ハ「(確かキョン乃進の長屋は東十五番であったな……あぁここのようじゃな)」

ハ「(あぁ寝ておる……間抜けな寝顔じゃ、しかしこやつに家中の女子衆が夢中というが……
  とてもそのようには見えぬ間抜け面じゃ)」
キ「zzz…ハルヒ姫様…zzz」
ハ「(ねっ寝言でわらわの事を!)」
キ「zzz…乱暴をされてはいけませぬ…zzz」
ハ「(なっなんじゃこれは!)キョン乃進、キョン乃進起きるのじゃ、キョン乃進!」
キ「ややっ!ハルヒ姫様これは一体……(これは夢か、なにゆえ姫様がここに?)」
ハ「忍びで見舞いに参ったのじゃ、どうじゃ体の具合は」
キ「はっ、頂戴したお薬のせいかお陰様をもちまして大分よろしいようでございます」
ハ「これから戻るゆえ、お主着替えて供を致せ」
キ「承知仕りました(どうやら夢ではないようじゃが
 しかし相変わらずハルヒ姫様はお美しいのぅ)」

ハ「キョン乃進こっちじゃ」
キ「そちらは御殿とは道が違いますまいか?」
ハ「良いのじゃ抜け道があるのじゃ」

キ「ハルヒ姫様、いつの間にか屋敷の外では?」
ハ「これより、市中を探索いたすゆえキョン乃進はついてまいるのじゃ」
キ「なっ何卒おとどまりを願わしゅう存じます、お屋敷へお戻りを」」
ハ「よい、ならば一人で参る」
キ「……承知仕りましたお供致します」

ハ「おぅここに我が屋敷の船がつないである、丁度よいこれでゆくぞ
 キョン乃進、船をこぐのじゃ」
キ「はぁ、していづれの方へ」
ハ「とりあえず東じゃ大川へでるのじゃ」

キ「ハルヒ姫様に申し上げます、そもそも此度はいかなる……その……」
ハ「えっ縁談なのじゃ鶴屋と家老の岡部が話しておったのを漏れ聞いたのじゃが
 このままでは旗本の三男坊と無理やり祝言させられてしまうのじゃ
 そこで家出出奔をしてしまえば破談になること請合いじゃ」
キ「……」

ハ「キョン乃進、わらわの事をその……縁談の事を心配してくれておるのか?」
キ「いやその……実は……」
ハ「なっなんじゃ申してみよ(ドキドキ)」
キ「ハルヒ姫様のご縁談の相手というのは実はその……拙者なのでございます」
ハ「なっなんじゃと!偽りを申すでない、相手は旗本の三男坊ではないか」
キ「ですから拙者は元は旗本の三男坊で御座います、それに先ほど用人の古泉殿より
 ハルヒ姫様とのご縁談についての打診があったばかりなのです」
ハ「わらわの相手が実はその方だと……
 そっそれではこれは家出出奔などでなく只の逢引きではないか!」
キ「そのようにもうされましても……、んっ只今逢引きと……その……」
ハ「その方の聞き違いであろう空耳じゃ(あっ逢引きとな……いかぬ…動悸が)」
キ「おっおそれいりまして御座います(あっ逢引……)」

ハ「古泉よりその方に縁談の打診があったそうじゃがなんと答えたのじゃ」
キ「その儀は……」
ハ「主の問いに答えられぬと申すか(キョン乃進がわらわの婿に……
 キョン乃進は一体なんと答えたのじゃろう?)」
キ「拙者は家来としてハルヒ姫様にご奉公いたしたいのみにて
 婿などとそのような大それた望みは毛頭……」
ハ「……キョッキョン乃進はわらわの婿になるのは嫌じゃと申すのか?
 キョン乃進はわらわの事が嫌いなのか……」
キ「いえ、けしてさような……余りに恐れ多く……」
ハ「……キョン乃進はわらわの婿になるのがいやじゃと申すのか?
 わっわらわの事が嫌いなのか…、キョン乃進にとってわらわは一体何なのじゃ!」
キ「いやその……拙者は家来でその……
 ハルヒ姫様はハルヒ姫様であって……ハルヒ姫様でしかなく……その……」

