(この作品は長編・涼宮ハルヒのすき焼きの設定を元に他の作者さんが書いた別作品です)


それにしても缶ビール3口で酔いつぶれてしまうとは さすが朝比奈さんと言った所か

長門は顔色一つに変えずに飲みまくっているし、こいつは食事と言い胃袋はどうなってるんだ?
ちょっと覗いてみたい気もするが、、、いや やっぱりやめておこう
いくら人間になったとはいえ仮にも元宇宙人である。
知的好奇心は尊重すべきものとしてもさすがに元宇宙人という肩書きを持つ一乙女の体内なぞを
覗く方がどうかしている。

誰だってそう思うだろう?

それにしたって古泉にしろハルヒにしろなんでSOS団は揃いも揃って酒豪ばかりなんだ?
俺の目の保養薬である朝比奈さんはすぅすぅと寝息を立てて安眠してしまっているし
ハルヒは終始顔色を変えないで飲み続ける長門にあれやこれやの質問攻めをしているし
古泉に至っては二人を今や雑誌モデルとなったスマイルで見つめながら飲んでいるし

こんな平和な時間の中にいるとさっき古泉から聞いた長門の親玉の話なんて
いつもの古泉の意味も成さないような無駄話だと思えてくるくらいだ。

いやむしろ無駄話だと思っていたい。

だが結局は古泉の予想も当たらずとも遠からずだったわけで、
やはりというべきかまたもや俺はこの変な騒動に巻き込まれる事になるわけだが

まぁ今はこの束の間の休息を楽しませてもらう事にするさ

「すいません あなたに少しお話があります」

そう古泉から言われ安眠から叩き起こされたのが今からざっと15分ほど前の話だ。

さすがに古泉も酔いつぶれた状態の朝比奈さんを家まで連れて帰る気力はすでに無かったようで
長門もハルヒの半ば強引な説得もあいまって全員で一泊する事になったのだ。

「こんな夜中に何の用だ?まぁ他の3人は寝かせたまま俺だけ起こしてる時点でろくでもない事はうすうすわかっているがな」

「さすが、相変わらず察しが良いですね。ならば話は早いです。長門さんの件でですが…」

「まぁお前がこんな夜中に叩き起こすような事だ、そんなこったろうとは思ってたけどな、
それでどうしたんだ?まさかあの情報思念体とやらが今すぐにでも襲ってくる。
とか言い出すんじゃないだろうな?」

今まで珍しく真剣だった顔をふといつものニヤケ面に戻したのも一瞬でまた真顔になった古泉は
その真顔そのままの真面目な口調で次のような話をし始めた。

「ええ、残念ながらその通りですね。情報統合思念体はさっき話した通り娘を取られたような
憤りを感じているのも確かですが、いくら長門さんの力を借りたと言っても涼宮さんはまた
世界を改変する力を使ったのです。さらにこれに長門さんの手も加わっていたとなれば
なお更黙っていないでしょう。
今までの長門さんのように保守派が実権を握っていた事から急進派がいきなり来る事はまず
無いと思いますが、なんらかのアクションを起こしてくる事は間違いないでしょう。」


「ちょっと待て古泉」

俺は慌ててこいつの説明を静止させる。こいつ一人に喋らせるとこのまま夜が明けるまで
一人で喋り続けるような事になっても全然おかしくはないぜ

「そりゃなんだ?要するにまた以前の長門のようなハルヒのお目付け役が来るって事か?」

「ええ、そうなると思っていただいて構わないでしょう。ただし、今回はハルヒさんだけ
とは限りません。今度は長門さんへも、下手をすると我々にまで監視の目が向けられるかもしれませんね。
そうなるともう我々だけでは解決できないような問題になってくるかもしれません。
いくら機関が存続しているとは言ってもあなたもご存知の通り現実世界では超能力なんて使う事が出来ませんし
ましてやみくるも今や一般人となってしまって、未来とは全く連絡を取っていないようですからね。」

おい 古泉 いくら今や朝比奈さんの旦那だからって俺の心の永遠のエンジェルである
朝比奈さんをみくると呼び捨てにするのは聞きがたいな。
朝比奈さんを呼び捨てにするのは誰が許そうとこの俺が許さないぜ

