今日の涼宮さんはどこかいつもと違っていた。いつもの涼宮さんは
満面の笑顔であっても、どこか鬼気迫るというか、
今、この瞬間を逃したら、私は崩壊してしまうのよ、とでも言うような
切羽詰まった雰囲気を漂わせている。
涼宮さんが私に無理難題(バニーガールの格好でチラシを配るわよ、とか)
を押しつけたときに拒否できないのは、任務のせいもあるが、ここで私が
断ったら、この人はどうなってしまうんだろうと不安にかられてしまう
せいも多分にある。でも、今日の涼宮さんはなんかふっ切れていると言うか笑っていても本当に楽しそうな感じ。古泉くんは
「彼といっしょだからですよ。好きな男(ひと)とTDL(ディズニーランド)。
楽しくないわけがないではありませんか」
とか適当なことを言っているがそうは私は思わない。
彼女が今感じているのはきっと底抜けの解放感なのだと思う。
「不思議が大好き☆」という涼宮さんの性向は数々の奇行を生み出して来たし、周囲との摩擦もすごかった。いくら彼女が天上天下唯我独尊の人でも、周囲との摩擦は無い方がいい。でも、ここは、この空間は、全ての人が(作り物に過ぎないとはいえ)不思議を追い求める空間で、不思議を探求しても何も変なことは無い。3年前に「覚醒」してから、周囲から浮いていないという瞬間は本当にまれだったんじゃないだろうか?今、涼宮さんは本当に久しぶりに「まわりの人達とやっていることがいっしょ」という状態に置かれているのだ。だから、切迫感もなくリラックスしていられる。それ故の底抜けの笑顔なんじゃないだろうか?

キョン君はマークトゥエイン号で閉鎖空間が発生しなかったことがかなり不満なようだ。かといって、涼宮さんに
「我慢できるんなら我慢しろよ」
とか言うわけにもいかず、結構、ストレスが溜っている雰囲気だ。
上機嫌の涼宮さんと対照的に彼は疲れ来っている。
お茶を入れてあげることはできないので、屋台で飲物を買って持っていってあげた。
「はい、キョン君、差入れです!」
「あ、朝比奈さん、ありがとう」
差入れってのも変な感じだが、まさにそういう雰囲気だったし(本当は彼にはスタミナドリンクを差入れたいくらいだ)、キョン君がいつもわたしが入れるお茶で心から癒されているのはみえみえだったからね。
「あー、生き返るなあ」
頑張ってね、キョン君。この世界(とその未来)はあなたの双肩にかかってるわ。
次は最悪のアトラクションだけど。

ミクロアドベンチャー。人間が小さくなって冒険する。最初は何がおきているかちんぷんかんぷんだった
私も涼宮さんがアトラクションに入る度に時空のねじれをつくり出して、局所的な時間移動を繰り返していたことにはもう気づいている。「太古の世界」で中生代にタイムスリップしたときは本当にショックで気絶しちゃったみたいだけど。古泉くんは「閉鎖空間」とか呼んでるけど、涼宮さんがやっているのはタイムスリップだと私は睨んでいる。で、ミクロアドベンチャー。

涼宮さんが何をするかは見え見えだ。実際にあの装置が完成する未来にタイムリープしてミクロ化するという体験をするはずだ(あ、言い忘れたけど、私の時間平面では実際に人間をミクロ化できる装置が実用化されているのよ)。まちがいない!危険きわまりない体験。キョン君やみんなはどうするんだろう。

アトラクションの中に通されると、ずらっと椅子がならんだ劇場の様なところに到着する。SOS団の面々はならんで座った。左から、わたし、キョン君、涼宮さん、古泉くん、長門さん、の順。映画(眼鏡をかけてみる3Dタイプの奴だ)が始まる。クライマックスの主人公達(と観客)がミクロ化するシーン。次の瞬間には私達はもうミクロ化していた。
キョン君はまたか、という感じで溜息をついている。涼宮さんは元気だ。
さあ、探検するわよ、とかいう感じで、ミクロ化したまま、探索を開始した
(いうまでもなく、周囲は、映画の中に出てくる庭先の雑草の中だ。
このサイズだと、ジャングルを歩き回っている感じだ)
巨大カマキリ出現!(実際は私達がちいさくなってるんだけど)
涼宮さんの「やっちゃいなさい!」という号令とともに、
古泉くんが赤い球体を、長門さんが槍を放つ。
どうっと地響きをたてて倒れるカマキリ。涼宮さんはやんやの喝采。
この日の「冒険」の中でももっとも長時間、かつバラエティーに富んでいたアトラクションのひとつが間違いなく、このミクロアドベンチャーだった。いちいち書き記すのも大変なので箇条書きにすると
  • オニグモに遭遇。わたしはぐるぐるまきにされてしまい、あやうく食べられそうに。
  • 芋虫に遭遇。みんなでイモムシ乗りを満喫
  • もぐらの穴に潜入。出くわした巨大ミミズと戦闘行為
  • 蜜蜂の大群と遭遇。長門高射砲と古泉迫撃砲でなんとか撃退
etc,etc
本当、キョン君じゃないけど、体がいくつあっても足らない、とはこのことだわ。

とうとう満足したのか、涼宮さんはこの時空に戻って来て、彼女が局所的につくり出した時空の歪みは解消した。
「楽しかったわね、みくるちゃん!」
「はいー」
どういうわけか、涼宮さんは、アトラクションが終わる度に私のところにきていろいろ感想を述べてくれる。
「みくるちゃんにはわるいけど、オニグモが出てきたときはもう終わりかと思ったわ
(まあ、作り物なんだからそんなわけないんだけどね)」
「はあー(いえ、あれは実物だから本当に危なかったんですよ」
「イモムシ乗りは楽しかったわね。あれはどういうしくみなのかしら?」
「どうなんでしょう(実物なんですけど)」
「本当、あんな風に人間をミクロ化する機械が現実にあったら、毎日が楽しいでしょうね!」
「はいー(現実にあるんですよ、私が来た時間平面では。
「毎日をおもしろく」するために使っている人は誰れもいませんけど)」
キョン君はかなりぐったりしている。へとへとと言う感じだ。
「はい、どうぞ!」
また差入れてしまった。
「朝比奈さん!」
キョン君に手をがっしり握られてしまった。

「あなたがいてくれて本当に良かった(この安らぎの瞬間がなかったら俺は崩壊してしまう!)」
「頑張ってくださいね☆」

スケジュールでは、この後、園外に出て私が作って来た弁当を食べることになっている。
腕によりをかけて作って来たお弁当だ。ちょっとでもキョン君の疲労が回復する役にたってくれればいいと思う。今日は、まだ半分も終わってない。ガンバ、キョン君。やっと休憩時間だよ。が、入口に向かって歩いている途中で涼宮さんは別のものを見付けたようだ。
「あ、有希、今スケジュールは?」
「どちらかというと前倒し」
「じゃあ、プランに無いけど、あれ行きましょうよ。待ち時間5分だしさ」
と涼宮さんが指さす先には「カリブの海賊」の看板が。
「帰り際にカリブの海賊っていうのはお約束のパターンだな」
とキョン君が肩を落として言った。よりによって「海賊」とは。
今度は開拓時代のカリブ海にタイムスリップするのか。
キョン君、可哀想。やっと休めると思ったのにね。
あとひとつだよ。ガンバってね☆。そしたらおいしいお弁当をお腹一杯食べさせてあげるから☆



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