赤点地獄から奇跡の追い上げを果たし高校二年生になった俺は、去年と変わらないいつもの荒々しい起こし方で俺の目を覚ませてくれる"妹゚という名の目覚時計を軽くあしらいつつ、ふと机の上に置いてある一台のノート型パソコンに目を向け一人憂鬱な気分になるのであった。

「どうしたもんかね……」
こう悩みを抱えている時のこの坂道は道交省に直談判してぶち壊してやりたいほど憎たらしく思えて来るから不思議だ。
「よっキョン!」
谷口か。
「よう」
振り返り確認してみる。谷口だな。
「なんだそりゃ?」
「なんでもない、ただの確認だ」
こいつは俺の憂鬱なんぞ知らないんだろうなぁ。いい身分だよお前は。
「まぁいいか、それでお前は書けたのか?小説」
「まだ一文字も書いてない」
「早くしないとまた涼宮にどやされるぜ」
うるせい。
「お前はどうなんだよ」
「俺か?俺はもう終わったぜ。昨日で一週間経ったからな」
「お前は確か日常のおもしろ日記だったか?」
「ああ。今回は苦労せずに書けたぞ」
そりゃそうだろうよ。なんせただ日記を書けばいいだけなんだからな。また恋愛小説を書かされる俺の立場にもなってみろってんだ。
「ま、放課後に見せてやるから楽しみにしてろよ」
別に谷口の面白くもない日記なぞ見なくてもいいのだが。一応「ああ、wktkしとくよ」と答えておこう。
なんだ谷口。何故そこで顔をしかめる。こっちみんな。

と、ここでこの状況を説明しておこう。ここまでくれば説明せずともわかると思うが。
俺達SOS団はまたもや文芸部として機関誌を出す事になった。今回は去年のメンバーに加えて阪中も参加することになったのだが、この女「面白そうだし、是非協力するのね」などと言っていた。本気か?
それは置いといて。各々のテーマは去年とほぼ一緒だ。俺はまたもや恋愛小説。古泉によるとどうもハルヒは俺の恋愛観を知りたいらしい。
ミヨキチのネタは去年使ったからもう俺に恋愛ネタは無いのだが……。
そして谷口は去年と違って日常のおもしろ日記。これは断言できる。確実に面白くない。
読む前から決め付けるのも谷口には悪い気がするが。
阪中は読書感想文。何故ここで感想文なのかはわからん。阪中なら酷い内容にもならないだろう。
以上。説明終わり。

時は過ぎ放課後だ。谷口に日記を見せて貰わないとな。

部室に着いた俺はドアの前に佇む二人の男を見つけた。谷口と古泉だ。あらかた朝比奈さんが着替えで待ってているのだろう。
「よう」
「おうキョン」
「どうも、遅かったですね」
「掃除当番だったんだよ」
それにしても谷口と古泉とは奇妙な組み合わせだな。
「ふふ。普段彼とご一緒する事はないですからね。新鮮に見えるのでしょう」
そうかもな。
部室の中から「どうぞー」という愛らしい声が聞こえてきたので中に入る。うむ、今日もお綺麗ですね。
「うふふ、ありがとう」
谷口が口を開けて見とれてやがる。あんま見つめるなよ、減ったらどうするんだ。
「減るわきゃねーだろ!」
それはそうだが。
「うっさいわよあんた達!ていうか谷口。何の用よ」
相変わらず谷口の扱いは酷いもんだ。
「あ?ああ。お前に頼まれたやつが出来たからな。持って来たんだ」
そう言って谷口は鞄から原稿用紙を取り出す。パソコンは4台しかないので、団員以外は原稿用紙で提出することになっている。朝比奈さんは使えないのでもう一台は阪中が使っているが。
「今回は楽でよかったぜ。なんせネタがそこらに転がってるんだからな」
なにをニヤニヤしてるんだ?こいつは。
「まあ読んで見ろよ」
差し出された原稿用紙に目を通す。

――――――――――――――――
★月●日
今日から日記を付ける事になった。涼宮に呼び出されて勝手に押しつけられたからだ。
まったく。俺だって暇じゃないんだぜ。ま、たった一週間だしやってみるか。


★月○日
昨日意気込んで決意したはいいが、書くような事は何もなかった。
こんな事書いてると涼宮に何言われるかわかったもんじゃないが無い物は無いんだ。仕方ないだろう?


