古「おぉキョン乃進、見舞いに参ったのじゃが」
キ「これは古泉殿」
古「具合はどうじゃな」
キ「明後日には出仕できるかと」

古「ところで病臥中のところ相すまぬが折り入って相談があるのだがよいかな」
キ「なんでございましょうか、拙者にできることであれば何なりと」
古「単刀直入に話すがおぬし婿養子になる気はないか?」
キ「婿養子…でございますか、確か古泉殿は独り身で娘御などもおられぬ筈、なにゆえ婿養子など……!
 確か念友念者(ねんゆうねんじゃ:ホモ達)の間では養子縁組が男女の婚姻に等しいものと扱われるなどと聞き及びまするが……
 拙者、衆道(しゅうどう:男同士)はいささかも嗜みませぬ、色若衆(いろわかしゅう:美少年)どころか女子(おなご)とも交わったことがござりませぬ故、その儀は平にご容赦を」
古「これなにを勘違いいたしておる、某(それがし)の婿ではないわ、姫様の婿の話じゃ」
キ「ハルヒ姫様ですと、それは一体……」

古「まずは某の話を聞くのじゃ、姫様がお見合いを片っ端から断ったことはその方も存じておろうな」
キ「存じております、対面してすぐに断ったりしたとか色々とお噂は」
古「なにせあのようなお美しい姫君じゃ、そして御家は御内福(裕福)と評判である初め縁談は降る様にあった、そして姫様は縁談を断ろうとはせず、すぐにお見合いへと話が進む。
 しかしそこからがまずい、一番長くて二度目の見合い、早ければ会って早々に断ってしまうのじゃ
 それも断り方が酷い、相手の自尊心などお構いなしじゃ、その噂が広まってしまい今ではもう当家に縁談を持ち込むものはおらぬわ」
キ「その件なれば谷口なぞより聞き及んおります、しかしそれで何故拙者が婿に?
 ハルヒ様の婿の件は棚上げにして御分家より御養子を迎えるなどでは駄目なので御座いますか?」

古「姫様の御血筋は存じておろうな、先々代の奥方様は将軍家より御輿入れされた姫君じゃ、その将軍家の姫君の御血筋を引かれておられるのは今は姫様だけであられる。
 今の殿も御分家からの婿養子、将軍家の御血筋はひいてはおられぬ。よって姫様に婿君をとって将軍家の御血筋を絶やさぬことが御家のためなのじゃ
 もし御側室様に男子出生ということになったとしても姫様を抜きに御世継ぎは決められぬ。
 御分家からのご養子も同様、そのようなことを致さば大公儀(おおこうぎ:幕府)の不興を買うは必定、ここはどうあっても姫様に婿君を迎えねばならぬのじゃ、わかるなキョン乃進」

キ「拙者はハルヒ姫様の家臣でございます、家臣が婿になるなどその……考えられませぬ」
古「今は家臣でもお主は御旗本の出身ではないか、いざとなれば復籍すればよいことじゃ、家臣が姫様の婿では不都合はあっても御旗本が姫様の婿になるには不都合などないわ」
キ「いやしかしハルヒ姫様がご承知になられる筈が……」
古「いやいやその儀は心配無用じゃ、姫様はお主のことが痛くお気に入りである、また鶴屋の局様はじめ朝比奈殿など奥向きの方々もお主が婿ならば姫様もご納得されるとのご意見じゃ、この話は御家老も大乗り気じゃ、どうかな一度考えてみては」
キ「拙者はあくまで家臣としてハルヒ姫様に生涯御仕え致したく……」

古「キョン乃進、お主は当家に仕官致すとき姫様と御家へのご奉公を誓った筈、これも又ご奉公じゃ、それともお主は禄を頂いておきながら肝心な時にご奉公が出来ぬと申すのか!」
キ「古泉殿、婿入りがご奉公など拙者聞いたことが御座りませぬ」
古「これ!ご奉公は御家が決めるもの、家来がご奉公の内容を云々する事こそありえぬぞ、心得違いを致すでない!」
キ「……しからば一度実家の父に相談など致したく、その上でということでよろしいでしょうか?」
古「おぉそれは良い、お父上によろしくな、お主は御家の命運を握る正に鍵じゃ、何分にもよろしく頼む、おう今の話は当分内密に頼むぞ」

