翌日。即ち最早そんなのもあったなぁと思ってしまうようなあの企画の期限であっ
た月曜日、ハルヒは何処ぞより手に入れた予知夢について書かれた本を読み耽っ
ていた。しかし半日で飽きたのだろう、放課後にはその本は長門に譲渡されること
となる。どんなことが書かれていたのか気になるな。今度借りてみようか。


 まあ、しかしだ。なあ、ハルヒよ。興味の対象でない物事については深く考えない
というその性質はいい加減どうにかした方がいいと思うぞ?そんなんだから長門が
生き返ったことについても、『仮死性心停止睡眠症候群』なんて医学書のどこにも
載ってないような病気の存在と、胡散臭い古泉の説明を信じちまうんだよ。


「いいではないですか。涼宮さんにとっては病名やその症例がどんなものか、なんて
ことより長門さんが生き返った事実の方が重要なのですよ。終わりよければ、とね」


 とは古泉の談だが、果たしてそんなことでいいのだろうか?どうも腑に落ちん。


 ああ。腑に落ちない繋がりで思い出す。その日のハルヒが見せた、俺への態度
である。あんなことがあった翌日だってのに、いつもと何ら変わらない相変わらず
の手下……いや、下僕扱いだ。前より酷いか知れない。
 別にそれがどうってわけではないのだが、やはりどうも腑に落ちん。もう少し何か
こう、あってもいいんじゃないか?と思ってしまうのは俺の修行が足らんのだろうか。


 まあいいか。そうやって普通に接してくれた方が俺としては正直気が楽だし、その
態度から察するに、ハルヒもまたあのときのことは若さ故の過ちとしてなかったこと
にしようとしているのだろうし、俺はそれに一切の異論を挟むつもりはない。


 なんだかんだありましたが元の鞘に納まりました、と。結局のところそれが一番な
のさ。


 さてその月曜日であるが、放課後になると俺たちSOS団の面々は形ばかりの入
院中である長門の居する病室へと足を運んだ。


 場所は違えどハルヒの行くところ、全ては支部になりにけり、というわけで「SOS団
緊急会議(番外編)」と銘打たれたその日の活動は長門の病室で行われることと相
成った。番外編の使い方が日本語として大きく間違ってる気がするが、敢えて疲れ
たくない俺は突っ込みはしない。


 して、その議題であるが、勿論あの企画について。


 ハルヒがいつものよく分からない理屈をなんやかやと持ち出し、古泉がいつもの
ように全肯定で相槌を打ち、朝比奈さんが話がよく分からないといった顔でぽーっ
としながら長門は相変わらずの無表情、頭を抱える俺。


 結局、「先日色々とハプニングはありましたが都合この一週間で結論を出すには
充分な情報は得られたと言っていいでしょう。…結論、双方に友愛以上の感情なし。
なれば今後も友人として仲良く過ごすとよいでしょう。言っとくけど、これ特別裁量だ
からね」というのが団長の独断かつ満場一致で可決された。


 これまた日本語として大きく間違っているしそもそも企画の趣旨は俺と長門に結
論を出させるんじゃなかったのか?つーか端から企画倒れなんだよ。なんてなこと
を思いながらも既に口を挟む気力もない俺は、自分が吐いたため息の数を数える
くらいしかできなかった。


 計23回。この僅かな時間だけで23個もの幸せが俺から逃げていったわけだ。
 なんともまあ、……憂鬱だ。






 しかし、そんな憂鬱な気分を払拭するイベントがその日の内にやって来てくれたの
は身に余る僥倖というものだったか知れない。俺にも運が向いてきたのか、はたま
た今日一日の運は全てこの為だけに取って置かれていたのだろうか。


 朝比奈さんが、帰りにちょっと二人でお話しませんか、と誘ってきたのだ。


 無論断る理由もない俺は二つ返事でOKし、病院からの帰り道、ハルヒや古泉と
別れた後、朝比奈さんと再び合流。こうして二人いつだかの桜並木を歩いている。


 夏至も過ぎ、夏の足音が聞こえ始める今日のよき日。並木は当然全て葉桜となっ
てしまっていたが、夕暮れ時を朝比奈さんと二人歩いているというシチュエーション
だけで満開の花びらが咲き誇る情景が目に浮かぶようだった。


「終わった今だから言えますけど…、」


 並木沿いのベンチに隣り合って腰を下ろした後で、朝比奈さんはそう切り出した。


 なんでも今回の事件について未来からの指示は一切なく、唯一長門が倒れた理
由だけは情報として与えられたものの、それ以外、つまりどうしてそんなことになっ
たかとかその後の対応策だとか、そういったものに関する指示や命令の類は一切
なかった――――たどたどしい説明を掻い摘むと、つまりそういうことらしかった。


 だが、なんでまた朝比奈さんはそんなことを言い出したのだろう。その表情を鑑み
るに、それは今回に限ったことではないのだろう。だとしたら尚更それを俺に言う理
由が分からない。

 俺は思わず馬鹿正直に、どうしてまたそんなことを俺に?なんて言いそうになり、
慌てて口を噤む。恐らくそれは俺が激情に任せ朝比奈さんにぶつけた発言のせい
に違いないのだ。


 申し訳ない気分でいっぱいになるが、ここであのときの発言を蒸し返しても朝比奈
さんはまた落ち込むだけかも知れない。そう思い、俺は「そうだったんですか」とだけ
答えることにした。


 朝比奈さんは「ええ」と頷き、微笑んでくれた。




 それから暫く、二人とも黙ったままでいた。こうして無言でいると、夕暮れ時の環境
音―――雑多に混ざったの虫たちの鳴き声やら、遠くから聞こえる小学校のチャイ
ム、帰宅途中の子どもたちの声やらが、とてもよく響いているのが分かる。


 なんとなく物寂しい気分になり、俺はぼーっと空へ向けていた視線を朝比奈さんの
方へと向けた。朝比奈さんは何故だろう、少し浮かない顔で膝の上で組んだ自分の
手を見つめている。そうして突然意を決したように顔を上げると、


「キョンくん、先週の月曜のこと、覚えてますか?」


 と、そんなことを言った。


 ええ、と頷きながら思い返す。まあ、今回のなんだかんだは結局のところ、あの日
俺が言っちまった不用意な発言から始まったのだから、忘れろというのが無理な話
だ。そのようなことを冗談っぽく俺が言うと、朝比奈さんは何故だかそわそわとした
様子でその身を揺らした。

「ごめんなさい…、キョンくん。本当はあのとき、あたしは止めようと思えば止められ
たの。 何度も何度も、止めようとしたんです。でも、」


 と、そこで言葉を区切り、何やら頬を赤らめながらこちらをちらりちらり伺って、


「あたしも、キョンくんの本当の気持ちが知りたくて…、だから…、」


 ああ、と思う。あの日、帰ろうとする朝比奈さんが言いかけた言葉は……、そうい
うことだったわけか。


 朝比奈さんが俺にしたかった話ってのは、つまる所そのことだったらしい。そんな
可愛らしい謝罪をわざわざしてくれたことは勿論、その内容にも大きく胸を打たれた
俺は内心感涙に咽び泣きそうになりながら、しかし努めて平静な声で言った。


「いいんですよ。朝比奈さん。あのとき止めてたって何かが起きなかった保証はない。
色々ありましたけど今は元通り、それなら何も問題なしじゃないですか」


 どういうわけか、きょとんとした顔の朝比奈さん。


「元通り…、ですか?」
「ええ」


 そう。変わってることなんては長門が入院してるくらいのことで、それもまあ数日も
様子を見れば十分だろうし、ならばなんやかんやはあったにせよ、結局全ては元通
り……、そうじゃないんですか?

