『雪の降る街で』

12月上旬、今年は例年に比べると異常気象のように寒い毎日が続いている。
「おーっす。」
俺は、教室に入ると、一番に会った国木田に挨拶した。
「あ、キョン。おはよう。」
何か不思議そうな目である場所を気にしながら国木田が返事をしてきた。
「どうした?国木田。」
俺がそう聞くと、国木田が本当に心配した声で答える。
「僕が来た時から、谷口があの調子なんだ。どうかな、キョン。ちょっと話してみてよ。」
俺の前の席、ハルヒの二つ前の席の谷口を見る。
…そこには、何か考えごとをしている時のハルヒのように、雪が降っている窓の外をボーッと見ている谷口が居た。
「おう、谷口。また女にフラれたでもしたか?」
俺が声をかけると、谷口は目の色を変えて、俺の肩を掴んで来た。
「キョ、キョン!!お前を待ってたんだ!話を聞いてくれ!」
なんだこいつは。
よく分からんがかなり真剣だから聞いてみるか。
「わかった、わかったから落ち着いて席に着いて話せ。」
「此処じゃマズいんだ、ちょっと移動しようぜ。そうだな……食堂に行こう。」
此処じゃマズい話?

まぁ、時間はあるから問題は無いが。

俺が谷口と、食堂に向かっていると見たことある影を見つけた、長門だ。
「おはよう、長門。今日も寒いな。」
小さく頷き、肯定する。
冬服に少し長めのコートの長門は少し大人びて見える。
「な、なな長門さん!お、おはよう!」
谷口?
こいつは、知らない奴に返事はしないと思うが。
「…………おはよう。」
はぁ!?
長門が返事した?しかも『おはよう』だと?
俺には言葉もないのにか。
少しショックだぞ。
「あ、俺達、食堂行くからこれで!!」
と谷口は言い、俺は引きずられて食堂に行くことになった。

「なぁ、谷口……話とはなんだ。そして長門とは何があった?」
特に長門の方を詳しく聞きたいもんだ。
あいつのあの反応はなかなか見れるもんじゃ無いしな。
「キョン……お前を親友と見込んで言う!俺の恋路を手助けしてくれ!!」
……結局それか。どうでもいいが長門についての話を早く聞きたいところだ。
「わかったわかった、またナンパか?付いてくだけならいいぞ。」

「違う、違うんだキョン!!実はな……俺は、長門有希さんに恋をしたんだ!」
………はぁ?
こいつ、とうとうおかしくなったか?
とりあえず、何があったか聞いて見るとするか。
「で、何故お前が長門に惚れたんだ?もちろん、それなりに理由があるんだろ?」
それまでの5倍(当社比)の勢いで谷口は声を出した。
「もちろんだ!実はな…」
やれやれ、谷口の自分の世界モードか……。

なるほど。要約するとこうらしい。
こないだの大雪の日、谷口が歩いていて思いっきり滑った。しかも滑った場所が悪く、ガードレールに頭をぶつけようとした所をたまたま通りがかった長門が支えて助けてくれたらしい。
「しかもだな!俺の名前を覚えててくれたんだよ!《彼とよく一緒にいる谷口君》という覚えられ方だったけど!!」
そりゃ意外だな。
いくら俺の友人とはいえこんな奴の名前を覚えてるなんてな。
「それで、お前は俺に何をしろと言うんだ?」
俺に『谷口と付き合ってやれ』とでも言わせる気か?
それなら俺は谷口を思いっきり殴って教室に戻るが。

「長門有希さんをどうにか呼び出して欲しい。ついでに、涼宮がつけたりしないように見張っててくれよ、そしたら後は一人で……出来るから。」
なんか……今回の谷口はオーラが違う。
メチャクチャ真面目じゃねーか、疑ったりしてすまん谷口よ。
「そうか……。そこまで本気なら手伝ってやる。だが、告った後にどうなるかはお前次第だからな?」
「わかってるさ、頼むぜ!キョン!」
俺達は、放課後に長門を呼び出す算段を話し合い、ホームルームに少し遅れながら教室に戻った。

