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冬の寒さがすっかり身を潜め、暖かな春の足音が聞こえてくる3月下旬。
僕がこの北高に転入してから早1年が経とうとしていた。
近頃は閉鎖空間の発生も、全くと言っていいほど無く
SOS団でのちょっとした騒動はあったものの、快適な高校生ライフを楽しんでいた。

そして春休みに入って間もない今日。
早速SOS団の活動があるというので、いつもの喫茶店に向かっていた。
さて、涼宮さんは今日は一体何をするんだろうか?

喫茶店にはあまり客は入っておらず、団員を見つけるのも楽だった。

「いやぁ、長門さん、朝比奈さん、どうも。
涼宮さんとキョン君はまだみたいですね。」

「あ、古泉君。こんにちは」

「………」

朝比奈さんはいつもの優しい挨拶をしてくれて
長門さんもいつもの沈黙を返してくれた。

しばらく、2人と談笑をしていると涼宮さんがやって来た。

「みんな!元気!?」

「はい、おかげさまで」

「あ、涼宮さん。こんにちはぁ」

「………」

長門さんは相変わらずの沈黙、けれど涼宮さんは特に気にしていないみたいだった。

「キョンはまた遅刻ぅ!?全く、団員としての気構えがなってないわ!ねぇ?古泉君」

「その通りで」

約束の時間にはまだ早いから遅刻ではないけれど、涼宮さんに合わせておこう。

涼宮さんが来ただけで、今までの静けさが嘘のようだった。
まぁ、僕と朝比奈さんは、涼宮さんの話に合いの手を入れるだけだったけれど。

カランコロン

喫茶店のドアが開き、ようやく最後の団員が入ってきた。

「お、もうみんな来てたのか。スマ……」

「キョン!遅い!罰金!あんた、いっつも団長を待たせてゴメンなさいの一言も無いの!?」

涼宮さん、彼は今謝ろうとしていたのでは?

「お前なぁ、人の話は最後ま……」

「キョン、いつまで突っ立ってる気!?さっさと席に座りなさいよね」

「……やれやれ」

いやぁ、本当に2人は仲が良いな。微笑ましいことだ。
そんな事を考えていると、涼宮さんが今日の活動についての説明を始めた。

今日の活動はどうやらいつもと同じ街の不思議探索のようだ。
まぁ、これなら大して面倒なことにはならないだろう。

「それじゃあクジ引きで組み分けするわよ!」

………

「さて、どこに行きましょうか?」

「……どこでもいい」

僕はキョン君と2人になったのだけれど、どうやら僕と2人なのは嫌みたいだ。
残念だ。僕にとっては同学年の男子で最も親しい人物なのだけれど。

「では、また散歩でもしましょう」

それから僕達は、コンビニで雑誌を立ち読みしたり
昨日見たドラマの突っ込みどころなど、普通の高校生2人組みのような話をした後
次の集合時間までの暇を公園のベンチに座って過ごした。

「先月も同じようなことをしていましたね」

「あぁ、そうだったな。……先月か…」

突然彼は物思いに耽りだした。その横顔には哀愁さえ漂っている。
そんな気さえ思わせるまじめな顔だった。

「……先月か。あらためて礼を言っておく。
あの時お前が助けてくれなかったらどうなっていたか。」

「先月?あぁ、あのことですか。気にしないでください。
それに、あれは僕はなにもしていませんよ。
お礼なら、森さんや新川さん、それに多丸さんに言ってください」

先月、少し先の未来から来た朝比奈さんが誘拐された事件。
本当に皆さんが無事でよかった。

「いや、やっぱりお前がいてくれて助かったよ。頼りにしてるぜ」

「……ふふ。頼られましょう」

先の一件以来、機関は涼宮さんとその周囲の人物護衛を強化するべきだと言ってきた。
確かに、機関に敵対する組織や、朝比奈さんと対立する未来人の組織。
さらには情報統合思念体の急進派などの派閥、もしくは別の宇宙規模存在。
それらがいつ行動するかは分からない。僕はキョン君には忠告するべきだった。
でも僕は楽観的だった。僕は彼に何も言わなかったのだから。

