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 特に何の事件も起こら無い、いつも通りの一日で終わる筈だった。
そのいつもから脱線してしまった原因と言うか発端と言うか、
とにかくそれをもたらしたのは、意外にも宇宙人を庇った超能力者だった。
 
その日も俺達暇人はSOS団アジトで各々の好きなことを時間の許す限りやるという、
充実しているんだかしていないんだか判断しにくい活動を行っていた。
「……」
先程読み終わった文庫本を持った長門が、壁に添って鎮座している馬鹿デカイ本棚の前まで移動して、立ち尽くした。
どうしたんだろう、とカードを取り出したは良いが、肝心の対戦相手が掃除当番で不在の為、
手持ち無沙汰な俺が長門を見ていると、長門は振り返り、古泉がいつも座るパイプ椅子を長机の下から引きずり出した。
長門はそれを本棚の前まで引きずり、わざわざ上履きを脱いでから上に立った。
見れば、本棚の上にダンボールが置いてあって、そこから分厚い本の背表紙が覗いていた。
そして長門はそれを取ろうと椅子の上で爪先を立ててぷるぷると背伸びをしていた。
遠回しだが仕方が無い、長門お得意の情報操作は今ここにハルヒがいるので使うことはできないからな。

しかし、そうやっても長門の身長では届かないようで、長門はますます背伸びをした。
震える足元がちょっと危なっかしい。
助けるか?と俺が立ち上がりかけると、長門の指がダンボール箱を捕らえた。
届いたんなら別にいいか、と座り直す。
「あ」
かくん、と元から不安定だった椅子が傾いた。
どたっ、長門が尻餅をついた音がする。
痛いの一言も無しに、長門は本棚を見上げた。
中途半端に引き出されたダンボールがバランスを崩し、中身をブチまけながら長門に降りかかる。
反射的に、それらに向かって長門は手をかざし、口を開いたが、
物音を聞き、パソコンの画面から目を離したハルヒが
「有希!」
と叫んだので、それで長門はハルヒがいることを思い出し、また直ぐに手を下ろし口を閉じた。
いや、冷静に状況説明してないで、何でも良いから動けよ俺、
と思うのだが、生憎俺の運動神経は人並み程しかないので、
俺が椅子を倒して立ち上がった頃にはハルヒの方が先に長門の元へと一歩踏み出していた。
朝比奈さんが、もう間に合わないとばかりに両手で目を覆う。
そして更に、長門まで諦めたのか、長門は目をつぶった。
本の雨が長門を直撃し――
「危ない!!」
――なかった。
その代わりと言っては何だが、そこには長門に覆い被さるようにしてしゃがみこみ、
落ちてきた本から長門を守るようにそれを背中で受け止めている古泉がいた。
…お前はどこのスーパーマンだ。
 
一方、本がなかなかぶつかってこない事を不審に思った長門は
閉じていたまぶたをそっと上げ、
古泉が目の前で微かに眉を寄せているのを目の当たりして、
今度ははっきりと目を開いた。
「…お怪我はありませんか?」
本の襲撃が止んで、古泉は真顔で長門の顔を覗きこんだ。
「無い」
「そうですか、なら良かった」
「志村…」
「はい?」
「志村、後ろ後ろ」
長門が古泉の背中越しに指した物とは、
先程まで長門が立っていたパイプ椅子であり、それはバランスを保てずに
「あだっ!!」
ヒーローの右手首に直で落ちた。
せっかく上手いこと決まってたのにな、古泉…
長門、お前はどこでそれを覚えたんだ?
 
「古泉くん!ちょっと、大丈夫!?」
「ええ、大したことありませんよ」
「でもあの、一応保健室で診て貰った方が…」
ハルヒと朝比奈さんが、立ち上がった古泉に駆け寄る。
俺はというと、床に放り出された古泉の鞄を拾っていた。
扉が開けっ放しだ。
大方、入って来た瞬間に長門のピンチに気付いて、
ダンボールと長門の間に飛び込んだんだろう。
 
