2年ほど前、僕はある本と出あった。

『電卓男』

職業柄、毎日電卓を持ち歩いているオタクの男(=電卓男)はある日、道で酔っ払いに絡まれている女性にでくわした。
その女性はなかなかの美人であったそうだ。
そして、電卓男は気弱ながら、助けなきゃ・・・助けなきゃ・・・と思い、
意を決して、その酔っ払いに言った。
「あ・・・あの、やめてあげて・・・彼女・・・嫌がってるじゃないですか」
「あん?何だ小僧?やる気か?」
電卓男は何かしなきゃと思いながらも、その場でたちつくし、固まってしまった。
しかし、そんな電卓男の手に、いつも持っている電卓が触れ、
そして、電卓男はすぐさまその電卓を取り出し、電卓をその酔っ払いに投げつけた。
すると、偶然にも急所にあたり、「覚えてろよ!」とか言って酔っ払いは逃げていったそうだ。
そして、そこから電卓男と電卓男に助けられた女性のラブストーリーが始まる。
ノンフィクションな話。

僕はその本を読んだ時から思っている。
そんな恋をしてみたい・・・と。

とは言っても、そんなことが街中でそんな偶然に起こる場面にめぐりあうことはなく、
普段、電卓なんて持ち歩いていない(2年前は毎日のように持ち歩いている時期はあったが)
普段持ち歩いているのは財布と生徒手帳ぐらいだ。

そんなある日のことだった。
いつものように部活を終え、まっすぐ家に帰ろうとしたが、その途中、毎月読んでいるパソコン雑誌が今日発売であることを思い出し、
本屋に行こうとしていたときの話だ。

目の前にいたのだ・・・男に絡まれてる一人の美人の女性が。
ただ、電卓男と違うのは、絡んでいる男が酔っ払いではなく、二人組みの不良だということだろう。
「よぉ姉ちゃん。一緒に遊ばない?」
「そうそう、こんなところに一人でいてもつまんないでしょ?俺らと遊ぼうよ」
女性はどこか、苦笑い気味である。
僕が助けなければ。そう思った。

「き・・・君たち・・・そ・・・そのじょ・・・女性が・・・い・・・嫌がってるじゃないか!」
予想はしていたが、声が震える。
ついでに、足まで震えている。
「あん?何だテメー?」
「だ・・・だから、その女性が・・・イ・・嫌がってるから、やめてあげて・・・ください」
「グダグダうっせーんだよ」

ボスッ

おもいっきり腹を蹴られ、僕はしりもちをついた。
だが、何のこのしき、あのSOS団の団長さんにドロップキックをくらったころに比べれば屁でもない。
僕は、まだ動ける。

そして、その男がもう一度、僕を蹴ろうとした時だった。
「いでででででで」
その男が、いきなり痛がりだしたのだ。
一瞬、僕には状況がつかめずにいたが、どうやら先ほどの女性が、男の腕を捻じ曲げているらしい。
だが、男は一人ではない。
それに気づいたもう一人の男が女性に飛び掛ってくる。
しかし、女性はそれに気づくと、先ほどの手を離さずにしゃがみ、右腕の肘をつかって、その男の腹をついた。
この状況をひと言で表すなら。

華麗

それがあってるような気がした。

その後、男二人は女性の顔を見るや否や「ひーっ!」と言って逃げていった。
そのときの女性の顔は、微笑んでいたように思われる。
そして、女性はそのままの笑顔で僕に近づき、
「大丈夫ですか?」と、聞いてきた。

そのときの僕の心拍数はそりゃあもう計り知れないものだっただろう。
長門さんがキーボードを叩いている姿を見ても、心拍数が高くなるときがあるが、それ以上だ。

女性の顔は、かなり近くにあるように感じられた。
何歳ぐらいだろうか?もしかしたら、僕と同じぐらいかもしれない。
そんなことを考えているうちに、女性は「大丈夫そうですね」と言って、
「さようなら」
そう言って、去ってしまった。