 朝比奈さんは小さく笑う。


「ええ。元通り、じゃないですよ」

 朝比奈さんは戸惑う俺をよそに「…うん、そう」と一人納得するような呟きを漏らし、
そしてもう一度「元通り、じゃありません」と力強く断定した。


「今回のことで、きっとみんな、前よりもっともっとキョンくんのことを好きになったと
思います。そして、みんなのことも」


 だから、元通りじゃないんです。そう付け加えて、朝比奈さんはうふ、と笑う。


「わたしも、もっともっと好きになっちゃいました。キョンくんのこと。涼宮さんのこと。
長門さんのこと。古泉くんのこと。鶴屋さんや、みんなのこと」


 その言葉に、なんだか嫌な汗が背筋を伝う。ねえ、ひょっとして……朝比奈さん?


「も、もしかして…、聞いてたんですか……?」
「ええ、聞こえちゃいました」


 やはり、朝比奈さんの台詞はあんときの俺の流用だったらしい。ぐあ、と呻き、小
さくかぶりを振る俺。
 あのとき朝比奈さんがいたのは俺たちから扉一つ隔てただけのところで、普通に
考えて聞こえないわけはないのだが…、しかしそれを改めて確認させられてしまうと
堪らなく恥ずかしい。


 って待てよ?つーことは俺がハルヒと致しちまったことも、もしかしたらばっちりと
知られちまっているのか?それに朝比奈さんに聞かれていたってことは古泉にも
聞かれていたっておかしくないわけで……、
 成る程。確かに朝比奈さんの言うとおりだ。なんもかんも元通り、というわけには
いかなかったらしい……。



 しかし…、まずいぞ。これをこのまま放置するのは非常にまずい。


「いや、朝比奈さん、あれはですね……、なんというか、その、勢いに呑まれたと言
いますか……、雰囲気にやられたと言いますか……」


 赤面しながらなんとか弁明をする俺だったがその努力も空しく、朝比奈さんはくす
くすと笑い、絶対に分かっていない顔で「ええ、分かってますよ。キョンくんの気持ち
はぜーんぶ」なんてことをおっしゃった。


 どうやらこの場はもう、取り繕うことすら不可能になってしまったようである。まあ、
いいか、この誤解は後々訂正していけばいい……なんて、楽観的に思考を落ち着
け、俺はやれやれとため息をついた。


 と、その頃には辺りもすっかり群青色に染まってしまい、そろそろ帰路へと着かな
ければ本格的に夜になりそうだ。朝比奈さんと俺は示し合わせたように立ち上がり、
並木道を抜け出す。とりあえず駅前までは一緒に歩こう、ということになった。




「なんだかあたし、未来に帰りたくなくなっちゃいました」


 思い出したように朝比奈さんが言ったのは、もうすぐ駅前に着こうという頃合であ
る。俺が、帰らなければいいじゃないですか、なんて軽く答えると、横を歩く朝比奈
さんはふるふると首を振って、



「ごめんなさい。今のは冗談。あたしは、いつか自分の時間に帰らなくちゃいけない。
それは仕方のないことだから」


 朝比奈さんは柔らかな微笑みを俺に向ける。


「あたし、頑張ろうと思います。多分、上が何も教えてくれないのは、きっとあたしに
何かを知らせたらもっと事態が悪くなっちゃうって、そういう判断があるんだと思う」


 いつだか、似たようなことを打ち明けられたのを思い出す。あの時と同様にその
不安を否定しようと口を開けたところで、しかし。言葉はなくとも息を呑んだ空気だ
けで分かってしまったみたいで、朝比奈さんはふるふる、と首を振ってくれた。

「もしかしたら…、そうじゃないのかもしれないけど、とりあえず、そう思うことにした
んです。 ………だから、もっともっと頑張らなきゃって」


 あのときのような沈んだ空気が、今の朝比奈さんからは感じられなかった。むしろ
その顔は自信に満ち溢れているようにも見える。


 朝比奈さんはととと、と駆け足で俺の前に歩み出ると振り返り、


「それに、あなたの好きな世界だもの。もっともっと楽しい世界になるんだろうなって。
そう思ったら、ガゼンやる気出てきちゃいました。だってそうでしょう?」


 問いかけの形で言葉を切り、とても晴れやかな顔で笑う。そして、言った。


「あなたが好きだと言う現在を、あたしの帰る未来に繋げる為に、あたしは今、ここ
にいるんだから」



 今回は何もお手伝い出来ませんでしたけどね、などと言葉を繋ぎ、朝比奈さんは
ぺろりと舌を出す。その姿がいつになく頼もしく見えたのは俺の錯覚ではあるまい。


 ひょっとしたらだが、こんなことを思う。今回もそうだが、朝比奈さんが大切なことを
何も知らされないままでいるというのは、知らせることによる未来にとっての不利益
がどうのとかそんな話じゃ元からなくて、その成長を望むちょっと未来の自分自身か
らの激励のメッセージなのではないか――――などと。

 まあ、考えすぎかも知れないがな。


 しかし、何もお手伝い出来なかったと朝比奈さんは言ったが、そんなことないって
俺は思うね。あのときこの人が俺を立ち戻らせてくれなかったら、俺はこうして再び
訪れようとしている日常へ帰ってくることは出来なかっただろうからな。


 あのときの朝比奈さんの言葉は、禁則だとか未来からの指示だとかにとらわれな
い、この人の本心からの言葉だった。俺はそれに背中を押されただけだ。
 それなのに俺って奴はよく分からん抽象論しか語れずただハルヒを怒らせただけ
で、その内に事態は勝手に収拾しちまった。つまるところ俺はいつものように流され
てただけに過ぎないわけだ。むしろ何も出来なかったのはこの俺だろう。


 俺が自嘲気味にのたまうと、朝比奈さんはふるふると首を振ってそれを否定する。


「ううん。そんなことない。とってもかっこよかったですよ、キョンくん」


 そう言ってふわりと髪を揺らし、にっこり、笑った。


「――――まるで、マンガのヒーローみたいに」






 廊下でばったりと出くわした古泉に、少しお時間を頂けませんか、とそんなことを
言われたのは、そのまた翌日の昼休みのことだった。


「さて、涼宮さんが望めば世界は変わる。けれど涼宮さんが本心でそれを願わなけ
れば世界は変わらない。 つまり今回、涼宮さんの中で障害になったのはその心の
内にある『死んだ人間は生き返らない』という常識的な部分だったわけです」