「それじゃあ どうするんだ?長門すらも今や一般人の仲間入りだぜ?
このままだと打つ手なしになっちまうじゃねぇか」

すると古泉は口の端を緩やかに上げながら

「残念ながら、今のままだとその通り 打つ手なしですね。しかしこのままでは良い方向に進まないのも事実です。
僕からも機関に積極的に働きかけてみますよ。
ああ、それとこの話はあの三人には内密にお願いしますよ。
今は余計な心配事はさせたくないですからね。」

「ああ、もちろんわかってるとも ここでも気が合うなんて珍しい日もあったもんだな」

「僕はいつでもあなたに合わせているつもりですが?」

さっきまでの真顔から一変いつものニヤケ顔に戻ると

「それでは、もう夜も遅い事ですし僕達も寝る事にしましょうか」
そう言い残すと自分だけさっさかと布団に入りものの数秒で夢の中へと入っていった

「まったく、こんな状態でも寝つきが良い奴ってのは羨ましいもんだな…

まぁこれからしばらくはまた忙しくなりそうだな」

そう誰に言うわけでもなく呟くき 布団に体をうずめると
すぐに瞼が重くなり夢の中へ沈んだ

「ン………………キョ………ン………キョン…キョン!!!
いつまで寝てるのよ!さっさと起きなさい!
もう!キョンったら寝る事に関してだけは得意なのね!

元SOS団としての誇りってもんがないの!?少しは他のみんなを見習いなさい!」

そうハルヒに言われ叩き起こされたのはいいものの まったく俺はハルヒに無理やりSOS団の一メンバーに
されてしまっただけであって自分から望んで入ったわけではないのだから誇り云々の話をされてもどうしようもないわけだが…

さて、そう考えながらまだ半覚醒状態の脳みそをフル稼働させて辺りを見回すとすっかり朝食の準備が整っており
各々がテーブルを囲んで談笑をしている。
だが朝食には箸がつけられた様子は無く、あたかも今作ったばかりを思わせるような湯気が立ち上っていた。

「うまそうだな…」

まだ半覚醒状態のままの脳を稼動させながらそう呟いた。

「まったく、当たり前じゃない!誰が作ったと思ってんの? 大体いつまで寝てるつもりなのよ。
みんなあんたが起きるのを待っててくれたんだからね! 感謝しなさいよ。」

そう俺の布団の横で自分のお手柄のように胸を張って朝から騒ぎ立てるのは…言わなくても もうお分かりだろう
我らが元SOS団団長であり、今では俺の妻となった涼宮ハルヒその人だ。

やれやれ、あの長門ですらみんなが感情を読めるほど明るく変わったというのに…
その点こいつはあんまり変わらないな まぁそれが良い所なのかもしれないが

そんな事を考え寝ぼけ眼をさすりながらよたよたとテーブルに着きに歩く。

「ちょっと キョン!危ない!」

「え?」

そう言うか言わないかの辺りで俺の足元を何かが素早く駆け抜けていった。

「うお!」

咄嗟に足を引いてバランスを取ろうとするが、あいにく高校時代はSOS団という
活動内容が世界の不思議を発見するという運動とは全くかけ離れた意味不明の部活に
従事していた為か元々運動神経が人並み程度だった為か上手くバランスを取る事が出来なかった。

「おわっ、、、おおっ!?」

そうあまりにも間抜けな声を出しながら俺の体は再び床の上へと尻餅をつくのだった。

「もう、、、大丈夫? ほんとしっかりしてよね。最近のあんた、ちょっと気が抜けすぎよ?
いくら有希とみくるちゃんがここに残ったからって安心しすぎだわ。
まったくもう、、、しっかりしてよね」

そう言いながらハルヒは俺の横にかがみこむと少し心配したような顔で俺を覗き込んできた。
こいつもこんな顔が出来るんだな。
まったくいつでもこういう顔をしていてくれれば俺としても非常に嬉しいところなんだが

「ああ、悪いな それにしてもなんだ今のは?」

「もう、まだ寝ぼけてんの?何ってシャミセンじゃない!シャ・ミ・セ・ン!
彼も我がSOS団の一員だしねっ 二人で暮らす時にキョンが実家から持ってきたんじゃない」

そう、ハルヒがシャミセンも連れて行こうと言い出した時は またこいつが喋りだしたり
何より妹が嫌がって離さないかとも心配したんだが…
どういう訳かあれから少しは成長した妹は物分りがよくなったようで快く とまではいかないが
俺とハルヒにシャミセンを預けてくれたのだ。