そこで、僕は気づいた。
大切なことをいうことを忘れていた。

「ありがとうございます」・・・と。

全てが一瞬の出来事だったような気がする。
まるで、夢でも見ていたような・・・
そんな感じだった。

~キョンサイド~

「ごめんよ~ハルにゃん。前に言ってた海外の宿泊場所、先客が入っちゃって・・・」
先ほどから、部室では鶴屋さんがハルヒに謝っている。
どうやら、雪山のときに言っていた、海外の施設に先客が入ったらしく、夏季合宿がそこで行えないということだ。
ハルヒは怒っていなさそうな顔であるが、鶴屋さんの役目が俺だったら間違いなく、怒鳴っていたことだろう。
「いいわよ、それじゃあ仕方ないわ。また、今度の冬にお願いするから」
「そうかい?ありがとうハルにゃん。冬には絶対に宿泊券とっておくっさ!」
そう言って、鶴屋さんは部室から出て行った。

ハルヒは多分、せわしない顔になっているだろうが、俺はハルヒの顔をできるだけ見ずに、古泉への王手飛車取りに成功した。
「あー、もう!せっかくパスポート作ったのに」
そうイライラするな。古泉に去年行った孤島にまた連れて行ってもらったらいい。
あっちのほうがかなり夏っぽいしな。
「あたしは海外に行きたいの!誰か行かせてくれる人いないかしら?」

と、ハルヒがいうや否や、古泉は携帯を取り出した。
どうやら、機関と連絡をとっているらしい。
「はい、分かりました。では・・・」
それから、古泉は俺に顔を近づけ、ハルヒに聞こえない声で、
「機関に海外に別荘を持っているかたがいるので、頼んでみたらOKの許可がとれました」
と言ってきた。
まあ、ハルヒもそれでなんとか落ち着くだろう。
そして、古泉は立ち上がった。
どうやら、ハルヒにも伝えるらしい。

「あの、涼宮さん、実は僕のしりあ・・・」
「いるじゃない一人!さあ、さっそく連れていってもらうことにしましょ、じゃあ行くわよみくるちゃん」
そう言うと、ハルヒは朝比奈さんの腕をつかんで、どこかに連れていこうとした。
おいおい、どこに行くんだ?
と思ったが、ドア近くで立ち止まり、
「有希のほうがいいかしら?」
と言って、朝比奈さんではなく、長門をどこかに連れて行った。
今度はどこに行くことやら・・・

おい古泉、いつまで突っ立ってる気だ?
俺が王手飛車取りしてからお前、何のコマも動かしてないぞ。

~コンピ研部長サイド~

名前:Mr.名無しさん 投稿日:07/13 14:27

それだけか?それじゃあ恋に発展せんだろ
まさか、期待してwktkしてんじゃねーだろうな?

名前:Mr.名無しさん 投稿日:07/13 14:36

ちょっ!バロス
助けようと思って助けられたって…

・・・・・先ほど、昨日の出来事について書き込んだら、こんな内容のレスばかり返ってくる。

やはり、また会うとかいう期待はすてたほうがいいか・・・トホホ。

と、そんな時にやってきたのがSOS団団長の涼宮ハルヒであった。
「部長さんいるー?あっ!いたいた」
今日はどんな申しつけをしに来たことやら・・・
できるだけ、簡単なことにしてくれよ。
こないだの機関誌はまあまあ楽しかったが。
長門さんも連れてきてるし・・・

「部長さん、あなたに話があるの。ねえ、たまには両親の顔を見て見たいとでも思わない?」
「そりゃ、まあね」
それより、なんでこの女は僕が一人暮らしだということを知ってるんだ?
「でも、僕の両親は海外に住んでいて、会う機会がないんだよ」
「知ってるわよ。ホンジュラスでしょ?」
僕はあっけにとられた。
「どうしてそれを知ってるんだ!」
「あんたの元カノから聞いたのよ」
元カノ?
どうやら、この団長さんは、誰か僕の両親がホンジュラスに住んでると知ってる人を僕の元カノと勘違いしているらしい。
だが、そんなわけがない。
僕は、電卓男と同じ年齢=彼女いない暦だ。
だが、今まで彼女なんかできたことがない、と言うのもしゃくに障るので何も言わないでおこう。

「だけど、それが何だって言うんだい?」
「わたし達をそこに連れて行きなさい」
「そんな無茶な!」
無茶な話だとは思ったが、これほどまでとは思っていなかった。
できるかできないかすら分からない。
「だいたい、団員は行きたいって言ってるのか?ホンジュラスなんて厳しい環境だと思うぞ」
よくは知らないが・・・
「それなら了承済みよ。ねっ!有希」
そう言うと、長門さんは操り人形のように首を大きく縦に振った。
長門さんがこんなに大きく首を振るはずがないだろ!
もちろん、涼宮ハルヒが長門さんの頭を動かしていることぐらい分かっている。
「君が無理やり長門さんの首を動かしたんじゃないか!」
「何?イヤだって言うんなら・・・」

