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わたしの初恋の相手はお兄ちゃん。
わたしの大好きな大好きなお兄ちゃん、キョンくん。
ねぼすけで、ぶっきらぼうで、全然家に居てくれなくて、一人言が多い。
だけど、優しくてかっこいいの。わたしの事をいつも気遣ってくれて、イタズラしても許してくれるキョンくんが大好き。
でも、わたしは小学6年生の妹でキョンくんは高校2年生のお兄ちゃん。
だからわたしの初恋が実ることなんてないの。キョンくんと一緒にいれる時間が一番長いのがわたしだから良いんだけど……。
最近はずっとハルにゃんと一緒に居るからわたしはシャミとお留守番ばっかり。
わたしだけの特権が一つなくなっちゃった。
学校から帰って来るのも遅いし、土曜日は探索、日曜日はハルにゃんと一緒に居る。
わたしだってたまにはキョンくんに甘えたいよぉ……。


「朝だよ!起きてよ、キョンくん!!」
これはわたしの毎朝の日課で、唯一のこったわたしの特権。
「朝ごはん出来てるよ!」
「ん~……今日は日曜だろ?もっと寝かせろよ。ほら、お前も寝ようぜ……」

キョンくんがわたしを引っ張ってベッドの中に引き摺り込まれた。あったかくて、ちょっとうれしいな。
「ん~、しょうがないなぁ。今日だけだよ、キョンくん!」
心の中ではすっごくうれしい。キョンくんに甘えられる時間が出来たことが。
わたしはそのままキョンくんを抱き枕にして眠った。あったかぁい……。

「こらっ!キョン、いつまで寝てんのよ!」
この声でわたしは目が醒めた。ハルにゃんの元気な声。あ~あ、甘えられる時間が終わっちゃったよぉ……。
「あ、ハルにゃんおはよっ!!」
「ごめんね?妹ちゃんまで起こしちゃったわね」
「うぅん、いいの!一緒にキョンくんを起こそう?」
二人で一緒にキョンくんの上に乗っかったり、引き摺り落としたりした。お姉ちゃんが出来たみたいで、ちょっとうれしいな。
「うぐ……起きてるから…やめてくれ」
わたしはハルにゃんとハイタッチをした。楽しかったなぁ。
その後、キョンくんとハルにゃんはデートに出かけたから、わたしはシャミと遊んだ。「ねぇ、シャミ。もうすぐこどもの日だね!」
「にゃあ」
「わたしは来年から中学生だからお姉さんだよ。今年が最後のこどもの日だと思うの!」
「にゃあ」
「こどもなのはこれで最後だから……キョンくんに甘えてもいいよね?」
「にゃあ~……」
わたしは誰にかわからないけど、願いを込めた。
その日だけは、二人でいたいな。その日だけは、ハルにゃんとデートしないで欲しいなぁ……。


今日はこどもの日。わたしがキョンくんからお兄ちゃんばなれをする日。

おとうさんとおかあさんは毎年、この日には二人でおでかけをする、結婚記念日に一番近い休日だから。
キョンくんと二人でお留守番ならいいなぁ……。
そう思いながらキョンくんを起こしに行くと、キョンくんはもう起きてた。
「あぁ、今日は俺、ハルヒと出かけるから一人で留守番頼むぞ」
……そっか、じゃあ……しょうがないか。
しょうがないんだよ?しょうがないから…泣いちゃダメ。泣いちゃダメだって…。
「おいおい、なに泣いてんだ。いきなりどうしたんだよ?」
言っちゃダメ。『行かないで』って言っちゃダメなのに……言葉が出ちゃう。
「行かないで……今日は行かないでよ、お兄ちゃん…」
「わがまま言うなって。ハルヒとの約束破ったら……って今…お兄ちゃんって?」
わたしは《キョンくん》じゃなくて《お兄ちゃん》って呼んでいた。
「お願い……お兄ちゃん……」
「………やれやれ」
キョンくんは携帯を取り出して、誰かに電話をかけた。
たぶんハルにゃんだ、ごめんね?ハルにゃん……。
「だから悪いって!絶対に外せない用事が出来たんだ。ほんと……すまん」
電話から聞こえてきた怒った声を無視するように、キョンくんは電話を切っていた。
「ふぅ……。泣いてまで俺を引き止めてるんだ。理由くらい聞かせてもらうぞ……落ち着いたらでいいから」
わたしはその言葉に甘えて、キョンくんに抱き付いてしばらく泣いた。キョンくんはその間、ずっと頭を撫でてくれた。


「あのね、今日はわたしが《こども》で迎える最後のこどもの日だから……甘えたかったの」
「どうして最後なんだよ。来年も、その次からもこどもの日はあるだろ?」
「うぅん、違うの。理由は言えないけど、最後なの」

言えないよ。大好きなキョンくんを諦めるためなんて。
自分のお兄ちゃんを好きでいられるのは《こども》の間だけだから。それを諦めるため、《おとな》になるためにキョンくんを諦めるから最後なんて言えない。
「ごめんなさい……」
わたしがキョンくんに言えるのはこの言葉しかない。
キョンくんはわたしの頭を撫でながら言った。
「まぁ、お前にも何か考えがあるんだろう。しょうがない、今日だけは好きなだけ甘えていいぞ。よく考えるとハルヒと付き合いだしてからは構ってやれなかったからな」
よかった、わかってくれた。今日だけはたっぷり甘えさせてもらおう。……最後だから。
「ほんと!?ありがとうキョ……お兄ちゃん!!」
そして、今日だけは《お兄ちゃん》って呼ばせてもらおう。


