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文化祭が終わってから一週間した金曜日、わたしは電話で涼宮さんに呼び出されました。
『何時もの公園に、明日の午前九時に……、みくるちゃん、来られる?』
そのときの電話は涼宮さんにしては何故か珍しく疑問形でした。
どうしてでしょう、わたしにはその理由はわかりません。
「あ、はい、行けますけど」
でも、理由を細かく考えている時間も無さそうだったので、わたしは咄嗟にそう答えました。明日は予定は入っていないので、問題は有りません。
『じゃあ来て、お願い……。それじゃ、またね』
お願いされちゃいました……。
涼宮さん、何だか何時もと様子が違いませんか?

土曜日、わたしは8時10分に何時もの待ち合わせ場所に向いました。
SOS団の待ち合わせは一番遅れた人が罰金って決まっているんで、皆早く来るんですよね。
ちなみに不動の一番は長門さんです。
長門さん、何時も何時から待っているんだろう……。
あれ、でも今日は長門さんが居ません。
キョンくんが最後なのはいつもの事なんですけど、どうして涼宮さんと古泉くんだけなんですか?
「おはよ、みくるちゃん」
「おはようございます、朝比奈さん」
涼宮さんと古泉くんが挨拶をしてくれました。
涼宮さんは美人だし古泉くんはかっこいいので、この二人が居ると絵になります。
あ、でもこの二人だと、恋人っていうより兄妹って感じかもしれません。
何となくですけど、そんな気がするんですよね。


「おはようございます、あの、長門さんは……」
「ああ、今日は有希は居ないの。というか、今日は何時もの探索じゃないのよ」
「え、そうなんですか!?」
それは初耳です。
何の説明も無かったので、てっきり何時もの市内探索だと思っていました。
何時もと言っても、最近はあんまりしていないんですけど。
「今日はね、映画の慰労のための集まりなの。監督による、主演女優と主演男優のためのねっ!」
涼宮さんが、何か楽しい事を思いついた時と同じような笑顔になりました。
映画の……、そう言えば、撮ったんですよね。映画。
うう、忘れたいことが色々……。
「だから今日はキョンと有希は呼んでないの、あたし達三人だけよ」
キョンくんと長門さんも頑張ってくれていたんですから差別するのは悪い気がするんですけど……、ううん、でも、せっかくの慰労ってことですから、ここは素直に受けておくべきでしょうか?
ちょっと迷いつつ、わたしは古泉くんを見あげます。
古泉くんは、いつもどおりの涼しげな表情です。涼宮さんに逆らう気は無いみたいです。
……うん、ここは素直に受けちゃいましょう。
キョンくんと長門さんにはちょっと悪いですけど、せっかく涼宮さんが乗り気なんですしね。
「じゃあ、出発よ! ああ、きょうはあたしの奢りだからね、みくるちゃん、何が食べたい? 何がしたい? 何かして欲しいことはある? 何か欲しいものは?」
「え、えっとぉ……」
涼宮さんが、大きな声で訊いてきます。
あうぅ、そんなに一辺に言われても答えられないです……。そ、それに、わたしにばっかり訊いて良いんですか? 古泉くんも居るんですけど……。


最初に向ったのは、最近新しく出来た喫茶店でした。
まだ朝の早い時間でしたけど、開いていて良かったです。
わたしがぽつりと行きたいなあと言ったら、涼宮さんに凄い勢いで腕を引っ張られちゃいました。
「えっと……」
「何でも頼んで良いわよ。お茶全種でも! ケーキ全種でも!」
あの、あの、わたしは涼宮さんじゃないので熱いお茶をどんどん飲み干すとか、ケーキを幾つも食べるとかは出来ないんですけど……。
「落ち着いてください、涼宮さん。朝比奈さんはじっくり選びたいんでしょうから、暫く待ちましょう」
「そ、そうね……」
古泉くんが割って入ってくれたおかげで、漸く涼宮さんも止まってくれました。
良かった、これでじっくり選べますね。

