男たるもの、小さいときはTVゲームのような冒険なんかに憧れることがあったと思う。
かくいう俺もその一人なのだが、少し大人になってから冷静になって考えてみると、それは全くいいものでは無い。
勇者はそれなりに強いから勇者になったのだ。現代のインドア派チルドレンではスライムも倒せるかあやしいな。
まぁいいとこでドラゴンでゲームオーバーだろうな。
よって今の俺は「ゲームの世界に入って冒険したい」なんてことはこれっぽっちも思っていない。
しかし、俺の意思とは関係無く事件は起こる。涼宮ハルヒという女がいる限りな。

これは、俺のあまりにもあり得ない、だが本当の冒険記だ。

5月。暑くもなく寒くも無く。最もすごしやすい時期だ。
「平和だ・・・」
俺は今古泉を相手に将棋を打っているところだ。あと5手程度で詰むだろう。
最近事件らしい事件も起こっておらず、古泉が出動したという話も聞いていない。
まぁこれを平和ととるか暇ととるかは人によるだろう。俺は前者だ。
で、明らかに後者であるあの女は今この部室には居ない。それがまたこの平和を安定させている。

トントン

唐突に部室のドアがノックされる。ノックということはハルヒでは無いな。
「はーい」
朝比奈さんがドアへと向かう。今更だがメイド服が反則的に似合っている。
「あ、鶴屋さん」
朝比奈さんがドアを開けると、そこにはSOS団名誉顧問の鶴屋さんが立っていた。
「おっすみくるぅ!ハルにゃんはまだ来てないのかな?」
「涼宮さんはまだです」
「そうかい。君たちに渡したいものがあるんだ。上がってもいいかぃ?」
鶴屋さんが体を横に曲げて俺に聞いてくる。もちろん拒否する理由など無い。
「どうぞ」
「じゃ、ちょっくらあがらせてもらうよっ」
そう言うと鶴屋さんは軽快なステップを踏みながら部室へと入ってきた。

「じゃ、これキョン君に渡しとくよ」
そう言って鶴屋さんが差し出したのは、どう見ても遊園地のチケットだった。それも5枚。
「うちのとっつぁんが開園記念にって大量にもらってきたんだけどね、私は忙しくていけないんだよぉ。だったら君達に譲ってやろうかと思ってね」
「そうですか、ありがとうございます」
俺が礼を言うと鶴屋さんは「いいってことよ!」と言って、さっさと出口に向かっていった。
「開園したてのほやほやだからね!楽しんで来るといいよ!聞くところによると最新技術を駆使した超ハイクォリティなアトラクションとかもあるらしいよっ」
それだけ言うと鶴屋さんは「じゃっ」と言って部室から出て行った。まったく、風のような御人だ。
「遊園地ですかぁ、おもしろそうですね」
「超ハイクォリティアトラクションというのが気になりますね。いまから楽しみです」
朝比奈さんと古泉が各々の気持ちを述べる。というか行く気まんまんなんだな。
俺はこっちに興味無さそうに本を呼んでいる長門に歩み寄り、聞いてみた。
「長門、行ってみたいか?」
すると長門は本から俺に見せるチケットへと視線を移し、それから俺を見て小さな声で言った。
「興味は無い。だがあなたと涼宮ハルヒがそこへ向かうなら同行する」
んー、もっともらしい答えだな。
俺は自分の席へ戻り、さてどうしたもんかね、とチケットをヒラヒラさせていたとき、部室の扉が開かれた。ノック無し。

「さっき鶴屋さんに会ったわよ!遊園地のチケットですって!?見せなさいキョン!」
まぁこの声の主が誰かは言うまでも無いよな?
「ほらよ」
俺はチケットを持っていた左手をわずかにハルヒが居る方向へ傾ける。
その手からハルヒがチケットをひったくり、まじまじと眺める。
「なるほど、明日開園なのね。じゃぁ明日行きましょう」
言っとくが俺はもう「明日なんて急すぎるだろ」なんてことは言わない。
もう一年もこいつと付き合ってりゃわかる。こいつは一度言い出したら聞かないやつだ。
まぁどうせ暇だし、遊園地なら行ってやるけどな。むしろ朝比奈さんと行けるなら喜んで。
「で、何時に何処集合だ」
「10時に開園だから・・・9時に駅前にしましょう。開園の時は逃せないわ」
そういえば遊園地の開園の瞬間なんて見たこと無いな。意外といろいろ学べるかもしれんな明日は。
「じゃぁハイ、チケット配っとくから」
俺はハルヒが差し出したチケットを一枚取る。ハルヒが古泉、朝比奈さんと配った。
ハルヒが最後に長門が呼んでいる本の上にチケットを置くと、長門はその本をパタンと閉じた。おい、長門それは栞じゃないぞ。
俺達がぞろぞろと部室から出たあと、ハルヒは「じゃぁ皆。また明日ね」と言ってさっさと行ってしまった。
こいつも風みたいだな。いや、台風か?
「それでは明日、楽しみにしてますよ」
「じゃぁバイバイキョン君」
「・・・」
そんなこんなで、俺は3人とも別れ。一人帰路についた。