そう言うや否や、涼宮ハルヒは僕の左手を掴んできた。
何をするかはすぐに分かった。
僕は一瞬だけ迷い、その腕を振りほどいた。
「分かった!両親に尋ねてみるから。ただ、了承してくれるかどうか・・・」
「そのときは、納得させるまで説得しなさい!分かった?」
「はい・・・」
悔しいが涼宮ハルヒには敵わない。
さっさと卒業したい・・・


親からの了承は案外あっさりととれた。
とれて嬉しいような悲しいような・・・

そして、夏休み始まってすぐに、僕とSOS団の5人は僕の両親の家があるホンジュラスに向かった。
思ったよりいいところだ。
人口の30%ほどが、ちゃんとした教育を受けていないと聞いたが、そうは思わせない。
ところどころにある家もなかなか大きいところが多く。
うちの親の家も例外ではないそうである。
しかも、この辺りは物価が安いのか特に大きい。
確かに、この家なら急に6人も泊まることになっても十分そうだ。
そういえば、古泉一樹というSOS団の団員が先に2名ほど送り出したとか言ってたな。
お手伝いさんだったか?

まあ、この家ならあと10人ぐらいは大丈夫そうだ。
一人一部屋はあるだろう。

ゆっくりと扉が開く。
そのときは、俺は久々の両親の再会にそれなりに感動してみようと思っていたのだが、
それ以上に、度肝を抜かされた。
両親の横には、

こないだの女性がメイド服姿で立っていたのだから。

母さんはSOS団団長の涼宮ハルヒと何か話している。
『お友だち』とか『わざわざこんなところまで』という言葉が聞こえてくるが、
その言葉は、今の僕にしてみれば右から左である。

いや、そんなことよりだ。
なぜあの人がこんなところに?しかも、メイド服・・・
あっ、そうか!先ほど、古泉一樹が言っていたお手伝いさんのことか。

そうこうしているうちに古泉一樹がその女性に近づき、
「お久しぶりです。森さん」と、挨拶を交わしていた。
そうか、あのかたは森さんというのか。
ああ、今回ばかりは涼宮ハルヒに感謝すべきかもしれないな。

ただ、メイド服か・・・
いや、かなり似合ってはいるんだが、僕にとってメイド服にあまりいいイメージがない。
昨年の事件以来、朝比奈みくるをトラウマになり、そのついでにメイド服まで苦手になってしまった。
だが、そんなことはもうどうでもいい。今この瞬間、僕はメイド服萌えになった。

「あら?あなたは先日の・・・」
どうやら、森さんのほうから僕に気づいてくれたらしい。
覚えてくれていたなんて・・・。
そうだそうだ、先日言い忘れたことを言っておかなければ。
「せ、先日は・・・あ、ありが、ありがとうございます」
声は震えていたが、言えた。
これを言える日がきてよかったー。

ところで、SOS団のメンバーは長門さんを除いて、目を丸くしているようだ。
「部長さん、森さんとは知り合いなんですか?」
キョンという男が僕に聞いてきた。
さて、ここはどう答えるべきだろう。
一瞬、正直に答えそうになったが、それもなんか・・・嫌だ。
そうこうしているうちに、森さんから話をしてくれた。
最後に「ダサッ!」という涼宮ハルヒの声が聞こえてきた。

その後は、母さんと父さんに久々に喋り、そのまま自分の部屋に入った。
「あんた久々の親との再会なんだからもっと喜びなさいよ!」
と、涼宮ハルヒに言われたが、
その時の僕にはそれ以上の喜びが心を満たしていて、喜べそうになかった。
僕は・・・どうするべきだろうか?