「遅いわよ、2人とも!」

「いやぁ、すみません」

合流するといつもの喫茶店に入り、また組み分けをした。
今度は涼宮さんとキョン君が同じ組みたいだ。

「……じゃ、じゃあこの組み合わせね。あたしとキョンは北の方を探すから
古泉君たちは南の方をお願いね。ほら、キョン!行くわよっ!」

「おい、引っ張るなって」

ふふっ。その時の2人は本当に微笑ましいものだった。
涼宮さんの嬉しそうな顔も印象的だった。

「それじゃあ、僕達も行きましょうか」

「あ、はい」

「………」

「それにしても、さっきの涼宮さん。ふふっ、すっごく嬉しそうでしたね」

「えぇ。僕も同感です。あの2人を見てるとこちらまで幸せな気分になってきます」

「………」

僕の班は長門さんが喋らないので、必然的に僕と朝比奈さんだけの会話になっていた。
しかし朝比奈さんとこうして話す機会もなかったので、何を話そうか考えていたとき
突然携帯がなり始めた。まさか閉鎖空間でも生まれた?
キョン君、何をしたんですか?などと思いつつ、携帯に出てみると
閉鎖空間の方がマシだったな、なんて思ってしまった。

なぜかって?

それはこういう内容だったからですよ。

「古泉、緊急事態よ!涼宮さんが誘拐された!」

「どういうことですか森さん!?」

「詳しい状況はこちらでもまだ把握できていない。
しかし誘拐されたのは事実みたい。涼宮さんと一緒にいた彼も誘拐されたわ」

「彼…キョン君ですか!?……なんてことだ。森さん、2人は今どこに!?」

「それが、上手くやられたわ。彼女らの乗った車を追跡していたのだけれど
全く同じタイプの車が3台も出てきてね。一応全ての車を追跡しているわ。
でもどれに涼宮さんと彼が乗っているかは、………分からない」

「────!?」

「今そちらに応援が行くわ。あなたは犯人グループの車の一つを追って」

「…分かりました」

クソ!なんてことだ!僕がもっと警戒していればこんなことには!

「あ、あの~。なにかあったんですかぁ?」

「……涼宮さんとキョン君が誘拐されたようです」

「え?………えぇぇぇ~!?」

「……………」

「とりあえず、こちらに応援が来てくれているそうなので
到着しだい、涼宮さんたちを探します」

「ど、どどどどどどうしよううぅぅぅぅ~」

朝比奈さんはかなり動揺しているみたいだ。長門さんも多少動揺しているように見える。

「長門さん、涼宮さんたちの居場所は分かりますか?」

「………ダメ、誘拐されたことにすら気づくことが出来なかった」

どうやら長門さんに頼ることは出来ないみたいだ。
これからの策を考えていると、応援の車が到着した。

到着した車は二台だった。長門さんと朝比奈さんにも協力してもらうつもりだったのだろう。

「僕はこちらに乗ります。お2人はそちらの車に乗ってください。
こちらから定期的に連絡します。もし涼宮さんたちを発見したらすぐに連絡を下さい」

「わ、分かりました」

「………分かった」

朝比奈さんと長門さんの乗った車は、僕とは逆方向へ走っていった。
僕の乗っている車には、運転している男、そして助手席に座っている男の2人だった。
機関の人間の全てを把握しているわけではないので、その2人の名前、それどころか面識すらなかった。
それにしても犯人は何者なのだろうか?先月と同じく未来人の組織が関与しているのだろうか。
新たな敵対勢力の可能性もあるだろう。そんなことを考えていると、助手席に座っている男の
携帯が鳴り出した。

「何?……そうか、了解した。後はこちらに任せろ」

「どうかしましたか?」

「あぁ、追跡中の車の1台を見失ったそうだ。他の3台は依然追跡中だ。
見失った車に涼宮ハルヒがいる可能性は高い。俺達はこれから見失った車を探す」

見失った車を探している間、僕には何も出来なかった。
その車を映像で見せてはもらっていたから、血眼になって窓の外を探すことくらいしか出来なかった。
せめて僕にもっと便利な超能力があればな、なんてことを考えていた。

「いた!あいつだ!!」

突然、助手席の男が叫んだ。指の先には、あの車が走っていた。

「追いかけてください!」

「言われなくても追いかける!」

見つけた。あの車に涼宮さんとキョン君が。いや、まだ可能性でしかない。
仮に違ったとしても、見つけるまで探すまでだ。

車を追っていくと工場に着いた。またベタな所に来るもんだなどと思っていると
車は工場の奥の方へ入っていった。こちらも奥の方へ行った。
ある程度進むと、あの車が停めてあった。しかし中には誰も乗っていなかった。

