「ねぇ、キョン?最近古泉君おかしいと思わない?」

ハルヒは団長席に座り頬杖をしながらパソコンを弄りつつ俺に言った。

「ああ、お前もやっぱそう思うか?」
確かに最近の古泉はおかしかった。少年エスパー戦隊の古泉がまともか?と言われりゃまともじゃないだろうが、最近団活を欠席しがちなのだ。俺が“例のバイトか?”と聞いてもデフォルトのニヤニヤ笑いのまま「違いますよ」と言うだけだ。何かがおかしい。

「キョン!これは事件よ!きっと何か大変なことに巻き混まれんだは!」

「大変なことってなんだよ?」

それを聞くとハルヒは目を輝かせて答えた。

「きっと誘拐とかなんかね!犯人に口止めされてあたし達に言えないのよ!」

まったくこいつの発想には脱帽だ。どうすりゃこんな話しになるんだか。

「ただ忙しいだけだろ?家の用事とかで」

「違うわよ!家の用事ならそう言うでしょ。でも古泉君何にも言わないんだから事件よ!SOS団の本領発揮ね!明日尾行するわよ!」

俺は少々うんざり気味な頭で考えた。確かに最近のあいつはおかしい。ハルヒ絡みならそう言う筈だし。それにあいつが秘密にしてることってのも気にならない訳じゃない。

俺は何度も封印しようとしてできなかったマンネリ化しつつある台詞を吐くと同意した。

「やれやれ・・・」

まあ、興味はある訳だが俺もノリノリなところを見せるとこいつがどこまで・・・それこそ長門の親玉のいるところまで付け上がらないとも限らないからな。

で、次の日だ。
俺達はいつも通り文芸部室に顔を出すと古泉が来るのを待った。あいつは休む時でも律義に部室には来る。その時後をつければいい。

尾行には長門も誘ったが“興味がない。大丈夫”と一蹴された。何が大丈夫なんだかわからんが大丈夫なんだろう。
朝比奈さん?人の後をつけるのにあれほど不向きな人はいない。昼休みにハルヒが“今日は休み”って言ってあるはずだから来ることはない。
俺達は獲物を狙うハンターのように、それでいて不自然にならないように古泉を待った・・・。

・・・
・・・
・・・
ガチャッ

古泉だ!罠にかかったな!俺とハルヒは気付かれないように目を合わせる。

「みなさんお揃いでしたか。すみませんが僕は今日も出られません。この埋め合わせは必ずしますのでお先に失礼します」


いつものニヤニヤではなく心底申し訳なさそうな表情でそういうとあいつはあっさりと帰っていった。
ドアが閉まった直後から獲物に飛び掛かる豹のような目をしていたハルヒは暫くすると頃合いとみて叫んだ。

「キョン行くわよ!尾行開始よ!」

俺とハルヒは古泉達の後をつけていた。
“達”である。俺達が尾行を始めてすぐに古泉は下駄箱のところで女子と待ち合わせていたのだ。まあ、内心予想してなかった訳でもなかったが当たるとも思ってなかったからえらくびびったね。
しかも相手の女子が“阪中”・・・これには俺もハルヒも絶句した。
そして今前方を手を繋ぎながら楽しそうに歩いている2人を俺達はつけている。それにしても絵になるやつだ。

「なあ、ハルヒ。どう思う?」

「どう?って・・・付き合っているのかしらね?あの二人」

「まあ、そう見えるよな。いいのか?前に“団員の恋愛管理も団長の仕事よ”とかなんとか言ってなかったか?」

「ん・・・古泉君は別にいいのよ。キョンと違って女の子に騙されたり、泣かせるようなこともないでしょうから」

俺はお前の中でどれだけダメな男なんだ?地味に傷つくぞ。

「じゃあ、もういいだろ?事件だった訳でもないし、古泉の秘密もわかったし満足したろ?」

俺はハルヒに帰宅を促した。

「そうね!まあ、いいわ!明日古泉君に詳しく聞いてみなきゃ!」

俺達は手を繋いで夕日に向かって歩いて行く二人を見送った。

・・・正直言って俺はこの時の二人を羨ましいと思ったね。…俺だって健全な男子高校生だからな。そんな心が表情に出ていたたのだろうハルヒは俺の顔を覗き込むようにして聞いてきた。

「羨ましい?」

「ちょっとはな」

俺は正直に答えた。その後ボソッっと言ったハルヒの一言はきっと俺の聞き違いさ
「・・・あたしがいるじゃないの」
・・・
・・・
・・・
しばしの沈黙の後ハルヒは俺の手を握ってきた。

「あ~っ!もう!ほら、青春できないキョンが可哀相だから繋いであげるんだからね!別にあたしが繋ぎたいわけじゃないんだからね!」

俺は顔が赤くなるのを自覚しながら言った。

「なあ、ハルヒ。こういうのも悪くないな・・・」

「何言ってんの!あんたが女の子と手を繋いで歩けるなんて贅沢は団長として許せないんだから!・・・でもまあ、あんたがどうしても繋ぎたくなったらあたしに言いなさい。その時はいつでも繋いであげるんだからね・・・」