「それより… 早くご飯食べないと冷めちゃうわよ? それにみんな待ってるし」

「あ、ああ そうだな」

こうしてみんなで集まるのも久しぶりだ。ここで色々な思い出話に花を咲かせないと
それこそ損ってもんだ。

そう思いながら立ち上がり再びテーブルに向かうが、その時の俺はまた一つ懸案事項を抱えていた。

懸案事項というのは言うまでも無い 当たり前だが長門とその親玉の事だ。
昨日の夜中に古泉が珍しく真顔で話した事が事実だとすると
情報統合思念体とやらは一両日中にでもハルヒと長門 もしかしたら俺達までへも監視の目を
向けてくるかもしれないという事だ。

もしそうなったらどうする?古泉は保守派が実権を握っていた事から
以前の朝倉のようにいきなり俺達を殺しにかかる事はないと言っていたが
少なくとも楽観していられる状態ではないだろう。

だがそう思いながらも俺は心のどこかで安心していた。
今まで幾度となくこんな危険をむかえながらもその度に上手く立ち回って
乗り越えてきたからだ。

それもこれも長門という宇宙人製対ヒューマノイドインターフェイスがいたからなのだが…
それはもう無い。

もう長門は普通の人間になってしまったのだ。
そう頭ではわかっていながらも心のどこかでやはり長門に期待してしまう

こいつならきっと何かしらやってくれる…と

しばらく俺達元SOS団員は昔の思い出話に一通り花を咲かせるとそれぞれ自宅へ帰る事となった。
さすがに今日一日休みとはいえハルヒの監視という任務を終えた三人は各々仕事をしているし
それぞれに用事があるのだろう。

三人を見送り終えふと一息つこうとすると後ろから突然声がかかった。

「行ってきたら?」

「な、なんの事だ?」

「とぼけなくてもいいわよ。 有希の事で何かあったんでしょ?」

「知ってたのか!?」

「当たり前よ。あんな夜中にごそごそ動かれちゃ気づかない方がおかしいわよ。
きっと気づいてないのはみくるちゃんくらいよ。」

なんだと!?俺にしてはかなり気配を消していたつもりだったんだが…
ということは長門も気づいているのか?朝比奈さんは…まぁあの人の性格上気づいているとは思えないが…

「ほ~らぁ!何ボケっとしてんのよ?有希を追いかけるんじゃないの?
いっておくけど、話をするだけだからね!何かしようとか 変な気は起こすんじゃないわよ!
有希に何かしたら…そうねぇ あのフットボール馬鹿の岡部の家の玄関で真っ裸でアナルだけは!アナルだけは!
って絶叫の刑だからね!」

「ちょwwwwなんだよそれwww俺の貞操の一大危機じゃねーかwww」

「いいのよ!あんたの貞操の事なんか!とにかくさっさと行ってきなさい!有希が家まで帰っちゃうわよ!」

「あ、あぁ じゃあちょっと行ってくるわ」

そう言いかけて俺は当たり前の疑問を投げかけてみる

「そういや ハルヒ、お前は来ないのかよ?」

「そうねぇ…私はこの部屋の片付けもしなくちゃいけないし…」

そういいながらハルヒは昨日のスキヤキパーティの会場であるリビングを一瞥すると

「でも…そうねぇ有希の事も心配だし 行ってあげてもいいわよ。
か、勘違いしないでよね!あんたの事が心配なんじゃなくて有希が心配だから行ってあげるんだからね!」

へいへい、わかってますよ まったくこいつは宇宙ツンデレ選手権にでも出れば1位を取れそうなほどのツンデレっぷりだな
少しは素直に言ってくれりゃあ まだ可愛気があるもんだが。