 草木生い茂る裏庭のログチェア。つい先週もこうして対面に座したそれに腰掛け
るなり、古泉はそんな唐突な切り出し方をした。


「それを見事、あなたは取り払った。恐らくは、あなたと涼宮さんが体験した―――
あの閉鎖空間を再現することでね」


 古泉は人差し指をくるりと回す、という気障った仕草をしながらそう言って、ふふ、
と薄く笑った。素敵にムカつく笑顔である。


 と言うかこいつはどっからその情報を仕入れてきたんだろうな。あの忌まわしい出
来事について俺は誰にも話しちゃいないし、ハルヒもまたあれを夢だと思っていただ
ろうから、そちらから漏れ出ることもまずないだろう。なれば当事者二人が漏らして
いないのだから、あれはけして表に出ることはない筈なのだが。


 とは言えその話の出所を聞いたところで詮無いことであるし、一々反応するのも
下らない。俺がため息混じりに「それで?」とだけ返すと、古泉はくすりと笑い、


「つまり『夢が現実になるような世界なら、ひょっとしたら奇跡は起こるかもしれない』
……と、涼宮さんの思考は恐らくそのようなところに落ち着いたのでしょう。いやはや、
素晴らしい手際ですね。本当に見事という他にない」
「買いかぶるな。そこまで考えちゃいねえよ」


 それにそんなのはお前の勝手な想像に過ぎんだろうが。俺がぶっきら棒に言葉
を返すと、古泉は再度、くすりと笑う。


「だとしても、ですよ。僕としては正直なところ、あの状況であなたに遺された手は…、
やはり全てを打ち明ける。つまり、『あの切り札』しかないと思っていましたので」


 あの切り札…、ジョン・スミスのことか。あれは使っちまったら最後、全てが壊れ
かねない諸刃の剣だからな。ちょっとした綻びを直すにはでか過ぎる針だ。なるべ
くなら使いたくないんだよ。


「そうですね。であれば僕らは長門さんに感謝しなくてはなりません。彼女の機転が
なければ、それこそ手は『あの切り札』しか残っていなかったのですから」


 舌も上手く回り上機嫌になってきたのか、古泉は大仰な手振りを加えながら言葉
を続ける。


「もし、仮に長門さんの肉体が消滅してしまっていたら。それを涼宮さんに見られて
しまったら。流石にその正体を隠し通すことは叶いません。つまり、全てを打ち明け
る他に長門さんを救う手立てがなくなるわけです。ですから長門さんは賭けに出た。
自分の肉体を残すことだけに力を注ぎ、あなたと涼宮さんを信じた」


 自らの淀みない語りに満足したのだろう。古泉はテーブルに肘をつくと、指を組み
合わせこちらを見やる。


「まあ、それもあなたの尽力があればこそ。今になって言える結果論ではありますが」

 苦笑しながらそんなお世辞のようなことを言ったのは、俺が不機嫌そうにしていた
からだろうか。長門ばかり褒められるのは気分が悪い――――であるとか、そんな
感じに俺の不機嫌な表情を理解したのかも知れない。だとしたら…、アホか古泉。


 俺が不機嫌そう…、と言うか事実不機嫌であったのは、単に先日の出来事をやっ
かまれているようなこの状況が堪らなく不愉快だったから、それだけだ。


「しかし本当にあなたには驚かされます。或いはトリガーは涼宮さんの中の常識的
な部分と言うより…、」


 そんな心地を知ってか知らずか、古泉は掌を上に向けてこちらに差し出すといっ
たジェスチャをしながら、話を一旦締めるようにこう続けた。


「もしかしたら、あなたそのものなのかもしれませんね」



 丁度、タイミングよく午後一番の予鈴が鳴る。


「おや、少々長話をし過ぎてしまったようです。戻りましょう」


 当前だが、その提案に異論はない。俺は昼休みの残り10分を最大限に活用すべ
く立ち上がり、その足を校舎へと向ける。そしていざ歩み出そうとしたところで、


「ああ、そうだ――――二つほど、謝らなければいけないことを思い出しました」


 と、古泉がそんなことを言った。

「謝る?俺にか?」

 顔だけをそちらへ向けて言ってやると、古泉は「他に誰がいると言うのですか?」
とでも言いたげな表情で、「ええ」と頷いて見せた。


「ひとつは…、あなたを騙していたこと。先日の喫茶店は覚えていますよね?」


 まあ、一昨日の今日だ。忘れる道理がない。古泉は、「或いはあなたも気づいて
いたかも知れませんが…、」などと緩衝材を挟んでからこう告げた。


「あの日、あの場所にいた人間は全て『組織』に関わりのあるエキストラです。完全
貸切だったわけですよ。従業員含め、ね」


 古泉の告白は…、まあ、なんとなくの予想はついていた内容だった。そうでもなけ
りゃこいつらがあの日厨房に隠れていたことに辻褄が合わないしな。そんなことを
思っていると古泉は急に真面目な顔を作り、


「…いくら涼宮さんに頼まれたとは言え。結果、今回のような事態を招いてしまった。
何より、あなたの気分を酷く害した」


 一呼吸置いて、本当に申し訳ないことをしたと思っているのですよ、と続ける。


「そうかい」と、俺。
「許して頂けますか?」と爽やかに古泉。


 許すも何もなぁ。結局のところ、こいつはいつものようにハルヒの我侭に付き合っ
てやってただけの話で、なら別に俺に詫びる必要はないだろうに。



 そりゃまあ、確かにあんときの気分は最悪だったか知らんが…、そんなのは必要
経費みたいなもの、もっと的確に表現すれば税金みたいなものだ。あいつと関わっ
ちまった時点で、俺にはそんなハルヒ税を支払う義務が生まれていたというわけさ。


 或いはローン返済だろうか。ハルヒローン。なんだかアクション俳優を目指したけ
どダメでしたみたいな滑稽な響きを持つ単語だが、よくよく考えると空恐ろしい。
 年に何十回あるか分からん返済期限は気まぐれで、かつ債権者たる俺には明か
されない。それでいて期限を一秒でも過ぎるとエライ目に遭う。そもそもが何を借り
たかもさっぱり分からないのだ。これほど恐ろしいものもあるまい。


 まあ、地道に返済していくしかないんだろうな。こんな焦げ付いた不良債権、一生
かかって返せるかどうかも分からんが―――――


 と、冗談交じりに言ってやった後で、


「だからお前が謝る必要はないな。いつもいつも、お前はよくやってると思うよ」


 いろんな意味でな。皮肉たっぷりにそう続けると、古泉は初め何故だかぽかんと
口を空けていた。そして数秒の後にそれを崩すと、可笑しくて堪らないといった様子
でくつくつと笑い出す。


「なんだ?」
「…いえ、なんでもありませんよ。ただあなたの言い草が少々可笑しかったもので」


 くつくつと笑い続ける古泉。冗談を言った手前笑ってもらえるのはありがたいが、
然程可笑しいことを言ったつもりでもない俺としては、そこまで笑われるのもなんだ
かなぁという気分である。