ネットの住人に頼りたいのだが、あいにくパソコンは持ってきていない。
父さんから借りてもいいのだが、それはそれで気が引ける。
「こんなところまで来てまでパソコンせずに、もっと友だちと遊んだらどうだ?」と言われるのがオチだ。
友だちでもなんでもないんだがな。

じゃあ、あの二人のどちらかに相談してみるべきか。
古泉一樹かキョン。
一見、女性経験が多そうなのは古泉一樹だが、あれはもとから顔がいいからであり、あの男なら適当に難しいこと言ってても女がついてきそうだ。

じゃあ、もう一人の男はどうだ?
だが、あっちは女性経験少なそうだ。
前に作った機関誌のあの男が作った恋愛小説を読んでみたが、オチがあれだからな。
確かに、子どもに好かれそうな印象があるが・・・
今回の相手は、年齢はよく分からないが、メイドという職業をやってるぐらいだから年上だろう。

ん?ちょっと待てよ・・・
その前に、森さんのことをもっとよく知らないとダメじゃないか。
SOS団の中で一番親しくしていた印象を与えたのは、古泉一樹だ。
やはり、その男に相談してみることにしよう。

古泉一樹の部屋は僕の隣の部屋である。
今はドアの前に立って、ノックをしようとしているところだ。
さて、入ったらまず何て言えばいいだろう?
笑うかもしれない、いや、あいつはいっつも笑っているか・・・
しかたない、勢いにまかせよう。
そうして、腕をあげてノックしようとした瞬間。

「あんた何してんの?」
涼宮ハルヒの声が後ろから聞こえた。

「ノックするなら早くしなさいよ。あたしも古泉君に用があるから。あんたもさっさとあたしの部屋に来なさい。みんなで旅行中の予定を考えるから」
しかたない、ここはおとなしく涼宮ハルヒの部屋にでむくことにしよう。
この女にだけは知られたくないからな。

話によると、明日の昼は遺跡探索、夜はよく分からんが古泉一樹、その他森さんや僕の両親にまで協力してもらって推理ゲームというものをやるらしい。
そして、明後日は海岸まで行って泳ぐと・・・
思ったよりは旅行っぽい感じだ。
この団長さんは、もっと普通ではないことをしだすと思ったからな。

さて、そうこうしているうちに夕飯の時間になった。
森さんが笑顔で運んでくれた料理が僕の目の前に置かれる。
森さんが触った部分を触ってみる。
森さんの熱が伝わってくる。
ことはないが、気もちだけでもそう思っておくことにしておこう。

次の日、僕とSOS団ご一行はコパン遺跡に出向くことになった。
僕たちは8人乗りの大型車に乗りこみ、その場所を目指す。
現在、運転席には執事の新川さん、助手席には古泉一樹、2列目には女性陣3人、
そして一番後ろにキョンという男と僕が座っている。
僕と古泉一樹の席を逆にしたほうがいいのではないだろうか?と思うが、これはこれでいい。

この男にすこし相談してみることにしよう。
女性陣はわいわい騒いでいて多分、後ろの男二人が何か話したところで興味を示すとも思わないしな。
隣の男も、古泉一樹ほどではないが、ほどほどに森さんのことを知ってそうだ。
そこで、僕は隣のキョンを見た。

「ZzzzZzzz」
寝ていた。

確かに、暇があれば眠ってそうな顔立ちをしている。
授業もたいして聞かずに眠ってそうだ。

そんなこんなで、遺跡探索は終了したわけだ。
涼宮ハルヒが、
「墓からコパン王が復活したりしないもんかしらね」
と、冗談か本気か知らんが言ってたが、そんなことあるはずがない。
「ミイラやゾンビが出てこなくてよかったな」
「ええ、全く」
と、SOS団の男二人が話していたが、出るわけないだろ! と、突っ込んでやりたい。

だが、それなりに楽しめたつもりだ。
僕にとって、SOS団は悪友という言葉にふさわしいのかもしれないな。

で、この場を収めたカメラを古泉一樹がもっているのだが、
これが、いまどき珍しいポロライドカメラだ。
きっと、夜の推理ショーに活躍するのだろう。
事件前と事件後の違い・・・とかな。

家に戻ってくると、古泉一樹が、
「そうだ、せっかくですからみなさんで記念撮影をしましょう」
と、どこかわざっとらしく言ってきた。
その中には森さんや僕の両親、執事の新川さんもいる。

そして、次にスゴロク大会とかいうのをやることになったが、
この時間から、もうすでに、一応推理ショーが始まっているらしい。
先ほどから、古泉一樹が僕たちに行動の制限をかけてくるからな。
まあいい、僕もたいしてすることはないから気楽にやっておくことにしよう。