そう思いながらハルヒと一緒に今や一般人となった長門を追うために玄関から外へ出た。

長門を急いで追おうと意気込んで飛び出してみたものの意外にあっさりと
長門の後ろ姿を視界に捉える事が出来た。

「長門!」

俺は数年前とは様変わりした後ろ姿に数年前と同じように声をかけた。

振り向く

一瞬俺は数年前の長門を思い出していたが振り向いた長門はやはり数年前と大きく変わり
大人びた朝比奈さんやハルヒにも負けない美人だった。

「………」

数年前とは変わり性格も明るくなったがこの沈黙は懐かしい記憶をフラッシュバックさせてくれる
だが今はそんな高校時代の思い出にふけっている場合ではない。

「待っていた…」

表情を何一つ変えずに切り出したのは長門だった。

「待っていた?俺達をか?」

「そう…」

「ほらね キョン。有希もやっぱり昨日のあんたと古泉君の話を聞いてたのよ!
それでね 有希。聞きたい事が色々あるんだけど」

「……何?」

ちょっとした沈黙の後に一言だけそう答えると無表情はそのままに吸い込まれそうな黒い瞳でハルヒを凝視した。

なんだ?何かがおかしい。
今まで不思議な事に巻き込まれる度に散々感じてきた違和感がここにきて復活する事となった。

どこだ?どこがおかしい?何かを見落としている気がする。
だがそんな疑問を浮かべているのは俺だけのようでハルヒは先ほどの会話の続きを切り出した。

「有希の親玉の事についてなんだけどね。ほら、今は普通の人になっちゃったみたいだけどさ
昔の記憶とかはあるんでしょ?どんな奴らだった?なにせ有希の両親と喧嘩するんだもんね。
敵を知り、己を知れば百戦練磨で勝ち放題ってね!」

なんだそりゃ。 それも微妙に違うぞ。 というつっこみを心の中で浮かべつつ俺はさっきからふつふつと湧き上がる
違和感の元を探していた。

以前の高校時代の長門…そして昨日あった大人びた長門…そして今目の前にいる長門…

どこかおかしい所があるはずだ。良く思い出せ 頑張れ俺!

以前の長門…昨日の長門…今の長門…

ん? そうか、、、これか! 

俺は思考した挙句ついに違和感の原因なるものを突き止める事に成功した。
それと同時に俺の口はハルヒを静止させる為に叫び声をあげていた。

「まて!ハルヒ! 何かおかしい!」

「えっ?」

そう疑問符を頭の上に浮かべたような きょとんとした顔をしてハルヒが俺の方を振り向く
何かを言おうとしたのだろう、ハルヒの口が開きかけたがそれは一瞬の出来事だったので
残念ながらハルヒが何を言おうとしたか聞く術は無かった。

俺の視界の奥で何かが動いた。 

ハルヒよりもっと奥。

長門だった。

長門は動いたと思った次の瞬間には俺の方を振り返り無防備になっているハルヒに詰め寄った。
次の瞬間 俺は自分の目を疑った。
長門は左手を伸ばしたかと思うとそのまま左手でハルヒの口を塞ぎ 右手の手のひらで首筋に触れたかと思うと
ハルヒの表情がまるでコタツで丸まっているシャミセンのように穏やかになりとろんとした瞼を閉じたかと思うと
首をかくっと下に垂れて気を失ってしまったようだった。

あまりにも俊敏な動きだった為にどうする事も出来なかったが これだけはわかる。
今動くのは危険だということだ。 なぜならこの長門は長門であって長門でないからだ。

「どういうつもりだ?長門…」

俺は俺が思い至った違和感の原因を確かなものにするべく長門に話しかけた。

「いや、違うな。 お前は誰なんだ?」

「………」

しばしの沈黙の後に長門の容姿をしたそれはおもむろに口を開いた

しばしの沈黙の後に長門の容姿をしたそれはおもむろに口を開いた。

「どうして気がついたの?」

「それよりハルヒを離してくれないか? そしたらそっちの質問に答えるぜ」

長門の容姿をしたそれの左手の中で気を失ってぐったりしているハルヒを見ながら次の手を思考する。
とにかく今はハルヒの安全を第一に考えなければ。

「涼宮ハルヒは今私の腕の中にいる。 先に質問に答えるのは貴方の方。」

しまった。よくよく考えてみりゃわかる事だがハルヒは今奴に捕らえられている。
普通に考えて俺の方が分が悪い。
ここは大人しく向こうの言う事を聞くのが得策ってもんだろう

「…表情だよ。昨日一緒にスキヤキパーティをした長門は人間になったおかげで
まだ少しぎこちなかったがハルヒや朝比奈さんもわかる程度に表情を顔に出すようになったはずだ。
それなのにお前は以前の…高校時代の長門と変わらない全くの無表情のままだ。」