最後の方だけ俯きながらハルヒは言った。きっとハルヒの顔も真っ赤だろう。夕日に照らされてるだけじゃなくてね。俺はその言葉に答えるようにハルヒの手をギュッと握るとその横顔に向かって囁く。

「サンキューな。ハルヒ…」

次の日俺は学校で古泉に阪中ことを聞いてみた。古泉はニヤニヤを崩さずに

「ああ、彼女ですか?彼女とは付き合ってる訳ではありませんよ。それは告白はされましたけど。だいたい今の僕には女性と付き合うことはできません。それはあなたがご存知なのではないですか?」

そりゃ・・・まあな。

「告白された時にそのままふってそれが涼宮さんの耳に入ったら大変なことになりそうですからね。
僕は彼女のアフターケアをしてたんですよ。涼宮さんはああ見えて友達思いですからね。
そして団員には厳しい。あなたに対するほどではありませんが・・・」

ところで何て言ってふったんだ?

「ああ、それですか?言わなきゃいけませんか?・・・・“待ってて下さい”ですよ。涼宮さんの精神が落ち着いて閉鎖空間も出なくなれば僕も普通の高校生ですからね。そのうち彼女の方が忘れるかもしれませんし。」
そう言った古泉の顔は心なしか淋しげだった。

残念だったのか?

「・・・いえ、僕はSOS団副団長の仕事がありますから。それに涼宮さんの精神が落ち着くのも近いような気もしますし。昨日はいつにも増して穏やかでしたしね」

古泉は何もかもお見通しのような笑顔に戻ると爽やかにそう答えた。

お前何か知ってるのか?

「いえ、僕はただあなたと涼宮さんが僕達の後をつけた後、手を繋いで仲良く帰ったと言うことくらいですよ。それと涼宮さんがあなたに“頼めばいつでも手を繋いであげる”ということを言ったことと・・・」

お前なぜそれを?!機関か?

「さあ~どうでしょうか?ただ、あなたと涼宮さんが手を繋いでいる時が最も涼宮さんの精神が安定していたことは事実です。
僕としては頼まなくても手を繋げるような関係になってもらえれば僕の残りの高校生活も青春しながら堪能できるのですが・・・」

何が言いたいんだお前は?

「あなたは昨日涼宮さんと手を繋げて帰れたのが楽ししくなかったのですか?」

そりゃまあな・・・嬉しくなかった訳じゃないし、ちょっと赤い顔で話しかけてくるハルヒに惹かれなかった訳じゃない。

むしろ俺は・・・

・・・だがな古泉。これからはハルヒと手を繋ぐ機会が増えるかもしれんがそれはお前らの為だからな。そうすりゃお前も阪中と一高校生として青春できるだろ?
俺が適当に付けたとはいえたまには『生徒社会を応援する世界造り』ってのもしてみたいしな。

当然この台詞だけは口に出さずに俺の心の中だけで言った事さ。

「あなたには期待してますよ。
もっと素直になってくれますように・・・僕達の・・・いえ、世界の・・・勿論あなた方二人の為にもね。
それと涼宮さんのほうには僕のから上手く言っておきますので」

いつもより心なしか真摯な口調に聞こえる古泉の言葉に俺は顔をしかめると背を向けて歩きだした。

今日の帰りにハルヒに手を繋いで帰えりたい・・・と言ってみようかなと考えながら・・・。
それと今の俺の素直な気持ちをハルヒに伝えるかどうかも。

その後の話しを少ししよう。
俺とハルヒは手を繋いで帰る機会が多くなった。と、いうよりほぼ毎日なわけだが。俺はいつハルヒに自分の気持ちを伝えるべきか迷っていた。
そんな時古泉に公園に呼び出された。

「急なお呼び出しすみません」

いや、いいがそりゃなんだ?古泉の傍らには小さな白い犬がちょこ~んと座っていた。そう、ルソーを縮小したようなやつだ。

「犬ですよ。ペットショップを見ていたら薦められまして」

誰に薦められたんだよ・・・
それより結構したんじゃないのか?なんだか高そうな犬だぞ。

「ええ、まあ。最近ではバイトもご無沙汰ですから大変でしたよ」

で、用事ってのは何だ?犬自慢か?

「ああ、忘れるところでした。涼宮さんが落ち着いてきた御礼も兼ねてこれをあなたに」

そう言うと箱を一つ渡してきた。

「ペアリングです。それを渡しながらの告白なんていかがですか?」

いや、なんか悪いな・・・

「心配しないで下さい。それは僕のポケットマネーですが驚く程安いんです。世界を安定させる告白ですから機関からも予算が出たのですが友人としてあえて僕のお金で買わせてもらいました」

そ、そうかスマンな。

金額はあえて聞かないが気持ちが嬉しいよ。…だが、機関から出た予算はどこに消えたんだ?

古泉はちらっと足元に座る犬を見たあとわざとらしく携帯を取出し時間を確認すると
「すみません。僕はこの後待ち合わせなので…それと彼女と同じ趣味を持つのは悪くないですよ」

と言って立ち去った。

俺は心の中で呟く。
“ハルヒ、確かに恋愛ってのは精神病かもしれんな・・・それと女に騙されやすそうなのは俺より古泉のほうだぞ・・・”と。

古泉に貰った指輪をどうしようか迷いながら俺は少し嬉し気な古泉の背中を見送った。


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