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土曜日、と言えば不思議探索の日である。
いつも通り俺が最後に到着し、喫茶店でみんなにジュースを奢って組み合わせを決めて外にでた。

「キョン! いい? デートじゃないのよ、遊んでたら殺すわよ!」
「はいはい。わかってますよ。」
「じゃあ12時にここに集合ね!」
やれやれ。組み合わせは俺と長門、ハルヒと朝比奈さんと古泉になった。長門は図書館に行く暗黙の了解のようなものがあって無言で図書館に向かう。
図書館に着くと長門はすぐにいなくなった。いつのもように俺は1人で軽くて細い小説を手に取りイスに腰掛け、今にも寝そうな状態だった。


「あの、お兄さん?」
ん? 俺の事か?
「ああ、よかった。お兄さんですね。」
ああ、俺の事を読んでたのか。誰も俺をお兄さんと呼ばないから気付かなかったよ。妹でさえキョンくんとか呼ぶしな。



「ミヨキチか、久しぶりだな。妹と一緒なのか?」
「今日は一緒じゃないです。お兄さんは何してるんですか?」
俺は何をしてるんだろう。それより実の妹にキョンくんと呼ばれてミヨキチにお兄さんと呼ばれるのはどうなんだろう。
「ちょっとね。ミヨキチこそ何してるんだ?」
「母に頼まれて本を借りに来ました。母が今日どうしても外せない用事がありまして、私にお使いを頼んだのです。でも高いところにあって取れなくて、しかたないから係りの人を呼ぼうと思って探してたらお兄さん見つけたんです。」
何てできたお嬢さんでしょう。妹の座を差し上げたいくらいだ。
「なら、俺が取ってあげるよ。」
「え? あっありがとうございます。」
「どういたしまして。で、どこにあるんだ?」
「あそこです。」
そうして指した本のある場所は、確かに高いところにある。真下まで行くと、手を伸ばして見る。
俺が背伸びしても届かないとは何たる不覚。と言うか一般男子高校生の背の届かないところにまで本をならべるなと言いたい。
「ダメだ、すまんが届きそうにない。あと20センチくらいなんだがなぁ。」
「あの、もしよければ、私に肩車してもらえませんか? ダメだったらいいんです。」
まあミヨキチは小学生だし、軽いだろうと二つ返事でOKした。
「本当にすみません。」
そういって担いだミヨキチは、なるほど小学生らしく非常に軽かった。ミヨキチは俺の肩の上で本を取って、…俺の頭の上に落とした。

「ぐおっ!!」
ドサドサっと音をたてて大量の本が落下してきた。俺は情けない声を出しながら本の下敷きになってミヨキチごと転倒した。
静寂だった図書館に本の落下する音と俺の情けない声の不協和音が響いた後、ミヨキチを本の中から掘り出した。
「大丈夫か? ミヨキチ!」
「大丈夫です。それより、本を落としてしまってすみません。」
本当に申し訳なさそうにしているミヨキチ。人の少ない図書館なので回りは誰もいない。よかった恥ずかしい所を誰にも見られなくて。

「気にしなくていい。転んだ俺が悪いんだしな。俺が転ばなければこんなに大惨事にはならなかった。」
「いえ、お兄さんが転んだのは私が本を落としたのが原因です。」
「じゃあ二人共悪いという事でチャラにしよう。それより怪我はないか?」
「あの、ちょっと足が痛いです。」
そう俺がミヨキチの足を見た時は赤く腫れていた。骨折や捻挫まではいかないだろうが、痛そうだった。
「これじゃあ歩けないな。家までおぶって行くから。」

よし、と構えようとしたタイミングで携帯が震えた。ハルヒだ。俺は小さい声で電話にでた。
「もしもし?」
「何やってるの? 時間よ! すぐ来なさい!」
ガチャ。ああ、何て人の話を聞かないやつだ。
「お兄さん忙しいんですか? 歩いて帰りますから平気ですよ。」
いや、このままミヨキチを放っておける訳がない。ハルヒももちろん放っておけない。 長門に治してもらうか? いや、それはムリだ。
「ミヨキチはこれから何か用事あるのかい?」
「用事はないですけどどうしたんですか?」
よかった。用事があると言われたらタクシー呼んで帰らせようと思ってたんだ。毎週みんなにたかられている俺にはタクシーの料金は高すぎだ。
「じゃあここで本読んで俺が戻ってくるのを待つか、それか 俺の用事に付き合ってもらってから送るけどどっちがいい?」
ミヨキチは少し悩んで、
「迷惑じゃなければ、お兄さんと一緒に居たいです。」
「そうかい、じゃあ背中に乗ってくれるかい?」
ミヨキチは「はい。」と恥ずかしそうに返事をして俺の背中におぶさった。