 …まあ、いいさ。


 俺は釈然としないものを感じながらも、「それで、もうひとつは?」と話を流した。


「あ、ええ。これは謝罪と言うよりはお願いに近いのですが…、」


 古泉は取り繕うように表情を直し、言葉を繋ぐ。

「いつぞやの台詞をなかったことにさせて頂きたいのですよ。あれは失言でした」
「いつぞやのセリフ?何だっけ?」


 覚えがなかった俺は簡潔に疑問を返す。本当に覚えがない。と言うかこいつの発
言を一々記憶するような無駄スペースは俺の脳にはない。


 古泉は掌をひらりと翻すと、イヤに爽やかな笑みを俺に見せた。


「覚えてらっしゃらない?あなたに恋愛経験がない、というアレですよ」


 そのツラと声色でアレとか言うな、気分が悪くなる。


「いや、中々どうして。あなたも隅に置けないではないですか。これは僕も認識を改
めた方が良さそうだ。ひょっとするとあなたのような男性の方が或いは…、とね」
「お前の言ってる意味がさっぱりわからん」
「おや、もしかして照れているのですか?」


 俺が閉口したのを図星を指された為と判断したのか、古泉は、こいつにしては珍
しく、いつになく快活に高らかに、あっはっはと声を上げて笑った。






 さて、そうして古泉の論点のよく分からない事後説明を受け流し、午後の退屈な
授業をやり過ごした放課後、ハルヒ以下SOS団の面々と共に、俺は再び長門の見
舞いに行くこととなった。どうやら長門が入院している間、この個室がSOS団の活動
拠点となるようである。


 ただ、SOS団の活動、と言ってもハルヒが何か剣呑なことを思いつかない限りそ
の内容は至って平和なもので、言ってしまえばただの暇つぶしだ。
 パソコンも古泉のゲームコレクションもないこの病室はハルヒにとっていたく退屈
だったらしく、小一時間程で根負けすると「じっとしてるのはやっぱつまんないわね。
明日は何か遊び道具でも持ってきましょう」などと言い放ち、その鶴の一声で今日
はお開きとなった。


 帰り際、看護士の代わりに「ここは遊び場じゃないんだぞ」と言ってやったのだが、
ハルヒは聞いていないようだった。やれやれと思うが、まあ流石に病院内で大声で
騒ぐほど常識のない奴じゃないだろうし、それ以上言うのは止めておいた。


 ………大丈夫、だよな?



 して、その後。皆が散り散りに帰ったのを確認してから、俺はと言えば長門の病
室へと戻ってきていた。
 コンコン、と扉をノックするものの返事はない。入るぞ、と告げてから中に入ると、
窓際に据え置かれたベッドの上に先程とまったく変わらない長門の姿があった。


 ハルヒが用意したパジャマ(可愛らしくデフォルメされた乳牛が無数にプリントされ
ている、という個性的な柄である)を着込み、身を起こしクッションに背を預けた体制
で、ハードカバーの分厚い本を読んでいる。

 …しかし、こいつもまあ恐ろしく病院のベッドが似合う奴だな。色も白いし線も細い、
幼い頃から難病で長期入院しているのだと言われればそのまま信じてしまいそうだ。


 と、長門がちらり、視線を手元の本から外し、こちらを一瞥する。


「よう、加減はどうだ?」


 俺がつい一時間前にも言ったばかりの社交辞令的な言葉をかけると、長門はぱ
ちりと瞬きをして、


「平気。 ただ、この場所は少し落ち着かない」


 それは、暗に早く退院させろと言っているのだろうか。だが俺としてはもう少し、せ
めて一週間は様子を見て欲しいところだった。
 とは言え長門の親玉が復活したというのは聞いていたし、既に長門自身が全快
していることも知っている。従ってこの場合に見るのは長門の様子ではなく、ハルヒ
の様子なのだが。


「わかっている。涼宮ハルヒに不審を抱かせない為には、わたしはもう暫くここに逗
留しなければならない」


 何故だろうか、そう言った長門の様子がまるで飼い主に遊んでもらえなくてシュン
としてる犬みたいに見える。まあ、気の迷いだな。



 俺がここへわざわざ戻ってきたのは、ひょっとすると長門も何かしら俺に話があ
るんじゃなかろうかと思ったのと、俺としても長門に尋ねてみたいことがあった為な
のだが、どうやら前者は当たりだったようである。
 ベッドの脇に放置したままになっていた椅子に近づき、長門の了承を得てからそ
れに座ると、長門は読んでいたハードカバーに栞を挟みこちらを見据え、


「わかった」

 と一言。相変わらず話の下手な奴である。わかったって、何がだよ。その問いに
答える形で長門が語ったのは、恐らくは長門からあるのだとすればこういった類の
話だろうと思っていた想像に正解を告げるものだった。


「わたしに生じた障害、及び情報統合思念体の消失の起因するところが、わかった」


 長門と長門の親玉を消そうとした奴が誰なのか…、既に長門は知っている。そし
て長門が「わかった」と言った以上、その『知っている』というのは『そうかも知れな
い』などという当て推量などではなく暦とした事実に他ならないのだ。


 数秒の逡巡の後、俺はぐっと固唾を飲み込み、意を決して尋ねる。


「…やっぱり、ハルヒがやったのか?」


 押し殺した声で問う俺に、しかし長門はきっちり一往復分だけ首を振り、涼やかな
声でそれを半分肯定、半分否定した。


「直接的な原因は涼宮ハルヒ。けれどそれは彼女の意思ではない」

 分かり難い返答だったが数秒を置いて理解する。同時に、俺は安堵の息をついた。


 整理すると、長門の親玉を消したのはハルヒの力だが、それはハルヒの意思に
よるものではない。ということはつまるところ――――


「そう仕向けた奴がいるってことか」
「そう」


 長門はあっけなく頷く。改めて安堵の息をつくと同時に、脳裏には新たな疑問が
浮かび上がるのを感じた。当然の疑問、即ち、「誰だ?」である。
 それをそのまま言葉にして問いただすが、長門は答えない。何やら適切な言葉を
考えているようだった。


 沈黙が静寂を生み、静寂はチッチッと鳴る時計の音を意識させる。


 その音が十数回は聞こえた頃だろうか、ようやく口を開いた長門が発したのは、
俺の予想だにしなかった名前だった。


「朝倉涼子」


 ………は?

 素っ頓狂な声が俺の口から漏れ出る。ある意味では懐かしく、しかし精神衛生上
あまり思い出したくないその名前。だがあいつはもうこの世にいない筈だろう。去年
の五月、他でもない長門が消したのだから。


 なら、どうして、今ここで朝倉の名前が出てくるんだよ?