「遅い、罰金!」
翌日、お決まりのように最後に俺はやってきた。にしてもまだ8時45分だぜ?何でお前らそんなに早いんだよ。
「全員分のジュースを買ってきなさい。電車の中は喉が渇くから」
「ヘイヘイ・・・」
俺たち5人は各々切符を買い、ホームで電車を待った。待つ間に俺が5人分の飲み物を買ってくる。750円の出費。

やがてホームに入ってきた電車に俺たちは乗り込んだ。休日だったが、この時間は妙に空いているようだ。
席に座るやいなや、古泉が持参していたバッグから何かを取り出した。
「いまから行くところのパンフレットです。近くのショッピングセンターで配っていましたよ」
とか言っといて、実はかなり頑張って手に入れたんじゃないのか?
「本当にすごいところですよ。日本最長のジェットコースター。日本最高の観覧車。面積も日本最大。とにかく日本最高の遊園地だそうです」
やたら日本一にこだわってるんだな。ああ、ちゃんと凄さは伝わってるさ。
「中でも一番すごいのはこれです。鶴屋さんが言っていたのも多分このことでしょう」
古泉はパンフレットを全員に見えるように広げ、ある一箇所を指差した。
そこには『FINAL FANTASY』と書いてあり、その下に細々とアトラクションの説明文がついていた。
「世界一の技術で世界一お金をかけて作ったアトラクションだそうです。なんでもTVゲームの中に入ったような気分になれるとか」
ほう、それはなかなかおもしろそうだな。スクウェアに許可をとっているか少々気になるが。
「へぇ!すごいわね。詳しく教えて!」
「はい、まずお客・・・私達のことですが・・・が勇者、戦士、魔法使いといったRPGでお馴染みの役に扮しまして
、魔物を倒していき、最後にボスを倒すことを目標とするゲームのようです」
「どうゆうこと?実際に魔法が使えちゃったりするわけ?」
「ええ、実際は立体映像、ホログラムなんですけどね」
「すごい!すごいわねそれ古泉君!」
ああ、俺も本当にすごいと思う。というか嘘じゃないだろうな?
驚いている俺とハルヒとは対照的に、朝比奈さんは何がすごいのか解かっていないような様子で
、長門は最初から興味無さそうに文庫本を読みふけっていた。
「もちろん痛みなどはないので安心ですよ。少々心臓には悪いかもしれませんがね」

古泉がそうしめるのと同時、ハルヒが窓の外を見て言った。
「あ、見えてきた!あれじゃない!?」
ハルヒが指を指している先には、この距離からでも解かるバカデカい観覧車やジェットコースター、その他もろもろが見えた。
「わー、大きいですね~」
朝比奈さんが感動したように言う。もしかしたら未来じゃぁ遊園地はほんの1haほどの空間にあれと同じぐらいの遊園地が作れるような感じになっているのかも知れない。
ドラえもんのポケットみたいにな。
長門も、窓からそのバカデカい遊園地を見ていた。そして驚くべきことにその表情から少し興味の色が伺えた。
話に夢中になっているせいで気付かなかったが、いつの間にか電車の乗客が2倍ほどに増えていた。皆あの遊園地目当ての客らしい。
その遊園地前の駅に電車が止まると、人がゴミのように吐き出された。
電車の中が完璧に無人になっているのを人の波に流されながらもかろうじて確認できた。
「お、おい!離れるなよ!すぐハグれちまうぞ!」
俺がそう言ったのも時既に遅し。
「キョン!みくるちゃんが居なくなってるわ!」
ああ、もうあの人は・・・。