さて、長門を呼びに行くか。
長門はすぐに見つかって、そのまま出発した。ミヨキチには何もふれてこないし、いつにも増して無言だ。
「さて、ハルヒに起こられるから急ごう。」
長門は借りた本を抱え、ミヨキチを見た。
「そうだ、言うのを忘れてた。この子はミヨキチと言って妹の友達だ。」
「初めまして、吉村美代子と言います。」
長門はわずかに頭を下げた。
「こっちは長門だ。じゃあ急ごう。」
急ぐのは主に俺だが。


集合場所に着くと、唖然とした表情のままの3人が俺を見ていた。
予想されたハルヒの怒声はなく俺はほっとしていた。
「ちょっとキョン、その子どこで誘拐してきたの!??」
「するか! 妹の友達のミヨキチだ!」
そういって俺はみんなに紹介した。喫茶店に行くついでに経緯も話した。

「そうなんですかぁ。キョンくん優しいですね。」
いえいえ、俺が悪かったんですよ。それに、朝比奈さんが怪我をしたときには飛んでいってお姫様抱っこで送りますよ、と。
「キョンってロリコン?」
「断じて違う!」
ニヤケ面は長門とヒソヒソ話してる。こっちを見て話してるから俺の事だろうな。こいつら…。
「じゃあ午後の探索をするわよ!」
「ちょっと待て! だから俺はとりあえずミヨキチを家まで送っていかなきゃならないんだって!」
「あらいいじゃないおんぶしたままで。ミヨキチちゃん? 今日は用事はないんでしょ? それともキョンの背中は嫌?」
「えっと、お兄さんの背中は暖かくて、もう少しいたいです。」
俺の意見は関係なしか。歩くのも疲れるのもここの金払うのも俺なんだがな。
「じゃあ決まりね!」

午後は俺&ミヨキチと朝比奈さん、ハルヒと古泉と長門に別れた。
ミヨキチにまでくじ引きさせやがって、俺とじゃなかったらどうするつもりだったんだ?
「じゃあキョンくん、行きましょう?」
「すみませんお兄さん。歩き回るなんて知らなかったので。迷惑でしたらこのまま置いてってもらって結構です。」
「別にいいさ。ミヨキチは軽いから苦にはならん。帰りたいなら送るから、そうじゃないなら帰りたくなるまでは気にしないで俺の背中に乗っててくれ。」
「すみません。」
ミヨキチは恐縮そうに言った。

「ミヨキチちゃん?そういうときは『すみません』じゃなくて『ありがとう』って言うのよ? キョンくんはお兄さんだから頼られる事がうれしいの。」
「そうだぞ、ミヨキチ。俺に対しては何も遠慮する必要はない。まあハルヒみたいにまったく遠慮しないのは勘弁だけどな。」
そういうと、ミヨキチは朝比奈さんをなにやら尊敬の眼差しで見つめているようだった。
それからいつも通りに散歩に出発した。朝比奈さんとミヨキチの要望で、最初は朝比奈さんがおんぶすることになった。朝比奈さんの優しさが心に染みる。

しばらく歩くと公園が見えてきた。朝比奈さんとミヨキチは二人で話していたので、俺はジュースを3本買って来て朝比奈さんとミヨキチに渡した。
朝比奈さんとミヨキチが「ありがとう」とうれしそうに言った姿は姉妹のようだった。

少し休憩した後で今度は俺がミヨキチを背負う事になった。朝比奈さんに疲れが見えたため俺が無理やり交代したんだ。
そのときミヨキチが申し訳なさそうにしていた態度に対する朝比奈さんの言葉から雲行きが変わってきたんだ。


「うふ、いい子ですね。」
確かにミヨキチはいい子なんだ。礼儀正しくて会話だけ聞いてるとどっちが年上かわからなくなるときがある。
「そうですね。俺も本当にミヨキチはいい子だと思いますよ。」
「それにキョンくんに懐いてて、キョンくんは子どもに好かれますよね。」
「そうなんですか? 妹はともかく、俺は子どもに好かれた事なんてありませんよ?」
「ミヨキチちゃんがキョンくんの後ろで幸せそうにしてますよ?」
俺は後ろを見ようとしたが、ミヨキチは俺の背中で必死で顔を隠していたため全然わからなかった。

