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 どうしてこんなことになったのか、俺にはさっぱり検討がつかない。いつものように
部室に顔を出し、いつものように朝比奈さんの淹れてくれた甘露に浸り、いつもの
ように騒々しい団長殿をお迎えしたところまでは覚えている。
 しかしその後、まるで坂から転がり落ちるように事は進んでしまった。何故いつも
こう俺の日常は唐突につまづいてしまうのか。理由は分かっている。

「キョン、いい加減吐きなさい。ネタは上がってるんだから」

 無論、この、まるで刑事ドラマのようなセリフを吐きながら俺のネクタイを締め上げ
問い詰める、涼宮ハルヒその人の所為である。
 いつだったか、こんなように締め上げられたのを思い出す、あれは俺がこいつと
出会って暫くのことだったか。こんなSOS団という訳の分からない団体が発足する、
その発端となった事件だ。

 まあ、それはさておき、例えば俺たちがごく普通の高校生だったら、こんな会話の
流れもまた、ごく普通なことなのだろう。
 しかしながら残念なことに、俺たちは一般的な高校生ではなく、宇宙人や未来人
や超能力者、そんなものとの関わり合いがある、或いは宇宙人や未来人や超能力
者そのものである、という奇天烈な集団であり、ましてその混沌の中心である涼宮
ハルヒがこんなごくごく普通のことに興味を持つ、というのも甚だ珍妙な話であった。

 故に、ただ一つ分かることがある。
 今直面しているこの状況は、俺にとって非常に拙いものだ、という確信にも近い
それだ。


「ねえキョン、あんたはよく分かってないのかも知れないけど、これはSOS団の存続
に関わる問題だわ。だから正直に答えなさい。あんたの、本当のところを」
 ハルヒの顔は至って真剣だった。あたしの目を見て答えろ、と言わんばかりにそ
の大きな瞳は俺の両目をがっちりと捉えていた。

 その真剣な眼差しに気圧されたのか、それとも心を動かされたのか、どちらなの
かは分からない。或いは状況に流されただけかも知れない。
 普段ありえないことばかり体験している俺だ、不測の事態にはよくよく対処できる
ようになっているかと思えば、違っていたらしい。ありえないことに慣れすぎると逆に
普通の出来事が奇特に思えてしまうのか。

 ともかく、さんざハルヒに問い詰められた挙句、俺はとうとう、俺たちの非凡な日常
には最も相応しくないだろう言葉を、吐いてしまっていた。

「そうだな、お前の言う通りかも知れない。どうやら俺は長門が好きらしい」

 繰り返して言おう。俺にはどうしてこんなことになったのか、さっぱり検討がつかない。





                  ―――ハニカミ―――





「……それは、どういう意味での好き、なのかしら」

 長い沈黙の後、ハルヒは切り出す。こころなしか、ハルヒは俺を睨んでいるようだ
った。ぴりぴりした空気が肌に痛い。
 暫く会話から取り残されていたメイド服姿の朝比奈さんもまた、その空気を感じ取
っているようだった。恐らくは俺たちの間に割って入ろうとして出来ずにいるのだろう。
おっかなびっくり足を伸ばし、そして戻すという動作を繰り返している。

「どういう意味でとはどういう意味だ?」
「友達として?それとも、一人の女の子として?」
 俺の禅問答みたいな返答に、ハルヒは即答で返してくる。どうにもその顔にむかっ
腹が立ってしまうのは何故だろうか。まあ、こんな理不尽な問い詰めをされれば誰
だって腹の一つや二つ、立てるものであるのか知らんが。

「さあてな。わからんよ。正直俺自身こうしてお前に問い詰められて初めて気が付い
たくらいだ。これがどういったものなのか、把握するには時間がかかりそうだ」
 半ばやぶれかぶれの心境で、俺は答える。下っ腹付近に蓄えられた重苦しい感
触もまた、恐らく言葉と共に出ていたことだろう。少々、強い口調になってしまった
かも知れない。別にフォローを入れようという意図があったわけではないが、俺は
ため息を一つ吐き、言葉を続ける。

「まあ、現時点でも俺が長門に好意を持っていることは確かだろうがな」
「……そうなんだ」
 ハルヒはつい数分前の嬉々とした表情が嘘のように憮然とした面持ちだった。
 なんなんだその態度は。お前が振った話だろうが。
「うっさいわね…、キョンのくせに」
 ハルヒはそんな何処ぞのガキ大将のようなセリフを吐くと、締め上げていた俺の
ネクタイを手離し、不機嫌そうな顔で団長机にどっかりと座った。



