次のアトラクションの入口は前のアトラクションのすぐ上だった。階段を上がって
列に並ぶ。汽車に乗って、作り物の開拓時代のアメリカ西部を一周すると言う
たわいもないアトラクションで、それこそ、恋人か自分の子供といっしょでも無ければ
二度乗る気など絶対しないアトラクションだが、ハルヒは
「開拓時代のアメリカ西部って憧れてたのよね。一度でいいから行ってみたかったのよね」
などと危ないことを言っている。確かに、お前の性格と開拓時代の
アメリカ西部は相性がぴったんこだろうなあ、ハルヒ。
そんなに行きたければ、願わくば、今度はお前一人でトリップしてくれないかな
ハルヒ、俺たちはこっちの世界で待ってるからさ。
「僕達はともかく、涼宮さんがあなたを『置いて』いかれることは
金輪際、ありえないでしょうね」
ああ、そうかよ。
「お二人だけで行かれますか、今度は?」
ふざけるな古泉。なぐるぞ。
「冗談ですよ。何があるかわかりませんし、向こうでは
僕の力も有効なようですから、勿論、お供します。」
ハルヒと二人で行くのも嫌だが、お前にお供されてもうれしくはない。
うしろではハルヒが、滝に突っ込みそうだったときは本当にどきどきしたわ、
などと朝比奈さんと盛り上がっている。幸せな奴だな、ハルヒ。こっちの
苦労も...、ん、まてよ、さっきは出発したらすぐにあっちの世界に行ってしまい、
戻って来たらゴール寸前だったはずだ。滝のシーンはすっとばしたはずだが。
という俺も確かに、滝につっこむから臥せてくれとわざとらしく絶叫している
ガイドを真に受けて悲鳴をあげながらハルヒに抱きついている朝比奈さんを
(未来人の彼女は、当然、TDL(東京ディズニーランド)に来るのは初めてである)
記憶しているぞ。どういうことだ?
「どうやら、我々は二重化しているようですね。あっちに行っている間に
こっちの世界には我々の分身が残り、正常なツアーを体験していたようです。
戻って来たときに記憶がマージされたのでしょう」
どうりで他の乗客が騒がなかったわけだ。5人も煙の様に消えうせたら
大騒ぎになるからな、普通。だが、あっちで死んだらそれで終わりみたいな
ことを長門は言ってたじゃないか。じゃあ、あっちで死んでもこっちの分身は
残るのか?
「さあ、それは長門さんの意見でしょう。僕は
『難しい質問だ』と申し上げたはずですが。
もし、実験なされたいのであれば、次回、向こうで
生命の危機に瀕した場合には力の使用を控えてもいいですが」
いい、遠慮しとく。

順番が来て俺たちは機関車に乗り込んだ。
何だか疲れる話だがこっち(ウェスタンリバー鉄道)の方がさっき(ジャングルクルーズ)より危険とも思えないから、いいだろう。ゆっくり発車する機関車。
「ようこそウェスタンリバー鉄道へ....」
とかいうお決まりの口上がテープで流れる。ワニが出たりするわけじゃないから安心だ。
古泉がいうところの「アトラクションのコンセプトの実体化」は今度はずっと素早く、
霧が出ることもなく、一瞬だった。
「なんだその格好は」
古泉は何時の間にか、昔、映画「風と共に去りぬ」でレッドバトラー扮する何とかと言う役が身に付けていたようないかした服装を身に付けていた。ビデオカメラを持ったままのところが異常にアンバランスだ。
「そういうあなただって」
俺の服装も似たようなもんだな。朝比奈さんはいうまでもなく、いかにも貴婦人みたいな服装。
長門は、うーん、それはなんなんだ。男だか女だかわからない微妙な服装だな。ハルヒは、と。
「真昼の決闘」にでてきそうなガンマンの服装。拳銃まで腰に下げている。
どういう趣味をしているんだハルヒ。その拳銃は弾が出るのか?