「ふ、ふぇ~、すみませ~ん」
十数分後に無事にホームの端で発見された朝比奈さんは、小動物のような目を俺に向けている。ああ、そんな目で見ないで下さい。倒れそうだ。
「まぁまだ9時50分ですから開園には間に合うでしょう。急ぎましょう」
「はい~・・・」
俺たち5人が人の流れに加わり、遊園地に向かう途中、ハルヒが俺たちに言った。
「良い?開園したらダッシュよ?目的は『FINAL FANTASY』だけよ!一番乗りを狙うのよ!」
・・・遊園地というのは歩いて回るものだと思ってたんだけどな。
まぁ俺もその『FINAL FANTASY』にはかなり興味がある。ここはハルヒに従うことにしよう。
「あ!なんか開園セレモニー、みたいなことやってるわよ!」
全く、こいつは元気だな・・・。

そうして俺たちは遊園地の入り口。スタートラインへと着いた。

その開園セレモニーってのはなんか蜂っぽいキャラクターが車に乗って、かなり選挙活動っぽく手振ってたり
、校長先生の話の1.5倍ぐらいの長さの園長の話があったりと・・・まぁ充実したものとは言えないな。

しかしそれは余興にも足りないようなどうでもいい事で、メインはその遊園地の中にあるのだ。
『それでは!開園まであと30秒となりました!カウントダウンを開始しま~す!』
何処かおっとりしたお姉さんがアナウンスをする。しかし30秒前からとは早過ぎないか?
「ハルヒ、俺たちのチケットはあっちの入り口じゃないと入れないらしい。近づいておこう」
「解かったわ。みくるちゃん、離れないでね」
俺たち5人は10ほどある入り口の一番右に近づいた。右端2つは前売り、特別チケットを持つ来場者に対応している。
「5!4!」
俺たちが移動している間に既に開園が近づいてきていた。ラスト三秒はハルヒも声をあわせてカウントダウンをしていた。
「3!2!1!」
『開園で~す』

俺は人波に押される形でダッシュすることになった。が、その流れは明らかに左方向へ進んでいた。
その流れから抜け出し、入り口に向かって走り出したのだが、そのときあることに気が付いた。
「あの、入り口。ほとんど誰も使ってないわね」
ハルヒが俺についてきながら言う。息一つ切らしてない。俺は50mも走ってないのに何か疲れちまったよ。歩きが長かったからか。
「ああ、本当だな」
俺たちは難なく入り口へ辿り着き、受付の人にチケットを見せた。
「ああ、VIPの方ですね?園長がお世話になってます」
VIPというのは正当な意味でのVIPであって、『VIP』の前に『ニュー速』とかそんな語句はつかない。
「は、はぁ。VIPですか・・・」
まぁ鶴屋さんだもんな、納得してしまう。あの人ならここの園長とぐらいなら友達のように会話とかしてたりするのかも知れない。
まぁ園長がお世話になってるのは鶴屋さんではなくて鶴屋さんのお父様あたりだろうが。
その好でVIPチケットを譲ってくれたのだろう。
「それでは、このパスケースにそのチケットを入れて、首からおさげください。アトラクションに入るときに係員に見せてください」
俺は受付の人から紐のついた透明なカード入れのようなものを受け取り、言われた通りその中にチケットを入れて首からさげた。
「それでは、ごゆっくりお楽しみ下さい」
「あ、はい。ありがとうございます」
遊園地の入場時に『ごゆっくり』なんて言われるのも何か違和感があるな。確実に『ごゆっくり』出来ないのに。