 困惑する俺を見て、だろうか。長門は閉じた口を再度開き、先の言葉を訂正する。


「正確には、朝倉涼子の構成情報の残骸」


 …………ゴメンな、長門。 言い直して貰ってもさっぱり分からん。


 置いてけぼりを食らう俺を尻目に、長門は淡々と説明を開始する。


「朝倉涼子の残骸は去年の戦闘時以来わたしを構成する情報内に長く潜伏してい
た。気付けなかったのは情報統合思念体内の異なる派閥による情報操作によるも
の。それが突如障害となるほどに肥大したのも彼らの仕業。それを解消させなかっ
たのも同様――――」


 長門が言うには、その派閥と言うのはかつてこいつが語った急進派とかいう奴の
ことらしかった。派閥があるとは言え情報統合思念体は全が一。故に主流派の行
動に多少なりと制限を設けることも可能であるらしい。


 またインターフェースである長門は本来情報統合思念体からは完全ならずとも独
立した存在である為、帰属する主流派以外の派閥による操作等は受け付けない筈
だったのだが、急進派は長門を構成する情報内に混在したジャンク情報、即ち朝倉
の構成情報の残骸を媒介することでその制限を越境する。

 つまり内外両面からの情報操作により、あの戦闘以降今日に至るまで長門は朝
倉の情報の残骸が己の身の内にあったことに気づけなかった。というわけだ。


 なるほど、トロイの木馬みたいなものか。そう言ってやると、長門はこくりと頷く。


「あの日、わたしの中で肥大していた朝倉涼子の残骸は涼宮ハルヒに乗り移った。
その時点よりわたしは障害から解放され、新たに宿主となった涼宮ハルヒの精神
は徐々に不安定化、今回の情報フレアを引き起こすに至った」


 この頃になると、いくら長門の回りくどい説明でもその概要を素早く把握できるよ
うになっていた。


「つまり長門の中に潜んでいた朝倉がハルヒに乗り移り、ハルヒの力を勝手に使っ
ちまった――――と、そういうわけか」


 俺が発したその台詞は何の気なしの、ただ情報を自分なりに事件を整理する為
の発言だったのだが、それを口にした瞬間無表情な長門の顔にミクロン単位の感
情が浮かんだ。


 俺にしか分からないくらいの表情の動きだが、それは一般的な言葉で置き換えれ
ば『悲しみ』として表現されるものの筈だ。


 ……ああ、そうか。お前も以前、同じことをやっちまったわけだからな。

「…スマン。無神経な発言だったな。忘れてくれるとありがたい」
「いい。気にしなくて、いい」


 長門は首を振りそう言ってくれたが、俺はどんな顔をしていいのか分からなかった。
長門に申し訳ないことをした気持ちも勿論だが、それだけじゃなく。


 何を血迷っているのかと思われるか知れないが、俺は朝倉を哀れんでいたのだ。



 かつて長門が同様に、ハルヒの力を使って世界を改竄したとき叶えたのは、普通
の人間として生きたいというささやかな願いだった。…だが、今度の事件で朝倉が
望んだのは……、


「朝倉は…、自分を切り捨てたお前らを、恨んでたのかな……」


 朝倉が望んだのは、仲間だった長門や自分自身を生んだ親を、この世界から消
し去ることだった…、のか?


 だとしたら…、あんまりだ。あまりに、救いがなさ過ぎる。


 長門は俺の感情を読み取るように、暫く、俺の顔を見つめていた。そして小さく首
を振り、言った。


「それは違う」

 断定的な、いつもの長門らしからぬ強い口調だ。


「あの存在に意思はなかった。朝倉涼子は既に消失している。あれは朝倉涼子で
はなく別の情報体。ただ涼宮ハルヒに近づきその能力を探ろうとする、それだけの
存在。通俗的な用語を用いて言い換えると―――」


 長門は淡々と並べていた言葉を区切ると、ぽつり、言い放つ。


「朝倉ウィルス」


 ぐっ、と思わず呻く。耳に届いた一瞬に脳裏に浮かんだのはわらわらと血中を泳
ぐミニ朝倉の大群だ。それぞれが「死んで?」だとか、「ねえ、あきらめてよ」だとか
普通の朝倉より1オクターブは高い声できゃいきゃいと騒いでいる。


 きっと「なにしてんすか朝倉さん」などと自らの妄想に突っ込んだのが敗因だった
に違いない。堪えきれず、「ブフッ!」と小さく噴出してしまった。


 やばい……。この想像はちょっと……、っく、面白すぎるだろ……。


「…っ、なら、なんでまたお前やお前の親玉を消そうとしたんだよ」


 笑い転げようとする己をなんとか律し、捩れそうになる腹をなんとか抑えて、俺は
努めて落ち着いた声でそう言った。


 にしても…、長門。いつもは冗談とも本気とも分からない、それでいて笑えない冗
談を言うお前が今日に限ってとんでもない爆弾用意しやがって……と、恨みがまし
い目で長門を見るも相変わらずの無表情である。


 ひょっとしたら本気で言ってたのか?そんなことを思うが、息も絶え絶えに酸欠に
なりかけた頭では確かめようもなかった。



 ようやく、一息をつく。もしかしたら、待っていてくれたのだろうか、


「恐らくはわたしとの戦闘の際、わたしを敵性と判断した情報が残されていた為」


 長門は俺が充分に落ち着いた頃合になってようやく、先の問いに淡々と答えてく
れた。続けざま、また淡々と言葉を繋ぐ。


「本来ならばあの情報体は情報統合思念体からわたしとわたしの属する主流派の
みを消し去るつもりだった。しかし涼宮ハルヒの力を制御し切れず、存在する全て
の情報思念を消失させたのだと推測される」


 なるほどなぁ、と。確かに辻褄は合っているその説明に相槌は打ったものの、俺
にはどうしてか長門が嘘を言っているように思えてしまう。長門が俺に嘘をつく筈が
ない。それは分かっている。分かっているんだが……、どうしてなんだろうな。


「まあ、その急進派…だったか?そいつらもこれで懲りただろうな」


 釈然としない思いを飲み込んで言った俺に、長門は微かに首を振った。


「急進派を含む情報統合思念体の大部分は、今回涼宮ハルヒによって引き起こさ
れた情報フレアに大いに満足している」


 は?なんだそりゃ?てめぇらが消されかけたってのに懲りない野郎どもだな。それ
じゃ何か?また第二第三の朝倉が―――――長門は再び首を振る。


「多分、暫くは満足している」


 なるほど。そういうことか。





 それから俺たちは雑多なことを話して時間を潰した。この一週間の話だとか病院
食の味だとか、夏休みになったら何をするか、なんて益体もない話ばかりである。
 別にそんな話をしたかったわけではなく、タイミングを逸したというかタイミングを
計っているというか、俺にはまだ長門に尋ねてみたいことが残っていて、それをど
う切り出したものか分からず、結果ずるずると居座っているのだ。


 数十分か十数分か数分か…、いや、数十秒だろうな。話のタネも尽きたところで、
長門が脇に置いていたハードカバーを手にする。栞の位置でそれを開き、ぺらりぺ
らりとめくり始めた。


 文章を目で追う横顔が、「今日はもう店じまい」という意思表示に感じられてならな
い。だが、どうしてもここで聞いておかないといけないようなそんな気がして、俺はな
んとか捻り出した問いかけをその横顔にぶつけた。


「なあ、長門。 朝倉はまだハルヒの体にいたりするのか?」
「いない。既に確認済み」


 ハードカバーに目を落としたまま長門は答える。その答えに、少々疑問を感じる。


「確認しただけか?事が終わってからお前が何か対処してくれたんじゃないのか?」


 それをそのまま言葉にして尋ねると、長門はやはりページをめくりながら、


「わたしが倒れたとき、つまり情報統合思念体が消失しようとしているとき、わたし
に対する急進派の妨害もまた消失した。その際涼宮ハルヒの観察を行ったがあの
情報体の存在は確認出来なかった。既に消えていたものと思われる」
「そう、か」