「ミヨキチちゃん、キョンくんの事好きよね?」
なんて事を聞くんだ朝比奈さん! あなたはハルヒがうつったんですか?
「…はい。私は、お兄さんの事が好きです。」
最後に、1人の男性として、と付け加えた。
ミヨキチ! なんて事を言うんだ! 冗談でも言っちゃいけません!
「ミヨキチ、気を使わなくてもいいんだぞ?」
「本気です。今日も図書館でお兄さんに会えたときからずっとドキドキしてました。」

「ねっ? キョンくんは子どもに好かれるんですよ?」
朝比奈さん、子ども心に敏感なのは結構ですけどこの空気をどうすればいいのだろう。これは告白なのだろうか。
いや、ここは大人の度量で乗り切ってあげよう。まだ高校生だが、ミヨキチよりは大人なはずだ。

「ミヨキチは俺の事を好きだったのか。ありがとう。」
ああ、情けないな俺は。
「じゃあわたしは気を利かせて涼宮さんのところへ行って状況を説明してきますね? キョンくんはそのままデートしてからちゃんと送ってってください。」
朝比奈さん、それは最悪の気の利かせ方ですよ。朝比奈さんはさっさと行ってしまったが、今の状況だとハルヒ達はきっと俺たちを探してストーキングするだろう。それだけは阻止しなければならない。
とりあえずミヨキチにどうしたいか聞いてみよう。

「どうする? 朝比奈さんの言った通りどっか行くか? それとも帰るか?」

「えっともう少し、お兄さんと居たいです。」
「じゃあどこか行きたいところあるか?」
「お兄さんの行きたいところに行きたいです。」
さて、どうしたものか。俺は正直帰りたい。だが雰囲気的にそれは許されなさそうだ。 …そうだ、妹を口実に使ったらどうだろう?

「じゃあ妹もうちでヒマしてると思うし、うちにくるか?」
「お兄さんと2人がいいんですけど、嫌ですか?」
玉砕した。どうしよう。何をしたら良いのかさっぱりわからん。

「嫌じゃあないさ。ただ、小学生をどこに連れて行ったらよろこぶのか、検討がつかないんだ。」
「じゃあ…小学生としてじゃなくて、私を1人の女だと思ってください。」
恥ずかしいのか、消え入りそうな声でそう言った。ミヨキチは本気なんだな。まいった。俺にはどうしようもない。

「じゃあ、いつも俺が朝比奈さんやハルヒといるときのように散歩でもするか。」
「はいっ」
ミヨキチはさっきより元気のある声で言った。さて、ミヨキチを背中に乗せて、ハルヒ達に見つからないように俺が限界を迎えるまで歩き続けるとするか。
もしハルヒ達に見つかった場合を考えてちょっと遠くまで散歩する決意を胸に秘めた。もし見つかったら明日から学校でロリコンの称号が与えられそうだしな。もう手遅れかもしれんが。

それから俺とミヨキチは妹の事、学校の事、SOS団の事をお互い話して夕暮れになるとミヨキチは何時の間にか寝息を立てていた。
「どうすっかな。」
起こすのも可哀想だし、起こさないと帰れないし。自宅方面に向かってトボトボ歩く俺は周りからみたらどんな人間なんだろうとか考えさせられた。




自宅に着くころ、妹に出くわした。

「キョンくんだぁ! 何してるの?」
我が妹がニコニコしながら擦り寄ってきた。
「ミヨキチを背負ってるんだ。ミヨキチんちは知ってるか?」
「なんでミヨキチ背負ってるのぉ?」
「帰ったら説明してやる。だからミヨキチんちを教えてくれ。」
「はぁ~い。こっちだよ!」