10分くらい悩んでから、わたしはアップルティーとチーズケーキを注文しました。
涼宮さんはもっと頼んでもいいのよって言ってくれましたけど、わたしはそんなに食べられないです。
アップルティーもチーズケーキも、とっても美味しかったです。
ありがとう、涼宮さん。


喫茶店の次は、デパートの中に有る洋服屋さんに行きました。
中高生向けくらいのブランドが入っている一角を三人で歩きます。
「これ、みくるちゃんに似合いそうよね!」
「けど、その色だと少し子供っぽい気がしますね。青はどうでしょう?」
「ああそうね、いい感じだわ。あ、でもこのデザインじゃみくるちゃんの胸は入らないかも知れないわね。大きいサイズだと胸以外の部分が余っちゃうし……」
「こちらはどうですか?」
「あ、こっちも良いわね」
最初に涼宮さんが選んで良いわよって言ってくれたんですけど、気がついたらこんな感じで、涼宮さんと古泉くんがずっと話しています。
わたしは渡された服を片手に、鏡の前に立ったり試着室へ行ったり。
何だかとっても忙しいです……、でも、楽しいですね。
心なしか、涼宮さんも古泉くんもとっても楽しそうです。

洋服屋さんをハシゴして、何着か服を買ってもらっていたら、もうお昼の時間になりました。
「ありがとうございます、涼宮さん」
「良いって良いって、このくらいたいしたことじゃないわ!」
「で、でも……。あ、でも、わたしばかり買ってもらうのは申し訳ないと思うんですけど」
わたしは古泉くんの方を見あげました。
古泉くんは今日は慰労される方の筈なのに、なんだか涼宮さんと一緒になってわたしを労ってくれているような気がします。気のせいでしょうか?
「あ、そうだったわね」
涼宮さんが、正に今思い出しました、みたいな感じで言いました。
「ねえ古泉くん、何か要望はある?」
「いえ……、ああ、そうですね、昼ご飯の場所は僕が選んでも良いでしょうか?」
「あたしは構わないわ、みくるちゃんも構わない?」
「はい、構わないです」
古泉くんがどんなお店に行きたいのかは分からないですけど、古泉くんが選ぶお店なら外れは無いと思います。


思ったとおり、古泉くんが連れて行ってくれたイタリア料理のお店はとっても良かったです。
内装も素敵でしたし、ランチのパスタも、デザートのティラミスも凄く美味しかったんですよ。
あ、あと、ここも支払いは涼宮さんだったんですけど、ここって内装や味が素敵なのに、高校生にも手が届くようなお値段の、リーズナブルなお店だったんです。
今度、クラスの友達を誘って一緒に来ようかな。


ランチを食べたお店はちょっと表通りから離れた所に有りました。
次は雑貨屋さんに行こうということになったんですけど、普通に通りを通るよりこっちの方が近道だから、と言って涼宮さんが公園の中へ入っていきました。
休日なのに全然人のいない、小さな公園です。
こういう場所もあるんですね。

一人で先を進んでいた涼宮さんが、ぴたりと立ち止まりました。
何だろう、何か有ったのかな?
涼宮さんが、振り返りました。
真っ直ぐに、わたしの方を見ています。
でも、怖い感じとかは、全然しませんでした。
一体、どうしたんでしょうか……。

「みくるちゃん、ごめんねっ!」

涼宮さんが、わたしに向って頭を下げてくれました。
え、えっと……、な、何なんでしょう。
涼宮さんがわたしに謝ってくれるなんて……、ううん、普段色々有りますけど、改めて謝られることっていうと、全然想像が着かないんですけど。
い、一体何なんでしょうか?

