キョン君が5年前に入学し、2年前に卒業した場所。わたしは今その場所に向かっている。

わたしがこの北校に入学してから1週間がすぎた。
相変わらずこの坂はきつい。
いったいなぜこんなところに学校を建てたんだろう?
地震になったときに土砂崩れの危険があるからこんなところに避難できないと思うんだけど・・・
学校はそういう緊急時のことも考えて作るべきだと思う。

初めてここを上ったのはいつだったっけな?
確か、キョン君が高校一年生のときの体育祭・・・だったかな?
あの時は有希もハルにゃんもすごかった~
ハルにゃんはすべての徒競走競技で優勝をかざり。
有希なんて目が追いつかないような速さ。

2回目に行ったのは文化祭だったかな?
SOS団の映画が面白かった~。
わたしとシャミセンもアップで映ってたから文句なし。
今でもあのフィルムが残っているのかなー?
でも、1日目のハルにゃんのライブを見ていないから残念。
2日目もやればよかったのに。

と、そんなことを考えているうちに学校についた。
わたしはいつものように下駄箱から上靴を取り出し、それを履く。
それにしても、なぜ下駄は下という字が入り、上靴は上という字が入っているのだろう?
どちらも同じ靴なのに・・・。
下駄を履いたら目線が高くなるんだから、下駄のほうが上という感じがするんだけど・・・

と、どうでもいいようなことを考えているとあっと言う間に教室についた。
これがキョン君流の楽しく歩く方法らしい。
なるほど、なかなか面白い・・・かもしれない。

わたしは、教室に入ってまず自分の席に鞄を置き、座った後に少しストレッチをする。
やっぱりあの坂は疲れる。しかも、この教室は最上階にあるから階段も疲れる。
まあ、そのおかげで景色はいいんだけどね。

それなのに、わたしの席の前の男の子はずっと読書にふけっている。
そういえば、有希も読書好きだったな~。
わたしには読書の何が楽しいか分からない。
そりゃあ、読むときは読む。
流行りの小説とか、夏休みの宿題に読書感想文がある時とか。
でも、断然漫画を読んでるほうが楽しい。
わたしはそう思う。

それにしても、読書が好きな子は無口な子が多いのかな~?
わたしの前の席の男の子も自己紹介のときから全く声を聞かない。
しかもその自己紹介も淡々としていた。
名前と出身中学と趣味を言っただけ。
お決まりの「よろしくお願いします」すら言わなかった。
で、わたしはというとちょっとハイテンションすぎた。
ちょっぴり後悔しているけど、後の祭り。

ところで、入学して1週間というと、まだグループができるのは少し早い時期で、ほとんどの人は同じ中学だった人としかまだ話に入っていない。
で、わたしはというと、同じクラスに同じ中学の人がほとんどいないし、いたとしても喋ったことがない人。しかもその人たちはみんな仲がいいらしく、いつも一緒に行動している。
まあ、まだたった一週間だし、すぐに友だちができるよ。と自分に言い聞かせ、時計の針はいつのまにか12時30分を指し、昼休みになった。

この時間はいつも、隣のクラスになったミヨキチと一緒にいることが多い。
今日も今日とて一緒にわたしの机でご飯を食べる。
前の席の読書君(命名わたし)はいつも食堂らしいので、わたしはミヨキチを前の席に座らした。

「そういえば、部活どこに入るか決めた?」
ミヨキチは右頬を指差しながらそんなことを聞いてきた。
そろそろ、そういうことも考えなくてはいけない。
早い人ならもう部活に入部しているかもしれない。
わたしは右頬についていたご飯粒を取って食べた後、「う~ん、そうだよね~」と返答しておいた。
そういえば、先日配られた部活のリスト用紙が机に入ってたことを思い出し、わたしはそれを取り出す。

そこに『SOS団』という項目はなかった。
そう言えば、キョン君が正式な部活ではないって言ってたかな?

