新学期が始まり、一ヶ月程過ぎた5月のある日。
SOS団の私室と化した元文芸部室で、
いつものように、朝比奈さんの淹れてくれた美味いお茶を飲みながら、古泉相手に将棋をしていた。
古泉が次の手を考えてる間、ふと顔を上げてSOS団メンツを眺めた。
長門はいつもの場所で本を読んでいる。
朝比奈さんはハンガーの前に立ち、コスプレ服を整頓したり掃除している様だ。
平和な部室。それというのも、いつも何かをしでかすハルヒが居ないからだ。
どこにいったのやら。どうせまたろくでもないことを考えなら校内を徘徊しているのだろう。
視線を元に戻す。古泉が駒を握り、手を進めたと同時に扉が勢いよく開かれた。
我らが団長様の登場である。ハルヒはニコニコとご機嫌な顔つきをしている。今度は何を思いついたんだ?
そして俺は久しぶりに驚かさせられる事になる。
一応言っておくが、俺は今までに散々色々な事に巻き込まれ、ちょっとやそっとのことでは驚かない自信がある。
だが、今回のハルヒには意表を突かれた。ハルヒの横には小柄な少女が立っていた。
そんなに校内をうろついた事はないが、その少女を今まで見た記憶がない。
推測から言うと、新入生って所だろうか。俺が驚いたのはハルヒの次の言葉だ。
ハルヒは少女の手を引いて中に入ると、立ち止まりこう言った。
「皆、注~目!紹介するわ。新しい団員よ!」
今、なんて言った?WHAT?新しい・・団員!? 続いて横の少女が自己紹介を始める。
「新しくSOS団に入る事になった伊勢 海奈でーす。よろしくお願いしまーす」
伊勢と名乗った少女をよく観察する。見た目は本当に高校生か?というような童顔である。
さらに胸はぺったんで、長門といい勝負かもしれない。
総合的に考えて、妹と同じ年齢だと言われても驚かない様な容姿である。
ハルヒの指示で現SOS団の自己紹介が始まる。俺の番はハルヒによって遮られ、案の定キョンと紹介された。
しかし、そんな事はどうでもいい。普通の部活動ならロリ属性の一年生が入団しましたー。ですむだろう。
だが、ここはSOS団は普通の部ではない。未来人、宇宙人、超能力者が一同に集まるというおかしな集団なのだ。
という訳で、ここには俺を除いて普通の一般人はいないし、入団することもないだろう。
ということは、目の前のロリ少女も普通ではないはずなのだ。

ふと周りのSOS団メンバーの顔を見る。
長門は無表情の中にどこか怪訝な顔付きをしている。
古泉はぱっとみれば、いつものニコニコハンサムスマイルだが、どこか影りがある気がする。
朝比奈さんは慌てた様な、どうしたら良いのか分からない様な困った顔をしている。
ハルヒだけが能天気にニコニコ笑っている。お前はいいよな、悩みが無さそうで・・。
思い返すのは2ヶ月程前の朝比奈(みちる)さん拉致事件である。(参考原作小説陰謀)
古泉の機関に敵対する組織。その尖兵である可能性もあるのである。
メンバーの紹介後、ハルヒは伊勢にある程度のSOS団活動の簡単な説明をし、
既に時刻が日暮れ時な事もあり、その日の活動は解散となった。
ハルヒ達が帰った後、ハルヒを除いたSOS団メンツの集会が行われた。
内容は言うまではないとは思うが、伊勢についてである。
集まっているのは俺、古泉、長門の3人だ。
朝比奈さんの伊勢の見張りという事でハルヒと一緒に帰っている。内容は後で連絡するつもりだ。
「で、伊勢の正体についてだが・・何か心あたりはあるか?」と俺が2人に聞く。
「こちらにはなんとも言えない、といった感じですね。敵対組織の情報はある程度聞いていますが、
その数も少なくも無く、完全に特定はできません」と古泉。続いて長門が、
「ある程度は理解した。でも・・ありえない存在」
どういうことだ?という俺の更なる問いに、長門が続ける。
「彼女はこの世界に存在するはずの無い存在」
よく分からないな・・存在しているのに存在するとは・・幽霊とか、そういう類のものなのか?
「違う。貴方にも分かるように言えば・・彼女は別の次元の存在」
つまり・・、異世界人ってことか?
「そう」
俺は初めてハルヒを知ったあの強烈な自己紹介を思い出していた。
「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところまで来なさい。」
現在そのハルヒの望み通り宇宙人、未来人、超能力者はSOS団に所属している。
ということは、1年越しで異世界人がやってきたということになる。

けれど妙だ、最近のハルヒは、今のSOS団の活動に結構満足している様子だった。
時には、ハルヒの気まぐれかもしれないが、まったく謎に関係のない事もしている。
そんなハルヒが、今頃になってそんな事を望むのだろうか?俺の問いに答えたのは、やはり長門だった。
「今回は、涼宮ハルヒが望んだ事ではない」
そうなのか?だったら、なぜ伊勢は俺たちの前に現れたんだ?古泉の敵対組織に関係あるのか?
「敵対組織に関係あるのかは分からない。でも伊勢海奈が自ら望んで私達の前に現れた事は事実」
「今まで割りと大人しく影で行動していた彼らが、とうとう表まで出てきたんでしょうか」
「わからない」古泉の問いに長門が答える。
いくら長門が万能宇宙人だとしても、未来との同期を止めた事で先のことは分からない。
結局伊勢が異世界から来たであろう、ということくらいしか分からなかった。
古泉は機関で情報を集めてみますといい、その日は解散になった。
完全に日も落ち、薄暗い道を歩いていた時。
「あの、---さんですか?」ふいに後ろから名前を呼ばれ立ち止まった。
自分の本名など久しぶりに聞いたので一瞬自分のことかわからなかった。
が、次の言葉で気づいた。「それとも、キョンさんと呼んだ方がいいでしょうか?」
振り返る。薄暗い夜道を照らす街頭の下に、一人の少年が立っていた。
北高の制服を着ているその少年は、俺と同じぐらいの年頃だろうか。
古泉の様に気持ち悪いほどのハンサムスマイルとはいえないが、それなりの笑顔で俺を見ている。
「こんばんは、キョンさん」そういいながら俺に近づいてくる。
「1年2組の鏡野と言います。時間が無いので手っ取り早く説明しますね」
俺は黙っている。というよりはいまいちよく分かっていなかっただけだが。
「僕はこの世界の人間ではありません。もう伊勢海奈には会いましたよね?彼女と僕は同じ世界の人間です。」
次々に喋る。その表情はどこか焦っているように見えた。
「彼女の動向に注意してください。彼女は・・」鏡野と名乗った少年は次に恐ろしいことを口にする。
「涼宮ハルヒさんの命を狙っています」一瞬、頭の中が真っ白になった。
なんだって?伊勢がハルヒの命を狙っている?そんなもん狙ってどうすんだ?新手のギャグか?
いきなりの爆弾発言に完全に動転してしまい、何がなんなのか分からなくなる。

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