このとき俺はミヨキチの親に何て説明すればいいのか考えていた。そして、妹が居たことに感謝した。
「ここだよ~」

なるほど、妹と同じ小学校って事は必然的に家は近いのか。失念してた。
ミヨキチの家は中々古風で、しかし大きな家だった。両親の出来がいいからミヨキチの出来もいいのだろう。
うちとは比べ物にならないな。両親、俺、妹がそろっても何も太刀打ちできないだろう吉村家に着いた途端に妹がチャイムを押した。
「え?」
ちょっと待て! 俺は何にも心の準備ができていない! どうする? とりあえずミヨキチを起こすか!
「ミヨキチ! 着いたぞ! 起きなさい?」
「え? おはようございますお兄さん」
ダメだ、寝ぼけている。
「あれ?お兄さんが何で? ああ! すみません寝ぼけてたみたいです。」
「妹もいるぞ。家に着いたから家族に説明しといてくれ。」
「言ったと思いますが、今日誰もいないんですよ。」
ああ、そういえば図書館でそんなこと言ってたな。
「じゃあキョンくんもミヨキチの家で遊ぼっ!」
「残念だが、俺は今日は帰るよ。疲れてしまったんでね。」

さて帰ろう、と思ったら背中から降りたミヨキチが寂しそうな、申し訳なさそうな、それでいて恥ずかしそうな複雑な表情で言った。
「あの、お兄さんを疲れさせてしまったのは私ですし、お茶の一杯だけでもどうですか?」
「そうだよ~キョンくん! それにね、ミヨキチはキョンくんの事好きなんだよ?」
こら、うれしそうにそんな恥ずかしい事を言うんじゃありません!ミヨキチが赤くなってるでしょう?

「あの、ダメ、ですか?」
消え入りそうな、消失世界の長門の様な声で言われると断れないじゃないか。
「じゃあ、悪いけどお茶を一杯だけいただこうかな。妹よ、長居はしないからな?」
「はぁ~い!」
絶対わかってないだろ。


ミヨキチの家は中に入ってもやはり大きく、外から見ると大きく見えるようなギミックではなかった。
「じゃあそこに座って待っててください。」

やれやれ、やっと座れる。今日は歩き回って疲れたな何て考えてると妹が俺の膝の上に乗ってきた。
「なぜそこに座る? りっぱなソファーが泣いているぞ?」
そう、広い部屋に合った立派なフカフカのソファーなんだ。今さら周りを見渡しても家具は全て高級そうな物だった。
「ミヨキチだってキョンくんにおんぶしてもらってたじゃん」
妹は拗ねたように言う。そういえば最近おんぶだのしてないし、構ってもやれてなかったな。
「なら明日にでもおんぶくらいしてやる。だから今はゆっくりと俺を休ませてくれ。」 
「しょうがないなぁキョンくんは。」

やっと離れたか。
「じゃあ明日はお父さんもお母さんもいないからどこか連れてってね!」
なに?初耳だぞ??
「さっきお父さんの親戚が亡くなって明日はお母さんと行ってくるからキョンくんとお留守番しててって頼まれたの。」

そんな不条理な約束をさせられそうになったところにミヨキチがレモンティーを持ってきた。
「お口に合うかわかりませんが、飲んでください。」
「ありがたくいただくよ。」
「ありがとー!」
ああ、妹も飲んでる間は静かになるんだな。それにしてもミヨキチは本当に大人びている。妹は自分でお茶を入れるという概念がないだろうから。

そうして飲み終わった俺たちが帰ろうとすると、玄関でミヨキチが言った。
「お兄さん、明日良かったらお礼にお兄さんの家に伺ってもよろしいでしょうか?」
もしかしたらさっきの会話聞かれてたのかもな。でもそんなに恥ずかしそうに聞かれると断りにくいじゃないか。
「いいよー! ミヨキチもキョンくんに乗ろう!」
ああ、妹のバカ。どうして空気を読めないんだ? お兄さんは疲れているんです。もちろんそんなこと今さら言えないが。



そうして俺は、今度は妹を背中に乗せて帰路についている。
妹はやはりミヨキチのように寝息を立てている。そんなに俺の背中は寝心地がいいのか? 自分の背中におんぶされて寝てみたいものだ。ムリだが。

家について妹を寝かしつけ、風呂に入って食事を取り、明日はどうしようなんて考えながらベッドにもぐりこむ。
そういえばハルヒ達はどうなったんだろう。あれから連絡が来ないという事は結局見つからなかったのか?
それとも逆に見つけたから連絡しなかったのか? もしかしたら俺の杞憂で探してすらなかったのかも知れん。
しかし全ては明日が終わってからだ。

日曜日が何のためにあるのか考えながら眠りに着いた。



おわれ
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