それにしても本当にどこに入ろう?
野球部・・・なんてどうだろう?
確か、ハルにゃんと初めて会ったのは5年前の野球大会の時。
あの時はすごかったな~。
まるで、バットが勝手に動いたみたいだった。
奇跡は起きるときは起きるんだね。
いちおう、保留しておく。
これはどうだろう?コンピュータ研究部。
でも、コンピュータの何を研究するんだろう?
内部構造?う~ん、何か難しそう。
これは消去しておこう。

他にも面白そうなのいっぱいあるな~。
一つに絞りきれそうにない。
そういえば、ハルにゃんはいろんな部活に仮入部してたんだっけな?
わたしもそうしてみよっと。

と、いろいろ思い悩んでるうちに予鈴が鳴り、ミヨキチは自分のクラスに帰っていって、読書君も教室に戻ってきた。
そしてふと、わたしは読書君がどんな部活に入ろうとしているのか気になり、シャーペンで背中をつついてみた。
無視なのか気づいてないのか分からないが、無反応で読書をつづけている。
もう一度、さきほどより強く、シャーペンを読書君の背中につついてみる。
ムッ、これは完全に無視だ。
そして、私はもう一度つついてみる・・・というより、刺した。

「いっ!」
痛がってる痛がってる。わたしのこと無視するから悪いんだよ。
「何すんだよ!」
おっ!ようやくこっち向いて話してくれた。
それにしても、こうやって見たら結構かっこいいじゃん。
古泉君と比べても劣らないぐらい。
もっと顔あげたらいいのに。
えーっと、それよりわたしは何を言おうとしてたんだっけな?
そうそう、部活だ部活。

「ねえねえ、読書君は部活何に入るか決めた?」
読書君は少し沈黙して。
「読書君?」
と、単語だけの疑問形を放った。
別にそういうとこ突っ込んでほしいんじゃないんだけどな~。
「それって、俺のこと?」
「うん、だっていっつも読書してるから。それとももっとかっこいい名前のほうがいい?」
「・・・えっとな、俺にはもっと普通の名前があってだな、自己紹介の時も言ったが俺の名前は・・・・」
「あっ!レッドなんてどう?リードレッドレッドのレッド」
そう言うと、少しレッド君はあきれた顔つきになり
「勝手にしろ」と言ってくれた。

「それで、何か部活決めた?」
「どこも入る気ねーよ。文芸部でもあったら考えてたかもしれねーけどな」
ふと、わたしはあれ?この学校文芸部ってなかったっけ?と思い、もう一度先ほどの部活リストを見てみたが、確かになかった。
確か、有希は実質、文芸部だったはずなんだけど、廃部にでもなったのかな?
「ま、そんな時間あるんだったら図書館でも行って本読むさ」
「そんなに楽しいの?絵なんて全然入ってないのに」
「本の中は未知の世界が広がってるからね。宇宙人とか未来人とか超能力者とか、現実にはいない存在が本にはつまってる。それが面白いんだよ」
「えっ?宇宙人とか未来人とか超能力者っていないの?」
「………」

うー、何その三点リーダーは。
そんな旅行で来た温泉に猿がいたような目でみないでよ・・・
かと思えば、急に「フッ」と笑い出し、
「そうだな、いたらいいな。ぐらいには考えててもバチはあたらないかもな」
そう言ってレッド君は前に向きなおし、それからすぐに始業のベルが鳴った。

放課後、私はどこかの部活に仮入部しようと、部室棟。通称、旧館に向かった。
今日は体操服を持ってきてなかったしね、まずは文化部から。
演劇部なんて面白そうだ。
ということでまずわたしは演劇部の部室にむかったんだけど、
その途中、一枚のプレートが目に入った。
『文芸部』
廃部はしたが一応場所は残っているらしい。
確か、ここがSOS団の本拠地だったとか言ってたかな?
もしかしたら倉庫化しているのかもしれないが、
入ってみたい・・・わたしはそう思った。
ゆっくりとドアを開く。なぜか鍵は閉まっていなかった。

