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小春日和の一日が終わり、校舎の影がこの部室の一番奥まで届いています。
彼岸花のように燃える夕日がとても綺麗な、秋の夕暮れ。

私は一人この部室に佇んで、彼がやってくるのを待ち続けています。

今日も彼は、影をもとめて、この学校内をさまよい続け、
傷ついた小鳥が巣に帰るように、最後にこの部室へとやって来るのです。

そして、ひび割れたガラス細工が壊れないようそっと彼を包み込み、
彼を見守るのが今の私の役目。

廊下から響く足音が私に、彼の帰りを知らせます。
願わくば、いつも通りの彼でありますように――



コンコンと短く響くドアの音。

よかった……いつもの彼のみたいです……

「はぁいどうぞ」

ドアを開ける彼。いつもの微笑みを私に見せてくれました。

「あ、あれ?朝比奈さんだけですか?長門と古泉は?」

「ええ、長門さんと古泉君はもう先に帰っちゃいました。私だけじゃ不満でしたか?」

「いえ、そんな罰当たりな。朝比奈さんと二人きりなんてこんな栄誉、国民栄誉賞受賞と
どっちがいいと言われたら迷わず朝比奈さんとの二人きりを、俺は迷わず選びますよ」

「ふふふ。お世辞が上手ですねキョンくんは」


彼はいつも、そう言ってあたしを喜ばせてくれる。
でもそれは本心から出た言葉じゃないって事、私はもうとっくに気が付いてます。



そう、涼宮さんがいた頃から……




「あ、お茶入れますね」

あたしがそう言うと、カバンをテーブルの上に置き、部室内をゆっくりと歩きます。
そして、いつものように彼は本棚の前に立ち、本を一冊づつぱらぱらとめくり始めました。

きっと、『あれ』を探しているのでしょう。

「何か探し物ですか?」

私はそう言いながら、彼の後ろにあるテーブルにお茶を置きました。
今日は、ちょっぴり甘めのハーブティー。
彼がこのお茶を美味しいと言ってくれたのは、ずっと昔のことのようです。

彼は、そんなあたしに気づきません。

一心不乱に、本棚に戻すことなく次々と本を出して『あれ』を探し続けます。
涼宮さんが居た世界に戻れる手がかりだと、彼がずっと信じているあの『栞』を……

全ての本を本棚から引き出し終わると、彼は呆然と立ちすくみました。

「キョンくん……」

「え、ああ……なにか?」

「お茶が入りましたよ!キョンくん」

「あ、ありがとうございます。朝比奈さん……」

「お茶を飲んで少し落ち着いて下さい。お願いです」


彼は、ふらふらとふらつくように、パイプ椅子に手を掛けゆっくりと座りました。

そして、私が入れたお茶に手を伸ばし、ひとくち飲もうと口に運ぶ途中で、その動きが止まりました。

目を大きく見開き、彼はカップを落とすと、昔彼女が座っていたあの場所によろめきながら向かいます。

そして、パソコンの電源ボタンを何度も何度も押し続けるのです。

このパソコンは、ずっと前に動かなくなってしまいました。
SOS団が壊れてしまったあの日から、ずっと。


ふと、彼の顔に笑みが戻ります。
あたしは、その彼の表情が嫌いでした。壊れたような驚喜の映る微笑。

彼は、その表情を私に見せると、今度はパソコンのエンターキーを押し続けます。

何度も、何度も……



どうしてこんな事になったのか、私にはわかりません。
ただ、涼宮さんが交通事故で亡くなったあと、彼は突然変わってしまいました。

彼の異変に気づいたのは、私と長門さんそして古泉君だけ。

その異変に気づいたとき、古泉君と長門さんはこの場所から離れていきました。
常軌を逸する彼の行動が二人には耐えられなかったのでしょう。
そんな気持ちがわかるから、私は二人を責めようとも思いません。

きっと、こうなってしまったのがキョンくんでなければ、
私は二人と同じようにこの場所を離れていたかもしれないから。
だから、私は二人を決して責めようとも思いません。

二人はSOS団から離れていきました。この場所にはもう二度と戻ってこないでしょう。
でも、私はずっと一緒に彼と居るつもりです……
ここが、私の場所と時間だから……


彼は、涼宮さんが居た場所から立ち上がり、私に近づいてきます。

でも、私にはもう彼の顔が霞んでハッキリと見えません……


「朝比奈さん……朝比奈さんは未来人ですよね。
長門は宇宙人で、古泉は超能力者だった。

そしてハルヒは進化の可能性で時空のゆがみで神だった。

そうですよね!
朝比奈さん!

みんなハルヒを監視するためにこの学校に来た。
そしてハルヒによって無理矢理この部室に連れてこられたんですよね!

そうですよね!ね!」



私は普通の人間です。普通の女子高生です。
お願いですキョンくん元に戻って……おねが……い……



「そうか!わかったぞ!これは改変世界なんだ!

鍵を集めなければ!みんなは何処に行った!

ながとぉ―――!

こいずみぃ―――!!

ハ……ル……ひ……」

キョンくんは糸の切れた操り人形のように、その場に倒れました。

私はゆっくり彼に近づき、そして彼に重なるようにして、彼を抱きしめました。
いつまでも、いつまでも、彼を抱きしめまていました……


夕日は遠くの山の向こうに間もなく消えそうです。
蒼とあかね色のその境目が葡萄鼠のようにくすんだ色を見せます。


あたしは、ずっと一緒に彼と居るつもりです……

たとえ壊れていても……

ここが私の場所と時間だから……
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