「今日はもう帰るわ」

 そう言い残してハルヒが部室を出たのは、それから一時間も経たない内だった。
その間、俺たちは終始一切の無言。またその間、ここを訪れた人間は誰一人とし
てなく、当然ながら現在、部室には俺と朝比奈さんだけが取り残された格好となっ
ている。
 ハルヒの気配が部室棟から消え、また戻ってくる気配もないことを確認した後、
朝比奈さんは俺に詰め寄った。

「キョンくん…!あなた、どうしてあんなこと言っちゃったの?これじゃ、また…」
「わかってます」
「わかってるって…!だったらどうして!取り返しのつかないことになってからじゃ
遅いんですよ!?」
「じゃあどうすればよかったんですか!」

 思わず、語気が強くなる。びくり、と朝比奈さんが肩を震わせた。
「……すみません。怒鳴ったりして」
 これじゃ八つ当たりしてるみたいじゃないか。最低だな、俺は。
「いえ…、あたしも、ちょっと、言いすぎました…。 でも、キョンくん…」
「ええ、とりあえず古泉たちが来たら相談してみようかと思います」

 もしかしたら古泉は来ないかも知れない。今頃閉鎖空間とやらがワゴンセールで
やってきているだろうからな。そんなことを思ったが、間もなく、古泉はいつもの通り
のエセ爽やかなツラを伴いやって来た。
「おや珍しい。今日は長門さんはお休みですか?」
 しかし、意図せず「"古泉たち"が」と言ってしまったのは、やはり長門を意識してし
まっているからなのだろうか。


「それは……、極めて忌々しき事態ですね」
 俺と朝比奈さんから事のあらましを聞くと、古泉はニヤケ面のまま、気取った口ぶ
りでそう言った。お前、随分と余裕そうだな。

「余裕?とんでもない。これでも内心焦っているのですよ」
「とてもそうは見えんが」
 むしろ楽しそうに見えるぞ。
「ああ、やっぱり分かってしまいますか。流石ですね」
「お前なぁ…」
 本当に一々ムカツク野郎だ。

「ふふ、誤解しないで下さい。僕が面白いと思ったのはこの状況ではなく、あなた
自身のことですよ」
 古泉はしたり顔でそう言うと、俺の顔を覗きこむように身を乗り出す。
「ねぇ。本当のところはどうなんです?」
「何がだ」
「とぼけないで下さいよ」

 一拍置いて放たれた古泉の問いに、俺は沈黙せざるを得なかった。


「あなたは本当のところ長門さんのことを、どう思っているのですか?」





 毎度のように長ったらしく回りくどい古泉の話が終わったのは、それから有に十数
分は経過した頃だろう。再び閉口してしまった俺に、古泉はいつもの調子で言った。

「まあ、ともかく、こちらでも今後を検討してみることにします。今のところ閉鎖空間
が現れたという連絡もありませんし。この話は長門さんには?」
「いや、まだだが」
「そうですか。なるべく早いうちに伝えておいた方が良いでしょうね。或いは既に知る
ところなのかも知れませんが―――さて」
 言葉を区切り、古泉は席を立つ。

「ちょっと早いですが今日はこの辺で退散させて頂きます。便りがないのが必ずしも
良い報せとは限りませんからね」
 そう言い残し、古泉は部室を後にした。

「あの、あたしも…、上の人の判断を貰いに行ってきます…」
 俺と古泉が話している間ずっと黙っていた朝比奈さんは、そう言って俺の顔を見る。
ああ、着替えるのですね。俺はその視線に頷くことで答え、廊下に出た。


 着替えが終わる間、俺は今日のハルヒの言動について考えていた。どうしてまた
あんな話を持ち出したのか、まったくもってその真意は測りかねる。
 仮に古泉が長々と語った妄言が真実だったとして、しかしどうしてまた長門なんだ?
確かに長門は頼りになる奴で、幾度となく俺の命を救ってくれた恩人だ。だから俺の
長門を見る目が違っているというハルヒの言い分も分からないではないが……、

「お待たせしました…」
 きぃ、とドアの開く音が聞こえ、制服姿の朝比奈さんが姿を見せる。これから起こ
ろうとしている騒動に、早くも心を痛めているのだろうか。項垂れ、消沈した様子だ
った。すぐ傍の壁に寄りかかっていた俺は壁から離れ、朝比奈さんに向き直る。