3限目。唐突に後ろからシャーペンでつつかれた、痛ぇ。
「キョン。あんた朝から谷口と何してたのよ。」
さて、こいつを引きつけとくのも約束の一つだったな。
「ちょっとな。それより、俺買わなきゃいかん物があるから部活休んで良いか?」
ハルヒは間違いなくダメだと言うだろう、そしたら俺の勝ちだ。
「何言ってんのよ、ダメに決まってるじゃない。」
もらったな。
「じゃあ、お前も付いて来てくれよ。団長だろ?」
「う……。しょ、しょうがないわねっ。今日だけ、付いてってあげるわよ。」
よし、我ながら完璧だ。

次の行動は長門を谷口が待つ場所に呼び出すことだ。
これは、正直に伝えるしかないな。
昼休み、俺は弁当を持って部室に行った。
長門は……居た。いつも通り本を読んでるみたいだな。
「おう、長門。ちょっと話があるし、此処で飯食うぞ。」
「………いい。」
少し驚きの表情を浮かべたが、すぐに長門は本に目を落とした。
単刀直入に言うことにしよう。
「長門、今日の放課後に谷口が話があるってさ。だから、うちの5時に俺達の教室に行ってやってくれ。」
「…………?」
疑問の表情か?
ま、そりゃそうか。
「谷口が、お前と話がしたいんだとよ。ちょっと話してやってくれよ、部活は休みにしてるからさ。」
「………そう、わかった。」
長門の対応が気になるが、一応これでオッケーか。
俺は、長門を見ながら食事を終えて、帰りに朝比奈さんと古泉に部活の休みを伝え、教室に戻った。

5限目。
俺はノートを破り、谷口に手紙を書いた。
《ハルヒの引き離しと長門の呼び出しは成功した、健闘を祈る。キョン》
こう書いた手紙を4つに折り畳み、後ろから谷口に投げ付けた。
しばらくすると、谷口が手紙を手渡してきた。

《サンキュー!頑張ってくる。今度なんか奢るからな!》
うむ、これであとは放課後を待つばかりか……。
そういや、買い物…何処に行くかな。


財布が……軽いな。
買い物に行った俺は、赤ペンとシャーペンの芯を口実にしたが故に、ハルヒに「ふざけんなっ!あんた、いろいろ奢りなさいよっ!!」と言われた。
飲食代、小物等を買わされ、既に財布が悲鳴をあげているというわけだ。
それはともかく、もう24時だ。
谷口からの連絡はまだ無い。
…あいつ、フラれたかな。
しょうがない、明日学校で朝一番に慰めてやろう。
そう考え、俺は電気を消し布団に入った。……と同時に、メール着信音。
谷口か?
《キョン、ほんっとありがとう!!俺、付き合うことになったよ!!》
………はい?
俺の目が確かなら、奇跡が起きているらしい。
しかし、もう眠くなる時間だ。夢でも見ていたんだろうな、谷口は。
とりあえず、明日学校でもう1度確認してみるか。
と考え、俺は寝た。


朝からクソ寒い中、山道の様な通学路を歩く。
財布の中身と、俺の心は寒いまんまだ。
「お?あれは……。」
黒いコートに、ボブカットの少女を視界に捉える。
あの後ろ姿、間違いなく長門有希だろう。
「お~い、長門。」
長門は振り向き、一つ頷いて足を止めた。
俺を待ってるのか?……目で早く来いと言われてる気がするな。
小走りで長門に追いつき、一緒に歩き出した。
さて、詳しく聞いてみるかな……。
と考えてるうちに、長門が口を開いた。
「………昨日、谷口くんに告白されて……付き合うことにした。」
おいおい…昨日のメールはマジだったか。
「そうか……あいつの何処がよかったんだ?」
こればかりは7不思議にしていいくらいの疑問だ。
「彼は………ユニーク。」
やはりそれか。
「……明るくて、わたしの持って無い部分をたくさん持っている所に惹かれた。」
おいおい、長門が谷口を褒めまくってるよ。
こりゃあいつも報われるな。
「あいつの良い所、全部共有出来るといいな。」
長門は頷いて肯定の動作をする。
しばらく並んで歩いていると、後ろから引き止められた。
……谷口だった。

