※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

「いま、お茶淹れますねっ!」
俺が部室に入ると、聞こえてくる声。SOS団唯一の2年生で、俺が淡い恋心を抱く先輩、朝比奈みくるさんの声だ。
学校で一番かわいいと言っても良い。男にも、女にも愛されるかわいらしい顔と性格の持ち主である。
そんな人間がメイド服でお茶を淹れてくれる、見とれてしまっても仕方ないだろう?
「ど、どうしたんですか?わたしの顔、な、何かついてます?」
顔をペタペタとする動作もかわいらしい。
「大丈夫ですよ。ちょっと、俺がボーッとしてただけです」
俺はそう言うと、朝比奈さんが淹れてくれたお茶に口をつけた。…いつも通り、とても美味い。
そういえば、今週の土曜。つまり明日の探索はいろいろあって中止である。
俺はそれを思い出すと、ハルヒに見えない位置で紙とペンを取り出し、スラスラとペンを走らせた。
《部活終わったら、少し話しましょう?着替えたら残っててください》
お茶のおかわりを頼むフリをして、それを渡した。
「ふえぇっ!?」
朝比奈さんが驚いて大きな声を出した。俺はそれを見て、ひとさし指を口に付けて、《静かに》とジェスチャーをした。

「みくるちゃん、どうしたの?キョンにお尻でも触られたの?」
ハルヒはパソコンに向かいながらそんなことを言ってきた。
「お前と違って俺はセクハラはしねぇよ」
俺が答えると、ハルヒは鼻をフンと鳴らした。
「あたしのはスキンシップよ」
そう答え、俺を睨んでくる。だから何もしてねぇって。
「やれやれ」
俺はお決まりのセリフを言い、再びお茶に口をつけた。


「あ、あの~……キョンくん、話…って?」
部活後の部室、2人きりの空間。かなりおいしいシチュエーションだが暴走だけは断じてしないぞ。
「いや、明日休みだから二人でどっか行きませんか?」
「え、え?えぇぇっ!?」
そんなに驚かれるとへこむな。
「な、なん…で……わたしなんかと?」
まぁ、そりゃいきなり誘われたら不思議に思うよな。
「ほら、いつも二人でハルヒにこき使われてるから、骨休めでもしましょうよ」
嘘だ。こき使われてるという理由なら間違いなく俺一人のはず。
俺は憧れの人とデートがしたかったのだ。
「う~ん……わかりました、明日は二人で楽しみましょう!でも、どこに行きます?」

俺は何処でもよかった、二人で出歩くことが目的だったからな。しかし、誘ったからには何処か決めなくちゃマズい。
「そうですね……街で買い物でもしますか?」
無難な所を選んでしまった……。
しかし、朝比奈さんはニッコリと笑って答えた。
「じゃあ、街に行きましょう。うふふ…デートですね?一日だけ、カップルになりましょう?」
この笑顔を見ただけでも俺は充分幸せです。


「すいません!待ちましたか?」
やはり、今日も俺の方が遅かった。今日は遅れてはならないと15分前についたんだがな。
「いいえ、今来たばっかりです」
朝比奈さんは微笑んで答えた。この笑顔は何よりも元気が出る。
「それじゃあ、行きましょう」
俺が歩きだそうとすると、朝比奈さんが手を握ってきた。
「一日カップル……ですよねっ?」
朝比奈さんの赤い顔での上目遣い。正直、反則です。
俺はその手を握り返して、歩幅を合わせながら歩いた。

まぁ、事前に何かを考えていたわけでもなくひたすらいろいろな所見て歩き回った。
デパートに入りお茶を見たり、互いに似合う服を選びあったり、ちょっと遅めの昼食を取ったり……。
傍から見たら、明らかにカップルだと勘違いするような時間を過ごした。
俺も、朝比奈さんも心からの笑顔が止むことは無かった。
そんなこんなで、俺達は今、アイスを舐めながら公園を歩いていた。
「あ、キョンくん。あそこで休みましょ?」
朝比奈さんの指さした先にはちょっとした木陰になっているベンチがあった。
「いいですね、行きましょうか」
手を繋いだまま、二人でそのベンチで一息ついた。
「歩き回って疲れたけど……楽しかったです」
朝比奈さんが笑顔を向けて言ってくる、木洩れ日に照らされて天使のようだ。

