こんにちは、涼宮ハルヒです!
 ……って言うよりは、涼宮ハルヒの中にある、4年前になくなった、現実的で、乙女チックな心があたしなの。
 あたしはご主人様が幸せになったら消えちゃうんだけど、それがあたしの喜びだからいいわ。
 だからね、あたしの役目は一つ! いつも素直になれないご主人様の背中を押してあげること!
 いっつも、いっつもご主人様の心はキョンくんでいっぱいなんだけどね、それが態度に出ないみたいなの。
 むしろ、気が無いみたいな態度を取っちゃってる。
 それをあたしが応援して、ご主人様を幸せにしてあげるの!
 ……あ、言ってるそばからキョンくんが登校してきたみたい。
「よう、ハルヒ。今日はなんだか機嫌が良さそうだな。顔がニヤついてるぞ」
 ふふふ、いつもと違うご主人様を演出することで、キョンくんに興味をひかせちゃった。
 あたしは《涼宮ハルヒ》の一部だから、体や表情や言葉も思い通りなの。
 ま、ご主人様はあたしに気付かないけど。
「う、うるさい! ニヤけてなんかないわよ!」
 あちゃ~、ここから世間話にでも発展すると思ったのに……。

 ご主人様は意地っ張りだなぁ、もう。
「む……そんなに厳しくするなよ。ちょっと話をしようかなって思っただけだ。嫌なら黙っとく」
 ありゃ、キョンくん拗ねちゃったよ。……ご主人様、ガッカリしてる場合じゃないよ、キョンくんと話すチャンスだよ。頑張って!
「あ、え……キョ、キョン! あたしは暇だから相手してあげるわ! 光栄に思いなさいっ!」
 よく頑張った! ご主人様、偉い!
「じゃあ、いろいろ話すか。今日、妹がな……」
 よかった……キョンくんと喋れてご主人様、とっても幸せそうだ。心臓の鼓動も早いしね。
 しばらくはご主人様一人でもだいじょぶそうだね。じゃあ、あたしはしばらく休憩しよっと……。


「じゃーな、ハルヒ」
「あ、うん……」
 どうしたのかな、ご主人様の元気がないような気がする。
 何か悩みごとかなぁ……。ご主人様がいつもの日記を付ける時に調べちゃおう。

「はぁ……どうしよ。嫌だなぁ……」
 ご主人様、どうしたのかな?
「このあたしが本気で好きになっちゃうなんて思わなかったわ……はぁ」
 ありゃ、やっと気付いたんだなぁ。キョンくんが好きだってことに。
 ほんとはずっと前から惹かれてたくせに、ご主人様は認めないんだもん。
「うじうじするのはあたしらしくないし……告白しちゃおっかなぁ……」
 そうだよ、ご主人様! 頑張って!
「でも、面と向かってキョンにフラれちゃったら悔しいし……話せなくなりそうだし……はぁ」
 ご主人様は『キョン』と名前をつけたぬいぐるみを持ち上げた。
「ねぇ、『キョン』。どうしたらいいか教えなさいよ」
 ダメだよ。ぬいぐるみに聞いても答えてくれるわけないから!

 ……もう、しょうがないなぁ。ご主人様の思考に少しだけ働きかけて背中を押してあげようっと。
「……あ、そうよ! 面と向かって言えないなら手紙があるじゃない! 我ながらナイスアイデアね!」
 あたしのアイデアだけどね。……まぁ、あたしも《涼宮ハルヒ》だけどさ。
 ご主人様の筆は止まることなく進んでいた。
 言いたいことはたくさんあったんだ、あたしが手伝う必要無いよね。……え?
 そこまで、5分程動き続けた手は止まり、ご主人様は机に突っ伏してしまった。
「あたし、キョンに『普通は大事なことは面と向かって伝えろ』って言ってたわよね……、だいぶ昔に」
 そういえば、そんなこともあったなぁ……。
「でも、やっぱり恥ずかしいし……」
 もう…あとちょっとだから頑張ってよ! 『好きです』って書けばいいじゃない!
「……すぅ……すぅ」
 うわぁ……寝ちゃってるよ。まったく、ご主人様ったら……。
 あたしが全部書いちゃおうかな。いいよね、ご主人様の気持ちは全部わかっちゃってるし。
 体、寝てる間に借りちゃいま~す。じゃあ、始め!
《キョンへ あたしね、実はあんたが……中略……だからね、あたしと付き合いなさいっ!》
 よし、出来た! ご主人様の気持ちを詰め込んだ、《涼宮ハルヒ》らしい文になってるはず!
 あ~あ、あたしも疲れちゃったなぁ。ちょっと眠って、ご主人様と同じ時間に起きて反応見ようっと。


 うん……と、朝かぁ。体が起きてるし、ご主人様の方が早かったんだなぁ。
「あれ? あたしちゃんと書いてから寝たのかしら……。まぁいいわ、けっこう良い文に仕上がってるし」

 よかったよかった。ご主人様も満足してるし、あとは結果が楽しみだなぁ。
 学校に一番に行って、キョンくんの引き出しの中に手紙を押し込んだご主人様は、とっても不安そうだった。
 こういう時があたしの出番だよね。
――大丈夫、必ず成功するから――
 と、心の中に直接話しかけてあげた。
「……うん、大丈夫。キョンなら優しく対応してくれるわ」
 ほら、落ち着いた。……あれ、キョンくん? 今日は早いなぁ……。
「よう、ハルヒ。珍しく朝早くに起きちまってな」
「あ、あら、そうなの。あたしも早く起きちゃったのよ、奇遇ね」
 うわ、すっごいドキドキしてるみたい。音が今までにないくらいに大きいよ。
 キョンくんが椅子に座って、引き出しに手を入れた。手紙に気付いた……って、えぇっ!
 ご主人様、逃げちゃダメだよおぉぉぉ!

 ……あ~あ、屋上まで来ちゃった。意気地なしなんだから。
「はぁ……教室、戻り辛いな。サボっちゃおうかな」
 ダメだよ、ちゃんと返事聞かなくちゃ!
「でも、結局キョンとは会っちゃうのよね……戻ろう」
 すると、いきなり屋上のドアが音を立てて開いた。

「ハルヒ! 探したぞ!」
「キョ……キョン!?」
 追っかけて来てくれたんだ。たぶん、手紙も読んでくれたんだよね。
「お前の気持ち、すごくうれしかったんだけどな。……なんで逃げたんだよ」
「それは……こ、怖かったのよ。フラれたり、あんたと今まで通り出来なくなるのが……」
 が、頑張れとしか言えない! ご主人様、もう一回『好き』って言いなさい!
「でも……好き!」
「俺も、ハルヒのこと好きだぞ。自分でも気付かないくらい前からな」
 よかったぁ……これでご主人様は幸せだね。
 ……あたしも消えよう。
 これからはキョンくんがご主人様に乙女チックな心や、現実的な心を教えてくれるだろうし。
「キス……していいか?」
「……うん」
 ありゃりゃ、キスシーンはあたしには刺激が強いから退散しちゃお。バイバイ、ご主人様!
「ありがと、あたしの中のあたし」
 ご主人様は胸に手を当ててそう言った。気付かれてた? そんなわけ無いよね。
 あたしは足から消えはじめた。ご主人様の中に完全に溶け込むから。
 ギリギリ、キスする所が見えちゃうなぁ。
 ……お幸せに。


おわり

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