その長門は漸く床から立ち、
ハルヒに左手を掴まれ保健室に連行されかけている古泉の方を見ていた。
 
どうやら、古泉が負傷したのは右の手首だけでなく、
床に手を付いた時に突き指もしていたらしい。
長門は突っ立ったまま扉を見つめ、何やら考え込んでいたようなので、
俺は声を掛けずに一人で本を拾い集め、それが終わった頃にハルヒ達が保健室から戻って来てそう言った。
割と勢い良く飛び込んでたからな。突き指程度で済んで何よりだ。
 
「みっくるちゃあ~ん、ナース服に着替えよっかあ」
せっかく小道具もすくねた事だし、とハルヒが包帯やら絆創膏やらガーゼやらを片手に朝比奈さんに詰め寄った。
「ふぇっ…でもでも」
「いいから!さっさと着替えなさい!!」
そう言って朝比奈さんに襲いかかるハルヒを視界の片隅に捕らえた俺は、古泉を伴って部室を出た。
そうしたら、
「……」
長門までついて来た。
「大丈夫か?」
「ええ、ちょっとお間抜けでしたけど」
苦笑いして、古泉は包帯に巻かれた右手の中指と手首を握った。
「まあ、長門さんのお顔に痣を作ってしまうより幾何かましです」
「…だってさ、長門」
古泉の直ぐ横で棒立ちになっている長門に誘導してやる。
後は長門が自分自身で言うことだ。
「何故」
そうそう、そうやって素直にありが……って、『何故』と来たか。
「私を助けても、あなたやあなたの所属する機関には何の利益も生じない筈」
あのなあ、と俺が長門に言ってやっても良かったが、今回ばっかりは古泉に任せよう。
「目の前に危機が迫っている人がいたら、あなただって利害の有無に関わらず、
とりあえずはその人の安全の為に動くのではありませんか?」
模範解答だな。
長門は古泉をじっと見上げ、暫くしてから目線を下にやり、やっぱり黙りこくった。
「僕はそこまでフェミニストではないつもりです。
まあ、長門さんのお顔に絆創膏が貼り付いているのを見たくないと言うのは本当ですけれど。
ただ、大抵の危機から余裕を持って避けられる能力を持ち合わせている長門さんが、
涼宮さんがその場にいらっしゃるという枷があるだけで、あの様に受け身を取るのを目にした途端…
自分でも新しい超能力…テレポートにでも目覚めたのではないのかと思う位に、
気付けばあの様な行動を取っていました」
爽やかさを少し控え目にした、困った様な笑顔で言う古泉は、
俺には嘘を吐いている風には見えなかった。
 
しかし、自分ではフェミニストではないつもりかもしれんが、周りから見たお前は結構な勢いで優男だぞ。
古泉がそれ以上何も言わないので、俺が代わりに言ってやった。
「そう」
長門は下げていた目線をしっかり上にやって、
「古泉一樹、感謝する」
と、ちゃんとはっきり言った。言葉は固いが。
「どう致しまして。ご無事で何よりです」
こっちも長門程ではないが、割とお固い。
「あ、そうだ。
有ー希ぃ、ちゃんと古泉くんに、助けてくれてありがとうって言うのよー!」
部屋の中からハルヒが大声で長門に言うと、
「もう言った」
と、長門はぼそりと呟いた。その小さな声での反論が面白かったのか、古泉はほんの少し笑ってから、
「もう言って頂きましたよ」
と扉の向こう側にいるハルヒに言って、
「ね、長門さん」
「そう」
長門はこくりと頷いた。
 
ここで話が終わっていたら、
ちょっと甘酸っぱさが足りない中学生日記のようになっていたのだが、
古泉と長門にとってはどうもこれだけでは終わらなかったらしい。
むしろここからが本番なんだそうだ。
と言われても、ここから先は俺の目の届かない所で起こった出来事なので、
一時的に語り手の座を当事者の片割れである古泉に譲ることになる。
そんじゃ、頼んだぞ。
 
はい、承りました。
長門さんをちょっとしたハプニングから庇うという、
もしかしたらお節介だったかもしれないな、
と今になってから思う行動をとった次の日。
情けないことに右手が使えないので一時間目の授業が終わった今でも、
僕のノートは白紙のままだった。
隣の席のクラスメイトのノートをコピーさせて貰えるように頼もうと、
首を横にスライドさせたら、
「……」
長門さんがそこにいた。
うわっ、と驚いて上げそうになった声を慌て飲み込む。
「お、おはようございます…」
長門さんはこくりと頷いた。
僕が用件を聞く前に、長門さんは机の上に転がっているシャーペンを手に取った。
ちらりと黒板を見て、ノートに書き込む。
ものの2秒で長門さんは板書を終えてしまった。
 