それから、わたしとキョンくんは散歩に出た。
手をつないで、街や、公園や、川沿いの道を遊んだり休憩したりしながら歩いた。
おんぶや、肩車もしてくれた。
いろんな所を回ってから家に帰って、二人でベッドに寝転がった。
「あ~、久々にこんなに歩いた!疲れたぞ、俺は」
「ありがとう、お兄ちゃん!わたしすっごく楽しかった!」
何回目だろう。キョンくんはわたしの頭をまた撫でてくれた。
「それならよかったよ。……ん?母さん達か?早いな」
下の方から人が入ってきた音がする。それから、階段を登ってくる音。
ドアが開いた時、そこにはハルにゃんがいた。
「ちょっとキョン!ドタキャンした上に詳しい理由も言わないで電話も電源も切るってどう言うことよ!!」
あ……わたしが怒らせちゃったんだ。わたしがわがまま言ったから……。
「ちょっと待て、ハルヒ!これには理由が……」
「うるさい!とりあえず黙って一発食らっときなさい!!」

ハルにゃんは持っていた鞄を振りかぶっていた。
危ない!!

「いったぁ……」
わたしはキョンくんの前に飛び出して、鞄の直撃を背中に受けた。
「……え?ちょ……ごめん!妹ちゃん大丈夫!?なんで飛び出して来ちゃうのよ!」
「ごめんね?ハルにゃん。わたしがわがまま言ってキョンくんを引き止めたの。たぶん、ハルにゃんが怒るのはわかってたけど……ごめんなさい……」
ハルにゃんの投げた鞄はほんとに痛かった。それだけ寂しい思いをわたしのせいでさせちゃったんだと感じた。
「いきなりキョンくんと会えなくなって、ハルにゃんも寂しかったんだよね?ごめんね?」
「……そっか。ハルヒ、悪かった。ほんとに反省してる。もう少しお前の気持ちを考えなきゃいけなかったな」
ハルにゃんは、大きく息を吐いて少しだけ落ち着いたような口調で口を開いた。
「あ~もう!これじゃあたしが悪者みたいじゃない!!いいわよ、もう……その代わりキョン!!あんた今からあたしの昼ご飯を作って来なさい!……あんたを待ってて食べてなかったんだからね!」
キョンくんは『やれやれ』って言って下に降りて行った。わたしのせいなのにごめんね……。


「妹ちゃん、ごめんね?大丈夫?」
「うん、平気だよ?わたしがわがまま言ったから罰だね!!」
わたしが人の事を考えないでわがままを言った罰が当たったんだ。しょうがないよ。
「わがままとやらの詳しい話は今度キョンに聞いとくわ。う~ん……でも、鞄ぶつけちゃって何も無しはあたしのポリシーに反するわね……そうだ!なんでも一つだけお願いをきいたげるわ!」

なんでも一つ、かぁ……。
ほんとはキョンくんを独り占めしないでって言いたいな。でも、わたしはお兄ちゃんばなれをするって決めたんだから、我慢しなくちゃ。
「う~んと…決めたっ!」
「なになに?なんでも言っちゃって!」
「ハルにゃんがわたしのお姉ちゃんになってよ!」
「……へっ?」
「他の誰にもキョンくんを取られちゃダメ!それで、高校卒業したら一緒に住んでお姉ちゃんになってね!約束だよ!!」
ハルにゃんは顔を赤くしていた。やっぱり恥ずかしくなるのかな?こういうことを言われると。
「う~……わ、わかったわ。なんでも一つお願いを聞くって言っちゃったもんね…」
照れてるハルにゃんかわいいなぁ……、もう少しいじわるしちゃおうかな?
「じゃあ、キョンくんが戻ってきたら誓いのチューだね!」
「えぇぇっ!?そ、そこまでするのっ!?」
「あ、いたたた……」
わたしはまだ少し痛む背中をわざとらしく押さえた。
「あぅ……、む~…しょ、しょうがないわね!するわ、やってやろうじゃない!」
ハルにゃんがそう叫んだところでキョンくんが料理の乗ったお盆を持って戻ってきた。

「何をやってやるんだよ。頼むからかわいい妹に変なことを教えてやるなよな?」
かわいい妹……ってちがうちがう。照れてる場合じゃなかった。
わたしは目でハルにゃんに合図を送った。
「キョ、キョン!卒業したら結婚するわよ!!ほら、誓いのキス!!」
やっぱりキョンくんは慌てた。
「はぁ!?お前なにをいきなり言いだすんだ!妹の目の前で出来るか!!」
「う、うるさい!どうせ結婚式の時はみんなに見られるのよ?予行練習よ!……それに、結婚を否定しなかったって事はあんたにもその気持ちがあるんでしょ!?」
すっごい……ハルにゃんって頭いいなぁ。
「うっ……そりゃそうなんだが…。やれやれ、お前は言いだしたら聞かないからな」
キョンくんは諦めたように、ハルにゃんに近付いて、キスをした。
「うわぁ……」
わたしが見た二人のキスは、テレビとかである結婚式のキスじゃなくて、お互い愛し合ってるのが一目でわかる長い、長いキスだった。
わたしが居るのを無視して続いている長いキスを見ながら、わたしは呟いた。

「バイバイ…わたしの初恋」

おわり
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