はい、準備はいいですね。
今日は僕の過去について話をしようと思います。

僕が北高に転校するよりも前、高校生でもなく、
機関の存在など夢にも思わない3年前の春―


―僕はいつものように目を覚まし、部屋のカーテンを開けます。と同時に、
急激な吐き気が僕の胃を満たしました。

すぐに洗面台に駆けつけ、部屋に戻った僕は、
新しい環境に慣れないための体調不良か何かだろうと思いました。

念のため医者にいってみたのですが、医師の診断はまったく問題なし、
健康であるというものでした。

その夜、僕は夢を見ました。そこは灰色の空間で、景色は僕の住む街そのものなのに、
人は誰一人としておらず、僕はそこをあてどもなく歩いていました。

僕はビルの中に入り、気がつけば屋上に登っていました。

そこから遠くを見ると、ずっと向こう、いくつも町を隔てたあたりで、
もやのような影が見えたような気がしました。

なにぶん夢なのかおぼつかない状態の中で、それが何なのか見定めることは困難でした。
それは青白く光り、遠くのあたりを闊歩しながら、同時に周囲には煙が上がっていた気がします。

その日の夢はそれで終わりでしたが、夢は連日続きました。
僕は歩く場所を次々変えていき、あの青白い者に近付いて行きました。
僕はだんだん恐怖が背中をつたい、体内を満たすのを感じました。
毎夜に渡ってその者は建造物を破壊し、辺りを無に帰していたのです。

1週間もすると、僕はもう日中でも気が狂いそうな思いで、学校に行く事もためらわれました。
なぜって、夜はほとんど眠れませんでしたし、学校でついうたた寝をした拍子に、
いつまた例の夢を見るとも限りませんから。

そういうわけで僕は数日間学校を休みます。
風邪を装っていましたが、長くは持たないと分かっていました。

夢は続きます。容赦なく。

とうとう僕はその者、いえ、もう巨人であるとはっきり分かっていました。
巨人のすぐ近くの建物まで来てしまっていました。
歩いている間は無意識なのに、屋上に来て巨人の方を見た瞬間に
まさに今自分がここに存在しているような感覚に陥るのです。
もはやこれは夢の一言で片付けられるものではありませんでした。

ふとした瞬間、巨人はこちらを向きました。
真っ赤に開いた穴のような目が、虚ろに僕の方を見ました。
次の瞬間に巨人はこちらに向かって行進を始めました。

僕は心臓が凍りついたように思いました。
腰が抜けてしまい立つこともままならず、何とか後ずさりしますが意味などありません。

巨人の顔がこの上なく大きく見え、このままショックで僕は
死んでしまうのではないかと思えた頃…

ひとすじの閃光が目の前をかすめました。

その閃光は高速で屋上から飛び出し、巨人の頭上を旋回して
すぐさま頭部を貫通しました。巨人は後ろに倒れ、それとともに空の灰色は消失しました。

「ちょっと事情を話したいんだ、一緒に来てくれ」
男の声でした。振り向くと髭を生やした中年風の男性がこちらに微笑みかけていました。

驚くべき事に辺りは昼間で、人通りや車の往来も普通どおりでした。
僕と男性は通りを抜けて、近くの喫茶店に入りました。

注文もほどほどに、僕は男性の話を聞きました。
「君はいつからあれを見るようになったんだい?」

僕はそれが1週間ほど前からであること、だんだん近付いていたこと、
夢遊病患者のように歩く時は意識がないことなどを伝えました。

「ふむ」
男性は思案顔で顎に手を当て、なにやら考え込んでいましたが
「ちょっと来て欲しいところがあるんだが…大丈夫かね?」
と言いました。そしらぬ大人についていってしまうのはどうか、と
心の中で声がしましたが、僕の中ではこの事態をなんとかしたいという気持ちの方が強かったのです。

黒塗りのタクシーに乗って30分ほど、そこから地下道に入り、エレベーターでさらに下へ行き、
巨大な地下駐車場のような空間に出ました。ですが、そこに車は一台も止まっていませんでした。

空間の行き止まりに特別特徴もないドアがあり、その向こうには―、


―それが機関とのファースト・コンタクトだったのは言うまでもありません。
僕はそれによって救われ、何者かに導かれるように北高に来てSOS団に入ったわけです。

はじめはうまく行きませんでした。
力があることに気付いてからは、いくつかの事象を感知できるようにはなりましたが。
あの日の彼以外にも能力者がいて、同じようにあの巨人を狩ることができる。
そしてそれは僕自身にも当てはまる。原因はある街に住む一人の女子中学生。

あの一件がなかったら僕はどこにいたんでしょうね。
SOS団は4人でもちゃんと動いていたでしょうか。

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