一度もペンを持ち替えていないというのに、
赤のチョークで書かれている語句は、きっちり赤い字でノートに書かれていた。
ぎょっとして教室全体を見渡す。
良かった、長門さんの人間から外れた能力を目にした生徒はいないようだ。
「ありがとうございます」
「いい。次も来る」
僕が頭を下げると、彼女はそう言って教室から出て行った。
もしかしたら、彼女は彼女なりに、すまないと感じているのかもしれないな、と僕は思った。
しかし、僕は多分要らなかっただろう大きなお世話をしただけだから、
気を遣わせてしまったのなら反って悪いことをしたな、とも思った。
ノートに綴られた、まるでプリントアウトしたような明朝体を見ながら。
 
「次、体育?」
長門さんは宣言通りに、
二時間目の休み時間も僕の所に来てノートを取ってくれた。
教室を移動し始める生徒達を見て彼女がそう言ったので
(流石と言うべきか、彼女は「たいく」ではなくきっちり「たいいく」と言った)
僕は、
「はい。今日は男子はバ…」
スケ、と続く筈が、がっ、とネクタイを思いっ切り引き下ろされ、
 
代わりに、ひゃへっ、と間抜けな声が口を吐いて出た。
「着替えを手伝う」
その意味を僕が理解するより先に、彼女は掴んでいたままのネクタイを緩めた。
続いてブレザーに伸びようとする手を止めるべく、手首を捕まえようとすれば、
僕の手はばちっと彼女に払われた。
地味に痛い、いやそれより、誰かこの人止めて…!
異変に気付いているであろうクラスメイトに片っ端から助けを求める。目線のみで。
……なんで皆こっち見るだけ見て止めてくれないんだ!
 
あまつさえ男子なんてニヤケてるのが半分、
睨んでるのが半分……
え?睨まれてる?なんで?
?………あ、長門さんファン!?
「け、見学ですので、着替えなくてもいいんです…!」
本当は見学であっても準備体操やボール拾いをやらなくてはならないので、
着替えないとならないのだが、放課後にクラスの男子半分に体育館裏に呼び出しを食らうより、
教師に叱られる方がずっと良い。
「そう」
上手いこと騙されてくれたのか、
長門さんは直ぐに手を離してくれた。
ほっ、としていると、
長門さんはネクタイを結び直そうとしていた。
が、上手くいかないのか、何とも彼女らしくないことに、
もたもたと指を僕の襟辺りで彷徨わせている。
「長門さん?」
「意外。結ぶ方が困難」
何でもかんでも一通り出来てしまう長門さんが、
僕が難無く結べてしまうネクタイ一本に、少しむきになったような声でそう言った。
その様子を見て、僕は無意識の内に、かわいいなあ、と思ってしまった。
…これ今、僕絶対へらって感じに笑っちゃってたよな。
男子諸君、お互いに目配せをして何を…あ、もしかして、
長門有希ファンの長門有希ファンによる
長門有希ファンのための古泉一樹撲滅会、
今ここに結成、だとか?
 
それよりも、皆そろそろ体育館に行かないと授業に遅れるというのに。
休み時間の残りを解っているのだろうか。
と、僕が他人の心配をしていると、
「できた」
ぎゅううううっ
「ぐへあ!?」
自分の心配を先にするべきだった。
長門さん、それはキツく締め過ぎです。
僕が苦しさのあまりげほげほ咳込むと、彼女は
「力加減を間違えた。…大丈夫?」
と僕の背中を擦りながら顔を覗き込んできた。
2mmg程、心配の色を長門さんの顔に見つけて僕は、
こいつわざとやってるんじゃないのか、などと疑いかけていたのを慌てて消した。
そして、やっぱり無意識の内に、あ、かわいい。と思っていた。
そんな余裕、休み時間の残り的にも男子からの突き刺すような目線の強さ的にも、全く無いはずなのに。
 