そして、俺は晴れて入場を果たした。
もう既に入場をすませた4人が、俺を待ってくれていた。
「キョン!周りを見て!誰の入ってないわ!私達が一番よ!で、さらにその中で一番だった私はもう世界最速だわ!」
その程度で世界最速とは自惚れにもほどがある。シューマッハに謝れ。
「どうでもいいからさっさと行くぞ。目的は一つなんだろ?」
「ああ、そうだったわ。ていうかあんたの方がやる気まんまんになってるんじゃないの?」
悪いか?もうワクワクが止まらないぜ。
「じゃぁSOS団総員突撃!あたしに続けぇ~!!」
そう言うとハルヒはカール・ルイス並のダッシュを見せ、もうかなり遠くまで行ってしまった。あ、これもしかしてカール・ルイスに失礼か?
古泉と長門もハルヒに勝るとも劣らないスピードで後を追う。というか長門、何故その走り方でそのスピードが出る?今度走り方を教えてくれないか。
まぁここで朝比奈さんが取り残されるのはいつものことだ。
「朝比奈さん!急ぎますよ!」
本当なら手でも引っ張ってあげたいところなのだが、俺もそこまでする度胸が無い。ちっちぇなぁ、俺。
100mに30秒はかかるんじゃないかという朝比奈さんのスピードに合わせ、ハルヒに追いついたのはもう目的のアトラクションについてからだった。
その『FINAL FANTASY』という名のアトラクションの外見は、よくRPGに出てくる城を模した物だった。
「遅いわよ!こっちの一番のりは逃したわ!」
通常の入り口から入場をすましていた人たちが、小さな列を作っていた。
「まだ10人ぐらいしか居ないじゃないか。一回の開場で全員入れるさ」
俺がそう言った直後建物の中から中世の兵士の扮装をした係員が出てきて、メガホン経由で俺たちに言った。
『はい、それでは『FINAL FANTASY』開場となります。並んでる方、10グループまでお入りください」
俺たちは5グループ目に当たっているらしい。ぞろぞろと人の流れにのり入場、いや、入城した。

入城すると一番最初に目に付くのが、『武器屋』という看板をかかげたカウンターだ。ここで受付をするらしい。
このゲームは金をかけているだけあってシステムも相当凝っていた。
まず入場者は自分の武器を選ぶ。剣、杖、斧など様々だ。都合上飛び道具は無いけどな。
また武器についているボタンを押すことで魔法や、必殺技を使うことが可能だそうだ。これは本格的におもしろそうだな。
俺は運動するのが苦手だから魔法攻撃に特化してるらしい杖を選ぼうとしたのだが、それはハルヒによって防がれた。
「ちょっと!あんたがそれとったら前衛私だけになるじゃない!?ほら、見てみなさいこの3人を!どう見ても白魔道師と黒魔道師と僧侶でしょ!」
んー、その配役に異議を申し立てられないのが悔しい。どうみてもそのまんま白魔道師と黒魔道師と僧侶だ。
まぁ俺は魔法使えない、剣も弱いのへタレ戦士がお似合いなのかもしれないな。
「じゃ、この『普通の剣』ってやつお願いします」
俺が武器のリストを指差しながらカウンターの武器商にそう伝えると、その武器商は棚から1m程の剣を取り出し、俺に渡した。
そのプラスチック製の剣は機械が入っているようで少し重かったが、それでも片手で振り回せるほどだった。
ハルヒの武器も俺と同じく、普通の剣。ただハルヒのものは、くっついている宝玉が赤かった。俺のは青だ。
古泉は白い杖、長門は黒い杖、朝比奈さんは高見沢さんのギターみたいな杖をタダで手に入れた。ここからは係員に誘導される。
「各々の武器を手に入れましたか?それでは貴方達はこれから、魔王を倒すための冒険に出てもらいます。
道中危険なこともたくさんあるでしょうがそこは助け合って見事完全クリアを目指してください」
係員のお姉さんがまるで『ちょっとおつかい行ってきて~』と言うような口調で言う。俺は桃太郎じゃないんだ。
そんな適当な気持ちで命懸けの旅に行かせる気なら、俺は降ろさせてもらうね。
まぁ所詮ゲームなんだからそんなことを気にすることも無い。命かかってないし。

俺たちは係員に誘導されるまま、通路を奥に進み、一つの扉の前に来た。悪魔城か何かの扉っぽかった。
「それでは、ここにお入り下さい。しばらくするとゲームが始まります」
その部屋は真っ暗で、光源は扉から入ってくる光のみだった。感覚で解かるが、広さは教室と同じぐらだろう。
「それでは、ゲーム『FINAL FANTASY』をお楽しみ下さい。
係員は、そう言うと扉を閉めた。部屋が完全に真っ暗になる。
「ちょ、ちょっとキョンいつ始まるの?」
ハルヒがらしくもなく小さな声でそう言ったとき。部屋がパッと明るくなった。
電灯のようなものは見当たらないが・・・
俺はあたりを見渡して驚いた。壁、天井全体が光源だ。
なんと俺は、いつの間にか城の中に瞬間移動していた。
「これは金かかるだろうなぁ・・・」
良く見ないとそれがただのテレビ画面だと気付かないほどよく出来ていた。
つまり俺たちは今、四方+天井のテレビ画面に囲まれているのだ。
イマイチ雰囲気が出ない原因は俺たちが普段着――今日は長門も普段着だ――に武器、
というヘンテコ格好なせいだろうが、それが無ければ本気で俺は今城の中に居ると錯覚したかもしれない。
ちなみに武器屋の横に防具屋があった。恐らく貸衣装かなんかだろう。