「おい、古泉…だったか?これから奴らを追うが、ここから先は危険だ。
お前はここに待機して、仲間の応援を待て。おそらく20分ほどで着くだろう」

「僕も行きます」

「馬鹿野郎!ガキはすっこんでろ!お前はここじゃ何の力も使えない普通のガキだろうが!
ったく、なんで森はこいつなんか連れてけなんて言ったんだ?」

「そんなことを言っている時間は無い。行くぞ。古泉、お前は待機だ。いいな?」

「………わかりました」

2人の男は走って工場の中へ入っていった。

僕は何のために来たんだ?森さんがそんなことを言ったらしい。
このままここで待機か。応援が到着するまで約20分か。
それまで何をしていよう。

5分ほど経っただろうか。その時。

「ぐわぁ!!」

微かだが、誰かの叫び声がした。それは間違っても喜びの雄たけびなんてものではなかった。
気づくと僕は、命令を無視して工場の中へ走っていった。

工場の奥の方へ行くと大きな倉庫があった。中にはコンテナなどが色々積まれており、倉庫らしい倉庫だった。
そしてその倉庫にはさっきの2人の男が倒れていた。倒れている2人の先には1人の男、1人の女。
そして涼宮さんとキョン君がいた。どうやら2人は眠らされているようだ。

「あ?お前もこの男の仲間か?心配すんな、殺しちゃいねえよ。ちょいと眠ってもらってるだけだ」

そう言うと男はスタンガンをバチバチと鳴らし始めた。それでみんなを、乱暴な奴だ。
この男は話して通じる相手では無いだろう。まぁ最初から涼宮さんたちを解放する気なんて無いだろうが。
男はがっちりした体格で身長も2メートル近くあるような気さえする長身だった。
おそらく格闘技に精通しているだろう。僕では敵わないだろう。それでも僕は言った。

「涼宮さんとキョン君は返してもらいます!」

「あぁ?何言ってんだお前。」

すると男は仲間であろう女に、涼宮さんとキョン君を連れて先に行けと言った。
女性1人で人間2人を連れて歩くのは大変だろう、見ているだけで心配になるような
足取りで、女は進んでいく。この速さならそんなに遠くへは行けない。

「あなたたちは何者なのです!?」

「……お前ら機関のことが大嫌いな集まり、ってとこか?はっはっは!」

犯人は機関に敵対する勢力か。いや、今はそんな事を考えている場合ではないか。

「悪いが上から命令でな。あのガキ共は返すことは出来ねえ」

どうする?力ずくで勝てるような相手ではない。振り切ってあの女を追いかけることも出来そうにない。
対策を考えていると、男は猛スピードで飛び込んできた。

「さっきの男共は簡単に眠らせちまったからなぁ。遊び足らないぜ!」

男が言い終わると同時に、腹部に衝撃が走った。

「ぐふっ!……げほっ、げほっ……っくぅ」

僕は堪らず息を吐き出す。

「最近どうも人を殴ってなくてよお。ちょうどいいからお前で遊ぶことにしたぜ、ひゃーはっはっは!」

それから気の遠くなるような時間、僕は殴られ続けた。とは言っても実際は5分程度しか経ってないだろうが。

「ぐっ、がはっ……っうぐ!……ごふっ、げふっ…はぁ、はぁ」

「やっぱ生身の体は殴り心地が違うねえ!この感触堪んねえぜ!」

なんでこんな事をしているのだろう?

どうして僕がこんな痛い思いをしなければいけないんだ?

「可哀想になぁ、こんな血だらけになっちまってぇ。恨むんなら、そんな機関なんかに入ったことを恨めよお」

……そうだ。僕は何も悪くないじゃないか。
こんな機関にいるからこんなことになったんだ。

超能力なんていらないのに!

涼宮さんが悪いんじゃないか!!

僕は涼宮さんのせいにした。こんなことしたくてしている訳じゃない。
全部彼女が、勝手に僕に超能力なんか与えたからだ、と。

「それにしても、なんでうちのお偉方はあんな糞ガキ共なんか連れて来いなんていったんだぁ?」

――――!!

その瞬間、激しい怒りに襲われた。さっきまで、涼宮ハルヒのことを恨んでいたはずなのに。

「まさか、あのガキに惚れちまったとかじゃねえだろうな?ひゃっひゃっひゃ!
あんなガキのどこがいいんだろうな?お前もそう思うだろお?
あぁ、あの一緒にいたガキは惚れてるみたいだったがな。あんまり抵抗するもんだから
ちょーっとばかし痛い目にあってもらったがな。ったく、どっちのガキもウザかったぜえ」

