いったい、なんでこんな事になったんだろう。
朝倉に膝枕をしてもらい、かつ耳掃除をしてもらってる俺が居る。
ん~・・・気持ちいいけど凄く重大な事態じゃないか、これは。
長門に朝倉の名前を出さず世界の改変が行われたかどうか聞いたら無いって答えるし。
朝倉はどうしてる?って流石に長門には聞けないから某生徒会インターフェースに聞いたら消滅したって言うし。
じゃあ、この朝倉は誰なんだろう。
親の公認も得てる俺の婚約者だって言うこの朝倉涼子は誰なんだろう。
そんな事を思いながらこの生活も一週間過ぎた。
「どう、かな?」
「ん?結構、耳が爽やかだ。音がクリアすぎてヤバい」
こんなに音がよく聞こえるなんて事、今までにあっただろうか。いや、ない。
そんな未知なる音のゾーンに俺は微妙に戸惑っていたりする。
この状態で音楽聴いたら聞いたこと無い音が聞こえそうだ。
「ふふっ、良かった」
朝倉は満足そうに笑顔を浮かべて、俺の頭を撫でる。
「くすぐったいぞ、朝倉」
「こうさせて・・・こうすると、落ち着くの」
「・・・はいはい、ご自由に」
「ありがとう」
ちなみに、朝倉は学校に通っていない。
まぁ、大抵のあれこれはどうにでもなるらしいし大丈夫だとは思うが。
本人曰く、インターフェースだし学校の勉強なんかしなくても知識はあるとの事。
事実、学校の解らない部分を聞いたらあっという間に解りやすい模範解答を作ってくれた。


ちなみに、お前は今どういう立ち位置なんだと聞いたところ、
「変わらないよ。インターフェースのまんま。ただ色々と複雑に変わった、かな」
と、答えてきた。長門と、某インターフェースが把握してないっていうのはどういう事なんだろう。
まぁ、どうでも良い。今のこいつに、危険性は無さそうだからな。
平凡なのが一番。と、思ったその矢先だ。
「・・・来た!緊急で空間の構成開始!!」
「え?」
見慣れた部屋の光景がまるで水が流れるかのようにあの砂漠へと変化する。
長門と朝倉が殺しあった、あの砂漠。
その光景が完全に塗り替えられる直前に、景色と景色の狭間から数人の少女が飛び込んできた。
「・・・なんだ、こいつら」
膝枕なんてさせてもらってる場合じゃない。俺は慌てて立ち上がる。
目から何の意思も感じさせない。冷たい、というよりも空虚。
「急進派のインターフェースよ。ただ、特定の人を殺す事の為だけに作られた意思の無い人形」
「なっ・・・!?」
急進派のインターフェース。特定の人を殺す事の為だけに作られた。
それが指し示す事は、即ち俺の命を狙っている。
「キョンくん、下がって!」
そう言った次の瞬間、様々な物が飛んでくる。
槍、ナイフ、ただの棒。当たれば致死。それを朝倉が防御する。
見えない障壁に阻まれたそれらは近場に落ちる。
「大丈夫か、朝倉」
「これぐらいなら、大丈夫。反撃に移るわ」
そう言うと、片手を横に翳す。
「・・・速攻で、終わらせる・・・」

えっと、朝倉さん?その轟々としてる光の弾は一体なんでしょうか。
なんだか、物凄く危ないような気がするんですけど。
いえ、こっちにぶつけないなら良いんですがね。
次の瞬間、朝倉から放たれたそれはまさに高速で飛んでいく。
そして、着弾と同時に物凄い爆風を砂と共に上げてインターフェス達を薙ぎ倒す。
「す、すげー・・・」
俺は思わずポカーンと口を開けっ放しにしてしまった。と、
「っ・・・!!」
朝倉がうめき声を上げて膝を付いた。
「朝倉、大丈夫か!?」
「平気・・・。今の攻撃で大変のエネルギー使っちゃっただけ・・・」
と、朝倉がはっとしたような顔である方向を向く。
「全員を一瞬で倒すのは、無理だったみたい・・・」
「何・・・」
視線を辿り、それを見た。まだ二人、俺たちを睨み付けている人形が居るのを。
それらが、ふらりと行動を取ろうとする。
「くっ・・・駄目・・・殺させ、ない・・・・・!」
朝倉はふらふらと立ち上がると手を翳す。
それを合図に二人から次々と攻撃が飛んでくる。それを必死に朝倉が踏ん張って防ぐ。
「・・・・・っ!!!」
朝倉はゆらりと一瞬したが、足を砂漠のさらりとした砂を思いっきり踏んづけてなんとか凌ぐ。
「くそ・・・!!」
それを見て何も出来ない自分に腹が立つ。『鍵』という重大な立ち位置に居て、何も出来ない。
そうだ。長門の時だって、結局俺は何も出来てなかった。
閉鎖空間が発生した時だって、結局は古泉が頑張っている。
朝比奈さんも未来と現代を繋げる為に、日々頑張っている。
何も出来ない。いや・・・どうして、何も出来ない?

