初夏の風が吹き抜け、真っ赤な夕日が俺の目に眩しく輝いているそんな六月のこと。
俺はこの人気のない公園で、ある人を待っていた。
「・・・遅いなぁ」
ゆっくりと堅いベンチに腰掛けながら、犬の散歩をする飼い主や、ジョギングする中年男性などをぼんやりと観賞し、俺は溜め息にも似た独り言を呟いた。

…高校を卒業して早三年。
俺の本来の人生プランには「大学進学」という4文字が燦々と輝いていたのだが・・・まぁ聞かなかったことにしてくれ。
とにかく、今は古泉の「機関」が経営しているIT会社に勤務している。いろいろコネを使わしてもらってな。

そして・・・まぁ肝心のあいつだが・・・
ハルヒは、なんと一流の国際大学を一発合格。
「いい?SOS団はあたしがこの大学でもっと繁栄させるわ!」
そう合格発表後に叫んだハルヒの第一声が今も頭に浮かぶ。どうやらハルヒは、SOS団を解散させる気など微塵もないらしい。
そうそう、こんなこともあった。
これは卒業式のとき。
「キョン、それに他のみんな。あたしたち卒業したら・・・もうバラバラになっちゃうけど、SOS団のこと、忘れないでね」
そうハルヒは弱々しく呟いたと思ったら、突然俺の胸で泣き始めた。
あのハルヒがあんなに号泣する姿は、多分あれが最初で最後だろう。案の定・・・俺も貰い泣きしたがな。
そして現在に話が戻るが、ハルヒは今スペインで留学をしている。
といっても、あいつは世界中をチョロチョロ回っているらしく、一週間前は・・・メキシコにいた。
結局ハルヒはどこまでいってもハルヒであって、奴にとって地球はあまりにも狭いものなんだな、と逆に感心してしまう今日この頃である。

そして古泉、あいつは高校卒業と共に「機関」から身を引き、今は・・・鶴屋さんとよろしくやっている。
まぁあの二人が繋がるとは・・・俺はほんっっとうに思いもしなかった。やるな、古泉。
そして長門は俺の実家に居候をしている、というか俺がさせた。
いつまでもあの何もない空間にいたら長門があまりにもかわいそうな気がした俺は、家を出ると共に長門を猛説得。
そして家族に承諾(すんなりOKしてくれた)を得て、長門は俺の家族の一員(?)となっていった。
今は妹と仲良くやっているらしい。

そして・・・最後に、朝比奈さんのことであるが。
朝比奈さんは俺たちより一足早く卒業したと同時に、二年の間姿を消した。
俺はそのまま未来に帰ってしまったんだなと、独りでに思っていた。多分古泉と長門もそう思っていたに違いないが。

しかしある日、彼女は突然帰ってきた。
その頃の俺たちといえばもう立派な社会人(?)としてあっちこっちに動き回っていたので、朝比奈さんは俺たちを探すのにずいぶん手こずったらしい。
そして始めに発見したのが俺であった。
しかし、朝比奈さんは再会の感動に浸っている余裕がほとんどなかったらしく、相当焦っていた。
なぜなら朝比奈さん自身、この時間に戻ってきたのはあまりに突然のことだったらしい。
そして、突然未来から帰ってきたわけだから、文字通り一文無しだったのである。
俺は鶴屋さんに助けを求めようと思ったが、彼女は古泉と・・・福岡に引っ越していた。
ハルヒは世界のどこかで暴れているからどう考えても無理で、そして俺の実家にはもう長門がいる、しかもこれ以上居候させると親にあまりにも申し訳ない。
…じゃあ俺が匿うしかないわな。
そんなこんなで俺と朝比奈さんの同棲生活がスタートしたわけである。

最初、朝比奈さんは職と住む場所が見つかったらすぐに出て行くと言っていたが、まぁそんなにすぐ見つかるわけもなく、ただ刻々と時間だけが過ぎていった。
朝比奈さんは毎日毎日申し訳なさそうに過ごしていて、俺はそんな朝比奈さんをカバーしつつ、この同棲生活を心から楽しく思っていた。
そして同棲生活半年になる頃・・・俺は思い切って朝比奈さんに告白した。