すぐに最初の駅「スティルウォーター・ジャンクション」が見えて来る。驚いたことに普通なら通過する駅に機関車は停車した。周囲の乗客はいつの間にかそれらしき服装の人々に置き換わっており、停車するとぞろぞろと下車しはじめた。
「降りるわよ!」
とハルヒ。このままここに座って、早いところ終点に戻りたいのは山々だが、それじゃあまずいんだよな、古泉。
「よくお分かりで」
何も起きないことを祈りながら、汽車を降りるとすでにハルヒは「問題」を起こしていた。
絵に書いたような柄の悪い男と言い合いをしている。
「何がはじまるんだ、古泉」
「さあ、それは涼宮さんの気持ち次第でしょうね。決闘か殴りあいか」
「決闘? ハルヒが負けたらどうなるんだ」
「あまり考えたくないですね」
なんだその答えは。あーあ、とかいってるうちにもう決闘をすることになったようだ。
長門、ハルヒが死なないようになんかしてくれ。
「まかせて」
長門が何か呪文を唱えたようだ。はでな銃声と白煙。
ハルヒが意気揚々と戻って来た。
「ここってすごいわね。ここまでとは思わなかった」
本当に何も疑ってないんだなおまえは。

汽車が汽笛を鳴らした。どうやら出発するようだ。俺たちが乗り込むと汽車はゆっくりと発車した。
「現実の」ウェスタンリバー鉄道にはもう駅がない。
危険なことはもうない..わけないか。最後は「太古の世界」だったな。恐竜。火山。あれが実体化するのか。
ジャングル・クルーズの方が危険だなんて思った馬鹿はどこのどいつだ。
しばらくはただ、汽車に揺られて前に進むだけ。インディアンの集落が見えて来た。手を振ってる。いうまでもなく、あれは生身だな。
ビッグサンダーマウンテンが見えて来る。
「ここには幽霊が...」
とかいう口上がテープで流れる。あー、長門、ビッグサンダーマウンテンがプランに入っていなくて良かったよ。ありがとう(この次のアトラクションが「ホーンテッドマンション」であることをこのときの俺が失念していたのは言うまでもない)。
いよいよ最後のトンネルに入る。一瞬暗くなった後、明るくなるとそこはもう太古の世界。って、汽車はどうした。なんで俺たちは歩いてるんだ?
「これが涼宮さんの望みなのでしょう。あ、恐竜ですね」
古泉、この状況でよくいつものスマイルを浮かべながら撮影なんかできるな。感心するよ本当。
朝比奈さんの悲鳴。うぉっ、一頭がこっちに向かって来るぞ。ティラノサウルス=レックスじゃないか。
ハルヒは拳銃を抜いて恐竜に向かって発砲しているが、明らかに効いてない。蟷螂の斧状態。古泉、ここで死んだらどうなるか実験を許可した覚えは無いぞ。なんとかしろ。
「はい、それでは」
赤い球体を投げつける。命中、恐竜は悶えているが前進は止めない。
「どうなってる?」
「どうも威力が不足しているようですね。神人よりタフなようです」
と、長門が朝倉が戦闘時に長門に放ったような槍をレックスに投げつけた。
断末魔の雄叫びをあげながら、倒れる、レックス。
「すごい有希。どうやったの?」
「あなたには無理」
もう目茶苦茶だ。何がなんだか解らない状態だな。ふとみると朝比奈さんはとっくに気絶して地面に倒れていた。その後、長門が更に何頭か恐竜を倒し、ハルヒがやんやの喝采を
送り、俺は気絶した朝比奈さんをおぶって移動し(背中になやましいやわらかい刺激があるのはハルヒには内緒だ)、古泉がビデオ撮影をした後、俺たちはこっちの世界に突然、引き戻された。
「涼宮さんが満足された、ということなんでしょうね」
そうかい、よかったな。


ウェスタンリバー鉄道を降りた俺たちはホーンテッドマンションに向けて移動しはじめた。
「ねえ、キョン、ここってすごいわね」
いや、すごくしてるのはお前だ、ハルヒ。
「これが全部作り物だなんて信じられる?」
勿論、信じられん。
「この調子なら、きっと本当の不思議も見付かるわよね?」
今まで見たのが全部、本当の不思議、なんだがな。
あれだけの体験してまだお腹一杯じゃないとは。結局、どんなすごい体験をしてもお前は満足なんかしないんだな。


プランに比べてやや先行気味のスケジュールだったので、俺たちは一休みすることにした。
長門はビッグサイズのポップコーンのバスケットをかかえてもぐもぐやっている。
ハルヒと朝比奈さんはミッキーを型どったアイスキャンデー(りんご味とみかん味)。
古泉は、ペットボトルのお茶。俺はと言うと、まあ、なんというか、とても食欲なんてないよな。
ここは本当の「夢と魔法の王国」になったわけだ。ウォルト・ディズニーも草葉の陰から感謝感激だろうな、きっと。



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