―――オ前ハ、何モカモ出来ルジャナイカ。

「うっ・・・っく・・・!!」
朝倉。うめき声。弾く音。殺気。苛立ち。憎しみ。

――ドクン・・・。

殺意。標的。無表情。二人。狂気。不安。狂喜。

――ドクン・・・ドクン・・・。

逃げろ。逃げろ。にげろ。にげろ。ニゲロ。ニゲロ。

――ドクン・・・ドクン・・・ドクン・・・。

壊せ。壊せ。こわせ。こわせ。コワセ。コワセ。

「くっ・・・はぁ・・・・・」
喉が、渇いたような感覚。
「はぁ・・・はぁ・・・・・」
血が、高ぶっている。
「はぁ・・・はぁ・・・は・・・はは・・・・・」
なんだ、簡単じゃないか。
「っ・・・キョ、ンくん?」
そうだ。その通りだ。何を恐れる必要がある?
「はは・・・あはは・・・あはははははははははは!!!」
逃げる為には、障害物を壊せば良いんだ。


「朝倉。もう構わない・・・俺がやるから、そこで休んでくれ」
「キョンくん・・・!?」
俺は、朝倉の横を通り過ぎる。
障壁より外に出たという事は当然、攻撃が当たりに来る。
迫り来る槍、迫り来るナイフ、迫り来る長剣、迫り来るダガー。
でも、当たらない。
それら全てが、遅すぎる。片手で全部叩き落とせるぐらい、遅い。
飛んでくるそれらのうち、手ごろなダガーを二本キャッチする。
「やれやれ・・・物騒だな」
そして、それらを右手左手にゆっくりと一本ずつ構える。
わざわざ悠々としたのは余裕があったからだ。だって、俺は
「OK・・・良いだろう」
既に俺を殺さんとする二人のインターフェースの後ろに回りこんでいるんだから。
長門の無表情とは違う、無の顔が慌てたようにこっちを向く。
だが、なんて頓馬だろう。
「そんなにお望みなら・・・殺してやるよ」
俺は上から下へとダガーを一閃した。と、いう風に見えたら、そいつは終わってる。
何故なら、ナイフの刃先が上から下へ下ろされてる頃には、
「・・・ふふっ・・・」
一閃どころではなく、相手はバラバラになっているからだ。
「あはははははははは!!」
舞い上がる血飛沫。なんて、生ぬるい。これが、心地よい。
死体を、観察する。
インターフェースってのは内蔵があるらしい。あれが、胃で、あれが、脳かな。どれもこれも赤、黒、赤、黒。
解体された体から飛び出た臓器がそこらへんに砂漠の砂をくっつけて転がっている。
なんて、人体の美しい絵画だろう。
「あはは、はは、はぁ~あ・・・・・・・・?」
ふと、そこで気付く。


「俺は、今、何をした・・・?」
ぞくりとした。今、自分がした事に。
血がべっとりと付いた服。自分が握っているダガー。
「う、うわぁぁぁああああっっ!?!?」
絶叫。自分が怖い。
何だ、一体なんなんだ。
俺は、俺はどうした?
「キョンくん!?」
「俺は、俺は・・・何を・・・!?何を!?」
「落ち着いて、キョンくん!落ち着いて!!」
朝倉の声も耳に届いても、脳まで届かない。
「俺は・・・俺は・・・っっ!!」
いきなり疲労が一瞬で駆け巡っていくのを感じた。がくり、と俺は膝を付いた。
そして、視界は突如暗転し、意識を急速に失っていく。
「キョンくん!?キョンくん!キョンくん、キョンく・・・ねぇ、キョン・・・大丈・・キョ・・・・・」
一瞬で褪せて行く中で、朝倉が俺の名を呼んでいるのが聞こえた。



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