「大丈夫ですか?」
「あ…、はい…。 あの…、キョンくんは、今日はこれからどうするんですか?」
「とりあえず長門を待とうかと思います。古泉も言っていましたが…、早いところ、こ
の状況をあいつに知らせてやった方がいいでしょうし」
「そうですね…」

 朝比奈さんの顔色は優れない。やはり、ここは素直に謝るべきところだろうか?
ハルヒの横暴さは今に始まったことではないし、となればそれを受け流せなかった
俺に非の一旦はあるのだ。俺は今更ながらにあの無責任な発言を悔いる。

「すみません。朝比奈さん。俺がもう少し冷静に対応していれば…」
「いえ、あたしも…、あたしが、止めなくちゃいけなかったんです!ホントに…、あた
し、なんでこうなんだろう…」
「朝比奈さんのせいではありませんよ。悪いのはどう考えても俺なんですから」
「そんなことないです! キョンくんは…、キョンくんは…、…とにかく、悪いのはあた
しなんです!」

 どうしてこの人はこうも健気なのだろう。本当に愛しい人だ。

「じゃあ、そういうことにしておきましょう」
「ふぇ…っ?へっ?」
 戸惑う朝比奈さんに、俺はすかさず二の口を告げる。
「ですが俺はやっぱり俺が悪いと思います。つまり俺も悪いし朝比奈さんも悪い。
お互いに悪いので、お相子ですね」

 このセリフはちょっとキザ過ぎただろうか。けれど朝比奈さんは100万ドルの夜景
も霞んで見える笑顔を俺に向けると、こう言った。

「はい、お相子…です」

 ああ、可愛すぎるぜ、畜生。


 こうして朝比奈さんはそのまま下校していったわけだが、その帰り際、少々気にな
る出来事があった。当然ながら、そのとき俺は朝比奈さんの後姿を部室のドア前で
お見送りしていた。すると朝比奈さんは数歩歩いた後振り返り、
「あの…、キョンくん?」
「なんでしょう」
「えっと…、あの…、…ごめんなさい。なんでもないんです」

 まあ、それだけなのだが。

 さて、肝心の長門だが。この後俺は部室で独り、空腹が限界に達するまで粘った
ものの、とうとう現れることはなかった。








 翌日、登校した俺を出迎えたのはハルヒの退屈そうな横顔だった。

 昨日の今日だ、俺はどう接していいのか分からず、とりあえず「よう」とだけ声を
かけた。ハルヒは俺の顔を永久凍土のような目で睨むと、すぐさま視線を校庭に
戻してしまった。取り付く島もない。

 おいおい、勘弁しろよ涼宮ハルヒ。これじゃまるで出会った当時にタイムスリップ
したみたいじゃないか。時間旅行は朝比奈さんだけの専売特許にしといてくれ。
 などという妄言が頭をかすめるが、当然、それをハルヒに伝えられるわけもなく、
俺はため息をつきたい心地で、黙って席に着くことにした。

 さて、座ったはいいが何もすることがない俺は、頬杖をついて視線を中空に彷徨
わせ、担任である岡部の登場を今か今かと待っていた。HRさえ始まってしまえば
この窮屈な空間も緩和されるだろう。そんな打算的感情に基づく期待である。
 しかし、よりにもよってこんな日に限ってあのハンドボールバカは遅刻をしたらしい。
HRの時間になっても現れる気配のない担任、それは即ちクラス内の秩序が徐々に
崩壊していくことを意味している。

 次第に大きくなっていく若さと希望と未来溢れるクラスメートたちの談笑という名の
騒音は、自然と俺の視線を校庭へと向かわせた。クラスメートだろうがなんだろうが、
騒々しいものは騒々しいのだ。

 恐らくそのとき、後ろの席のハルヒもまた同じように校庭を眺めていたに違いない。
窓際最後尾から一二列、という絶好のポジションにいる二人が、揃いも揃って朝っ
ぱらから陰鬱な表情で人気のない校庭を眺めているわけだ。周囲からはさぞ異様
な光景に見えたことだろうな。