 じっくり、長門の答えを頭の中で反芻する。出てきたのは、こんな答えだった。


「なあ、長門。俺はその存在はウィルスなんかじゃなく、やっぱり朝倉だったんじゃ
ないかと思う。ただ、思うように動けなかっただけのな」


 あいつは、朝倉涼子は…、なんと言えばいいのか、二度も殺されかけた(二度目
は朝倉本人じゃないが)俺が言うのもなんなのだが、凄い奴だ。そりゃ長門の同類
なんだから凄いのは当たり前だが…、ちょっと、他の誰とも毛色が違うというか。


 少なくとも暴走する前の朝倉は文武両道、でもそれをひけらかさない。誰にでも気
さくに、親身に接する根っからの委員長タイプで、まさに完璧超人だった。……そう
だな。物腰が柔らかい社交的ハルヒ、とでも言えばぴったりかも知れない。


 そうなんだよな。ほんの少しだけど、あいつはハルヒに似てたんだ。


 そんなあいつだ。プライドは人一倍だったろうと思う。あいつが暴走した理由にも、
まあ色んな思惑はあったにせよ、長門のバックアップという役不足に対する不満な
んてのもあったんじゃなかろうか。


 だとしたらやはり、長門は嘘を言っている。
 長門がウィルスと呼んだその存在は、朝倉涼子そのものだ。


 長門の口調が僅かながら変化する前の発言を思い出す。本来、情報ナントカ体
からは完全ならずとも独立した存在である長門が急進派の情報制御下に落ちてし
まっていたのは、その身に取り込んだ朝倉を媒介とされていた為。


 それが何を意味するのか。なんとなくだが、からくりが見えてきた気がする。



 俺の思うところはこうだ。


 ひょっとすると、ハルヒもまた長門と同様に、完全ではないにせよ急進派とやらの
制御化にあったのではないか。だとすれば今回のその情報フレアだかなんだかを
引き起こしたのは朝倉ではなく、その急進派である可能性も否定できなくなる。


 筋書きはこう。急進派は長門や長門の親玉の派閥を消し去ってそのナントカ体
の実権を握ろうとしていた。しかし勢い余って失敗。自分たちまで消えてしまった。
この辺は長門の説明どおりだろう。


 だが、これではあまりにお粗末だ。いつだか長門が語った「超越的な叡智」だとか
「蓄積された知識」の片鱗すら見せていない。ならば、ひょっとしたらと考える。


 そしてつい先程の長門の言葉だ。時系列順に要約すると、


 1.ナントカ体が消え始める。
 2.長門への妨害が消える。
 3.長門、ハルヒを観察するも、朝倉の存在は既になかった。


 となる。もし、3.の時点で、或いは朝倉が消えると同時に急進派が消えていたな
らば話は別だが、そうでないなら。


 ここで話を戻す。朝倉は急進派の情報操作の為の端末だった。ならば、例えば1.
の時点で朝倉が存命であったなら、それを消失させるような愚を、長門曰くの「超越
的な叡智」を持つナントカ体の一派である急進派が犯す筈はない。危機の最中は
勿論、それを脱した後もハルヒに取り付いた端末である朝倉は極めて有用な筈。



 であれば、その急進派にも何らか妨害があったのだと考えるのが妥当ではない
だろうか。つまり急進派による改変の途中で何者かがそれを妨害、消失させる対
象を急進派を含むナントカ体全てに変更し、以降の制御が出来ないよう朝倉を消
した。そういうことだ。


 もっともこの筋書きはその『何者か』が誰なのかがあやふやなままでは意味を持
たない。


 まず、考えられるのは古泉の属する『組織』。だがこれは長門が倒れたときの古
泉の言葉を思い出すと否定できる。曰く、『一人の人間があの超自然的存在を細
部まで把握し切ってしまうだなんて』と。何かを完全に消すにはそれを完全に把握
していなくてはならない。当然の道理だ。


 ならば朝比奈さんの属する未来人はどうか。上の古泉の発言があった際、朝比
奈さん自体はともかく、上はそれを把握できているような口ぶりだった。だが、彼ら
には朝倉という端末に接触し、それを操作する技術がない。


 他に考えられるのはナントカ体の別の派閥となるが、それでは本末顛倒である。
彼らが彼ら自身の消失を望む理由はなく、或いはこれは防衛策の末のアクシデン
タルな結果で、彼らの意図しないものだっただけかも知れないが、それでは先述の
通り「超越的な叡智」もナントヤラである。


 即ち、条件は3つ。


 1.朝倉という端末を使えて、(手段の所持)
 2.ナントカ体についてその存在を細部まで全てを把握し、(目標の理解)
 3.ナントカ体が消えても困らない存在。(動機の無矛盾)



 他に心当たりがあるとすればハルヒを取り巻く三すくみの頂点に立つ三者、その
それぞれに対しその存在が確認されている宇宙的、未来的、超能力的の三つの
敵対勢力だが…。しかし、彼らにもまた『組織』や未来人たちと同様、朝倉を接触
し操作し得る技術はないだろう。


 宇宙的敵対勢力にだけはそれを行うだけの技術はあるのか知れないが、だが
それで行うのがナントカ体の消失だけ、というのはどうも解せない。雪山のときを
考えれば、もっとどうにもならないような事態にまで発展させていただろうとは容
易に想像がつく。


 たとえ他の二者がその技術をもっていたとしても同様である。朝比奈さんをさらう
なんてラディカルなことを仕出かす連中だ。ナントカ体が消えた程度(これも勿論オ
オゴトだが)で済まされるわけがない。もっとオオゴトになっていてもおかしくない。


 そもそもが彼らが妨害した『何者か』だとするなら、三すくみの他の二者が消え去
らなかったこと自体が大きな矛盾だ。


 ならばハルヒか?これも違うね。


 まあ確かにあいつは頭をやられちゃいるがその出来はいいし、例えば古泉なら、
「涼宮さんなら或いは可能でしょう」なんてことを言うかも知れないが、いくらなんでも
無意識にナントカ体を全て把握するってのは不可能だろう。それにあいつは長門が
宇宙人だってことも、その親玉がどんなもんかも知らないんだ。無理に決まってる。


 なら、その『何者か』は誰なのか。これまでそれに該当するだろう者たちが次々と
否定されているのだ。つまるところそんな奴はいない、ということなのか?