「まぁ、明日からはさらにこき使われるんだしこれくらいはいいでしょう」
俺の返事にクスクスと笑いながら「そうですね」と答えてくれる。
こんな時間がずっと過ごせると良いよな……。
不意に、俺の中に様々な衝動が起こった。抱き締めたい、キスしたい、ずっと……一緒にいたい。
俺は気がつくとアイスを落として、朝比奈さんを抱き締めていた。
「ふえっ?キョ、キョン……くん?だ、ダメ、ダメですよぉ……」
「今日だけは、カップルですよね?」
朝比奈さんの顔に、自分の顔を近付けていく。あと10センチという所で、《あの衝撃》がきた。
暗転していく意識の中で、聞こえてきた声。
「ごめんね?キョンくん……」


明るくなってきた……が、さっきのベンチとは違う景色に朝比奈さんが立っていた。
「ごめんなさい、キョンくん。気持ちはすごくうれしいです。だけど、ダメ。
《禁則事項》だし、何より……キョンくんの本当の気持ちは、わたしに向いてないから……。
わたしは、キョンくんが大好きなの。でも現実で伝えることは出来ないの、だって、《禁則事項》だから……。わたしは…現実じゃ絶対に叶わない恋に生きていきますね?」
そこまで聞くと俺の視界はまたも暗転し、次に目を覚ますと朝比奈さんの膝の上にいた。


「おはようございます」
朝比奈さんが微笑んできた。俺は体を起こし、質問を振り掛けた。

「今、未来の《何か》を使いましたか?」
「《禁則事項》です」
「今、俺に何かして映像を見せました?」
「《禁則事項》……です」
やっぱりな。答えは返ってこないか。
わかっちゃいるんだ。
俺が未来に帰るであろう、朝比奈さんに恋心を抱いても。また、朝比奈さんが何かの間違いで俺に恋心を抱いても、決して結ばれる事はないことを。
「それでも……、朝比奈さんが何かしても、何もしてなくても、俺には、朝比奈さんの気持ちはしっかり伝わりましたよ」
表情を窺うと、少し目に涙を浮かべていた。
俺はベンチを立って、手を差し延べた。
「さぁ、帰りましょう!」
涙を浮かべたままの朝比奈さんから答えが返ってきた。
「まだ……ぐすっ、手を、取ってくれるんですかぁ?」
さっきの俺の無茶な行動を拒否したことに、罪悪感でも抱いたのだろうか。申し訳なさそうな表情をしていた。
俺は無理矢理に手を取り、朝比奈さんを引き起こして言った。
「今日一日は、カップルですよ。俺達は」
「うぅ……うぅう~、キョンく~ん……」
朝比奈さんは泣きながらも俺の手を強く握ってきた。
非力そうな細い腕から感じる、精一杯の力。
はっきりとした意思を持った手。

その手を離さないように、こっちからも握りながらゆっくりと、二人で帰路についた。


月曜の放課後。
俺は朝比奈さんがお茶を持って来た時な渡された小さい手紙に目を落としていた。
《おとといはありがとう。元気が出ました!これからも、たまには遊びに連れて行ってね!恋するみくるより》
うわ…《恋する》ってフレーズは寒いな……。
朝比奈さんの方に視線を向けると、ウインクが返ってきた。クラッとくるね。

こうして、俺の《憧れの人》への恋は終わった。
だが、自分の本当の気持ちを探りながらも、俺の《憧れの人》への、一生叶うことのない恋は続くだろう。
そう、二人とも好きでありながらも、違う道を進むことを決めたのだから……。

終わり
|