特には倉庫となっている様子はない。
右を見ると何もかかってないハンガーロック、給油ポットや急須、他にはコンセントは入ってないみたいだけど、冷蔵庫なんてもものもある。
文芸部室に必要ないような物がたくさんそろってて、楽しそうだ。
左側には大きな本棚。こちらはいろいろ本が残っている。
そして、目の前には大きな長テーブルと窓際にある机の上に置かれたパソコン。
少し古そうだな~。5年ぐらい前の物かな?
それにしても、2年前からこの部屋は空き部屋だと思うんだけど、なかなかキレイな状態。
隅のほうに蜘蛛の巣でもあると思ったけどないし、ホコリもあまりたまってそうにない。
ハルにゃんとかがたまに来てるのかな?きっとその時に鍵を閉め忘れたのかも。

それに、何でだろう?ここには初めて来たのに懐かしい感じがする。
窓を開けてみると、待っていたと言わんばかりに風が入ってきた。ポニーテールの髪が揺れる。
外を見てみると、目の前に本館がある。左側には運動場。なんだか心がなごむ。

ふと、わたしの名前を呼ぶ声が聞こえ、後ろを振り向くとそこにミヨキチがいた。
ミヨキチは一度、文芸部と書かれたプレートを見てから「どうしたの?」とたずねてきた。
「ここ、昔キョン君が部活で利用してたんだ」
「お兄さん、文芸部に入ってたの?」
「ううん、SOS団っていう非公認クラブだったみたいだけどね。楽しかったみたいだよ!」
わたしはもう一度窓の前に立って深く深呼吸し、パッとひらめいた。
「ねえミヨキチは部活何に入るか決めた?」
「ううん、まだ。今からどこかの部活に仮入部しようとしてたところ」
「じゃあさ、わたし達で部活作ろうよ部活。第2SOS団!ここは空き部屋みたいだし。そうだ!ここなら本がいいぱいあるからレッド君も誘っちゃお!」

と、勢いよく言った私は一度ミヨキチのほうを向いた。
いつもと変わらない大人びた表情をしているが、どこかあっけにとられているような感じがする。
かと思うと「くすっ」と笑い出し、言った。
「よかったー。最近、前よりちょっと元気ないなって思ってたところ。まあ、回りが知らない人ばかりのところに環境が変わったからしかたないとは思うんだけどね。でもよかった、前みたいに元気になって。うん、そうだね。部活、一緒にやろ!」
何者とも変えられない美しい笑顔でミヨキチにそう言われ、私はこの1週間を振り返ってみた。
たしかに、中学のときよりも憂鬱気味だった気がする。
多分それは、自己紹介をハイテンションでしたのに少し引かれたことと、この長い坂、それとクラスに同じ中学出身の人がほとんどいなくて、いたとしてもほとんど話したことない人だったから・・・かな?

でも、もうそんなことどうだっていい。たった1週間微妙に憂鬱気味だっただけ。
これからはその憂鬱気味だった以上に楽しんだらいいんだ!
「うん、ありがとう」

ここから、新しくて楽しい、物語が生まれたらいいな。



キョン妹の憂鬱おまけ~キョンサイド~

俺は今、ハルヒとデートしている。
もうこれも何回目だろうな。いや、ちゃんと回数覚えてるぞ。そうじゃないとハルヒが怒るんでな。
今日のハルヒはなんだか赤い。
で、俺にひと言、こう言った。
「今日は・・・したい気分」
で、いつの間にか俺はホテルのベットの上にいる。
まずは優しいキスから。これ常識。
今も昔もキスのときは目を瞑るもんだ。