「何これ?どうすればいいの?」
前面のテレビ画面には小さくだが王座のようなものが見える。
多分これから『魔王倒しに行ってきて』と言われるところなんだろう。だが、画面は一向に展開を見せない。
俺たちが立ち往生していると、唐突に黒い杖を持った長門がテレビ画面に向かって歩き出した。
おいおい、ただのテレビ画面になんか興味があるの――――。
「ぬぉ!?」
俺はバランスを崩し、こけそうになった。
これまたなんと、床全体がベルトコンベアになっていた。
床に広がっている石畳のようなものは壁の左右に着いているプロジェクターから映写されているらしい。
戸惑う俺たちに対し、長門だけは黙々とベルトコンベアの上を歩いた。すると、前面のテレビ画面に映された王座が、みるみる近くなる。
なるほど、狭い部屋でも広大な冒険を楽しもうってアイディアか。
ある程度王座の近くにくると、そこに座っている人物、つまり王様が喋り始めた。実際はどこかにスピーカーがあるんだろうが。
『おお、勇者よ、魔王を倒しに言ってくれるのか』
王様は、さっきの係員と同じようなことを長々と喋ったあげく、最後にこう言った。
『それで、勇者は誰じゃ?』
そんくらい誰かに聞いとけよ!つーか今まで誰に喋ってたんだよ!?
俺がそう突っ込もうかやめようかと考えたそのとき、画面の端に『勇者は○ボタンを押してください』というメッセージが表示された。
ボタンというのはこの武器についてるこれでいいんだな?○×△□の4種類あるそのボタンは、嫌でもプレステを連想させられる。
「勇者ってのは代表者のことよね?じゃぁ当然団長の私がなるわ!」
と言うやいなや剣の柄についている○ボタンを押す。
『それでは頼んだぞ!』
おとぼけ王様がこう言うと、再び部屋が暗くなり、また明るくなった。
すると、また俺たちは、何処かの草原に瞬間移動していた。
その直後画面に『ステージ1』と表示される。俺たちの冒険が、今やっと始まったらしい。

しかしこの時俺には解かっていなかった。あんなことが起きるなんて。

ハルヒ関連以外のことでこんなに驚きっぱなしなのは久しぶりだ。人類もここまで来たのか。
画面に映された『ステージ1』の文字が消えた直後、鳥がぐれたようなモンスターが数匹現れ、部屋の中を飛び回っているのだ。
もちろん実際に飛び回っているわけではなく、古泉曰くこれはホログラムなんだそうだ。
何も無い空間に映像を映すことが出来るのか?なんて科学的な疑問を俺は持つことが出来ない。オツムが弱いから。
「何あれ?あれを倒せばいいの?」
「そういうことだろうな」
「じゃぁ行くわよキョン!みんなも援護して!」
そう言うとハルヒはモンスターの一匹をおっかけまわし始めた。
俺が見るところ、こいつらは最初の練習用のモンスターのようなもんだろう。その証拠に、全く攻撃してこない。
「やった!一匹やっつけたわ!」
ハルヒが喜んでいる横で、俺は倒してくださいと言わんばかりにフワフワしてるやつに向かって剣を振ってみた。
物にあたった感覚は全く無いが、そのモンスターは『プシュー』と音を立てながらデジタルっぽく消えた。
結局俺とハルヒが倒したのは一匹ずつで、残りは全て長門が杖から炎を出して倒した。その演出がまたすごかった。
「我らSOS団の勝利よ!」
剣を高く上げ、そう言うハルヒを見るとものすごく恥ずかしい。まだ何もやってないに等しいんだよ。
ハルヒが一人で勝利の余韻に浸っているのも束の間、画面に『STAGE2』と表示された。