★月◇日
今日は街でかわいい子をナンパした。歳を聞いてみてびっくりした。なんとまだ中学生にもなってないそうだ。
最近の小学生も侮れんものだ。それにしてもえらく丁寧な言葉遣いだったな。


★月◎日
今日は朝から涼宮が不機嫌だった。クラスの空気が重い。なんか背中から黒い何かが見えるが、それなんだ?
しかも4限目にキョンと口喧嘩して更に不機嫌MAX。
キョンももうちょっとこっちの事を考えてくれよ。皺寄せが来るのは俺たちなんだぜ。


★月▲日
昨日とは打って変わって涼宮はご機嫌だった。キョンとも笑って話してるし。
お前等さっさとくっついちまえよ。見てるとイライラするんだよな。
お互い意地張っちまって素直じゃねーし。ヘタレか。


★月□日
キョンと涼宮が揃って教室から出て行った後、女子グループの一人がキョンと涼宮について話し出した。
「キョンくんと涼宮さんって付き合ったら絶対バカップルになるよねー」とか
「キョンくんって意外と頼り甲斐ありそうだし涼宮さんが惚れるのもわかる気がするわー」とか
「涼宮さんが何もしないんだったら私が貰っちゃうのね」とか
…………キョン。お前は裏切り者だ。

★月▼日
長かった一週間もやっと終わりだ。ほとんどキョンと涼宮の事しか書いてない気がするが、それだけあいつらが注目を浴びてるって事だろう。
まあ所謂仲良し夫妻ってとこか。さて、ナンパしに行くか。

――――――――――――――――

なんと言うか……ダメだろ、コレ。
「なあ谷口。これのどこが『日常のおもしろ日記』なんだ?」
「俺にとっちゃおもしろい事だったんだよ」
そうかい。しかしハルヒが見たら確実に没だな。
「ちょっとあたしにも見せて」
「ん?ああ、ほれ」
ハルヒに原稿用紙を渡す。
まじまじと見るハルヒの顔に浮かぶのは呆れか、はたまた怒りか。どっちともだろう。
「……なあ」
突然谷口が口を開く、なんだ?
「お前等さ、なんで付き合わねぇの?」

何を言っとるんだこいつは。
「何故そんな事を思う?」
今俺の顔は呆れ100%だな。ハルヒは目を見開いて谷口を睨んでいる。芸人か。
「いや、お前等見てるとさ、こっちがイライラするんだよ。なんつーか小学生の恋愛見てるみたいでな」
ハハハ、何をぬかしとるんだね君は。しかも朝比奈さん「わかるわかる!」って顔して頷かないでくださいよ。
古泉に至っては「貴方もそう思いますか。我々も苦労してるんですよ~~」とか語り出す始末。
ハルヒ。何とか言ってやれ。
「…………」チラッ
なんだよ
「なんでもないわよ!」
意味不明だ。しかしそれ、どうすんだ?
「そ、そうね。没!谷口!あんたも読書感想文書いてきなさい!」
「はあっ?まじかよ!」
「口答えしないの!」
「ちぇっ、わーかったよ。お前に何言っても無駄だしな」
「それならいいの。今日はもう帰っていいわよ。SOS団も解散!あたしも用事が出来たから」
用事って?
「阪中さんのとこ!」
はて、何しに行くんだ?
「あんたには関係ないでしょ!」
まあそうだが、あんまり迷惑かけるなよ。
そう言う前にハルヒは部室を出て行った。
「貴方も鈍感ですね」
「は?」
「いいえ、何でもありません」
何故皆してこっちを見る。訳がわからん。


「なんだろう、なんか嫌な予感がするのね」

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