……………

『喜んでちょうだい、あなたはSOS団副団長に任命されることになったわ!』

『お前がいてくれて助かったよ、頼りにしてるぜ』

「………取り消せ」

「あぁん?」

「2人に対するその暴言を取り消せ!」

「…なんだと?機関の犬が偉そうなこと抜かしてんじゃねえ!」

「……違う。……僕は、機関の犬なんかじゃない」

「あ?じゃあ何だってんだよ!?」

「僕は……SOS団副団長、古泉一樹だ!!」

「はぁ?SOS団?……っぷ、ククク…ぶわっはっはっは!なんだそりゃあ!?バカじゃねえのか!?」

好きに言えばいい。僕はもう迷わない。僕はしっかりと敵を見据えていた。

「なんだよその目は?気にいらねえな」

男はさっきより激しく殴ってきた。

「がはっ!…うぐぅ」

それでも僕は倒れなかった。自分がなぜこんなことをしているのか、ようやく分かったから。
それは簡単なことだった。

僕は、団長を、団員を、大切な仲間を守っているんだ。

この世界では僕は普通の人間でしかない。それでも、仲間は守ってみせる!

「っんだよ!結構タフだな。あ~、もう飽きたわ。悪いがお前にも寝てもらうぜ。しかも痛いやつでな」

そう言って男が取り出したものはナイフだった。あれで刺されたら本当に死んでしまうかもしれない。

「……ふふっ、……僕の…勝ち、ですよ」

「あ?そんなフラフラで何言ってやがんだ?」

「あなたは僕を殴るのに時間をかけすぎた。もうそろそろ応援が到着するころでしょう。
最初からそれで僕を刺していれば、逃げられたかも知れないのに、ふふっ」

「っ!?てめえ、そんなに死にてえならお望みどおり殺してやるよ!!」

男はナイフを構えて走ってくる。
もうダメかも知れないな。

涼宮さん、キョン君。どうかご無事で。

僕はゆっくりと目を閉じた。

――――ザシュ!

………あれ?痛くない。何故だろう?僕はゆっくり目を開ける。

そこにはナイフを素手で掴んでいる、見慣れた制服姿の少女、長門有希がいた。


「……長門さん!」

「………車が渋滞に捕まって来るのが遅れた」

「………ぷっ、ふふっ」

こんなときではあるけど、僕は思わず笑ってしまった。

「ここは任せて。あなたは涼宮ハルヒと彼を追うべき」

「………分かりました」

僕は長門さんにこの場を任せ、涼宮さんたちを追うことにした。
本当はあの男を殴ってやりたかったのだけれど。

「おい女ぁ。お前も機関の人間かぁ?悪いがちょっと寝てもらうぜ」

「………私はSOS団団員その2、長門有希」

「はぁ、はぁ、はぁ」

体中が痛みで悲鳴をあげており、走ることもままならなかったため、かなりスローペースではあったが
しばらくすると数人の人だかりが見えてきた。その中には朝比奈さんがいるようだ。

「あ!こ、古泉君、……!?そ、その傷大丈夫ですか!?」

「え、えぇ。大丈夫です。それより……」

僕は朝比奈さんに聞くことを止めた。なぜならそこには涼宮さんとキョン君が眠っていたから。

「……無事で……よかっ…た」

僕は2人を見つけた安堵からだろうか、その場に倒れてしまった。

「――――ん?…ここは」

目が覚めるとそこは、何度か来たことのある病院だった。

「あ、古泉君!気がつきましたか?」

僕のベッドの脇には朝比奈さんと長門さんが座っていた。

「朝比奈さん、長門さん……!?そうだ!お2人は!?」

「………」

長門さんが無言で指差す先には、ベッドで眠っている2人の姿があった。

「………良かった、無事だったんですね」

「……強い薬で眠らされている。起きるまであと少しかかる」

「……そうですか。」

「え、えっとぉ、今回のことは涼宮さんたちにはどう説明するんですか?」

そのことがあった。後のことまではさすがに考えている余裕が無かった。

「……任せて。情報操作は得意」

「………ふふっ。では、お任せします。僕はもう一眠りさせてもらいますね」

僕は2人が無事なことをあらためて確認して眠った。

目が覚めると病院にいた。確か俺は不思議探索でハルヒと一緒に遊んでて、それで古泉が
大変だとか言う電話があって、病院に来たんだよな?そこで寝ちまったのか。
何しに来たんだ俺は?しかも横ではハルヒが寝てるし。

聞くところによると、古泉は朝比奈さんと長門をナンパしに来た不良グループから
2人を守ってボコボコにされた、だったな。
でもそんな奴ら長門なら赤子の手を捻るようなものだろう。

なんかおかしいな。そう思った俺は長門を捕まえて聞いてみた。

「長門。古泉が2人を守ったってのは本当の話か?正直に答えてくれ」

すると長門は少し考えてから言った。

「………本当」


「彼は2人を守った」


おしまい。
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