 いやいや、違うさ。一人だけ、たった一人だけだ。三つの条件に当てはまり、急進
派の妨害が可能だった奴がいる。


 ――――――朝倉涼子、本人だ。



 朝倉について三つの条件を考える。まず1.については問題ない。何せ本人だ。
これ以上なく巧みに扱えるだろう。


 2.についても同様だが、長門や朝倉といったインターフェースがその親玉につい
てどこまでのことを知っているか、というのは少々疑問の残るところだ。
 しかしあのとき急進派は朝倉に消失の対象である主流派の情報を送り続けてい
た筈だ。それを利用してその範囲をナントカ体全てに変更するのは、あのときの朝
倉には造作もないことだったろう。何せ万能の力がすぐ傍にあったわけだからな。


 ただ、3.については勝手が違う。動機ってのは本人の口から語られない限り明
かされないもので、推理なんて出来はしない。出来るのは当て推量だけだ。だから、
ここからは俺の勝手な想像になる。

 朝倉はほんの少しだがハルヒに似ている奴だった。そんな朝倉がたとえかつての
操り主だったとは言え、それこそ本当の端末、道具として扱われることを何の抵抗
もなく受け入れたのだと果たして言い切れるだろうか。そんな筈はないと俺は思う。


 ただ、世界を創り替えられるくらいの力があって、それでやったことが親を消して
自分も消えることだなんて、あまりに切な過ぎるが……、それでも。俺は思いたい。
 あいつが長門を完全に消さなかったのは、やっぱりハルヒに似ているあいつの、
ハルヒによく似た捻くれたお節介だったのではなかろうか――――と。


 まあ、思いたいだけなんだが。



 だが、そんな状況証拠だけで打ち立てた穴だらけの机上の空論は、勿論口には
出さない。それにこれは長門の話に嘘があったという仮定を前提にしたものだ。長
門が俺にそんな嘘をつく理由があるとは到底考えられない。長門の言っていること
は正しいのだ。


 だから俺は黙ったまま先の言葉に対する長門の返しを待っていた。長門はぱら
ぱらとページをめくりながら、たっぷりと時間をかけて「そう」と一言。ハードカバー
に向けていた視線をこちらへ遣すと、


「あなたがそう思いたいならそう思うといい」


 そう言って再びハードカバーに目を落とした。


「ああ。そうするよ」




 見れば、窓の外はもう随分と薄暗い。だいぶ長居してしまったようだった。これ以
上居座るのも気が引けた俺は、さてと立ち上がり、踵を返そうとしたところで思い出
した。


 そう言えば、大事なことを忘れていた。


「あ、そうそう。もうひとつ質問があったんだよ」
「なに」

 長門は再び目線を俺にくれる。何度も読書を中断させて悪いとは思ったが、致し
方あるまい。そもそも俺がここへ戻った理由の一つに、この質問をする為というも
のがあったのだ。このまま帰ってしまっては画竜点睛を欠くというものだろう。


 それに、俺にとってその質問はあんな込み入った事後説明を聞くことなんかより、
遥かに大切な用事だったわけだしな。


 何度も読書の邪魔してすまんな、と断ってから、俺はその質問を口にした。


「あのとき…、つっても分からんか。 お前が消えちまうかもしれないってときさ。
お前、笑ったよな? あんな状況だってのに、なんでまたお前笑ったんだ?」



 あのとき、確かに長門は俺を見て、微笑んだ。見間違いでもなければ幻覚でもな
い。あれは長門の笑顔だった。改変された世界の長門が見せた笑顔とは違う、本
当の長門の笑顔だったのだと、俺は思う。


 だから、知りたかった。自分が消えるかも知れないってときになってどうして、こい
つはあんな顔で笑ったのか、その答えを。


 長門は、黙ったきり答えなかった。返答に困っていると言うよりかむしろ、何を聞
かれているのか分からない、そんな表情で俺を見ていた。

 まあ、しょうがないのかも知れないな。自分の存在が消える瀬戸際だ。もしかした
らあのときのことは記憶にないのか。なら、残念だが、仕方がない。
 覚えてないんならいいんだ、忘れてくれ。そんな台詞が口を衝いて出ようとしたとき、
黙っていた長門が口を開き、唐突に話し始める。

「わたしが機能を停止していたとき、わたしはとても興味深い体験をした」


 長門はハードカバーをぱたりと閉じると、それを膝に置いてこう続ける。


「夢を、見た」


 ぱちり、瞬いた両の目が、俺を捉えた。


「肉体以外の全情報を消失していた筈のわたしが何故そのような体験をしたのか、
またどうしてそのような体験をしたという記憶があるのかは、不定」


 長門はそう断定し、「元よりわたしが夢を見ることはない。夢という概念は有機生
命体が睡眠時に行う記憶の整理に伴い、その記憶の断片が半休眠中の意識化に
現れる精神行為のことを指し、それは我々のような情報生命体にとって――――」
だとか、小難しい言葉を用いて延々自分が夢を見る理由がないことを説明すると、


「けれど。恐らくはそれが、先程の問いに対する解答と思われる」


 と、末尾を結ぶ。どうやら、それで終いらしかった。



 ううん、と唸る。どうにも哲学的な答えであるそれは、サルトルでもなければフーコ
ーでもない俺には少々どころかまったく理解できない。だが、それでいいかなと思う。


 長門の目を見れば分かった。その答えはきっと、長門なりに俺の質問に対し真摯
に受け止め、考えて答えてくれたものに違いないのだ。


 なら、理解は出来ずともそれでいいかなと思う。


「そっか」
「そう」


 呟いた相槌に、長門は律儀にも返してくる。


 或いは俺はその簡潔なやり取りを最後に、そのまま帰っても良かったのかも知れ
ない。しかしいつまで経っても膝に落としたハードカバーを手に取ろうとしない長門を
見るにつけ、俺は本日最後の質問のつもりでこんな問いかけを口にした。


「夢の内容は、覚えているのか?」


 長門の見る夢がどんなものか多少なりと興味があった、というのも勿論だが、そ
れ以上に。何故か、長門がその質問を待っているような、そんな錯覚を覚えたのだ。


「覚えている。でも」


 長門は言葉を区切り、その目はぱちりと瞬く。


 その「でも」という否定接続詞に続いた言葉に、俺は不謹慎ながらほんの少しだけ
笑ってしまう。それはその言葉があまりに長門らしくなかった為か、或いは俺は、
それが嬉しかったのかも知れなかった。



 長門はいつものように必要最小限の大きさで口を動かし、俺にこう告げた。


「ひみつ」






 それから数日が過ぎ、今年もまた七月七日がやってきた。


 誰の望み通りの結果なんだろうね、日に日に晴れ渡っていく夜空を見上げながら、
日に日に暗雲立ち込めていく憂鬱な気分を抱え、俺はその日を迎えたわけさ。


 かつてただのおまじないイベントに過ぎなかった七夕がこうまで俺を陰鬱な気分に
させるに至ったのは、言うまでもなくハルヒのせいに他ならない。
 別に昨年の七夕…、いや、四年前の七夕に自身が取った行動を後悔しているわ
けではない。あのときはああするしかなかったしな。


 ただ、俺の奇矯な日常の全ての始まりが実はあの日にあったのだと知った今年、
七夕が近づくにつれ俺は今までの様々な事件やら出来事をどうしても思い出してし
まっていた。もしあのときああしてなかったら、こんな事件やら出来事には遭遇せん
かっただろうなぁ、と。
 そしてそんなとき思い出すのは限って疎ましい事件やら忌々しい出来事なのであ
るから、これで憂鬱になるなというのが無理な話であった。


 その元凶たるハルヒはと言うと、昨年のメランコリー状態とは打って変わってむや
みやたらにハイテンションだった。去年はあんだけ煤けていた七夕当日にも長門の
退院祝いも兼ねた七夕パーティーを行うことに決めてしまったくらいだ。