どうやらこれは全20ステージの構成らしい。それは『STAGE5』のドラゴンの発言でなんとなく解かった。
そして俺達は今から『STAGE16』を迎えるところなのである。
このゲームも残り5ステージ。敵もだんだん強くなってきていた。今回の相手は、触手属性有りの人にはたまらないバラの化け物だ。
どうでもいいが今回俺の活躍が少なすぎだ。ここはいっちょやったるか。
と俺が意気込んで、化け物に近づいていこうとしたときだ。
「いけません!!」
古泉が叫んだ。おいおい。あいつは強そうだが別に殺されたりするわけじゃ―――。
そう思った俺と化け物の間に、長門が瞬間移動して入ってきた。ん?お前そんなにこのゲームが好きなのか?
さっきまでの長門なら杖についたボタンを信じられない早さで押し、炎と氷と雷を同時に出すような芸当をしていたのだが、今回は違った。
「・・・イズミックルカバルチョ」
俺にはそう聞こえた。
長門がそんな感じのことを超早口で呟いた瞬間、化け物が吹き飛んだ。
吹き飛んだと言っても立体映像が消えて、画面の中で小さくなっただけだけどな。
「お怪我はありませんか?」
古泉が聞いてくる。
「お怪我?あるわけ無いだろ。このゲームの弱点の一つはHPとMPという概念が無いことだってさっきお前が言ってたじゃねぇか」
俺がそういうと、古泉は静かに首を振った。
「違います」
そう言うと、古泉は静かに吹き飛ばされた化け物に歩み寄る。歩み寄ると言ってもベルトコンベアが―――。
「動きません。というか床はベルトコンベアではありません。本物ですよ」
お前は何を言ってるんだ?
「・・・どうやら、この部屋が異空間化したようです」

「ちょっとアンタ達、何こそこそ話してんのよ」
いきなり現れたハルヒが俺の顔を覗き込む。お前はまだ遊んでくれてていいんだが。あ、今はいけないのか?
「なんでもありません。あ、次の敵が現れたようですよ」
「あ、本当だ!じゃぁ次は私の番ね!」
そう言ってハルヒは突然現れた巨大蜘蛛に向かっていった。
「長門さん、お願いします」
古泉が小声で長門にそう言うと、長門はこくんと頷き、ハルヒの後を追っていった。
「それで、どういうことだ」
「ハイ、まずこの場所ですが、遊園地のアトラクションなどではありません。魔界です」
「・・・は?」

こいつは今何て言った?魔界?
「勿論本当に魔界があるのかは分かりませんが、涼宮さんのイメージする魔界はこんな感じです」
周りは『ステージ14』から何かドロドロした、紺色が基調の空間と化していた。それも演出かと思っていたのだが。
「ええ、さっきまではただのゲームでしたよ。しかし今は現にこうなっているんです」
「これもハルヒのせいなのか」
「ええ、恐らくさっきまでのステージが涼宮さんの考える魔界のイメージとピッタリ合致したのでしょう。
それ自体は偶然ですが、それを見て涼宮さんが思ったことはなんでしょうか?簡単です。『ここは本当の魔界のようだ』です」
「それだけでここは魔界と化したのか?」
「ええ・・・少々考えたくないことではありますが、何故か涼宮さんの力が強くなっています。一時的なものだとは思いますが」
俺は巨大蜘蛛に向かっていったハルヒと長門を見る。苦戦しているように見えて、よくみれば長門が時間稼ぎをしてくれていることが分かる。
「・・・というか、あの蜘蛛も本物か?」
「ええ、涼宮さんのイメージする魔界の生物です。といっても戦闘能力は長門さんの1000分の1にも及びません」
そうか・・・なら安心なんだが。
「で、何でハルヒの力が強くなったんだ?」
「分かりません。というかたまたまでしょうね。以前から波はあったんです」
それはまた・・・選りによって今日かよ。
「じゃぁどうやったらここから出られるんだ?もうドアは無いだろ?」
「簡単ですよ」
こう言うと古泉は何故か「フッ」と鼻で笑った。ちくしょう、もったいぶるな。
「魔王を倒せば良いんです。要は涼宮さんが『ゲームは終わった』と思えばそれで終わるんです」
魔王か・・・。今は俺がお父さんに助けを求める立場なんだろうか。
「つーかハルヒにバレるだろ。こんなことになっちまっってるんだから」
「いえ、問題ありません。涼宮さんは本当にここを魔界のように感じてますからね。何かの拍子に興ざめしたりしたらここは元に戻るはずです」
「じゃぁハルヒに『ここはゲームだ』って言えば良いんじゃないか?」
「それは問題ありです。それは涼宮さんに『自分達がトンデモ空間に飛ばされている』という事を認識させることになります。それは避けたい所です」
何か微妙に矛盾してるんだが、もう突っ込むのもめんどくさい。
「分かった。で、魔王はいつ出てくるんだ?」
「待っていればそのうち来る筈ですよ。ゲームがそういうシステムであることを、涼宮さんはキチンと認識しているんです」
ますます、矛盾してるような気がするが、もう意地でも突っ込まない。

