「なぁ古泉、SOS団に終わりが来るとすれば、それはどんな時だろうな」
「そうですね、涼宮さんが力を完全に無くす時。
あるいは、その逆で世界をそっくり作り変えてしまった時、でしょうか」
「それは近いのか、遠いのか?」
「分かりませんよ。僕としては、できるだけ長く続いてほしくある反面、
機関の一員として行動する日にいつ終わりがくるのか、という思いもあります」

それからしばらく、俺たちは黙って駒を置いていた。
なぜ急にそんなことを古泉に言ったのか、俺もよく分からない。
ぱち、ぱちと互いの駒を取り合って、少しずつゲームは終わりに近付く…。

「もし終わることがあるとして、SOS団はその時どんな風になってると思う?」

一瞬手が止まる。
古泉は持った駒をコンコンと机に打っていたが、やがてそれを置きながら

「それも分かりません。僕は結果を解説することは出来ても、未来を予測できる
予言者ではありませんからね。ですが、その時涼宮さんが笑っていれば、
我々全員も同じ気持ちでいられる…今ではそんな気がしていますよ」

こいつにしては含みや冗談のなさそうな言い方だった。
今は桜ももう一分咲きで、新学年が始まるのはすぐそこだった。
ハルヒたち女子部員ユニットは、仲良く連れ立って麓のコンビニまで買出しに行っていた。

外はうららかに晴れて、鳥がようやく自由に飛べるとばかりにさえずり羽ばたいていく。
春もこれからだったが、こんな日に限って俺は妙にセンチメンタルだった。
この一年を振り返って、まぁなんやかんやあった。
それは俺をうんざりさせたと思いきや、時に愕然とし、あるいは混乱し、
神経回路に落雷があったかのごとくショートしそうなこともあったが、
年末の一件からこっち、俺が小さく覚悟を決めてからは、
すべてが貴重な出来事だった。あぁ、もう迷わずそう言えるぜ。

「こういう何でもない日は、あとどのくらいあるんだろうな」
「さぁ、またいつ僕や涼宮さんが消えてしまうとも限りませんよ?」
「変なことを言うな。あんなことは一回だって俺の手には負いきれないくらいだ」

そう言いつつ、あの事件がなかったらどうだったろうと俺は考えていた。
その後の雪山、現れた敵に、俺はどう対処しただろうか。

きっとまた古泉や長門に押しつけて「やれやれ」とか言っていたんじゃないだろうか。
まぁその結果あんな事態になったのだから、そんな未来はなかったのかもしれないが。

「もう何も起きなかったらどうでしょう?」

出し抜けに古泉が言った。

「このまま涼宮さんは普通の一女子高生になってしまい、
長門さんは宇宙に、朝比奈さんは未来に帰る。僕も機関を出て、どこか他のところへまた
転校してしまう。残るのはあなたと涼宮さんだけで、平凡な高校生活が続く」
「そんなのは考えるだけ無駄だぜ。ハルヒが認めるとは思えん」
「そうでしょうか?遅かれ早かれSOS団は解散します。それがいつか分からないのは先ほど
言ったとおりですが。果たして、涼宮さんはその時になってまで僕たちを必要とするでしょうか」
「ずいぶん悲観的だな」
「可能性の話ですよ。誰だって成長しますからね。涼宮さんだって別れの覚悟ができる時が来るでしょう」

そんなのは考えたくもないね。俺は今がどれだけ大切かを知っているからな。
お前だってそうだろ、古泉。もしその覚悟とやらをするのが数分先に迫っているとしても、
俺はもう後悔しない自身があるぜ。そうである限り、天地がひっくり返ろうが、
閉鎖空間がいくつ発生しようが、舞台がまるっきり変わってしまおうが、何とかしてみせるぜ。

「それが聞けて安心ですよ。まさかあなたから安らぐ言葉を得られる時が来ようとはね」
「…古泉お前はめやがったな」
「どうもあなたの精神状態も何となくですが分かるようになってきてしまいましてね。
これも鍛錬のたまものでしょうか。何の鍛錬かは僕にも分かりませんが」

俺がブルーとは行かないまでもウォーターブルーくらいの色になってたのがまずかったな…。

同じ色でも窓の外はこの上なく明るかった。不思議なもんだ。

ふいにバンッ!と大きく音がして俺は反対を見る。

「たっだいまー!!!」「帰りましたぁ~」「……」

三者三様に言ってのけ、部室の中は早くも桜満開になって春風が心地よく
行きかうかのような空気になった。いや、俺の錯覚かもしれんね。

古泉を見ると、専用の待ち受け画面のようなお馴染みの表情で三人の方を向いていた。
何となく、今俺とこいつは同じ気持ちじゃないだろうかと思った。変な意味でじゃないぜ。


ハルヒがいて、俺がいて…いや。この5人が集まっている限り、不安な事なんか微塵もないのさ。

窓の外は、この上ない快晴である。

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