ハ「……もうよい!……、岸へ着けよ一人で行く、その方は歩いて屋敷へ戻れ
(そっそうじゃキョン乃進なぞ所詮は腑抜け侍の家臣じゃ、なっなんとも……思わぬ……)」
キ「そっそれはなりませぬ、拙者と一緒にお屋敷へお戻りを」
ハ「うるさい、おぬしが漕がぬなら自分で漕ぐゆえ艪を寄越すのじゃ」
キ「拙者は子供の頃より釣り好きの父の供を致しましたゆえ船の扱いには慣れておりますが   
船をご存じないハルヒ姫様には無理でございます」
ハ「キョン乃進、艪を寄越すのじゃ!こりゃ寄越せと申すに!」
キ「あぶのうございます、船の上でそのようなことはことは、あっ!」

ざっぱーん(水音)

キ「ひっ姫様!(たっ大変じゃハルヒ姫様が川に落ちられた!)」
ハ「キョッキョン乃進……ごほっ!」  
キ「今すぐに参りますぞ!(あせってはならぬ服を脱いでからじゃ、
 服を着たままでは水中で自由には動けぬのじゃ
 ……そしてこの細引きを舳先に結んでと、よし)ハルヒ姫様っ! そりゃ!」

さっぶーん(水音)

キ「ハルヒ姫様!ご無事で……姫様っ!……」
ハ「……キョン乃進……(やっぱりキョン乃進が来てくれた…………)」
キ「姫様っ!……水を呑まれましたか?なんにせよ船に戻らねば」

キ「どれ、まずは姫様を船にお載せして……と(釣り船で遊びまわったことがこんな時に役立つとはのぅ……)
 やはり水を呑まれたようじゃな、どれ活を『やっ!』おぉ水を吐き出されたぞ
 ……うーむ、まだ気が付かれぬし息もして居られぬ、いかが致したものか……」

ゴトリ……

キ「おや、これはおゆきさんがくれた備急薬の竹筒……!正にかような時にこそ用ゆべき物の筈
 早速これを……おぉなにやら文字が浮かび上がってきたぞ、流石は忍び文字じゃ」

  備急薬-気付薬および目 薬

キ「おぉまことに気付薬!目薬とあるのが良くわからぬが気付薬には相違ない、おっ続きがあるようじゃの」

  用法-適量を口移しにて飲まするべし

キ「こっこれはくっ口移しじゃと……、これは拙者がハルヒ姫様に……その……」

  これを読んでいる時は一刻の猶予もならぬ筈、遅疑逡巡することなく速やかに服用させるべし
  さもなくなくば姫様のお命に危険が……

キ「ハッハルヒ姫様のお命とな……、しかしそれでは拙者がハルヒ姫様に……口づけ同様の……
 ……ええい致し方無い、お命には代えられぬ!……姫様御免!……(ハルヒ姫様の唇のなんと柔らかい事よ……
 このままハルヒ姫様に切腹を申し付けられても構わぬ……)
 ……どうじゃ薬の効果は現れて……駄目じゃまだ息を吹き返されぬ、ややまた忍び文字の続きが」

  一度で効かぬ場合は二度三度と飲まするべし

キ「一度ならず、二度三度とな!……、いや一度も二度も同じ事じゃ今はとにかく姫様のお命を救う事が先決
 その後ならばどのようなお咎めも受けようぞ、……どれ今一度気付薬を……
 (しかし唇の柔らかさも去る事ながら、お体のやわらかさ……、このように抱きかかえておると壊れてしまいそうじゃ
 ……やはり拙者は姫様の事を……)、むぅまだ効果が現れぬようじゃ」

ハ「(……この声はキョン乃進……たしかわらわは船より落ちて……)」

キ「拙者はハルヒ姫様の事を家臣ではなく一人の男としてお慕い申し上げております
 初めてお会いした時お召しになられた南蛮柄の拝美須賀主振袖と銀杏返しの髷はとても良くお似合いで御座いましたぞ
 拙者そのときよりハルヒ姫様の事を…・・・どうかお目をお覚まし下され……
 姫様御免!……(また気付薬じゃ……)」
ハ「ううっ……キョン乃進!」
キ「おぉお目覚めに(ややっ、それでは拙者が姫様に口移しでお薬を飲ませて差し上げたこともお気づきに……
 しかもまだ拙者は着物を脱いだままじゃ!)」
ハ「(キョッキョン乃進が裸でわらわにせっ接吻……!?)」

ガクッ!

キ「ハッハルヒ姫様!お目を覚まされたと思ったら……やっ今度は息がある、気を失われただけじゃな、
 それにしても拙者はハルヒ姫様になんということを……切腹しても追いつかぬぞ……
 いやとにかく今はお屋敷に戻る事が先決じゃ……全てはその後じゃ
 どのようなお咎めでも甘んじてうけよう、どれ船をお屋敷へ
 しかし病み上がりに裸は応えるのぅ、まずは服を着ねば……」



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