ところでこのスゴロクは涼宮ハルヒの手作りであり、
なんかわけわからん、ユニークなイベントが板にきざみこまれている。

さて、僕のコマがとまったのはどんなイベントがあるのかな?
「はい、じゃあこれ」
と、言いながら、涼宮ハルヒに渡されたのは先日、僕らも参加して作った機関誌であった。
僕のコマが止まったマスにはこう書かれている。
『無題1の内容を携帯に全て打ち込むまで休み』
無題1とは長門さんが作った、どことなく詩のようなポエムのような話だ。
本人曰く、幻想ホラーらしいが。

とりあえず、僕は携帯をポケットからとりだし、その内容を打ち込んだ。
くそ、せめて短いほうの無題2だったら、せめてこれがパソコンだったら・・・

そうこうしているうちに、森さんが部屋に戻ってきた。
実は言うと、先ほどまで1時間ほど、森さんはみんなの部屋を回って掃除をしていたらしい。
その間、僕の母は料理中。父は、現在仕事に行っている。
執事の新川さんは何をしているか知らない。
古泉曰く、今回の殺され役らしい。
今回のっていうことは、今まで何回かやってきたのか。

僕は、携帯で無題1を打ち込みながらチラッと森さんのほうを見た。
そこで、僕はあることに気づいた。
後ろの蝶結びが先ほどよりゆがんでいる。角度にして10度ほどだろうか?
後、髪型も1:9が9:1と逆になっている。
そこで僕は察した。
この推理ショーの犯人は森さんだと。
きっと事件現場は血が飛び散っているということになってるはずだ。
そして、返り血をあびた犯人はどうしても着替えなければならない。

まあ、予想でしかないがね。
だが、そうだとしたら腹が立ってくる。
こんなかよわい森さんに人が殺せるわけはないではないか。
古泉一樹よ。その役は自分でやれ。

よし、やっと打ち終えた。

どうやらこの間に、3ターンほど終わっていたらしい。
そして、僕が、目線をSOS団に向けたときにはキョンと言う男が、
「キョケキョッキョー!」と叫んでいた。
どうやら、『鶏の鳴きマネを、コをキョに変えてやる』というイベントマスに止まってしまったらしい。
涼宮ハルヒはゲラゲラ笑っている。
朝比奈みくるは耐えようとしているらしいが、かなり笑っている。
古泉一樹はいつもより何割か増した笑みだ。声は出していない。
だが、やはりというべきか長門さんはいつもと変わらない。
ここは僕も笑っておいたほうがいいのかね?

そして、1着で涼宮ハルヒがゴールしたとき、
3ターンも休みだった僕のコマより後ろにいる古泉一樹が立ち上がり、「少し、お手洗いに行ってきます」と言ってトイレに行った。
その間、ここを動かないようにと言ってのうえで。
これは、わざっとかく乱させるための行動だろう。
犯人の森さんにはアリバイがなく、他にもアリバイがない人ができるように古泉一樹も動いた。
そして、10分後に古泉一樹は帰ってきた。
人を殺害して、部屋に戻って服を着替えて、帰ってくるにはちと早い時間だ。

その数分後、森さんの叫び声が聞こえた。
なかなか様になっている。
そのとたん、ずっとニヤニヤとみんなのスゴロクの様子を見ていた涼宮ハルヒは「さぁ、行くわよ!」と言って真っ先に走り出した。

事件現場はやはりというかなんというか、
予想通り、血が飛び散っているという設定だった。
とは言っても、実際にそのまま壁や床に赤い液体をばらまいてるわけではなく、ちゃんとダンボールを置いてそのうえを赤く塗りつぶしている。
「このダンボールは、床や壁と思ってみてください」とのことだ。

さてさて、SOS団のメンバーの顔色を伺うことにしよう。
なんということか!長門さん以外、みんな頭を悩ましているようだ。
朝比奈みくるは頭をかしげて、先ほどから目をうろちょろさせている。
キョンと言う男は額に右手の拳をあてて、真剣に考えているようだ。
涼宮ハルヒも左腕に右腕を乗せて、右手でアゴをつかんでいる。
どこの考える人だ!と突っ込みたい。

うーん、ここで僕はどうするべきなのだろうか?
森さんが犯人だと言うべきか・・・
だが、どこか言いがたい・・・
これが、犯人役が涼宮ハルヒならサラサラと言ってたかもしれないが・・・
いや、それだとそれで、怖くていえないな。