ガチャ

ん?何の音だろうな?ふと、俺は気になって目を開けた。
ん?何かハルヒ髪色変わってないか?それと、眉毛が濃くなってるような・・・・・
って、お前は!
そこにいたのは、まぎれもなく、俺を2度も殺そうとした朝倉涼子であった。
「フフ、バレチャッタ。キスをすると変装がとけるって気づいたのかな?」
朝倉は、後ろに手をやる。横から光を反射する鋭いなにかが見える。
「じゃあ、死んで」
今回ばかりは、避けることができず、俺は腹をえぐられた。
「ぐはっ!!」

そこで、俺は目を覚ました。
まあ、そりゃ夢だろうな。
朝倉涼子は5年前にこの世から消えている。
それにあれだ、俺はハルヒとはそんな関係じゃねー。
たまに二人で遊園地行ったり、たまに二人で映画見に行ったり、たまに二人で買い物行ったりするだけだ。
キスすらやってねーよ。
酔った勢いとか、場所が閉鎖空間とかいうのを除けばな。

で、だ。そんなことはどうでもいい。
今、俺が考えなきゃならんのは、なぜ夢だったのにこんなにも腹が痛いのかということだ。
理由は簡単、妹がカカト落としの態勢でカカトを俺の腹の上に乗っけていた。
「な・・・なにをやってるんだ?」
話すのすら苦しい・・・
「だってキョン君起きないんだもん」
だからってこれはないんじゃないか?
それに今日はあれだ、教授が出張で授業は補講だから今日は休みだ。言っただろ。
「あれ?そうだっけ?」

ったく、そろそろ手加減というものを学んでくれ。
まだまだ子どもっぽいんだよな。それを一番直してくれ。
しかも、中学のときにドジなくせに運動部に入って体力つけやがって。

「そういえば、部活はどうしたんだ?決めたか?」
「うん、キョン君と同じ」
ああ、そうかそうかSOS団か
ってことは、俺はお前の部活でのOBにもなるわけだな・・・
……ん?SOS団?
あれ?あれって確かずっと非公認クラブだったような・・・
「うん、だからわたしもハルにゃんみたいに作る!ミヨキチも入ってくれるだって~」

おいおいちょっと待て。
だいたいお前、SOS団のSOSが何の略か知らないだろ?
「知ってるよ。中学のときの英語の先生が言ってたもん。確か、Save Our Soulだっけ?」
いや、普通はそうかもしれんが、・・・・まあいいか。
「で、どんなことするのか知ってるのか?」
「SOSって言うから、誰か助けるんでしょ?人数が足りない部活の補助とか」
いや、全然違うからさ。
「そういえば、そういう漫画昔あったよね~」
ああ、そういやあったな。えっとなんだっけ?いつも・・・・びくう・・・だったかな?
「わたしもあの漫画みたいに誕生日に超能力が得られるかも!」
いや、あの漫画は13歳の誕生日だからさ。お前はもう15歳だろ・・・実年齢はな。
「あっ!もう行かなきゃ!じゃあねキョン君。行ってきまーす」
おいおい、大丈夫か本当に?
しかもあの大人びたミヨキチまで巻き込んで

それにしても、SOS団か~。
今となっちゃああの時の出来事は全部いい思い出だ。

ふと、俺の視界に携帯がはいり、そこからハルヒの名を探して電話をかけることにした。
何でだろうな?なんとなくそんな気分だったんだ。
『どしたのキョン?あんたにしては珍しいじゃない、こんな早くに』
「いや、たいした用はないんだが、なんとなくな。そうそう、うちの妹がこないだ北校に入学してさ。それで、SOS団を作るとか言ってんだよ」
『えっ?ホント?こりゃあ、OGのあたしがひと言、物申しとかないとね』
「そうだな、あいつもお前に会ったら喜ぶぞ」
それから、何分かハルヒと話し、電話を切ってから俺はあの宇宙人と未来人と超能力者の顔を思い出していた。

妹よ、作るのは自由だが、俺のときのSOS団を超えるなんてことは、不可能だぜ。

さてさて、もう一眠りするか。

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