『God knows』

~5章~

回り続ける観覧車、まだ頂点まではきていない。
「へ?」
俺はとんでもなくマヌケな声を出した。
「も、もう1回聞かせてくれませんか?」
これで同じことを言われたら、俺はこの上なく野暮な人間になるだろう。
「……もう、こんなに勇気出して言ったのにぃ……。キョンくん。わたし、《朝比奈みくる》は……あなたが…好き…です……。」
なったね、野暮な人間に。
でも、まさか……朝比奈さんが俺のことを好きだったなんて気付きもしなかったぞ?
俺が鈍いだけなのか?

「わたしは……」
朝比奈さんが静かに語り続けた。
「わたしは、気がついたらキョンくんに好意を抱いてたんです。……でも、【規定事項】によって、わたしがあなたに《好意がある》と伝えるのは【禁則事項】だったの……。」
そうか、朝比奈さんは俺とハルヒが結婚する未来から来たんだったな。
「でも、涼宮さんの気持ちが変わっちゃったことで、未来も、未来からの指令も無くなった。……そしたら、わたし、キョンくんのことしか考えられなくなっちゃった。えへへ……ダメな人間ですよね?」

力なく笑う朝比奈さんの顔が夕日に照らされて、輝いて見える。
「だからね?恋愛対象として好きなのかを確かめる為に、デートに誘ったの。……あの時、すっごく緊張したんですよ?」
俺は少し微笑んで頷き、話を聞いた。
「そしたら……、今日まで、会う度に…ひくっ、胸がドキドキして……ひぐっ…。」
緊張のあまりだろうか、感極まったのか、朝比奈さんは少しだけ、泣き出した。
「今日会った時……ひぐっ、爆発しちゃった……ふふ。キョンくんが……うっ、手、出してくれた時………ほんとにぃっ、うれしくってぇぇ!」
とうとう、朝比奈さんは思いきり泣き出した。

俺は朝比奈さんの横に座り、頭を抱きよせ、俺の膝の上に乗せた。
「まずは……泣いて、落ち着いてください。それから話を聞き……あれ?おかしいな。…へへへ、もらい泣き、しちゃったみたいです。へへへ。」
俺は何故かわからないが、泣いた。
うれしさや、朝比奈さんの気持ちや、いろいろな感情が混ざっている。
その後、観覧車が1周するまで、二人で泣いた。


少し歩いて、遊園地の近くの公園のベンチに俺達は行った。
二人とも、観覧車にいた時の顔のままで。

「ひくっ……ごめんね、キョンくん…観覧車、台無しだぁ……うっく。」
「大丈夫……ですよ、気にして…ません。」
俺は鼻をすすった。
いつまで泣いてんだ、俺。
かっこわりい…。
「………さっきの、観覧車の続き……です。」
朝比奈さんが自分の思いを言う。
俺も……最後まで聞かなきゃな。

「気がついたら、手、だけじゃね、ダメになってたの…。」
涙が目に浮かんでいる。
「だから、ね?……ぐすっ、腕とか、つ、捕まえたり……ひくっ、したらね?押さえきれないくらいぃ、好きに……ひぐっ……好きになっちゃった。」
朝比奈さんは泣きながら笑顔を作った。
「だから、ね……キョンくんの優しさに…ひくっ…甘えたくて、お化け屋敷とか……ジェットコースターを…うっ、選んだの。……キョンくんに触れて……貰えるから、うふふ。」
そうか、それで自分の苦手そうな物ばっかりか。
「……ごめんね?自分勝手で……。わたし、最低の、ぐすっ…女、です。」
消え入りそうな顔だ。

俺はずっと前からハルヒではなく、朝比奈さんを選んでいた。
しかし、未来に帰るであろう朝比奈さんを苦しめたくないと、自分を押さえていた。
しかし、それが無くなった今、俺は全てを打ち明けることに決めた。


「俺は、ハルヒの本音に気付き始める前から、ずっと朝比奈さんを思ってましたよ?」
「……ふえ?」
俺は崩れた顔で、苦笑する。
「二度も言わせるんですか?俺は朝比奈さんが好きです…世界で一番、ね。」
この気持ちに嘘はない。
今日のデートでそれに俺は気付いた。
「ほ、ほんと……ですかぁ?」
俺は笑いつつ答える。
「さすがに3回もは言えませんよ。」
朝比奈さんは泣き出した。
「ふ、ふえぇぇぇん……よ、よかったぁ。よかったです……。」
俺は朝比奈さんの頭を撫でながら、言った。
「泣くのはこれで最後ですよ?これからのデートではずっと笑っていましょう、ね?」
「うん、……うん、……今日だけ、ですぅ。う……うわぁぁぁあん!」
とうとう、大声で泣き出した。
今日だけ、今日だけは許してやろう。
と思った。
今まで溜め込んでた物を全て吐きだして、明日からは最高の笑顔で迎えてもらおう。

30分程、泣き続けた朝比奈さんは、疲れて寝てしまった。
寝顔もかわいいな…
と一仕切り和んだ後、俺は朝比奈さんをおんぶして、バス停に向かった。


………これはマズい。
バスが無くなった。
手持ちの金じゃ泊まる場所もないか。野宿などもっての他だ。
「やれやれ、これだけはするまいと思っていたがな。」
電話をかける。
1コール、2コール……ピッ。
「キョンくんですね?あなたは下調べが甘いですねぇ、迎えが必要ですか?」
…………………。
持つべきものは友達、か。
「ああ、頼む。話はいろいろ聞かしてやるさ。」

~5章・終~


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最終更新:2021年01月09日 18:59