わたしは泣き虫なのかなぁ……。
ちょっと驚いたり、怖いものを見たりすると涙が出ちゃう。自分がどうなってるかわからないくらい泣いちゃうこともしばしば。
でも、うれしくて泣いたことはまだない。
あ~あ、泣けるほどうれしいことがあったらいいなぁ……。もし、叶わないならせめて涼宮さんや長門さんみたいに強い女の子になりたいなぁ……。
そんな悩みを抱えながらも、わたしは着替えを終えてキョンくんに中に入ってもいいという合図を送った。
「……あれ?朝比奈さん、また涙ぐんでますね。なにかあったんですか?」
わたしの顔を覗きこむキョンくん。顔が近くてドキドキする……じゃなくて、また考えてたら涙が出てきたみたい。
我慢、しなくっちゃ。
「大丈夫です!キョンくん、わたし今日から強くなりますねっ!……わひゃぁっ!」
自分に言い聞かせるようにわたしは声をだした。……瞬間、胸を掴まれた。
「だ・れ・が強くなるって?みくるちゃん、あんたはかわいくて、か弱けりゃいいの。だから……あたしに黙ってやられりゃいいのよっ!」
そう言って涼宮さんはわたしの胸を揉み始めた。

強くなるんだから『やめて』って言わなきゃ!……あれ?声が出ないよ?
あ、ダメ。涙がでそう……止まって!お願い!わたし……強くなるんだから、泣いちゃダメだって。
「ふ、ふええぇぇん!」
頭じゃわかってても本能で泣いてしまう。なんでわたしこんなに弱いんだろう……。
「ハルヒ、いい加減にしろ!今の朝比奈さんはマジ泣きしてるぞ!」
キョンくんの声が聞こえる。わたしの視界は涙で溢れて何も見えなかった。
聞こえてくるのは優しいキョンくんの声と、珍しく本気で謝っている涼宮さんの声だけだった。
わたしが泣いたのは涼宮さんの行動にじゃなくて、弱い自分に嫌気がさしてなんだろうなぁ……。
わたしのものなのに、わたしの言うことを聞いてくれないわたしの体、涙腺。
嫌になっちゃうよぉ……。
結局、この日わたしはみんなに泣いた本当の理由を言えないまま一日泣き続けて部活を終えた。
明日は探索の日かぁ……。


9時の5分前、キョンくんが来て全員が揃ういつもの週末。みんなで喫茶店に行って、飲み物を飲む。
わたしはキョンくんに『ごめんなさい』と一言謝って、ホットココアを頼んだ。
「さぁ、みくるちゃんから引きなさい!」
クジを一本引いて、他の人達のクジを見る。……出来ればキョンくんとなりたい。長門さんと二人だけはやめてほしいなぁ……。
わたしの願いが届いたのか、午前中はわたしはキョンくんと二人きりになった。
会計はキョンくん持ちだから、わたしはしばらく外で待ってキョンくんと二人で歩き始めた。
わたし達が二人の時はいつもあの場所に向かう。川沿いのきれいな道に。
長門さんには図書館って特別な場所があるみたいに、わたしにとってその道は特別な場所。

気持ちいい風が通り抜ける道、二人でゆっくりと歩いていく。こうしてると、まるで恋人同士みたい。
「少し座りましょうか?」
頷いて答えた。キョンくんはいつもこの辺りで座るように声をかけてくる。
いつもとおんなじように、わたし達は椅子に腰掛けた。少しだけ離れて座るキョンくんに少しだけわたしは近付いた、気付かれないように。
「昨日はごめんなさい。俺がもっと早くハルヒを止めときゃよかったんですが……」
いきなりそんなことを話し出した。優しいなぁ、キョンくんは。
いつでも涼宮さんのことを一番に考えているキョンくん、そんな優しさを一番に受けている涼宮さんにちょっと嫉妬しちゃうな。
「大丈夫です。わたしが弱いからいけないの、もっと強くならなきゃ……ね?」
笑顔を作ってそう答えると、キョンくんは少し驚いたように口を開いた。
「そんな、朝比奈さんは弱くないですよ!?むしろ俺は尊敬しますよ!」
「……え?」
「いつもハルヒのいうことをこなして、未来からの仕事もこなして、それでも笑顔でいてくれるじゃないですか」

わたしが……弱くない?それに、キョンくんがそんな風に思っててくれたなんてうれしいな……。
不意に、目の前のキョンくんがぼやけた。涙が、うれし涙が零れてきたみたい。
急いで止めなくちゃ弱い人って思われちゃう……。
その時、キョンくんはわたしの頭を抱いて自分の胸に押しつけた。
「いきなりそんなことされたら朝比奈さんの表情、見えないじゃないですか。今どんな顔してるんですか?」
やっぱりキョンくんは優しいな。わたしが泣いているのを見られたくないことをわかって、自分から見えないようにしてくれたんだ。
「キョンくんに褒められて、うれしいです」
わたしはそう答えて、しばらくの間キョンくんに抱き付いて泣いた。
……ごめんなさい、涼宮さん


涙が止まると、体を起こして元通りに座った。
「ふぅ、うれしかったから抱き付いちゃいました」
笑顔を作って、泣いてるのがバレてないフリをしてわたしは言った。
「いきなり抱き付かれたからびっくりしたじゃないですか」
キョンくんも同じように、何も見てないというフリをして、笑顔で答えてくれた。

しばらくベンチで談笑した後、時間だから帰ることにした。ゆっくりと来た道をそっくりそのまま歩いて帰る。
しばらく歩いていたら、わたしは何かに躓いてコケた。
「あうっ!い、痛いです……」
目から涙が出てくる。びっくりして立ち止まったままのキョンくん。
わたしはそのまま泣き真似を始めた。キョンくんに近付いてきて欲しかったから。
「あ、朝比奈さん大丈夫ですかっ!?」
近付いて、しゃがみ込んでわたしを覗きこむのがわかった。……涼宮さん、またごめんなさい。
「なんちゃって。うそなき……です」
わたしはそう言ってキョンくんにキスをした。
優しいキョンくんへのお礼、今日から変わる自分への記念のプレゼント。
「さ、早くしないと涼宮さんに怒られちゃいますよ?」
キョンくんに微笑みかけて、わたしは歩きだした。
まだ驚いたままの顔のキョンくんの手を引き、川沿いの道をわたしは喜びながら歩いて帰って行った。


おわり

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