「あ、あの……」

「撮影の時……、鶴屋さんの家で、おもちゃだなんて言ってごめんねっ」

鶴屋さんの家……、そう言えば、撮影の時に鶴屋さんの家に行ったんでした。
お酒を飲まされたらしくって、わたしはそこであったことを全然覚えてないんですけど。
涼宮さん、そんなことを言っていたんですね……。

「あ、あの、わたしは覚えてませんから……」

「でも……、覚えてないから、で、済ませたくなかったから……。ごめんね、みくるちゃん」

涼宮さんが、もう一度頭を下げてくれます。
ううん、どうしよう……。その、おもちゃって発言は良くないと思うんですけど、私はその発言を全然覚えてないんですよね。
わたしはちょうどわたしと涼宮さんの間に立っている古泉くんを見上げました。
ええっと……。

「僕も涼宮さんの方に肩入れしていた事は確かですからね、そこは謝罪しますよ」

あれ、あれ、古泉くんまでわたしに向って頭を下げてきました?
本当に、何が有ったんですか……、わたし、全然覚えてないんですよ?
うーん、ううん……。
そんな、二人とも……。

「え、えっと……、あ、あの、二人とも、顔を上げてもらえますか……。わたしは覚えてないですし、ええっと、その……。うん、でも、謝ってくれたことは、嬉しいです。だから、全部まとめて水に流しちゃいますっ!」

二人のしたことが、良いとか、悪いとかじゃなくて。
というかそもそも、わたしはそのときの状況を全然思い出せないんですけど……。
とにかく、二人とも反省しているみたいですし、わたしにも二人を責める気は有りません。
だから……、うん、だから、きっとこれで良いんですよね。

「みくるちゃん……、許してくれるの?」

「はい、許しちゃいます」

「ありがと、みくるちゃん」

涼宮さんが、笑顔になってくれました。
何時ものパワー全開モードにはまだちょっと足りないみたいですけど、元気になってくれたみたいで良かったです。


そのあとわたし達は、3人で雑貨屋さんによって、それから、デパートまで行きました。
途中で涼宮さんが教えてくれたんですけど、今回の事は、謝りたいと思ったけどどうしたら良いか分からなくて、古泉くんに相談して……、という風に、種明かしをしてくれました。
なるほど、だから三人だけだったんですね。
古泉くんまでわたしに気を遣ってくれるように見えたのも、間違いじゃなかったんですね。
疑問が解けて、わたしはすっきりした気分になりました。

それから涼宮さんと古泉くんは、お詫びのために何かプレゼントしたいと言ってきました。
プレゼントって……、ううん、そんなに無理をしてくれなくても良いんですけど。
ああでも、引き受けないと涼宮さんが納得してくれそうに無いんですよね。
えーっと、ええっと……、うん、そうだ。
だったら、これを頼んじゃいましょう。

そうして、わたしは一つのプレゼントを頼みました。
「……それでいいの?」
「はい、良いんです」
涼宮さんの問い掛けに、わたしは頷き返しました。
良いですよ、これで。
古泉くんも納得顔です。
涼宮さんはわたしと古泉くんの顔を見返してから、レジに向いました。

うん、これでよかったんです。


月曜日の放課後、わたしはキョンくんにお茶を入れてあげました。
そうそう、今日は涼宮さんはまだ来ていません。外でやることが有るのかな?
「あ、これもどうぞ」
わたしはキョンくんにお茶菓子を差し出します。
これ、実は土曜日に涼宮さんと古泉くんに買ってもらった物なんです。
「ありがとうございます。……ってこれ、結構高いものじゃないんですか? どうしたんですか、これ?」
「貰い物なんです」
ここは正直に答えます。
自分でなんて言ったら嘘になっちゃいますし、キョンくんが恐縮しちゃいそうです。
「……誰に貰ったんですか?」
キョンくんが訊いてきます。
当然の疑問、というやつなのかな?
ああでも、答えはもう決まっているんです。

「禁則事項です♪」

そこはやっぱり、言えませんから。
だって、涼宮さんがキョンくんと長門さんに隠れてまで謝りたいって思って、わざわざ古泉くんにセッティングを手伝ってもらってまで、謝ってくれたんですよ?
……言えるわけ無いですよね。

キョンくんはちょっとだけ不服そうな表情です。
ごめんなさい、キョンくん。

でも、美味しいクッキーを食べたら、細かい事なんて気にならなくなっちゃいますよ。

……そうですよね?
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