とりあえず、ここからシンキングタイムだ。
「まずは殺された時間ね。確か、新川さんに会ったのは3時間ほど前だわ。だから、その3時間の間。その間にアリバイがない人を探せばいいのよ。
確か、森さんはみんなの部屋の掃除をしてもらってたから、その間のアリバイはない。それと、ここの家の奥さんも料理をしてたみたいだから、ないはず。
古泉君は先ほど、トイレに行ったとき、たった10分だけど、殺害して戻ってくるには十分な時間かもしれないわね」
確かに、殺害して戻ってくるには十分だが、返り血をあびていないシャツを着ているんだぞ。
部屋に戻って着替えたとしたら、時間がかかるしな。
「うーん、前はみんながアリバイあったけど、みんながなくても難しいものね」
よく、アリバイありの事件なんて考えれたなと感心しながら、
僕は、機関誌に載っていた、この男が書いたミステリー小説を思い出した。
もしかしたらあの作品が、前の推理ショーだったのかもしれないな。

「とりあえず古泉君、さっき撮った写真を見せてちょうだい」
涼宮ハルヒがそう言うと、古泉一樹はそう言うのを分かっていたようにポケットからその写真を取り出し、涼宮ハルヒに渡した。
これで、森さんが犯人と気づくか・・・
と思ったのだが、どうやら涼宮ハルヒは、倒れるフリをしている新川さんと写真を見比べているようだ。
おいおい、そっちじゃないぞ。
「うーん、前に古泉君が犯人役だったから、今度は森さんが怪しいと思うんだけど」
怪しいと思うんだったら、念入りに調べたらいいじゃないか。

そして、次に涼宮ハルヒが見た顔は、僕の顔だった。
「あんたやる気あんの?」
そんなこと言われても、事件が起こる前から事件の真相が分かってしまった身から考えれば、こんな推理ショーつまらないとしか言いようがない。
まあいい、ここはヒントでも与えてやろう。
「これだけ、血が飛び散ってるんだから、犯人の服にも血がついたんじゃないかい?」
「それもそうね・・・でも、みんな血がついてる服なんてきてないわよ」
「だったら、同じ服を2着持って、殺害した後にもう1着の服に着替えたらいいじゃないか」
「それじゃあ、分かんないじゃないの」
こいつは、学年のなかでもかなり頭がいいほうだと聞いたんだが違ったかな?

だが一応、涼宮ハルヒは写真と、容疑者を見比べだしたようだ。
視点は森さんのところで止まった。
「森さん、後ろの蝶結びが少しゆがんでるわよ。どこかで着替えたんじゃない?」
ようやく気づいてくれたか。
もうすぐこの推理ショーも終わって、スゴロクの続きができそうだ。

「お掃除をした後、シャワーをあびておりました」
森さんが、まるで今考えたいいわけのように言う。
森さんが・・・シャワー・・・
そ、そんな嘘つかないでください
へんに興奮してしまいます。

「たとえそうだとしても、メイドたるもの蝶結びがゆがむなんて、そんなささいなミスでも許されないはずよ」
そうなのか?
というより、この団長さんは朝比奈みくるをちゃんとしたメイドに育ててるのか?
むしろ、ドジっ子メイドにしようとしてそうなのだが・・・

「しょうしょう急いでおりましたもので」
まあ、確かに今の段階では証拠なんてまったくない。
だが、決定的なことを涼宮ハルヒは分かっていない。
と、思ったのが、涼宮ハルヒはパッと何かひらめいた顔になり、
「シャワーをあびたのなら、髪は濡れてるはずよ。今の森さんの髪は濡れていないわ」
「そ・・・それは、シャワーを浴びたのは、体だけだからです」
わざっとらしく、慌てる。
やばい、かなりかわいい。