 どうやら風邪と同様に、憂鬱な気分も人に伝染せば直るものらしい。はた迷惑な。


 しっかし期末考査も近いというに、そんなことをしていて大丈夫なのかねぇと赤色
の混じりかけた中間の答案を見返してため息をつくが、ハルヒの決定に異を唱えて
も無駄なことは、そのにこにこと喜色満面なツラを見れば分かりきったことだった。



 放課後になり、教師の目を盗んで食材やら何やらを構内に運び込むと、俺たちは
一路SOS団の拠点である文芸部室に向かった。


 粗方のものは前もって運び込み、備品の冷蔵庫内にしまっておいた為、荷物は鞄
等にしまうことが出来、これといって危険はなかった筈なのだが、それでも誰かに見
つかるかもと、どうにもワクワクとしてしまったのは我ながら青い。ランドセルを卒業
しても教師に隠れて何かをやるというのは、中々どうして抗い難い魅力があった。


 ああ。ここ数日の、主に長門の病室でのSOS団の活動についても少しだけ語ろう。


 ハルヒが出入り禁止を食らいました。以上。


 ……これ以上、何を語れと言うのか。あのヤロウ、あまつさえ人を共犯扱いだ。
車椅子は人を轢く為のものじゃないって俺は止めた筈なんだがな?脳みそか耳
か、或いはその両方が腐ってるんだな。多分。


 結局ハルヒだけではなく俺たち全員が出入り禁止の宣告を受けたわけだが、懲り
ないハルヒは長門の個室を夜襲する算段を立て始めやがった。流石にどう止めよ
うか迷っていたのだが丁度長門の退院が決まり、俺は心底ほっとしたものだ。


 本当ならもう二三日様子を見る予定だったのだが、恐らくは古泉が手を回してくれ
たのだろう。流石のあいつも最近のハルヒの高気圧振りにはついていけないようだ。
笑みに若干の疲れが見え隠れしている。


 古泉同様毎日疲れっぱなしでこの数日は生きた心地がしなかった俺としては正直、
長門が帰ってきてくれたのが非常にありがたい。身内ならまだいいが、これ以上よ
そ様に迷惑をかけるのは俺の精神がもちそうにない。



 して、七夕パーティーである。それも何故だか暖房器具が大量に揃った、七夕パ
ーティーである。窓辺に飾られた横断幕には本当にどうしてだろうなぁ、『ガマン大
会』なんて書かれているんだこれが。本当になんでかなぁ。


 ……いや、現実逃避は止めにするか。…受け入れよう。紛れもなく今年の七夕は、
ガマン大会なのだ。はぁ……、一生のうちで夏に鍋を囲む機会なんて都合何度ある
んだろうね。また谷口に笑われそうだ。


 しかし前もって聞かされてたとは言え本当にやるとはなぁ。まあ、実を言えばあい
つがこれを言い出したときに本当にやるのか?と俺が問うた、それに対する返答を
聞いた時点で、諦めはついていたのだが。


 宴も酣になると、流石のハルヒもぐったりとしてきて、俺は暫くぶりに馬鹿みたいな
テンションでない普通のハルヒを拝むことが出来た。なんでまた最近のこいつがあん
なハイテンションを持続してたのかは分からんが、出来ればそのまま大人しくしてて
欲しいね。俺の身が持たん。


 暖房を止め窓を開けると、初夏の暑さもむしろ涼しいほどだった。朝比奈さんが
淹れてくれた水出しのお茶を飲みながら外から入ってくる風に身を委ね、暫くのん
びりと一服する。

 周りを見ると皆同様に、のんびりと過ごしている。皆が皆、一様に大汗をかいて
いるという光景も、どこか滑稽で笑いを誘った。


 そうしてひと段落着くと団長閣下の号令の下、本日のメインイベントが始められる。
今年も団長じきじきに採ってきた(正しくは学校裏の竹林から盗ってきた、だが)笹
竹に、それぞれの願いを吊るすのだ。


 俺が昨年の今日に書いた内容は最早記憶の底であるが、確か16年後の自分に
向けた願いだったという趣旨は覚えている。


 しかし気まぐれなハルヒのことである。「今年は今年の分の願いを書きなさい!」
と開口一番そう宣言した。やれやれ、あのとき披露したうんちくはなんだったのか
ねぇ。そう思いながら、俺は今年の分の願いを書いた。


 まあ、俺としてはこの願いの持続期間は今年だけじゃなくてもいいんだがな。




 朝比奈さんの短冊にはちまちました可愛らしい文字でこう書かれていた。


『みんなで元気に楽しくいられますように』


 古泉のはこう。これは本人のイメージに合わない乱筆である。


『今年もみなさんと共に、平穏無事に過ごしたいものですね』


 続いて長門。いつだかの七夕のときには気付かなかったが、宇宙人が星に願い
をかけるというのも中々にロマンチックな話ではないか。俺はそんなことを考えなが
ら、笹竹に吊るされた短冊に躍る流麗な長門の文字を眺める。


『みんな、いっしょ』


 こうまで同じような願い事が揃うと、最早顔を綻ばせるなという方が間違いだ。恐
らく俺は顔面の神経が緩みまくったような顔でそれらを見ていることと思う。それで
いて周りも皆、いつもの無表情である長門と仏頂面のハルヒを除いて似たような顔
をしているのだから、全くもって幸せな奴らだ。


 さて、残るハルヒの短冊は最後まで見せて貰えなかった。でもその口元に浮かぶ
照れたようなへの字からして、多分朝比奈さんや古泉や長門たちと似たような文句
がそこには載っている筈だ。
 まったく、『今年の分の願いを書け』なんて言った時点でこうなることは予想……、
いや、期待してただろうにな。本当にこいつは、根っからの天邪鬼だ。


 ああ。それとな、ハルヒ。そんなこと敢えて言わなくても、たとえ16年後の願いだっ
たとしても、この短冊に書かれたものは然程変わりゃしなかっただろうぜ?






 して、俺の願いが書かれた短冊だが、今は俺の手元を離れ、団長閣下の握り締
められた手の中にあった。

 なんとかして中身を盗み見ようとしていたハルヒの視線から、俺は鉄壁のディフェ
ンスでその願いごとを守り通していたのだが、ちょっとばかり目を離した隙にまんま
と奪われてしまったというわけだ。


 俺は取り返そうとハルヒを追いかけるものの、そのちょろちょろとすばしっこい動
きに取り返すどころか完全に遊ばれている状況だった。はぁ、ホントこいつのこの
パワーはどっから湧いて来るんだろうな。


 まあ、そんなこんなで短冊の中身を確かめるくらいの余裕は充分にあるハルヒな
のだが、何故か奪い取った短冊は握り締めたまま見ようとさえしていない。


 その理由はもしかしたら、単に追いかけっこがしたいだけで短冊の中身には興味
がない、などという微笑ましいものなのか、はたまた存分にいたぶった後、動けない
俺の目の前で見るつもり、なんて悪趣味なものだとか、色々と想像は出来るが。


 くるりと振り返ったハルヒの、その照れ笑いのようなツラを見ながら、とりあえずの
ところ俺はこう思うことにした。




 そこに書かれた俺の願いが――――きっと、見なくても分かるからだろうな、と。






 fin.

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最終更新:2007年01月15日 07:04