四時間目が終わると直ぐに長門さんは九組にやって来た。
えーと、手に持っている五段の重箱は一体…?
「お弁当。あなたの分も作ってきた。普段は三段」
板書を終えて、長門さんは僕の前の机の椅子を90度回転させた。
幸い、その席の生徒は学食派なので、誰も座っていなかった。
三段が五段に…二段分も食べられるだろうか。いや、それよりも先に、
「今日は片手で食べられるようにパンを買ってきたので大丈夫です、すみません。
お気持ちだけありがたく頂きます」
そう言って机の横に引っかけていたコンビニのビニール袋からパンを取り出して、
僕の机を挟むようにして向かい合って座っている長門さんに見せた。
多分彼女なら五段だってぺろりだろう。
しかし、
「却下。栄養が偏る」
彼女はそう言って、風呂敷を解いた。
続いて重箱を一段ずつ机の上に並べていく。
一段目、炊かれた白いご飯。
二段目、チャーハン…
三段目、お赤飯……
四段目、栗ご飯………
五段目、鳥五目…………
こっちの方がよっぽど偏るだろ…栄養
「あの、長門さん」
「何」
「炭水化物お好きなんですね…」
「割と。
しかし、それだけでは無い」
 
「…と、おっしゃいますと?」
「先日、炭水化物ダイエットという言葉を保健の授業で耳にした」
「………」
「私はダイエットとは無縁。何故なら栄養を大量に摂取しても、
消費するカロリーを自分で操作できるから。
炭水化物のみを摂取するだけで減量が成されるとはにわかには信じられない。
よって、あなたでこのダイエットのデータを取ろうと思う」
「あの、長門さん」
「何」
「非常に言いにくいのですが、
炭水化物ダイエットは、炭水化物だけをとるものではなく…
炭水化物を絶対にとらずにいれば成される減量方のことです…」
「嘘」
「本当です…」
「………」
「………」
 
「…そう」
とてつもなく長い間に感じられた沈黙を破ったのは、
長門さんが道路工事にでも使えそうな削岩機をポケットから取り出しながら言った一言だった。
「これが、穴があったら入りたいと呼ばれる状況…」
ぶつぶつ呟きながら、長門さんは先程出したドリルを床に突き立て―ええええ!!??
爆音を轟かせ始めたドリルの取っ手を握る長門さんの手に、僕は慌てて飛び付いた。
クラスメイトが悲鳴を上げたが機械からの大音量に掻き消されている。
「長門さん!止めて下さい!長門さんっ!」
「話しかけない方がいい。
今私は、私が入れるだけの深さのある穴を掘ろうとしている。
邪魔をするのであれば、あなたにも穴を明ける」
今日の長門さんはえらくお喋りだな、なんて考えている場合ではなく。
体に穴が増えるのは御免被るが、教室の床に穴が明くのも勘弁願いたい。
「大丈夫です!
僕もつい最近まで雰囲気をふいんきだと思い込んでいまして、
報告書をパソコンで書く際に当然変換できなくて!
パソコンが壊れてるのではないかと森さんに見て貰ったら、延々と笑われてしまいましたっ!
目茶苦茶恥ずかしくて、それこそ穴があったら入りたいと思いましたが、僕は穴を明けませんでした!!
勘違いは誰にでもあります!」
だから長門さんもドリルを止めて下さい、と爆音に掻き消されないように叫び続けると、
暫くして耳をつんさぐような大音量はだんだん小さくなり、ドライヤー程の音量になって、
最終的にはきれいさっぱり無くなった。
ああ良かっ…て訳にもいかない。
一刻も早く先程の音を耳にした人間に情報操作を行ってもらわないと。
 
「パーソナルネーム長門有希を中心とした半径2、483kmの範囲に存在する有機生命体の聴覚、
及び視覚情報を改竄。
尚、パーソナルネーム古泉一樹は対象外とする」
今度こそ、ああ良かった…
長門さんは何事も無かったように昼食を取る生徒達
(実際何も無かったことになったのだが)
に紛れて席に戻った。
彼女がドリルをポケットに戻したのが気になったが、僕も席に着く。
「先程、古泉一樹は対象外だとおっしゃられていましたが、
僕の記憶は消さなくていいんですか?」
「いい。あなたは私に勘違いをしていたことを打明けた。
私だけがあなたの間違いを記憶しておくのは不公平。
おあいこ」
「そうですか」
「それにしても…」
「?」
「雰囲気をふいんき…パソコンの不調…
不調なのはあなたの方、おかしい人」
おおおお前だけには言われたくねーよ!少なくとも5分前のお前を見た俺には、
お前のその言葉は腹立つだけだ!!
とも言えず、僕は
「あは、本当に。僕が森さんでも笑ってしまいます」
と言った。
僕はそんなキャラではないし、まあそれだけではなくて、
薄らぼんやり程度だが、長門さんが笑っているような気がしたからだ。
 