「何で、頭には水を浴びなかったの?」
「急いでいたからです」

そこまで気づいたら、後は分かるだろ!
なぜ分からない!
森さんの髪型がさきほどと違うじゃないか!
前髪の分け方が!!
シャワーを浴びていたという嘘は、たった今思いついたという設定なのだろう。
だって、実際に浴びていたら証拠がなくなる。
証拠あってこその推理ショーだ。
きっと、返り血は顔にも浴びたはずだ。
そこで、顔は洗ったはいいものの、どうしても洗えない部分がある。
髪が触れる額だ。
だって、肌ならタオルでふいたら洗ったのが分からないが。
髪に水分が付着していると、なかなかとれないからな。
きっと、そのときは髪が濡れていたら返り血を浴びたから洗ったということがすぐにばれてしまうと思って洗わなかったのだろう。
まあ、普通に考えたら髪にも返り血がついてるはずだが、これは推理ショーだ。そこまでの突っ込みを言うつもりはない。

ああ、もうなぜ涼宮ハルヒは気づかないんだ?
「ほら、もっと写真と今の森さんを見比べろよ!蝶結び以外に違う部分があるだろ!」
思わず、声が出てしまった。

で、その後すぐに涼宮ハルヒは森さんの前髪をどけ、そこに、赤いシールが貼ってあるのを見つけ、森さんが犯人だと分かった。
シールといっても、密着部分は肌に優しい成分をつかっているらしい。

「今回は、部長氏のお手柄ですね」
どこか、失敗したように言う。
きっと、団長さんの肩をもたせたかったのだろう。
だが、当の団長さんはとくに悔しがっていない。
最初に森さんの蝶結びがゆがんでいると分かったのはあたしだもんね!
と、言いたげな顔だ。

その後はスゴロクをする時間もなく、夕飯を食べて、部屋に戻ることになった。
その途中、古泉一樹に話しかけられる。
「いつから分かっていたのですか?」
先ほどの推理ショーのことだろう。
別に、嘘をつく必要もないので本当のことを言っておく
「森さんが部屋に帰ってきてからです。蝶結びと髪型が変わってましたから」
「なるほど、観察力がおありのようで」

森さんだけ、だけどな。
よくよく考えれば、昨日から森さんのほうばかり見ていたような気がする。
昼の遺跡探索は森さんはいなかったが、それ以外は、森さんのほうばかり。
無意識的にね。
このさいだ、この男に相談してみよう。
「実は言うと、僕は・・・森さんのことが・・・」

「何話してんの?」
また、涼宮ハルヒだ。
「今から、部長氏が話そうとしていたところです」
古泉一樹よ、話を続けようとするな。
「いいや、もういい。たいしたことでもないんでな」
「ふーん、まあいいわ。それよりあんた、今回いろいろ貢献してくれたから、準団員から団員に格上げしてもいいけど、どうする?」
断固拒否する。
それにしても、この女も強制的でないことがあるのか。
「そう。ならいいわ。じゃあ、準団員のリーダーでいいわね」
何で今度は勝手なんだ。
まあいいか・・・それで。
「分かった」
僕がそう言うと、涼宮ハルヒは自分の部屋に戻っていった。
ついでに、古泉一樹も僕の横にいなかった。

次の日である
一応、ここを去るのは明日みたいなものだが、朝早く出発する予定なので、今日が最終日のようなものだ。
では、今日は何をするか。
まあ、よくあることだが、買い物だ。
土産というものをな。

「鶴屋さんにこんなのどうですか?」
と、朝比奈みくるがキョンという男に尋ねている。
木に変な顔が彫られたへんな置物だ。
まあ、確かにあの人ならそういう面白いものをほしがってそうだ。
僕は、あの人を笑ってるところしか見たことがないからな。
そして、僕は、現地のお菓子をコンピ研の部員のために買ってやった。

さて、その後は海岸に行く予定だ。
太平洋ではなく、大西洋。
昼は泳いで、夜はそこでバーベキュー。
僕たちはいったん、お土産を買った後、家に帰ったのだが、
今回も、森さんは家で留守番をしているらしい。
だが、僕は、思わず言ってしまった。

「森さんも一緒にどうですか?」・・・と。
初めて自分から、声をかけることができた。よく言ったぞ、僕。
森さんは、最初は断っていたが、古泉一樹の説得もあり、なんとか一緒に行くことになった。
その時、僕は決意した。
今日の、その夜に告白しよう・・・と。

僕らは適当に海で泳ぎ、バーベキューをし、いよいよ僕は告白することにした。
僕は、森さんとみんなから少し離れたところに行き、そこに座る。
空を見上げてみる。
日本の夜空よりも何倍もキレイだ。
そのおかげで、回りに明かりはないものの、森さんの顔ははっきり分かる。
ああ、ツインテールが反則的なまでに似合っていますよ。
やばい、また鼓動が早くなった。
とにかく、何か言わなきゃ。