「ゆ、有希ちゃんおはよう!……ってキョン!俺の彼女に手ぇ出すんじゃねぇ!」
激しく誤解だ。この独占欲の強いバカをどうにかして欲しいもんだな。
「いいか、谷口。長門はお前の彼女である前にSOS団員であり、俺の友達だ。友達と話をして何が悪い。」
「ぐぅ……。」
谷口イジメはこれくらいにしとくか。
「しかし、今日の所は譲ってやる。じゃあ長門、また放課後な。」
また、長門は頷く。相変わらずだな……。
俺が二人より少し歩調を早めると、谷口に声をかける長門の声が聞こえた。
「………谷口くん。…………行く?」
そんな声が聞こえ振り向いた先には、谷口と長門が手を繋いで坂を登ってくる様子が見えた。
両方とも、緊張しているような、中学生カップルのようだったがな。


放課後、俺たちは部活の時間を終え、暗くなっている外に全員で出て行くと……谷口が居た。
「あ、キョン。終わったか?」
赤い耳をして、全身を震わせている。こいつ、いつから待ってたんだ?
「長門なら、もうすぐ出てくるぞ。……ハルヒも一緒にな。」
「そっか…うん、大丈夫だ。涼宮にバレても、大丈夫。」
なんか男らしくなったな、こいつ。

話をしていると、4人が出てきた。
「………谷口、くん?」
「あぁ、有希ちゃん。一緒に帰ろうと思って待ってたんだ。」
ここで、予想通りにハルヒが口を挟んできた。
「ちょっとちょっと!!谷口、あんた有希に近付かないでよ!バカが伝染るじゃない!」
相変わらずヒドい言い様だ。
「悪いな、涼宮。……俺、有希ちゃんと付き合ってるから、離れられないわ。」
谷口、お前かっこいいぞ。
今なら古泉と人気を分かち合えるくらいだ。
「はぁ!?あんた本気?……有希、ほんとなの?」
長門が頷く。
谷口は真剣な目でハルヒを見ている。
「……むぅ、わかったわ。二人とも本気みたいね。でもね、谷口!!あんた、有希に変なことしたらタダじゃおかないからねっ!!」
谷口が一転して笑顔になった。
「あ、ありがとう涼宮!有希ちゃん、行こうぜ!」
と言って、長門の手を引き帰ろうとする。……と谷口が戻ってきて、何やらハルヒに耳打ちをしている。
「……っ!!バカ!さっさと有希を送って帰りなさい!」
あいつ、何を言ったんだ?
谷口は満面の笑みを浮かべて、長門と手を繋いで帰った。

「まったく、あのバカっ……!しかも寒いのに熱すぎるわよ、あそこだけ!」
ハルヒが少し顔を赤らめて二人の背中を見ている。
「もういいわっ!みんな帰りましょっ!」
ハルヒが歩き出す。
俺はそれに追いつき、不意に手を握った。
「っ!?ちょっと、キョン!?」
「寒いだろ?こうしてりゃちょっとは寒さも紛れるさ。」
俺はハルヒの手を少し強く握った。
「…………しょうがないわね。今日だけ、特別サービスなんだからね!!」
ハルヒも、俺の手を握り返す。
すると、また雪が降り始めた。
「やれやれ。また降ってきたか、寒くなるな…。」
俺はそう呟くと、手を繋いだまま、雪の降る街に向かって歩き出した。
先に行く、谷口と長門の姿を見ながら……。

終わり

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