もう春休みが目前まで来た、暖かい春の日のことだった。



「その人物は、一般的に超能力と呼ばれるものを持っている」

これを聞いた時、自分の耳を疑ったね。
冗談99.999%で部室で一人で置き物になっていた長門に「俺のクラスでさ、ヘンな力とか持ってるやつ他にいるか?」とか聞いた俺が悪かった。

しかしそれを長門から聞いても俺は総理大臣になる事もアインシュタイン並の頭も持つ事は出来なかったので
俺は先ず神に「嘘だろ」と問い、次にハルヒのつまらなそうな顔を思い出してむかっ腹が立ってきたので止め、
最後に俺のくじ運とかその他もろもろの平凡さを思い出して溜息をついた。
ちなみにやれやれ、は今封印中だ。あまり良い口癖とは言えないしな。

…と、話を逸らすのもここまでにしておこう。
当然だが、俺の記憶のフラッシュ・バックを今始める事になる。

「俺の周りとかにさ、ヘンな力とか持ってるやつ他にいるか?」
俺は長門と俺二人きりの部室で、そう質問した。無論長門にだ、俺は霊感など無いぞ。

「………」
沈黙。
まあそんなもんか、と思って俺は長門の反対方向に向きなおし、自分で淹れた何時もより1000倍は不味いお茶を飲んでる最中に
いきなり感情ゼロの声でそんな事言うから俺のブレザーにシミを付ける事になったじゃないか。


「…谷口」
何時も通りの起伏の無い声で、無口少女は告げた。
俺はつい口に含んでしまったお茶で制服を汚してしまった後、回転イスの向きを180度回転させて叫ぶ。
「谷口…!?嘘だろ長門」
それに谷口が普通じゃない人間とするなら俺はビルゲイツだ、と反論する前に、更に淡々と続ける。

「彼は、有機物質レベルでは介入不能な空間に生体ハッキングする事が出来る」
俺が困惑しているにも関わらず、相変わらずプログラム言語を適当に引用したような解説をしやがる。

「意味が良く分からないんだが、と言うか、何故谷口がそんなヘンテコっぽい力を持っているんだ」
先程の説明で満足したようにまたSFハードカバーに目を落としていた長門にこんな感じで困惑振りを伝えると、
ロボットのように顔を上げ、瞬き一回分ぐらいの間を開けてこう言い放った。
「閉鎖空間など」
そう言ってまだ意味を理解して無い俺の目を覗き込むと、また長門は続ける。

「それらに侵入、脱出する能力」

…ナルホド、納得したようなして無いような俺はあの灰色空間を思い出し久々に胃を痛めた後、
まだ理解できていない事を質問する事にして、長門にまた問う。
「で、何故にあの馬鹿みたいな奴にそんな能力が備わったんだ?」
すると本とセットの少女は30秒ぐらいか沈黙、その後おもむろに俺の二回目の質問にアンサーした。
ま、ここらへんは読者の想像力で分かると思う。 ―もう一回だけ使わせてくれ、やれやれ。


「涼宮ハルヒに選択されたから」


説明しよう。
中学時代、谷口は一番最初に見事ハルヒに振られてしまった、と言うエピソードを覚えているだろうか。
そのアクションによって、彼はハルヒに一応認識される人間に見事ランクアップを果たしたそうだ。災難なことだ。

で、定期的に発信されるハルヒお手製世界改変改電波(俺命名)の話だが、その時谷口は何とハルヒに白羽の矢を立てられたらしい。
見事ヘンテコ人間の仲間入り、だ。

谷口はその時、古泉みたいな能力を与えられたそうだ。
ただ、「こいつは役に立たないだろう」と言う風にハルヒは無意識に力をセーブ、あの女格付け男は閉鎖空間の情報を覚えさせられる事も無く
あのペプシマンもどきを切り裂く力も与えられず、ただ閉鎖空間に出入りするだけの力を入手した。

しかも、無意識にそれを発揮した谷口は、度々灰色の世界に不法侵入、
それに気付くことも無く出ていく、こんな事を繰り返していたらしい。「この能力は本人が気付かなければ忠告する事も無いもの」だと、谷口、お前そんなに鈍いのか。
ちなみに回数を聞いてみた所、「今学年度は学校内では68回、外部では4回のケースが存在する」だとよ。
はい、読者の皆さんも声をそろえて言おう。 せーの、

「マジかよ…」
それを長門に教えられた(完璧に理解するのに20分はかかった)俺は、ただ驚嘆するだけしか出来なかった。

「説明はこれで十分意味を持っただろうか」
長門は聞く、俺は二の口が継げない。

「………」
長門は無言で体の向きを反転、本棚に向かい広辞苑のような本と広辞苑のような本を取り替える作業を行った後再びパイプイスに座って地蔵と化す。
その動きと入れ違うように、核兵器並のパワーを持った女が戸をぶちまける様に開き、大股気味に歩いて俺を横切り、「団長」三角錐の立った机に付く。
それから程無くして1000円分ぐらいのスマイルを放つ男と、朝比奈さん(何故このお方だけ比喩を使わないかは解かるだろう)が戸を叩き、

何時も通りのSOS団的な活動が始まったと言うわけだ。

まあ俺はその日の本が閉じられる音を聞いたぐらいの時には、
「長門にしては良く出来たジョークだ」ぐらいに思えるほど冷静になっていた。こうでもないとやって行けん。
何とは言え、あの谷口だしな。
まあ「冗談だろ」ぐらいの記憶にとどめておいて、これまた何時も通り無事帰宅、後は普通の家庭並の出来事だ。

ただ、長門が言った事は冗談じゃなかった。
俺はこれからの春休みに、死ぬ思いをする事になる。そこ、「そんな事だろ」とか言わない。
何しろ、俺をその時助けたのはヒューノマイドインタフェースでも無くヘンテコ赤玉でもなくSOS団名誉お茶汲みメイドさんでも無く。


創作ソングを歌ってたあいつだったんだ。

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最終更新:2007年01月15日 02:25