キ「(拙者がハルヒ姫様の婿に?一体どういうことじゃ、確かにお慕い申し上げてはおるが
 それはあくまで家臣としての話じゃ、ハルヒ姫様の婿になぞ恐れ多いことじゃ……
 しかしハルヒ姫様の縁談と聞くと心が騒ぐのはなぜじゃろう……)」

古「まぁそれはそれとしてじゃ、時にキョン乃進、その……男同士も中々よいものじゃぞ
 どうじゃ今度じっくり教えて遣わそうかの、陰間茶屋(かげまじゃや:ゲイバーのようなもの?)などどうじゃ
 お主、女子とも交わっておらぬそうじゃが初めてが色若衆なぞというのも中々乙なものじゃぞ」
キ「そっその儀は平にご容赦を……」
古「食わず嫌いは良くないがのぅ、まぁよいわ
 ところでお主、某が天狗の化身である証を見たいと申しておったの」
キ「確か古泉殿は鞍馬山の天狗の化身とか……」
古「うむそうじゃ、鞍馬山の大天狗がその昔ご当家のご先祖に恩義を受けてそれ以来大天狗の命により某の一族が密かにお仕え致しておる
 どれ天狗の証であったな、はぁっ!」

キ「(こっこれは古泉殿は着物を脱ぎ下帯(したおび:ふんどし)一つ!)」
古「そしてこの赤い天狗の面じゃ」
キ「(天狗の面を顔? ではなくて下帯の前に!)
古「吻持腐!」
キ「(股間に天狗の面をつけた古泉殿が宙に浮いておる、正に天狗の所業じゃ)」
古「どうじゃ得心いたしかたの?」
キ「まっまっこと天狗の化身に相違ございませぬ」
古「うむこの事は先ほどの事と同様に内密にな、婿入りの話は色よい返事を期待しておるぞ、ではさらばじゃ!」
キ「消えた!」

キ「しかし古泉殿は本当に天狗の化身であったのじゃな、おっ!それよりも婿入りの話じゃ
 大体拙者のような者があのお美しいハルヒ姫様の婿になど考えるだけで恐れ多いことじゃ
 実家の父上に相談致し断る口実を考えねば……」

キ「さっきの薬が効いてきたのかなにやら眠くなってきたのぅ、寝るとするか
 おや、この竹筒はなんじゃ何やら結び文もついておるようじゃが」

キ「この結び文は……おゆきさんの筆跡(て)じゃな、どれ
 『備急薬-緊急時に姫様に使用すべし、用法は開栓時に現れる忍び文字に従うべし
  なおこの竹筒は肌身離さず携帯の事』うーむ、これは……
 ややっ結び文の文字が消えていく……これが忍び文字というものか……
 急に備える薬と書いて備急薬……いざという時に使う薬なのじゃな」

……おゆきさんが先程おいていったのか、肌身離さず携帯せよとの事じゃが
まぁおゆきさんの事だから役に立つ薬なのであろう、しかしおゆきさんから忍者であるのを打ち明けられた時は吃驚したのぅ……

ゆ「南蛮の言葉も混じるためうまく言語化できない。情報の伝わりに齟齬がおきるかもしれない。でも、聞いて」
キ「なっ南蛮の言葉!」
ゆ「この日の本(ひのもと:日本国)を治め奉る将軍家によって差し遣わされた忍びの者の一族。それが、わたし」
キ「……」
ゆ「わたし達一族の務めは将軍家の御血筋を引かれるハルヒ姫の観察および守護をすること、そして入手した情報を将軍家に報告すること」
キ「……」
ゆ「務めを父から引き継いでから三年間、私はずっとそうやって過ごしてきた。
 この三年間は特別なこともなく至って平穏無事。でも最近になって無視できない
 特殊な異礼牛羅亜因子がハルヒ姫の周囲に現れた」
キ「……」
ゆ「それが、あなた」

……おゆきさんが将軍家に報告しているというので聞いてみたのじゃが
余程の不祥事でない限りは表沙汰になりさえしなければ御家がお咎めを受けることはないそうじゃ
なのでハルヒ姫様のあのような振る舞いを報告されても問題ないらしいがのぅ…
どうやら本格的に眠くなってきたようじゃ、おゆきさんの薬が効いてきたのか…zzz……



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