 それにしても朝の時間がこんなにも長く感じたのは、とんと久し振りのことだった。
果てさて、俺は昨日までこの朝の退屈な時間をどうやって過ごしていたんだっけな、
などと思いつつ、その永遠にすら思えたロスタイムは結局一時限目のチャイムが
鳴り響くまで続いた。
 一時限目の教科担当である数学教師は、岡部が季節外れの風邪で休んだことを
告げ、そのまま授業に入っていった。もう六月も半ばだと言うに、岡部も中々に気の
毒な奴である。


 放課後、クラスメートたちが次々と青春を謳歌しにいく中で、俺はと言うとまだ教室
にいた。部室に行こうか行くまいか、一人思案していたわけである。
 幸いにも本日終始不機嫌オーラ出しまくりだった我らが団長閣下は、終業のチャ
イムが鳴り響くと同時に何処へなりと消えてしまった。放課後になるなり盛大に文句
を言われるだろうと危惧していた俺は、内心拍子抜けした気分だ。
 とは言えあの万年高気圧見たいな奴がこうまでも静かであると、まさしく嵐の前の
静けさ、といったそら恐ろしさを感じざるを得ないわけだが。

 さて、そうやって一人悩んでいる内に日も暮れて、そろそろ下校のアナウンスが
流れ始める時間である。流石に時間を潰し過ぎたか。俺は教室を出ることにした。
 習慣というのは恐ろしいもので、帰巣本能に従う犬よろしく、俺の足は自然とSOS
団の拠点である文芸部室に向かっていた。まあ、長門に早いところこの状況を伝え
てやるという大義名分はあったわけだが。
 と言うのも昨夜、家に帰ってから長門に連絡を取ろうとしたのだが、何故か繋がら
なかったのだ。今まであいつに連絡が取れないなんてこと、なかったんだがな。

 ともあれ。もうこんな時間だ。誰もいないか、残っているとしても長門くらいだろう。
そんな穴だらけの皮算用を信用し、俺は意気揚々…とまではいかないが、まあそこ
そこには高揚した士気と共に、部室のドアを開けたのだった。



 しかしまあ、人生ってのはそうそう都合良くは出来ていないらしい。

「遅いわよ。バカキョン」

 そこには海洋上で勢力を増しつつある大型台風のような、涼宮ハルヒがいた。



 ハルヒはパソコンのディスプレイをどかした団長机に腰かけ、仏頂面で腕組みを
していた。ノブを掴んだまま動かない俺を睨みつけ、口を開く。
「なにボサッと突っ立ってんのよ。入るんならさっさと入りなさい」
「あ、ああ…、今日は、お前だけか?」
「そう。みくるちゃんも古泉くんも用事があるとかでお休み。たるんでるわね」
「そうか」

 無論、ここにいるのは俺とハルヒだけなのだから、朝比奈さんや古泉同様、長門
もまた休みだということになる。敢えて長門の名前を出さないのは罠を張ったつもり
なのだろうか。残念だがそんなものにひっかかってやるほど俺は子供でも大人でも
ない。
 何か反応があるものかと期待していたのだろうハルヒは、腕を組んだまま、人差し
指で腕章を叩き始めた。トン、トン、と一定のリズムで聞こえてくるそれがまるで死神
の足音のように聞こえたのは、恐らく俺の聞き違いではない。

「ふん、まあいいわ。キョン、ちょっとこっちに座りなさい」
 ハルヒはすらりとした足を伸ばし、傍らに置いてあったパイプ椅子を指し示した。
 おい、行儀が悪いぞ。


 俺がハルヒの示した席に着くなり、ハルヒは居丈高に言った。
「あんた、昨日の言葉に嘘偽りはないわね」
 は?何の話だ?
「あんた…、最悪!昨日の今日でよくそんなことが言えるわ!」
「すまん、冗談だ」
「冗談でもそういうこと言うな!バカ!」

 当然だが、言葉の通りさっきのは冗談だ。怒鳴られながらも、俺は幾分か空気が
和らいだことに満足していた。正直、今朝からさっきまでの冷たい空気は精神的に
キツイ。まだいつものように怒鳴られた方がマシというものだ。
 まるで浮気がバレて背中を丸める亭主のような心境、とでも言おうか。いや、俺が
こいつの亭主だとかそんなことは断じて一切ないが。

「で、どうなの?事実なの?」

 俺は暫し考える。もしここで上手く誤魔化してしまえれば、今回の事件は何事もなく
終わるのではなかろうか。
 まあ、今現在として俺の身に迫るものはハルヒのじとりとした熱視線くらいでさした
る危機があるとも言い難いが、朝比奈さんや古泉がこの場にいないことを鑑みると、
そう楽観的に判断してしまうのは早計というものだ。何らかの事件が確実に起ころう
といるのだと、そう考えてしまっていいのだろう。

 しかし、だ。俺はどうしてか、その事件とやらが俺たちの身に危険を及ぼすような
ものじゃないような気がしていた。楽観視し過ぎだろうか?