長門の容姿をしたそれは相変わらず無表情のままで微動だにせずに立っていた。

俺は少し距離を取り警戒しつつ考えをまとめていた。
恐らくこいつが昨日古泉が言っていた来るであろう情報統合思念体の手先なんだろう。
長門と全く同じ容姿をしているのがその証拠だ。
だが長門はハルヒの力を借りて普通の人間になった。その時に情報統合思念体とやらと連結が解除されて
長門がほんの少しでも表情豊かになった事を情報統合思念体は知らなかったのだろう。
目の前にいる長門の容姿をした奴は人間になる前の長門のように無表情だ。
昨日みた長門とは受ける雰囲気も似てはいるもののどことなく違う気がした。

ということは待てよ。本物の長門はどうした?朝比奈さんと古泉もだ。
あの三人は途中まで帰路が同じで一緒に帰ったはずだ。

もしや三人とも…こいつに捕まったのか?そんな馬鹿な!
もしそうだったとして今目の前でハルヒまで連れていかれたら俺はいつぞやのハルヒが消えた時みたいに一人ぼっちになっちまうじゃねーか!
もうあんな思いは真っ平ごめんだ!
なんとかしてハルヒを助け出さないと…だがどうやって?

相手を警戒しつつそんな事を考えあぐねていると…

「な、なんだこりゃ…?」

思わず口から驚きの言葉が漏れた。

長門(偽)の周りをちょうど虫眼鏡を覗いたみたいに空間が歪んでいた。

たぶん今鏡を覗きこんだら信じられないくらい間抜けな顔をした男が映るだろう。
それくらいに俺は唖然としていた。

みるみる内に長門(偽)の周りに発生した歪みがひどくなり
ついには虫眼鏡を覗いた状態から曇り硝子越しに見たようになりその先にいる者が長門の容姿かどうかなど
判別がつかない程歪んでしまっていた。

ま、まずい!何をするつもりかは知らないがここでハルヒまで連れてかれるとどうしようもなくなる!
長門は完全に普通の人になっちまったし、今は朝比奈さんや古泉の安否さえもわからない。
なんとか奴を止めなけりゃ…!

俺はとにかく今俺が出来る事をしようと長門(偽)に猛然と飛び掛ろうとすると。



ピシッ



冬の道に張っている薄い氷にひびが入ったような小さな音がなったかと思うと一瞬にして歪みが消えてしまっていた。

次の瞬間に俺が見たものはさっきまで長門と全く同じ容姿をした奴が立っていた所と
これまた全く同じ場所に立っている一人の少女の姿だった。

見た目は十七、十八くらいのようで長い髪を頭の後ろで二つに分けツインテールにしてあり、
まだ幼さが残るその顔は昔のハルヒや朝比奈さんと匹敵するくらいに整った顔立ちだった。
だがその幼さとは裏腹に少女はきぜんとした表情でこちらを見つめていた。

「……そうか、お前が偽長門の正体か。」

いきなり姿を現したそいつに驚きながらもなんとか平静を装って喉の奥から言葉を搾り出す。

「そうだよ、ボクが長門有希の姿を借りてキミ達に接触しようとしたの。
かつての長門有希から情報統合思念体に送られた情報では キミ達は相当長門有希というインターフェイスを
頼りにしていたみたいだったからね。
その姿を借りればキミ達も油断すると思ったんだけど…」

そこで ふっ と自嘲するような笑いを一度だけ出すと

「まさか情報統合思念体と結合を解除した長門有希があそこまで変わっていたとはね。
以前の高校生のままの長門有希の姿で来たから驚きだったよ。
容姿をすぐさま今の長門有希と同様にしたケド、まさか性格まで変わっていたなんてね。」

なんて良く喋る奴なんだ。ここまでベラベラと喋っていいものなのか?
長門といい朝倉といい、それにこいつといい 情報統合思念体ってのはいろんな奴がいるんだな。

そう不謹慎な事を考えつつ俺は少し安心していた。

朝倉のようにいきなり襲いかかって来ないところを見るとどうやら昨日古泉が言っていたように
急進派ではないようだ。
いや まてよ? いきなり現れてハルヒを拉致ようとする奴だ。ほんとに急進派じゃないのだろうか。
それに長門と朝比奈さんはどうした? あと古泉もだ。
古泉はともかく本物の長門と朝比奈さんに何かしたらただじゃおかねぇぞ!
尻百叩き!尻百叩きの刑だ! この子もなかなか可愛い顔立ちをしているし
この子のお尻を百回叩くのなら、それはそれで嬉しい事かもしれない。

「キミ、顔がにやけてるよ?」

その一言で俺は我に返った。 いかん ちょっと妄想の世界へトリップしてしまったようだ。

|