話を終えるのとほぼ同時、ハルヒと長門がこっちに戻ってきた。
「あー、強かったわあの蜘蛛。死ぬかと思った」
もうハルヒはこれがゲームだというような発言をしなくなっている。ここで俺が『強いって、アレ立体映像じゃん』って言ったらどうなるんだろうか。何か帰れそうな気がしないか?
「ダメですよ。涼宮さんがその言葉を理解するのには5秒ほど要します。同時にこの空間のこともハッキリ認識します」
なんかもうコイツの言ってることが分からない。分からないが信用していた方がいいだろう。古泉の方が専門家だからな。
「涼宮さん。魔王はいったい何時現れるんですかね?」
「ん?きっともう来るわよ!私、何か感じるの」
もしかしてハルヒはただのアホじゃないのか。ゲームに感じるもクソもあるものか。ゲームじゃないけど。
「涼宮さんがそう言うからにはもうすぐ来ます。覚悟しておいて下さい」
ステージ数的には間違ってるんだけどな。魔王の一歩前が蜘蛛ってのもあれだし。もうゲームじゃないけど。
「一般的にイメージされる魔王というのはかなり強い筈ですよ。長門さんより弱いと良いんですけど」
それは恐らく大丈夫だ。俺も小さいころ自分で魔王を倒す妄想をしたことがある。きっとハルヒもそうだろう。
「それは小さな頃の話でしょう。今では星の数ほど居る魔物を束ねている魔王が自分より弱いはずは無いと認識しているはずです。涼宮さんもそうでしょう」
・・・嫌なところで大人になったと感じてしまうな。
俺がもう呆れかえったというか諦めたというか、何も言わないでいると長門が一方向を指差して言った。
「来た」
その方向を見ると、遠くから巨大な竜が飛んでくるのが見えた。

ああ、ハルヒ。お前は魔王を竜と考える派か。俺は人型派だが。
冷静にも、俺はそんなことを考えていた。

魔城かどっかから飛来して来たっぽいそいつは、俺達の目の前にドスーンと着陸した。3階建ての家ほどの巨体だ。
「よくぞここまで辿り着いたな。我が名は竜王ヴェルザー。私が来たからには貴様らの旅はここで終わりだ」
とまぁ突然そんな感じのベタでしかも何処かショボイセリフを喋りだしたそいつは、これまた突然咆哮した。
今にも襲ってきそうな竜王さんを前にしても、意外と俺は冷静だった。
「魔王じゃなくて竜王って言ってるんだが。問題無いのか?」
「ええ、涼宮さんはこれを最後のボスと判断した筈です。これを倒せば物語が終わるとね」
そのハルヒは、キラキラ目を輝かせながら言う。
「ちょっとキョン!すごく強そうじゃない!絶対倒すわよ!」
ちょっと待て、本気で向かっていったら多分死ぬぞ。
「待ってください涼宮さん。ここは我々におまかせを」
「何で!?私も戦いたいわ!」
「涼宮さんは体力を温存していて下さい。我々が敵の体力を減らしますから、最後の一発を決めてください」
「そ、そう?じゃぁ私はここで待ってるは、危なくなったら交代しましょ」
これがゲームだったら死ぬほどバカらしくて恥ずかしい会話だが、敵は本当にそこに居るのだから仕方無い。
長門と古泉が敵に向かっていく。まったく勇ましい限りだ。
俺は傍らに居るハルヒと朝比奈さんを見る。もし敵が来たら、俺が二人を守らないといけないだろう。
戦いたくてうずうずしてるハルヒは本当のことが分かってないし、あまりにも恐ろしいことが起こっていると認識している朝比奈さんは、
顔面蒼白で足と顔が細かく震えていた。さっきから喋ってないし。
しかし、俺が剣を振り回す必要は無いだろう、と楽観視している部分も大きかった。
古泉はともかく長門より強いものなんかこの世に存在してないと思ってるからな。
「フハハハハ、かかって来るがいい虫ケラども!」
ひょっとしてそれはギャグで言ってるのか?
しかしその言葉の真意とは関係なく敵は攻撃を仕掛けてくる。
攻撃といっても足で踏み潰そうとしてきたり、尻尾を振り回すぐらいのもんだ。
長門と古泉にはそれくらい見切るのはわけも無いらしい。
古泉がしきりに赤い弾を敵にぶつけている。敵の体力が2分の一とかになったらビームでも使ってくるかもしれないな。
しかしまぁここもいつかのカマドウマと同じようにあっけなく終わりそうだ。