「こないだは、本当にありがとうございました」
「その話はもうすんだと思っていたのですが」
「感謝しても感謝しても足りませんので・・・かっこ悪いところをお見せしてしまいました」
「いいえ。そんなことありません。あなたは勇気ある人間です」
鼓動がまた早くなる。
もしかしたら、今回で森さんと会うのは最後かもしれない。
告白をするなら、今日が最後のチャンス・・・
だから、言おう。
「僕は、僕は・・・あなたのことが・・・」
好きです

「部長さんと森さん、涼宮さんが花火をやろうということなので、お二人もご一緒に」
すぐ近くから、古泉一樹の声がした。
僕はすこし深呼吸して、
「じゃあ、僕たちも行きましょうか」
と言って、森さんの手を引っ張って森さんが立つのを手伝い、涼宮ハルヒ他、SOS団の元へ行って花火をした。

結局言えなかった。
でも、なぜだろう?後悔はしていない。
むしろ、スッキリした気分だ。
最後の花火も楽しかったしね。
あれでよかったんだ。
告白しても、森さんを困らせるだけだろ。
メイドに普通の高校生だぞ。
不釣合いにもほどがある。

次の日はホンジュラスを去る日だ。
森さんは少し残って、掃除やら片付けやらをしてから帰るらしい。
最後に僕は森さんに言った。
「素敵な人生を歩んでください」

そう言うと、森さんはこう返してくれた。
「あなたも、まだまだ若いので、素敵な恋や人生を歩んでください」
僕は少し、間をあけ。
「はい」
返事をした。

数日後、僕はコンピュータ研究部をやめることにした。
そろそろ、大学受験にむけて勉強しなければならないからな。
「部長~~~」
後輩が泣いてくれている。
そんな大げさな・・・
でも、僕は嬉しいぞ。

その時、ゆっくりと部室のドアが開いた。
そこから入ってきたのは、長門さんだった。
そこでみんな一斉に最敬礼だ。
今や彼女は僕よりも上の存在だからな。
まさか、彼女まで来てくれる思わなかった。

長門さんは何か持っているようだ。
花だ。名前なんて知らないが、ウェディングのブーケを4等分ぐらいした大きさの花束。
「あなたは幸せ者。部員にも愛されている」
そう呟きながら、僕にその花を渡してくれた。
一瞬僕は、目の前の部員を見て、
「ありがとう」そう言った。
そして、渡してくれた後は、すぐにSOS団の部室に戻ろうとする。
が、扉を閉める前にひと言、
「楽しかった」
雨粒がポツリと落ちたような声で、長門さんは僕にそう言ってくれた。
うれしいことだ。

それにしても、『部員にも』ってどういうことだろうか?
まさか、長門さんは・・・僕のことを・・・
いやいや、そんなことはない。
きっと、長門さんは、あのキョンという男が好きなはずだ。

それにしても、花までプレゼントしてくれるなんて・・・
と思い、もう一度花束のほうを見て気づいた。
カードがはさんである。
二つ折りのメッセージカード。
そこにはこう書かれていた。

『もしよろしければ
  大学を卒業したときにでも
     わたしのことを迎えに来てください
                  森園生』

--fin--






コンピ男おまけ

「森さん。言われたとおり、あの花束をコンピ研の部長さんに渡しておきました」
「ありがとう、古泉」
「僕から渡すのは不自然なので、間に長門さんが入ったリレー式ですが」
「そう。まあ渡し方なんて別にいいわ。渡せたのなら」
「でも、よかったんでしょうか?あの時、告白されそうになったら止めてくれと言われたので止めましたが」
「ええ、今のわたしに告白なんかされても、付き合うことなんてできないもの。もちろん、あなたもね」
「確かにそうかもしれませんが」
「いいのよこれで。落ち込んでる様子もなかったしね」
「……そうですね」
「ええ」
「僕も何度か相談させられそうになりましたが、説得させてあなたをあきらめるようにできる自信はありませんでしたし」
「その場合、あなたのキャラが変わってしまうかもしれませんしね」
「それより、こないだのカードには何て書いてあったのですか?」
「聞きたい?」
「ええ、是非」
「・・・・・・それは・・・」
「それは?」
「・・・禁則事項よ」

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