珍しいものを見せて貰ったから、これもおあいこという事にしておこう。
恥ずかしい、という感情が長門さんに微かながらにも芽生えているのも解ったことだし。
で、
「あの、長門さん…」
「食べて」
栗ご飯を箸に乗せて、長門さんはそれを僕の口元に突き付けた。
「いえ、食べてじゃなくてですね」
「栗ご飯、嫌い?」
「いえ、栗ご飯は好きですよ。そうではなくて」
このまま僕が口を開き「はい、あーん」なんて事態になってしまえば、
放課後なんて待たずに今ここで、僕VS男子全員の大乱闘が勃発するだろう。
血祭りに上げられるに一票。
「その心配はあなたはしなくていい。
私こそ先程からクラスの女子の大半から睨まれている。
しかし私は彼女等にどんな嫉妬を受けても平気。
今度は私があなたを守る」
…これは、ときめくべき場面なのだろうか…
最後の長門さんの台詞は物凄くかっこいいのだが、
別に今から世界を滅ぼそうと企んでいる悪の組織に乗り込む訳ではない。
それに、その場合、この台詞は死亡フラグ以外の何物でもない。
 
「それよりも、手が治るまで左利きにして貰えませんか…」
「不自然、却下」
「不自然って…実は両利きだった、とでも言えば…」
「今すぐに口を開けないと、あなたは鼻で栗を味わう事になる」
はい大乱闘スタート。
 
結局、僕の心配は杞憂に終わったようだ。
昼休みにも放課後にも乱闘は起きていない、今の所は。
僕が一口食べる度に男子が呻き、次に長門さんが一口食べると女子が甲高い声で叫んでいたくらいだ。
長門さん、それって間接…いえ、もう何も言いません。
長門さんのファンにそこまで過激な人がいるとも思えないので、
僕が心配し過ぎただけなのかもしれない。
しかし、噂にはなっていたようで、部室でSOS団団員に色々なことを言われた。
「有希はね、ちょっと感情を表に出しにくい所があるだけで、根はすっごくいいこだわ。
古泉くん、有希があなたを脱がせようとしたのも、鼻の穴に栗を突っ込もうとしたのも、
それは未遂だったそうね。ちょっとざんね…じゃなくって、
それはあのこが不器用なだけなのよ。
有希は有希なりに一生懸命、感謝を形にしようとしているんだから、
ちゃんと男らしく受け止めないと死刑だからね!」
 
「古泉くん、あのう、
長門さんは古泉くんが自分を庇って怪我をしたことに負い目に感じていると思うの…
だから、長門さんがこれでお礼が完了した、って思うまで付き合ってあげてね。
古泉くんはそんな事しないと思うけど、投げ出すようなことしないでね」
「おい古泉、お前のお節介が引き金になったんだ。
せっかく長門がまた成長しようとしているんだから、
途中放棄みたいなことするんじゃないぞ。
例え、脱がされようが栗まみれになろうが、甘んじて犠牲になるべきだ」
 
犠牲ってなんだよ…
長門さん、皆から愛されてるなあ……
そうぼやきながら、今日の団活動を終えた僕は、
一人暮しをしているマンションの部屋の鍵穴に鍵を差し込んで扉を開けた。
「ただいま」
声を返してくれる人なんて誰もいないというのに、
家で人が待ってくれている事を求めているのか、つい言ってしまう。
それは行って来ますも同じだった。
「お帰り」
ずるっ、どさっ、と肩から鞄が落ちた。
そこに正座をして、僕を見上げていたのは、座敷童。
ただし、
「な、ながっ…」
文芸部室限定の座敷童だった。
 
つづけ!
「命令形ですか…」
「そう。
そして続きが投下されるまで私達はこの睨めっこ状態を維持することになる」


一応続く。
 

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