「そろそろいいわね!敵も弱ってきてるわ!私がとどめを!」
ハルヒが走って行こうとするのを慌てて俺が止める。
「ちょっと!何で止めるのよ!?」
「そ、それはだな・・・」
「これはただのゲームでしょ!」
・・・あれ?言っちまったよ?
「ま、まぁそうなんだが・・・」
「アレ?これ、ゲーム・・・よね?何か妙にリアル・・・」
えー、これはもしかしてまずいのか古泉?
古泉と長門はまだ戦いの際中。フォローはしてくれまい。
えーと、何て言おうか・・・。
「そうだな・・・」
スマン長門。後は頼む。
「これはだな、ハルヒ。お前の見ている夢なんだ」
「・・・は?何言ってんの?」
当然の反応だ。
「お前は今、眠っている。夢を見ているんだよ」
ハルヒに顔には、意味分かんないと言う表情がありありと表れている。
「まぁとにかくそう言うことだ。ここがどんなに非現実的でも仕方無いことなんだ」
こんなことを言ってる自分に自己嫌悪する。というか恥ずかしくてたまらない。
「キョン?あんた頭がおかしくなったの?」
「ここい居る俺はお前の想像であって、おかしいとかおかしく無いとかまずそんな概念が無いんだ」
「ちょっとアンタ、熱あるんじゃないの?」
「ああ、熱も無い。零度に近い」
「ていうか夢なら別にあれにやられちゃってもいいじゃない!?」
ごもっとも。
「そ、それはだな・・・」
俺が反応に困っていたとき、横から救いの手が差し伸べられた。

「もう何も考える必要は無い。貴方は起床する」
「は?有希までなに言って・・・の・・・」
いつの間にか俺の隣に来ていた長門が、ハルヒに手をかざした瞬間、ハルヒの体は崩れ落ちた。
「ハルヒ!」
俺が倒れそうになるハルヒの体を受け止める。
「終わりましたよ」
これまたいつの間にか隣にいた古泉が言う。
「というか長門さん、涼宮さんに手を出してよかったんですか?眠らせることが出来るならそれが一番早かったんですけど」
「今回は緊急事態」
長門がそう言うと、古泉はちゃんと理解したようだ。俺は良く分からない。
「さて、帰りましょう」
「は?」
俺が周りを見渡すと、そこは元に居た前面テレビ画面の部屋だった。

「・・・訳が分からない」
俺は、声に出して呟いた。

「う、ううん・・・」
ハルヒが気が付いたのは、それから30分程あとのことだ。
「お、気が付いたか?」
「キョ、キョン・・・?ここはどこ?」
「園内の医務室だ」
ここから俺は、先ほど古泉と打ち合わせた通りのセリフを喋る。
「お前があのゲームの際中にいきなり倒れてな。大変だったんだぞ?ここまで運んできたり」
実際に俺が背負って運んできたんだけどな。
「あ!ゲームは!?どうなったの!?」
ハルヒがベッドから飛び起きる。ベッドが少し軋んだ。
「ゲームは?ってお前が倒れてもやってりゃ良かったのか?途中で止めてお前を連れてきたんだ」
「あー悔しい!何で私倒れちゃったりしたのかしら?」
「軽い貧血だと言っていました。動きすぎでしょう」
古泉が割って入る。ちなみにこれも台本通り。
「じゃぁキョン!今から再戦よ!さっさと動きなさい!」
俺は軽く肩をすくめてから言う。
「3時間待ちだ」

結局ハルヒも3時間並んでまでまたやろうとは考えなかったらしい。
俺達は適当にジェットコースターやらなんやらに乗って帰った。

家に帰った俺は、今回の疲れを全てベッドにぶつけた。
今回も疲れ果てた。もうあいつらに付き合うのはこりごりだ。
しかしそういうわけにもいかないんだろうなぁ。

俺はもう首を突っ込んで拘束までされているんだから。


オワリ

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