「え、えと朝比奈さん・・・」
「どうしました?」
「その・・・ずっとここにいていいですよ?」

あぁ、今思い出しても恥ずかしすぎて死にそうになる。
しかし、これを聞いたときのポカンとした朝比奈さんの表情は、俺は死ぬまで忘れないだろう。

「え、えと・・・キョン君?」
「あの、俺と・・・」
「・・・フフ、いいよ」

朝比奈さんは悩殺的な笑顔を浮かべ、俺に近寄ると

「よろしくね?キョン君」

と言いながらなんと、朝比奈さんの方から・・・キスをしてくれた。
もうこの時の出来事はまるで3秒前に起きたことの様に思い出せる。そして今でも萌え死にそうになる俺をどうにかしてくれ。

とまぁ話は現代に戻るが
そう、俺はこの公園で朝比奈さんを待っているのだ。
最近になって朝比奈さんは近くのスーパーでパートをし始め、なんだか毎日を充実そうに過ごしている。
そして俺は、仕事帰りにこの公園でパート帰りの朝比奈さんを待つ、というのが日課になっていた。

時間は午後六時を回ろうとしている頃。
俺は今か今かと朝比奈さんが来るのを待っていた。

「キョーンくーん・・・」

すると突然、ボーっと一時休止中だった俺の頭に、聞きなれた声が響いてくる。

…やっと来たか。
俺はベンチから立ち上がり、少し背伸びをすると、声がする方向へ顔を向ける。
視線の先には、忙しく走る朝比奈さんの姿があった。
「ひぃふぅ・・・ごめんねキョン君、遅くなって・・・ふぅ」
朝比奈さんは息を上げながら呟く。ったく、かわいすぎるんだよこんちくしょう。
「いや、俺も今来たところですよ」
「そ、そうだったの?」
朝比奈さんは目をまん丸にして俺を見つめる。
「ハハ、いや、もうちょっと早く来てましたけどね」
俺は少し苦笑いを浮かべ頭をかく。
「じゃあ・・・やっぱり待ってたの?」
「え、えぇ・・・まぁ」
「うぅ・・・ごめんなさいぃ・・・今度から気をつけますぅ・・・」
朝比奈さんは目に涙を浮かべながら俯いてしまった。
まずい、これは非常にまずい展開だ。
朝比奈さんは人一倍責任感(端的に言えば鈍感なだけだが)が強く、俺はここ一年で朝比奈さんを何度も泣かしていた。いや、別に誰のせいでもないぞ?
そして朝比奈さんが俯いて涙目になるのは、相当の可能性で泣いてしまう傾向がある。それだけは阻止しないと。
俺はとっさに朝比奈さんの手を握ると、できるだけ明るい声で、
「さ、早く帰りましょう?」
とだけ言った。
朝比奈さんはまだ責任を感じているのか、無言で頷くと、俺に手を引っ張られながら自宅へと向かった。
まったく、今の世の中でここまで純粋な性格をしている女の子なんてそうそういないぞ?いや、彼女は未来人だがな。
俺は少し得意げに朝比奈さんをリードしながら、道をゆっくりと歩いていった。

「さ、着きましたよ?」
結局朝比奈さんはアパートに着くまで何も喋らず、ただ俺の手を強く握っていただけだった。
「うぅ・・・」
「ほら、朝比奈さん?もう元気だしてくださいよ」
「だ、だってぇ・・・」
俺の手を握る朝比奈さんの手が少し強くなる。
「そんなに気にしないで下さい。ほら、今日は俺が少し早く来すぎただけですよ」
「んぅ~・・・そうかなぁ」
そう呟きながら、朝比奈さんは恐る恐る顔を上げ俺の目を見つめてくる。
「そうです。ほら、いつまでもごねてないで」
俺は少しいじわるっぽく朝比奈さんに言うと、頭の上をポンッと叩いた。
「・・・ふぇっ!も、もう!なんで叩くのぉ!?」
顔を真っ赤にした朝比奈さんは顔をぐいっと近づけてくる。この顔だけでご飯三合はいけそうだな、うん。
「さ、早く部屋入って」
俺はたまらず部屋の玄関を開け、朝比奈さんに入室を促す。
「もう・・・」
そう呟いた朝比奈さんは俺に促されるまま入室し
「ただいまぁ」
と大きな声で我が家に挨拶をした。

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