 とかなんとか考えている内に、どうやら時間切れとなってしまったらしい。ハルヒは
腹筋運動の要領で、腕を組んだ体制のまま、ぴょん、と机から降りた。器用な奴だ。

「ふん、まあいいわ。どの道このままじゃSOS団の活動に支障をきたすのは明白。
あんたが有希に好意を持っているのは事実で、それはあたしとみくるちゃんの知る
ところになっちゃったわけだしね。でも、あんたは有希に対する自分の気持ちがど
んなものなのか分かっていない。まあ、当たり前よね。キョンだし」
 キョンだし、ってどんな理由だよ。という俺のツッコミを見事に無視したハルヒは、
うろつかせていた足を止め、恐らくは俺が部室に現れる前から今までずっと組んだ
ままだったであろう腕を解いてこう言った。

「てことで、あたしに協力させなさい!」

 ハレーションのような笑みを讃えたハルヒの制服、左腕。組んだ右手によって隠
されていたそれに、俺の口があんぐりと開いていく。
 いつもならばそこにあるのは「団長」と書かれた腕章であり、たまにその字面は
「超監督」だとか「名探偵」だとかに変わるが、今そこに書かれているのは俺の想
像を遥かに超えた単語だった。

『きゅーぴっど』

 マジかよ!


「マジも大マジ。あんたの本当の気持ちがどうなのか、あたしが確かめてやるって
言ってんのよ。言っとくけど特別よ?大サービスなんだから」
 なにが大サービスなのか心ゆくまで説明を願いたい。
 大体お前、前に「色恋にうつつをぬかしてる暇はない」とか、言ってなかったか?

「そうよ。だから大サービスなんじゃない。今回ばかりは特別。緊急事態。このまま
じゃいつSOS団が空中分解するか分からないわ。昼ドラよ昼ドラ」
 はあ、空中分解ねえ。まあ、なんとなく分からん気はしないでもないが…、相手は
あの長門だぞ?そんな安っぽいドラマみたいに話が転がって堪るものか。そんな
ことを思う俺を余所に、ハルヒは独りで盛り上がっていく。

「そう、ドロドロとした愛憎劇がすぐそこまで近づいてきているのよ! あ、具体的に
言えば嫉妬に狂ったみくるちゃんが鉈で有希の頭を―――」
「俺の朝比奈さんはそんなことはしない!」

 キレた。半ば本気である。

「ふん、冗談に決まってるじゃない」
「あのな、冗談でも言っていいことと悪いことがある」
「そのセリフ、一分前のあんたにそのまま返すわよ」
 ハルヒはそう言ってふんと鼻を鳴らすと、再び団長机に腰掛ける。


「で、どうするの?」

 どうするったってなぁ。こいつのことだし、どうせ断ったところで勝手に話を進めて
いくに違いない。ほぼ即決に近い形で俺は返答した。

「分かったよ。その申し出、ありがたく受け取ってやる」

 と、ハルヒの表情が僅かながら変化する。
 は、さては断られることを前提に提案してきたな。戸惑ってやがる。   ……ん?

「そ。なら決まりね。これから一週間。あたしがあんたたちの仲を取り持ってあげる。
その間にあんたは最終的な判断を決めなさい。言っとくけど、くれぐれも慎重にね。
なんたってSOS団の未来がかかってるんだから」
「ああ、わかってるよ」
 早口でまくしたてるハルヒの表情は、既にいつもの、騒動の中心たる涼宮ハルヒ
に戻っていた。一瞬、その顔が寂しそうに見えたのは、どうやら単なる目の錯覚だ
ったらしい。

「じゃ、早速だけれど、行くわよ」
「行くって?どこへだ?」
 俺はごく普通に湧いた疑問を口に出す。
 それに対するハルヒの返答は、口ぶりだけなら至って自然なものだった。

「決まってるでしょ?有希の家よ。さっき職員室行って聞いてきたんだけど、有希、
昨日から病気で学校休んでるらしいの」



 ……なんだって?


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