちゃったからねっ! こういうときはこてんぱんにしてやんないと気がすまないのさっ!」
長門は無言のままコクリ、と小さく、けれどしっかりと頷いてくれた。
まったく――みんな泣かせてくれるぜ。俺がこんな風に泣いちまうなんて天地開闢してから初めてじゃないのか? ……ありがとう、本当に。

俺がしばし涙ぐんでいると、外から聞き慣れた声が聞こえてきた。

「えーっ! みくるちゃんそれホントなの? 凄いわ、それって! SOS団設立以来最高最大の謎よっ!」

ああ、ハルヒが帰って来たんだな。こんな顔見せられるもんじゃない。俺はそそくさと席を立つと少し悩んで、皆に背を向ける形で窓から外を覗くふりをすることにした。
後ろでドアの開けられる音が響く。まったくあの馬鹿はいつになったら丁寧にドアを開けてくれるんだろうか。
……なんてな。今はそれも耳に慣れてしまった。なかったらなかったで寂しく感じちまうんだろうな。

「みんな、ニュースよニュース! みくるちゃん情報だけどあの国営のが裏では色々してるらしいのよ!」
またどっかで聞いたような話だな。
「あれ? キョン何してんの?」
「ああ、彼なら青春のリビドーについて思索しているところですよ。なんでも最近大きく心を動かされる出来事があったらしいので」
古泉め、またひっかかる言い方をしやがって。
「ふーん、まぁいいや。みんな! SOS団の来年一番最初の活動はこれよ! 国営事業の裏に隠された秘密! 子供の夢を隠れ蓑にこそこそするなんて最も許さざる行為よ!」
「み、みなさんスモークチーズ買ってきたのでご一緒にお茶でもいかがですかぁ?」

朝比奈さん、ダメだ、それは! 思わず振り向いてしまう。
「あぁ、忘れてたわ。はい、鶴屋さん。あたしも一個もらおうかしら。キョン、ちゃんと後で代金払いなさいよ? 立て替えてやったんだからね?」
スモークチーズをとるやいなやすぐに開けて食べ始めるハルヒ。ダメだダメだ!
「ハルヒ! すぐにそれを食うのをやめろ!」
「は? 何言ってんのよキョン。あら、これなかなかおいしいわ♪ さすがみくるちゃんが選んでくれたものね♪」
ハルヒは食べるのをやめようとしないばかりかさらに食べるスピードを上げる。くそっ、無理やり取り上げるには距離が遠すぎる!
……そのとき、ハルヒに異変が起きた。明らかにハルヒのまわりの空気が変わっていったのだ。そう、それはちゅるやさんのものに酷似していた。

「くそったれ……! 今度はにゃるひ、ってか」
俺は思わず拳を握り締めていた。そのまま壁に叩きつける。
「長門っ!」
「把握した。調整に入る」
しかしその長門を弾き飛ばしたもの……

「朝比奈……さん……?」

俺は自分の目が信じられなくなったよ。そのとき長門を突き飛ばし、にゃるひを確保した……その人が朝比奈みくるだなんてな。

俺の知ってる朝比奈さんは何も無いとこでこけるようなドジッ娘属性を持った未来人だったはず。まかりまちがってもSOS団随一の実力を持つ文型宇宙人長門有希を突き飛ばしハルヒを後ろ手に捕まえるような御人じゃない。

「みくるっ!? 一体何やってんのさ!」
「朝比奈さん……そうですか、鶴屋さんにスモークチーズを与えられる立場にいる人間、ということですね」

朝比奈さんはにゃるひを捕まえたまま俺たちに言い放った。
「ごめんなさい、皆さん。……皆と過ごした時間、とっても楽しかった。けれど私はSOS団の一員である前に、私の世界の人間の命を背負った立場にいるの。それだけ。それだけ分かって欲しかった」

嘘だろ……? けれど朝比奈さんはベルトについたボタンに手を伸ばし、それを押した。

「いけない……! それは緊急離脱装置。今逃がしたら捕捉出来ない……!」
長門の言葉も、しかし俺の混乱した体を動かすほどの力は持たなかった。
出たのは一つの言葉。確かめる言葉。

「朝比奈さんっ……! それが、あなたの答えなんですか 本心から、それをしてるんですか!?」

朝比奈さんは悪戯な顔を浮かべ、人差し指を唇にあてるおなじみのポーズで、これまた何度も何度も俺を誤魔化してきた言葉を唱えた。

「それは、禁則事項です――」

朝比奈みくるは、そう言い遺して俺たちの前から姿を消した。涼宮ハルヒを連れて――
俺は、何も出来ずに立ち尽くしていた。ただ胸に空いた痛み。喪失感なんだな、これが。次第に感情が、身体の自由が戻ってくる。

「俺は……俺は馬鹿だ……!」

なんださっきの俺は。調子に乗って。何も考えずに。先手、打てただろ? 悔しい、悔しい、悔しい――
「……決めたぜ」
「……失礼ながら、何をです?」

「ハルヒを……取り戻す……!」

救いたい、あいつを。いや、救ってみせる。そう決めた。やるしかない、今までの、傍観者なんてスタイルはクソくらえだ。自分で決めたんだ、あいつを守る――
決意。それが今の俺の全てだ。











ガタンっ!

頭に響く痛みに意識が戻ってくる。ふぅ、こりゃまた深刻な夢を見たもんだ。ベッドから転げ落ちた体をいたわりながら俺は一息つく。
「なんか……夢なのに疲れた……」
すまんな、こういうことだ。ここまで盛り上がってこれかよ! なんて言わんでくれよ、俺には。言いたいことは全部作者へな。
んじゃ、涼宮ハルヒ大外伝!? 終わり。
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